公開
兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
犬も人間と同じように、食物アレルギーを起こすことがあるのをご存じでしょうか。犬が食物アレルギーになってしまうと、皮膚の炎症やかゆみ、抜け毛などの症状が出てしまうこともあります。愛犬の健康のためにも、食物アレルギーの正しい知識を身につけておくことは非常に重要です。
そこで今回は、犬が食物アレルギーになってしまう理由や、アレルギーになりやすい犬種、食べ物、食物アレルギーの治療法や予防策などについてわかりやすく解説します。
目次
- 犬が食物アレルギーになるのはなぜ?
- 犬が食物アレルギーになったときの主な症状
- 犬が食物アレルギーになりやすい食べ物
- 食物アレルギーを起こしやすい犬種・年齢
- 犬の食物アレルギーを診断、治療する方法
- 犬の食物アレルギーを予防するための方法
- まとめ
犬が食物アレルギーになるのはなぜ?
そもそも犬が食物アレルギーになってしまうのは、なぜなのでしょうか。まずは、食物アレルギーの仕組みや原因などについて解説します。
食物アレルギーは、免疫システムの“過剰反応”
食物アレルギーとは、特定の食べ物に対して、免疫システムが過剰反応してしまうことをいいます。
本来であれば、免疫システムというのは、害のある病原菌やウイルスを撃退して病気を防いでくれる仕組みです。しかし、免疫システムに異常が起こると、犬にとって害のないはずの食べ物に対して、免疫システムが過敏に攻撃してしまうことがあります。その結果、皮膚の炎症や脱毛、下痢などのアレルギー症状が出てしまうのです。
免疫システムが過剰になってしまう背景には、栄養バランスの乱れやストレス、睡眠不足、遺伝などのさまざまな原因が考えられます。しかし、食物アレルギーが起こる正確なメカニズムは、実はまだ解明されていません。
自己判断せずに、まずは動物病院へ
犬が皮膚にアレルギー反応を発症してしまう原因は、食物だけではありません。
犬には、ほかにも「アトピー性皮膚炎」と「ノミアレルギー」というアレルギーがあります。これらは症状の見分けが難しく、2つ以上を併発してしまうケースも珍しくありません。食物アレルギーかどうかの自己判断は難しいので、アレルギーのような症状が見られたときには、すぐに動物病院で診察してもらうようにしましょう。
犬が食物アレルギーになったときの主な症状
犬が食物アレルギーを起こしたときには、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。ここでは、犬が食物アレルギーになったときの主な症状について紹介します。
皮膚炎
犬が食物アレルギーを起こしたときの主な症状は、皮膚全身の強いかゆみや湿疹、脱毛をはじめとする皮膚炎です。特に症状が出やすい部位として、脇の下や股の間、太もも肛門の周辺などが挙げられます。
また、犬はかゆみがひどくなってくると、脚で身体を四六時中かいたり、床にかゆい部分を擦りつけたりするのが特徴です。そのため、「口を床にずっと擦りつけている」「背中を脚でかきむしっている」「かゆそうにしている部分に赤い湿疹が見られる」などに当てはまるときには、食物アレルギーを疑いがあるので、念のため動物病院に相談してください。
消化器の症状
食物アレルギーになると、消化器の異常を併発することもあります。例えば、下痢や嘔吐をしたり、糞便回数がいつもより増えたりする症状です。これらの症状が出た場合は、速やかに動物病院へ相談するようにしましょう。
また、食物アレルギーの症状は、原因となる食事を食べたことによって発症します。普段から犬の食事内容と体調の変化を正しく把握しておくようにしましょう。
犬が食物アレルギーになりやすい食べ物
犬は具体的に何を食べると、食物アレルギーになってしまうのでしょうか。ここでは、犬が食物アレルギーになってしまいやすい食べ物について解説します。
食物アレルギーの主な原因は「タンパク質」
アレルギーを引き起こす原因のことを、アレルゲンと呼びます。食物アレルギーの主なアレルゲンは、“タンパク質”です。タンパク質と聞くと肉や魚のイメージがありますが、実は基本的にどのような食材にもタンパク質は少なからず含まれています。つまり、すべての食材が犬にとって食物アレルギーの原因になりうるのです。
ただし、どのタンパク質をアレルゲンとして認識するかは、犬の体質や今まで食べてきた食事などによって大きく異なります。具体的なアレルゲンについては、実際にその食べ物を食事から抜いてみるまではわかりません。
食物アレルギーになりやすい主な食べ物は?
タンパク質を含む食材のなかでも、特に食物アレルギーになりやすい物もあります。2016年にBMC Veterinary Researchが行った調査(※)によると、食物アレルギーのアレルゲンになりやすい食べ物は以下の通りです。
1位 牛肉
2位 乳製品
3位 鶏肉
4位 小麦
5位 鶏卵
他にも、ラム肉や大豆、さらに米やトウモロコシ、キビのような穀物がアレルゲンになる可能性もあります。食物アレルギー対策でドッグフードを選ぶときには、「原材料欄」を意識して確認してみることも大切です。
※出典元:Mueller RS,Olivry T,Prelaud P.Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (2): common food allergen sources in dogs and cats.BMC Vet Res 2016,12,9.
