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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
ごはんやおやつを見れば、いつだってしっぽを全力で振って大喜びします。与えればすぐに完食し、おかわりをねだるでしょう。犬がフードファイターのように食べ続けるのは、食いだめの習性があるからです。胃も大きく進化しているので、ごはんやおやつが目の前にある限り、おねだりします。散歩の前にごはんを食べて、散歩中に飼い主の犬友達からおやつをもらい、家に帰ってきたらまたごはん。愛らしい瞳で見つめられると、ついあげたくなってしまいますよね。でも与えすぎは健康面で問題です。消化しきれないほど食べ過ぎて嘔吐してしまうことも、肥満になってしまうこともあります。犬が満腹になっているサインに気づいて食べ過ぎを防止してあげることが、飼い主にできることです。犬の満腹感との付き合い方について詳しく解説します。
目次
- 犬に満腹感はある?満腹中枢は?
- なぜ犬はいつまでも食べ続けるのか
- 犬は満腹になるのか
- 満腹感を与える方法
- まとめ
犬に満腹感はある?満腹中枢は?
「うちの犬は、常に食べ物をほしがっているくいしんぼうで困っています」という飼い主は多いのではないでしょうか。「ドッグフードの袋に書かれている体重に合った量を与えているのになんでだろう」「おやつの量が足りないかもしれない」「うちの子は食欲が異常なのかな」「病気だったらどうしよう」などと心配されているかもしれませんね。犬が常に食べ物をほしがるのは、当たり前に持っている習性で、心配いりません。
犬も人間と同じように満腹感を感知する満腹中枢があると言われています。ただ、いつでもごはんやおやつをほしがっているのは満腹中枢機能が鈍く、ほとんど機能していないからです。だから「食べなくていいよ」という脳からの指令が遅すぎるので、「おなかいっぱい」「もういらない」と犬が思うことはなく、あげたらあげただけ食べてしまうのが普通です。
なぜ犬はいつまでも食べ続けるのか
犬が満腹感を感じづらいのは、先祖から続く習性によるものです。主な理由を3つ紹介します。
満腹中枢が鈍い
満腹感は、脳内の視床下部にある満腹中枢が作用することで感じます。本来であれば、ごはんを食べると、満腹中枢が血糖値などから刺激を受け、脳が満腹感を得て「もう食べなくていいよ」という指令を出します。ところが、犬は満腹中枢が鈍く満腹を感じるまでに長い時間がかかります。そのため、いくら食べても目の前においしそうなごはんがあれば完食してしまいます。個体差や犬種の違いも関係ありません。
犬と祖先が同じオオカミも、満腹中枢がないと言われています。オオカミは24時間ずっと空腹で、常に狩りを続けています。満腹中枢があるライオンは大きな獲物を食べた後はしばらく狩りを休みますが、オオカミは獲物を食べてすぐに次の狩りを始めるようです。犬とオオカミは祖先が同じですから、愛犬がドッグフードやおやつを食べてお腹がパンパンだったとしても、あげれば食べる習性に納得できます。
ドッグフードが食べやすい
一般的なドックフードはとても食べやすく作られているので、早食いができてしまいます。満腹中枢が鈍いと「満腹ですよ」と脳が指令を出すまで時間がかかり、満腹を感知するまえに食べられるだけ食べてしまいます。
また、野生の頃の習性も関係します。犬は集団で狩りをして獲物を分け合っていたので、我先に食べる習性があります。それも早食いの原因となって、満腹中枢が働く前に食べ終えてしまいます。満腹を感じないため、おかわりも止まりません。食事中の飼い主を愛くるしい瞳でじっと見つめているのも、そのせいです。
狩りのなごりで食いだめの習性がある
犬の祖先が同じオオカミは、集団で大きな獲物を獲っていました。狩りは成功率が低く、次の獲物にありつけるまで時間がかかります。そのため、一度に大量のごはんを胃袋に保存できるように、胃袋が大きく進化したと言われています。また、「食べられるうちにたくさん食べておこう」と大きな胃袋を満たそうとする飢餓感が常にあるので、一度に食いだめをしておこうと考えます。犬にもオオカミと同じ胃袋の進化と飢餓感があると考えられています。
ちなみに猫の場合は、お腹が空いたときに単独で小動物を獲っていました。小動物の狩りは比較的簡単で、犬のように胃袋が大きくなく飢餓感も低いため、お腹が空くまで食べません。しかも、野生の頃に獲物を一度に食べず、少しずつ食べることで命をつないできたので、腹八分目で食事をやめるようです。
犬は満腹になるのか
満腹にはなります。なぜなら、胃の大きさには限界があるからです。犬が見せる満腹のサインは、以下のものが挙げられます。
途中で食べることをやめる
食べ物を鼻でどかしたり、食べ物を隠そうとしたり、食事の途中でどこかに行ってしまうことがあれば、満腹のサインだと考えることができます。もし、あまり食べていない状態で食べることをやめてしまったら、体調不良の可能性があります。下痢や嘔吐をしていないか、あまり動かず寝続けていないかなどをチェックしてみてください。また、食べ物が痛んでいて、匂いに違和感を覚えているのかもしれません。
