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元陸上選手。愛犬・タディを迎えてからは、カニクロスやトレランを始める。現在は「イヌと何でも楽しむ委員会」を立ち上げ、愛犬家に向けたイベントや大会の運営を行う。

ヨーロッパ発のドッグスポーツ「カニクロス」。ここ数年、日本でも大会が増え参加者が急増中です。カニクロスってどんな競技?
カニクロスに魅了され、大会まで主催するようになったランニングアドバイザー・sahoさんに面白さや始め方を聞きました。
目次
- 愛犬と一緒に走るだけ。簡単に始められるドッグスポーツ「カニクロス」
- 競うのは速さじゃない! 愛犬との“絆”が試されるカニクロス
- ランナーの経験が通用しない? 愛犬と掴んだ「二人三脚」の初優勝
- 犬も、人も、健康に。カニクロスがもたらした3つの変化
- 「うちの子は走れない」は思い込み!? まずは5分のジョギングから
- 愛犬がくれた幸せを、もっと広げて。sahoさんが描く未来
愛犬と一緒に走るだけ。簡単に始められるドッグスポーツ「カニクロス」
「愛犬と一緒にできる趣味はないかな?」
「いつもの散歩や遊びだけでは、愛犬の運動量が足りていないかも……」
そう感じている飼い主さんは、少なくないのではないでしょうか。
「愛犬と何か新しいことを始めてみたい」と思っている方におすすめなのが「カニクロス」です。

カニクロスは、犬と人がリードでつながり、一緒に野山やオフロード(アスファルトで舗装されていない芝生や草原など)を走るヨーロッパ発祥のドッグスポーツ。犬が前を思いきり走り、その後ろを人が追うように一緒にゴールを目指すスタイルで、一人で走る以上の爽快感と一体感を味わうことができます。※砂利道は肉球破損するのでNGです。
最大の魅力は、リードとハーネスさえ用意すれば誰でも気軽に始められることです。時には止まったり歩いたりしても大丈夫。運動初心者の飼い主さんやワンちゃんでもチャレンジしやすいルールになっているのも嬉しいポイントです。こうした手軽さから、近年日本でもカニクロスの認知度が高まり、大会の開催も増えているのです。
ランニングアドバイザーとして活動し、カニクロスのレースで優勝経験もあるsahoさんはこう語ります。
「レースというとタイム競争をイメージしがちですが、本質は愛犬とどれだけ通じ合えているかが問われる競技なんです」
実際、大会の順位はタイムで決まりますが、多くの参加者にとって大切なのは記録ではなく、愛犬と協力してゴールにたどり着くまでの過程だといいます。

本記事では、愛犬のタディちゃんと日常的にカニクロスを楽しみ、自ら大会も主催するsahoさんにインタビュー。カニクロスの魅力やタディちゃんとの関係性の変化、初心者が始める時のコツなどをたっぷり語っていただきました。
競うのは速さじゃない! 愛犬との“絆”が試されるカニクロス
犬と一緒に自然の中を走るドッグスポーツと聞くと、息を切らしながら走り続ける……そんなストイックな姿を想像し、少しハードルが高いと感じてしまう人もいるかもしれません。
しかしsahoさんは、「カニクロスで最も大切なのは、速く走ることではない」と、その本質を語ります。
「カニクロスのレースは、決められた距離をいかに愛犬と協力してゴールまで進むかが一番のポイントです。速く走るとか、そんなのは本当にどうでもよくて。愛犬が走るのに飽きたり、道草を食ってしまったりしたら、それをどう励ましてゴールまで行くか。つまり、愛犬とのコミュニケーションが肝なんです。私の主催する大会では、『歩いても、止まっても、抱っこしてもOK』と言っていて。愛犬と走るのをただ楽しむために参加する、ライトな層も増えてきているんですよ」

そして、そのコミュニケーションにおいて絶対に忘れてはならない大原則が「主役は、犬である」ということです。
「カニクロスでは原則、飼い主は犬の横か後ろを走ります。なぜかというと、常に愛犬の表情や呼吸を確認する必要があるから。犬が前を元気に走っているうちは楽しんでいる証拠です。ただ、飼い主は愛犬をチラチラ見て『この子、今楽しめてるかな?』って確認してあげてほしいんです」
ルールや規則がほとんどないカニクロスにおいて、唯一のNGが「犬を引っ張ること」です。
「もし息が上がっていたり、疲れた様子を見せていたりしたら、ペースを落としたり、時には中断したりすることも大切。犬を引っ張ることだけは、絶対にしてはいけません」

犬が主体だからこそ、愛犬の安全を守るための工夫も欠かせません。例えば、カニクロスが主に公園の芝生や土の上といった不整地で行われるのも、硬いコンクリートから犬の足を守るためです。
また、sahoさんは暑がりのタディちゃんのために、夏場の練習にも特別な配慮をしています。
「タディは毛が多く暑がりなので、夏場はほとんど走りません。気温が20℃くらいでも本人は暑いみたいで、走りたくないという顔をするんです。なので、無理強いはせず、本当に涼しい日だけ川で体を冷やしながら走る『冷え冷えカニクロス』を楽しんでいます。愛犬の個性やその日のコンディションに合わせて、楽しみ方を工夫することが大切ですね」

カニクロスは、犬がいないと成り立ちません。愛犬の気持ちにどこまでも寄り添い、「走ってくれてありがとう」と感謝しながら、絆を深めるかけがえのない体験なのです。