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川村動物クリニック院長/いばらきどうぶつ看護センター管理獣医師
私たち人間にはABO式の血液型があります。人間とは異なりますが、実は犬にも血液型の種類が存在します。飼い主であれば愛犬の血液型を知っておくと、事故や病気にかかり輸血をする際などに役立つことでしょう。今回は、犬の血液型について、輸血に関するリスクなどを解説します。
目次
- 犬に血液型はある?
- 犬の血液型を調べる方法
- 犬は血液型で性格が変わる?
- 愛犬の血液型を知っておくメリット
- 血液型の違いによる副反応について
- まとめ
犬に血液型はある?
犬に血液型があるのかは、飼い主として興味を持つポイントです。ふだん人間の血液型を調べたり知ったりする機会はあっても、犬の血液型について知る機会がなかった方も多いでしょう。犬にも血液型はあるのか、また人間と違いはあるのかを解説します。
犬にも血液型はある
犬にも血液型はあります。ただし、犬の血液型は人間と型も調べ方も異なるため、正しい知識を身につけておきましょう。輸血が必要になったときなど、血液型を知っていることが役立つ場面があります。犬の血液型について興味を持って調べておくのはとても重要です。
犬と人間の血液型の違い
犬の血液型はDEA型で分けられます。犬のDEA型にはDEA1.1、1.2、3、4、5、6、7、8の要素があり、それぞれに対し陽性(+)か陰性(-)かを調べて判別します。一方、人間の血液型はA、B、O、ABの4つの型があり、それぞれRh式で分けられるので、その違いを認識しておきましょう。
このように犬の血液型は人間に比べると多様です。すべての型を把握し、記憶しておくのは現実的とはいえません。そこで、犬の血液型についてとくに知っておきたいポイントを解説します。
犬の血液型で知っておきたいポイント
DEA1.1が陽性(+)か、陰性(-)かは、血液型を知るうえで確認しておきたいポイントです。輸血の際に急性溶血反応が起こらないか、この抗原で判別するためです。犬の血液型を調べたうえで、自身が飼っている犬の血液型のDEA1.1が陽性と陰性のどちらに該当するのか覚えておきましょう。
犬の血液型を調べる方法
犬の血液型を知りたいと考えたとき、気になるのは調べ方ではないでしょうか。難しい検査が必要なのか、犬が痛い思いをしなくて済むのか、確認しておきましょう。ここでは、犬の血液型の調べ方について解説します。
血液型判別キットを使う
犬の血液型は血液型判別キットを使って調べます。採血が必要なので、飼い主は犬のストレスケア、メンタル面でのサポートを意識しておきましょう。犬には犬専用の血液型判別キットがあり、それを使用して血液型を判別します。キットは血液の型ごとに分かれており、実際に血液を垂らして反応を確認する仕組みです。血液型判別キットには「陽性コントロール」と「陰性コントロール」という箇所があり、それぞれの反応によって血液型を調べます。
陽性コントロール
血液型判別キットには血を垂らす箇所が決まっており、判別したい血液の型に対して陽性(+)であれば、陽性コントロールの欄に垂らした血液が凝集します。血液の反応を見るためには、適量を陽性コントロールに垂らすようにします。血液が凝集したのかは、見た目では判別しにくいかもしれません。検査をした医師の説明をよく理解するのが大切です。
陰性コントロール
陽性コントロールのほかに、陰性コントロールがあります。判別したい血液の型に対して陰性(-)であれば、陰性コントロールの欄に垂らした血液は凝集しません。凝集しないと、採取した血液のまま、液体の状態で陰性コントロールの欄に残ります。正しい反応を見るために、凝集していない血液の状態をよく把握しておく必要があります。
犬は血液型で性格が変わる?
