公開
上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
愛犬が体をぶるぶると震わせていると「なにか理由があるのかな?」と考えたり、「寒いのかも?」「何かの病気なのでは?」と不安に感じたりする人も多いでしょう。
そこでこの記事では、犬が体をぶるぶる震わせている理由を詳しく解説します。理由ごとの対処法や、犬がぶるぶる震えているときに注意が必要な症状などを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 犬が体をぶるぶる震わせている理由は?
- 犬がぶるぶる震えるのは病気?
- 犬がぶるぶる震えるときの対処法
- まとめ
犬が体をぶるぶる震わせている理由は?
愛犬が急に体をぶるぶる震わせると心配になってしまいますよね。震えというと「寒さ」が理由と考える人も多いかもしれませんが、実は犬が体をぶるぶる震わせる理由は、寒さだけではありません。
まずは、犬がぶるぶる震える理由について詳しく見ていきましょう。
嫌な気持ちを切り替えるため
犬はストレスや不安、緊張を感じたときに、自主的に体をぶるぶると震わせることがあります。慣れない環境や知らない人と出会ったとき、大きな音がしたとき、動物病院に来たときなどに、ぶるぶると体を震わせているのを見たことはありませんか?
これは「カーミングシグナル」と呼ばれる犬が気持ちを切り替えるために行う行動のひとつです。カーミングシグナルは「落ち着く」という意味のcalm(カーム)と「合図」という意味のSignal(シグナル)を組み合わせた言葉です。
カーミングシグナルは、嫌な気持ちを切り替えるために自然と出るしぐさであり、体を震わせることで緊張感を緩めて、気持ちをリラックスさせようとしていると考えられています。
犬のカーミングシグナルには、ぶるぶる震える以外にも、体をかく、あくびをする、舌を出して鼻をなめる、といったしぐさがあげられます。
「構ってほしい」という気持ちの表れ
飼い主さんに「構ってほしい」という気持ちで、自主的にぶるぶる震えるというケースもあります。これは、以前ぶるぶる震えたときに、飼い主さんが心配して声をかけてくれたり体をなでてくれたりしたことを覚えているためです。
構ってもらいたいという気持ちが、ぶるぶる震えるというしぐさとして現れているのです。
こうした場合は、飼い主さんが声をかけたりなでてあげたりすると、気持ちが落ち着いて震えが止まるのが一般的です。
うれしい気持ちの表れ
カーミングシグナルのように、嫌な気持ちや不快感、緊張感を取り除くためにぶるぶると体を震わせることがありますが、反対に「うれしい」と感じたときも、体をぶるぶるさせることがあります。
例えば「ご飯だよ」と声をかけたときや、仕事に出ていた飼い主さんが帰宅したときなどです。また、遊びに熱中しているときにも、ぶるぶると震える様子が見られるケースもあります。
これは、気持ちがたかぶることによる自然なしぐさであり、気持ちが落ち着くと震えもおさまります。
寒さによる震え
犬も人間と同じように、寒さで震えることがあります。これは、全身の筋肉を小刻みに震わせることで、体温を維持するための生体反応のひとつです。
寒さで震えている場合は、体を大きくぶるぶるさせるというよりも、小刻みに揺れるように震えるのが特徴です。犬種によっては、寒さが苦手なタイプも少なくありません。季節に応じて、快適な室温をキープしてあげましょう。
老化による筋力低下による震え
高齢の犬の場合、筋力が低下して体を上手に支えることができず、ぶるぶる震えてしまうことがあります。とくに、体に力を入れる食事やトイレのシーンでは、踏ん張りが難しいため震えやすくなるのです。
また、筋力が低下すると、体温も下がりやすくなり寒さに弱くなって震えが見られることもあります。
犬がぶるぶる震えるのは病気?