食物アレルギーを起こしやすい犬種・年齢
犬種や年齢によって、食物アレルギーの起こりやすさは違うのでしょうか。ここでは、食物アレルギーを起こしやすい犬種、年齢について解説します。
食物アレルギーになりやすい犬種
犬のなかには、「好発犬種」と呼ばれ、遺伝的に食物アレルギーになりやすい犬種もいます。
具体的には、ミニチュア・シュナウザー、アメリカン・コッカー・スパニエル、パグ、ボクサー、ダルメシアン、ジャーマン・シェパード、ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグなどが代表例です。
食物アレルギーが起きやすい年齢や時期
犬には、食物アレルギーになりやすい年齢もあります。最もなりやすいといわれているのは、1歳未満の時期です。また、犬がある程度年齢を重ねて、7歳を超えてから突発的に症状が出るケースもあります。
加えて、食物アレルギーは季節に関係なく年中発症しやすいのが特徴です。似たような症状を持つ「アトピー性皮膚炎」は季節の変わり目に起きやすいため、症状を見分けるときの一つの参考とされています。
犬の食物アレルギーを診断、治療する方法
犬が食物アレルギーになってしまった際には、動物病院でどのような治療を受ければいいのでしょうか。ここでは、犬の食物アレルギーを診断、治療するときの流れについて解説します。
除去食を食べさせる(8~12週間)
犬の食物アレルギーは、血液検査でアレルゲンを特定するのが難しいという特徴があります。
そのため、まずは「除去食試験」と呼ばれる方法で、食物アレルギーを発症しているかどうかを診断します。除去食試験とは、タンパク質を含まない低刺激な食事や、今まで犬が食べたことのない新しいタンパク質を使った食事を、犬に8~12週間ほど投与する方法です。つまり、犬の食生活から、食物アレルギーのアレルゲンをできるだけ遠ざけます。もし犬に食物アレルギーがあった場合は、除去食試験を続けるうちに症状が改善されます。
通常のご飯に戻してみる(1~2週間)
除去食試験のあとは、1~2週間かけてタンパク質の種類を徐々に増やし、今までどおりの食事に戻していきます。これが「負荷試験」と呼ばれる治療です。この期間にアレルギー症状が再発した場合は、ここで食べた物がアレルギーの原因となるため、初めて犬にとってのアレルゲンとして特定されます。正しいアレルゲンが判明したら、その食べ物を今後の食事から取り除いてあげることで、食物アレルギーの治療と再発防止につながります。
お薬を投与する場合も
犬が食物アレルギーのみを発症していたら、基本的には除去食試験で症状が改善されていきます。
ただし、万が一かゆみが残ってしまう場合は、アトピー性皮膚炎やノミアレルギーの併発が疑われます。その際には、ステロイドや抗ヒスタミン剤などの薬で、かゆみを抑えることもあるでしょう。
犬の食物アレルギーを予防するための方法
犬の食物アレルギーを予防するためには、普段どのようなことを意識すればいいのでしょうか。ここでは、犬の食物アレルギーを予防する方法やポイントについて解説します。
アレルゲンを含まない食事にする
一度食物アレルギーになったあとは、犬にとってのアレルゲンを含まない食事にすることが、最も効果的な予防策です。ドッグフードを買う際は、原材料名をよくチェックして、アレルゲンを含まないものを選びましょう。
もしも今までのドッグフードにアレルゲンが含まれていた場合は、アレルゲンを含まないフードに切り替えることが大切です。しかし、フードを突然新しいものにしてしまうと、犬の食いつきが変わったり、胃腸の負担が増えたりというリスクも考えられます。そのため、犬を新しいフードに無理なく慣れさせるためにも、1〜2日目に25%、3〜4日目は50%、5〜6日目に75%、7日目で100%と徐々に切り替えていくことがポイントです。
“腸内ケア”で健康なカラダづくりを
犬の免疫力は、腸の状態によっても左右されるといわれています。そのため、腸内環境を良好に保つ工夫も、食物アレルギー予防につながるでしょう。
ストレス解消で免疫力を高める
犬にとってストレスは大敵で、免疫バランスが崩れる原因にもなりかねません。アレルギーに負けない免疫力をつけさせるには、普段から犬のストレスを解消してあげることが大切です。具体的には、散歩やスキンシップをしたり、室温を最適に保って睡眠の質を高めてあげたりすると、免疫力アップにもつながりやすいでしょう。
まとめ
犬によって、食物アレルギーになりやすい食べ物はさまざまです。万が一皮膚の赤みやかゆみ、下痢などの症状が出ているときは、自己判断せずにまずは動物病院へ連れていくようにしましょう。
また、運動不足を解消してあげたり、腸内ケアをしてあげたりすることも、食物アレルギーの予防につながります。ぜひ愛犬の健康を考えて、普段の暮らしを見つめ直してみましょう。