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2020年、トータルドッグサービス『nap』をオープン。同年、日本唯一のハズバンダリートレーニングの養成学校『ADGS』を犬業界で活躍する講師陣とともに開校。
日本初のペットケア施設『nap』を運営者・高橋礼美さんに聞く、「ハズバンダリートレーニング」とは?
目次
- 日本初! ハズバンダリートレーニング専門のペットサロンを立ち上げた高橋礼美さん
- 犬の恐怖心を軽減するための『ハズバンダリートレーニング』
- 「飼い主は喜んでいるけど、犬は?」トリマー時代に感じた疑問
- 被災犬・ロー君と出会い、「行動分析学」を学び始めた
- ハズバンダリートレーニングの有効性を証明してくれた、噛みつき犬・ステン君
- 「動物愛護」から「動物福祉」。変えるべきは犬ではなく人の意識
- 犬は人間にとって唯一無二の相棒。まずは「犬」を理解すること
日本初! ハズバンダリートレーニング専門のペットサロンを立ち上げた高橋礼美さん
「ハズバンダリートレーニング」を知っていますか? 動物に協力してもらいながらトリミングや医療行為を行う手法のことです。イルカなどの海獣類から始まり、現在では主に動物園でライオンなどの猛獣やキリンなどの巨大草食動物への医療行為に採用されています。
「人間に最も身近な犬にこそ、ハズバンダリートレーニングを取り入れるべき」と考えたのが、静岡県内で犬のトリミングや幼稚園などを運営する高橋礼美さん。
現在は、犬へのハズバンダリートレーニングの普及と専門家の育成に取り組んでいます。
動物にも選択肢を与える『ハズバンダリートレーニング』とは? 高橋さんに、ハズバンダリートレーニングを取り入れることで見えてくる、人と犬との暮らしについてうかがいました。
犬の恐怖心を軽減するための『ハズバンダリートレーニング』
トリミングサロンや動物病院で、犬たちは常に「恐怖」と戦っています。
「もしも自分で扉を開け閉めできないエレベーターがあったとしたら、あなたは喜んで乗りますか?」
この質問に「イエス」と答える人は、まずいないでしょう。1㎡の狭い鉄の箱に無理やり乗せられたら、心拍数は上昇し、冷や汗がひっきりなしに流れます。「出してくれ!」と大声で叫び、固く閉じた扉を叩き続けるかもしれません。
犬たちが病院やサロンで経験しているのはまさにこの状況と同じだと、高橋さんは言います。
そして、この状況を変え、犬たちが安心して治療やトリミングに協力してくれるようにするのが「ハズバンダリートレーニング」です。
たとえば動物園でパンダの採血をする場合、パンダ自らが採血用の檻に移動し、採血できる位置に座ります。そして檻の隙間から腕を出して手のひらを上に向け、採血が終わるまでじっと動かずにいる……。
このように、動物が健康管理に必要な動作を自発的にしてくれるようトレーニングすることを「ハズバンダリートレーニング」といいます。ハズバンダリートレーニングを行うと、動物のストレスを軽減しながら医療行為やお世話をすることができるのです。
「こんなに素晴らしいトレーニング方法が、なぜ最も身近な動物である犬には浸透しないと思いますか? それは、『人間が困らないから』なんです。犬はとても我慢強い動物です。だから、人間が無理やり何かをしても、ギリギリまで我慢し、私たちに牙を剥く子はとても少ないでしょう。また、小型犬であれば、もし牙を剥いたとしても人間が容易に力で押さえつけることが出来てしまいますよね」
犬にとってトリミングは、強制的に高いところに乗せられ、水をかけられたり、刃物を顔に押し付けられたりする怖い時間です。でも犬が我慢強い動物で、攻撃せずにじっと耐えてくれているからこそ、安全に成立しています。
高橋さんの経営するトータルドッグサービス『nap』には、犬が恐怖を感じないようにするためのよい工夫があちこちに見られます。犬が自由に出入りできるように、足ふき場のように低いシャンプー台が設けられ、犬が自分で昇り降りできるよう、トリミング台に階段をつけるなど、全てが「犬目線」の設計です。
2時間で愛犬を可愛く仕上げる従来のシステムでは、犬の意思に配慮したトリミングはできません。ここでは、まずは犬に同意を求めるところから始めます。そこから何回も時間をかけてトリミングに慣らしていくのです。
「いきなり爪を切られるのが怖いなら、まずは脚を触ることから始めます。そこから小さな階段を少しずつ上るように、犬に同意を求めながら進めていけば、最後は喜んで爪を切らせてくれます。大事なのは犬に選択肢を与えること。嫌だったら逃げてもいいって教えてあげるんです」