満足して床でゴロゴロする
ごはんやおやつを食べ終わった後に、背中を床にこすりつけるようにゴロゴロと転がっていたら、お腹いっぱいで満足していると考えられます。気分が良く安心しているときに、犬は仰向けになってお腹を見せます。飼い主が帰宅したときや、散歩から帰宅したときにも見られることから、うれしい気持ちや感謝の気持ちを伝えているのでしょう。
舌舐めずりをする
犬はごはんを食べて満足したときは舌舐めずりをします。口元の食べ物を舐めて清潔にする仕草もありますので、「ごちそうさまでした」のサインと言えます。気分が落ち着いていますので、ゆっくりと口のまわりを舐めます。もし、ごはん以外の時間に頻繁に口のまわりを舐めている場合は、歯周病や口内炎にかかって痛みを感じているかもしれません。赤く腫れていないか、血が出ていないかなどをチェックしてあげましょう。
満腹感を与える方法
飼い主が食事の与え方や犬との接し方を工夫することで、犬に満腹感を与えることができます。
食事の量を変えずに回数を増やす
たとえば、1日2回の食事の場合、3回にして一度に与える量を減らすことをおすすめします。一度に食べる量より食べる回数を増やしたほうが、犬は満腹感を得ることができます。一度に与える量を減らすことで、のどに詰まらせる可能性も低くなるでしょう。特に子犬は窒息してしまうリスクを避けるためにも効果的です。また、消化不良や嘔吐を引き起こすリスクを減らすこともできます。
多頭飼いしている飼い主は、犬ごとに食事の場所をわけると良いでしょう。もともと群れで暮らしていた犬は、「早い者勝ち」の習性から、周りの犬と競って早食いになる傾向があります。できるだけゆっくり安心して食べられるような環境を用意してあげることが、早食い防止と肥満防止につながります。
時間をかけて食べる工夫をする
満腹中枢機能が鈍く、野生の本能から早食いでご飯を噛まずに丸飲みする犬は、満腹感をなかなか得ることができません。市販のドッグフードも一粒が丸飲みしやすいサイズなので、できるだけ時間をかけて食べられるように、ドライフードをお湯や犬用のスープでふやかすなどの工夫をすると良いでしょう。
なお、食べる時間を伸ばす目的で、なんとなく野菜や肉をトッピングすることはおすすめしません。感覚でやってしまうと、栄養バランスの崩れや肥満につながる可能性があるからです。
早食い防止の食器を使う
ドッグフードを入れる器の底に、大小さまざまな突起物がついているものを見たことはないでしょうか。これは突起物同士の間にあるフードを少しずつ食べることで早食いを防止する役割を果たしています。4~6倍食べる速度を落とすことができるようです。
また、デザインやサイズが豊富で、犬種に合ったものが見つかります。たとえば、口のまわりから鼻先にかけての鼻口部(マズル)が長いダックスフンド、柴犬、ポメラニアンは、突起物に適度な高さがあって、フードまでの距離がある食器を使えば早食い防止になるでしょう。マズルが短いフレンチ・ブルドッグやパグは、突起物が低く浅い食器で、突起物同士のすき間の広いものが適しています。サイズは犬が口を開けたときの長さと、器の直径が近いものを選ぶと効果的です。早食い防止だからといってあまりにも食べにくい食器を選んでしまうとストレスがかかりますので、愛犬の特徴にあった食器を選びましょう。
遊び心のある食器を使う
平たい皿に芝生に見立てた様々な高さの突起が飛び出している食器も市販されています。これは、芝生の中からフードを見つけて食べるような遊び心のあるデザインなので、愛犬の探求心も満たされます。突起物が高めなのでマズルが長い犬に向いており、パグやフレンチ・ブルドッグなどのマズルが短い犬には適しません。
また、たまご型、ボール型などの容器におやつを入れ、愛犬がコロコロと転がすことで一部につけられた開口部から、おやつがポロリとこぼれてくるものもあります。こうした知育と早食い防止を兼ね備えた食器もたくさん販売されています。
食べる以外の楽しみを与える
食べることしか楽しみがない犬は、とにかくたくさん食べてしまいがちです。留守番の時間が長かったり、おもちゃに飽きていたりしていませんか。食事とは別に楽しめるものを提供することが、肥満防止には大切です。散歩の時間を増やしたり、新しいおもちゃを与えたり、たくさんスキンシップを取って甘えさせたりすると、食べること以外に関心を持って食べ過ぎを防ぐことができるでしょう。
まとめ
愛犬が食べ物を常に求めることは普通のことだからといって、おかわりを与え続けて良いという訳ではありません。愛犬の要求のままに食べさせていれば肥満になってしまいます。愛犬に飼い主がしてはいけないことは、愛犬のおねだりに応え続けることです。愛犬の体重や体格、ドッグフードの袋に記載された1日の食事量、カロリーを考慮しながら、愛犬にとって適切な量の食事を与えてください。