ヒトは血液型占いなどで、血液型によって性格や考え方が異なるといわれることがあります。犬は血液型によって性格が変わるのでしょうか。また、犬の性格には実際に何が影響するのかについて解説します。
犬の血液型は性格に影響しない
犬の血液型は性格に影響しません。そのため、血液型の結果を知って、犬の性格に当てはめて考えたり、他の犬との相性を判断したりするのは不適切です。犬の性格を知るためには、犬をよく観察し、理解を深めてみてください。また、犬の性格を理解しておくことは、好きなものや苦手なもの、好ましい環境などを把握し、犬と良好な関係を築くために重要なポイントです。血液型で判断するのではなく、犬自身の個性に向き合うよう努めましょう。
犬の性格に影響する要素
犬の性格に実際に影響するのは、犬種や環境、育ち方などです。人間もそれらの要素に影響されますし、そもそも性格に個人差があるため、犬の性格を把握する際は人間に照らし合わせて考えるとよいでしょう。
犬を飼うときに、犬種によってどのような特性や違いがあるのかは確認が必要です。必要な運動量、嫌がることなどは犬種によって大きく異なります。犬と良好な関係を築き、ストレスなく家族として接するためには事前情報も重要なのです。犬も人間と同様、個体差やもともとの性格があります。家族の一員としてお互いを理解し合える関係を築く姿勢が大切といえるでしょう。
ヒトの性格も血液型で差はない
そもそも、人間の性格も血液型で異なるという科学的な根拠はありません。血液型占いは、あくまで占いの範囲です。そのため、相手が人間であっても犬であっても血液型での違いを探したり、性格を判断したりするのは趣味の範囲にとどめておきましょう。
飼い主にとって理解しにくい性格が見られたり、他の犬との相性に悩んだりした場合も、血液型ではなく犬の個性として受け止めてください。これは、相手が人間であっても必要な工夫です。血液型ではなく、接してみたときの反応や好みなどで性格を理解するように努める姿勢が大切です。
愛犬の血液型を知っておくメリット
愛犬と血液型を知っておくのには、さまざまなメリットがあります。血液型と聞くと、緊急時の輸血を想像するかもしれません。しかし、健康な犬であっても血液型を知っておくとよい理由があります。そのメリットを3つ紹介します。
輸血のリスクを減らすため
輸血の際に、合わない型の血液を輸血してしまうと溶血してさまざまな副反応が出てしまいます。事故にあったときやケガをしたときの対策として、血液型を知っておくのは重要です。
ただし、輸血をする際はリスクを減らすために、もともと血液型を調べてあったとしても輸血する血液とマッチするのか確認してから輸血をします。急に輸血が必要になった際に血液型を知らないとしても慌てる必要はありません。
血液型を調べておくことは、あくまで飼い主の輸血への不安を減らすための選択肢だと留意しておきましょう。輸血にはリスクがともなうこと、合わない血液を輸血するのは危険である点への理解が必要です。
貧血や低蛋白症などの対策のため
輸血は事故にあったりケガをしたりしただけでなく、貧血や低蛋白症を引き起こした際にも必要です。貧血は、赤血球の生産低下や破壊などの病気により、血液中の鉄分が足りなくなって起こります。骨髄の異常や感染症などによって引き起こされるため、決して珍しい症状ではありません。また、低蛋白症は肝臓や腎臓の異常が原因で引き起こされる場合があります。輸血して蛋白質を血液中に補う必要があるのです。
供血犬として役立つため
健康な犬であれば、輸血する血液を供給する供血犬として役立ちます。犬の輸血は、献血された血液を濃厚赤血球液と新鮮凍結血漿に分けて保存し、血液製剤に仕上がっているものから供給されます。献血が少なく血液製剤が足りないと、迅速な輸血ができません。他の犬を助ける活動として、献血は重要な意味がある点を理解しておきましょう。献血にはまず、ドナー登録が必要です。ドナーにはさまざまな条件がありますが、犬の体力面に配慮して小型犬のドナー登録は受け付けていません。中型以上の大きな犬を飼っている場合、供血犬としてのドナー登録を検討してみましょう。
血液型の違いによる副反応について
輸血の際に血液型が異なると、さまざまな副反応が起こります。副反応は多岐にわたるため、今回はその一部について解説します。輸血の際の血液型のミスマッチは、大きなリスクがともなうことを理解しておきましょう。
DIC
DICとは、播種性血管内凝固症候群を指します。血液が血管内で固まり、血栓ができるという症状です。急性溶血性反応の1つで、ドナーの血液に対して抗体を持っていることが原因で引き起こされる症状です。血栓ができてしまうと犬の体が反応し、血液を固まりづらくしたり血栓を溶かす力が強まったりする点も覚えておきましょう。血栓ができやすくなるのか、出血傾向が強まるのかは犬によって異なります。DICは呼吸困難や足の壊死などの症状を引き起こします。どちらも犬の命や健康に関わる重大な症状です。危険な副反応として認識しておきましょう。
急性腎不全
急性腎不全は急性溶血性反応の1つです。輸血元のドナーの血液に対して、輸血された犬が抗体を持っていることが原因で引き起こされます。急性腎不全にはさまざまな原因が挙げられるものの、輸血が引き起こす急性溶血性反応は腎臓の血流低下によるものです。腎不全を引き起こすと、体の不要な物質を腎臓でろ過できなくなり、排尿に支障が出てきたりします。体の水分量を適切に保つのが重要になってくるため、カテーテルを挿入して利尿剤を用いる場合もあります。飼い主としても治療している愛犬を見るのはつらいでしょう。
まとめ
犬にも人間とは型も考え方も異なる血液型があることを紹介しました。愛犬が事故や病気などで、万が一輸血が必要になった際に、血液型を知っておくと役立ちます。まだ愛犬の血液型について知らない場合は、この機会に調べてみるといいでしょう。犬についての理解を深め、心地よい関係を築いていくことは、犬にとっても飼い主にとっても重要です。長く家族の一員として過ごしてもらうために、飼い主としてできることを考えていきましょう。