犬がぶるぶる震えるのは、寒さなどの環境的要因や恐怖やストレス、興奮といった精神的要因によるものであるケースが多いですが、中には病気が原因で震えが生じるケースもあります。
そこでここからは、犬の震えにつながる病気について解説します。
胃腸炎や腸閉塞による震え
震え以外にも、嘔吐や下痢の症状がある場合は、胃腸炎や腸閉塞などの消化器系の病気の可能性が考えられます。こうした消化器系の病気を発症した場合、痛みによって震えが生じることがあるのです。
とくに、異物誤飲による腸閉塞は命にかかわることもあるため、震えとともに嘔吐などの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
椎間板ヘルニアによる震え
椎間板ヘルニアになると、ふらつきながら背中を丸めて体を震わせるという症状が出るケースがあります。椎間板ヘルニアは、痛みを伴うため、震え以外にも「触ると怒る」「キャンと鳴き声をあげる」といった様子も見られます。
犬の椎間板ヘルニアは、治療が遅れると麻痺が残るリスクもあるので、このような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
てんかんによる震え
てんかんとは、全身の痙攣や震えが発作的に生じる脳疾患です。原因がわからない「突発性てんかん」と、ほかの病気が原因で生じる「症候性てんかん」があります。
てんかんの場合、震え以外に「口をくちゃくちゃさせる」「よだれが出る」「自分の尾を追ってくるくる回る」「落ち着きがなくなる」といった症状が出ることがあります。
さらに全身の痙攣が生じた場合は「放心状態になる」「一時的に意識を失う」といった症状が見られることもあります。
てんかんは、投薬による治療が必要であり、命にかかわるケースも考えられます。震えとともに、上記のような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
内臓の機能障害による震え
腎臓や肝臓などの臓器に機能障害がある場合も、毒素が体内に蓄積して震えの症状が見られることがあります。内臓の機能障害の場合、震えだけではなく、元気がなくなり食欲も低下し、嘔吐や排尿障害といった症状が出るため、気になる様子が見られたら早めに動物病院を受診しましょう。
低血糖による震え
血液中の糖が何らかの理由で減少すると低血糖と呼ばれる状態になり、体が震えたり歩き方がよろよろとしたりします。旅行や外出といった理由で長時間ご飯が食べられずに低血糖になってしまった場合は、ご飯を食べさせたり砂糖水を飲ませたりすることで、症状は改善します。
こうした対処法で症状が回復する場合は、一時的な低血糖状態のため、それほど心配する必要はありません。
ただし、食欲が著しく低下して自分でご飯を食べられずに低血糖になってしまった場合は、別の病気が潜んでいる可能性があります。長期的な食欲低下が見られる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
犬がぶるぶる震えるときの対処法
犬がぶるぶる震える原因はさまざまあります。そのため、愛犬が震えているときは、その原因を見極めながら適切な方法で対処することが大切です。
ここからは、原因別に犬がぶるぶる震えているときの対処法を紹介します。
心理的要因の場合は「気持ちを落ち着かせる」
「嫌な気持ちを切り替えたい」といういわゆる「カーミングシグナル」が見られる場合は、まずは愛犬が安心できるように飼い主さんがそばに寄り添ってあげることが大切です。声をかけて体をなでてあげると気持ちが落ち着き、震えがおさまるでしょう。
また「構ってもらいたい」という気持ちで震えている場合は、日ごろのスキンシップを増やしてみるのもいい方法です。愛犬に寄り添い、適切なスキンシップをとることで、震えが落ち着くようであれば、過剰に心配する必要はありません。
寒さによる震えの場合は「室温調整」
寒さで愛犬が震えているのであれば、まずは室温を確認し、適切な温度に調整しましょう。さらに、ブランケットや犬用の服で体をあたためてあげると、震えが早くおさまります。
ただし、快適に感じられる室温は、季節や犬種によっても異なります。一般的には、18~22℃前後が快適な温度とされていますが、寒さが苦手な犬種や体が小さい犬種の場合、22度でも寒いと感じる場合があります。
愛犬の犬種や体格、年齢によっても過ごしやすい温度が異なるため、様子を見ながら快適な室温をキープできるように調整しましょう。
老化による震えの場合は「筋力低下の予防」
老化による震えを防ぐためには、日ごろから適切な運動量を確保して、筋力の低下を予防することが大切です。また、愛犬が高齢の場合、ぶるぶると震える様子が見られたら「滑りにくい床材を敷く」「お散歩は階段や坂道を避けて平坦な道をゆっくり歩く」といった関節への負担を軽減するための対策をとりましょう。
病気による震えの場合は「動物病院を受診」
「震え以外の症状も出ている」「室温を調整したり、飼い主さんが寄り添ったりしても、長時間震えが止まらない」といった場合は、病気の可能性もあるため、早めに動物病院を受診してください。
まとめ
犬は不安やストレス、恐怖といった嫌な気持ちを切り替えたいときに、自主的に体をぶるぶると震わせることがあります。
これは「カーミングシグナル」といった犬の自然な行動のひとつです。また、室温などの環境的な要因や筋力低下など年齢的な要因でぶるぶる震えてしまうこともあります。こうした震えは、適切な対処をとることで落ち着くため、過度に不安に思う必要はないでしょう。
ただし、まれに病気のサインとして震えが生じる場合もあります。震えとともに嘔吐や異常な鳴き方、著しい食欲の低下などの症状が出ている場合や、飼い主さんでは判断が難しい場合は、早めに動物病院を受診しましょう。