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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
甘くておいしい焼き芋。アツアツの焼き芋を食べているときに、愛犬に見つめられたら、ついあげたくなりますよね。食べやすいサイズにほぐし、中身を人肌の温度に冷ましてから与えてください。
焼き芋は食物繊維やビタミンA、E、Cなどの栄養素が豊富に含まれています。犬が中毒症状を起こす栄養素も含まれていませんので、おやつとして安心して与えることができる食べ物です。今回は、1日あたりの適切な摂取量や与える際の注意点などを解説します。
目次
- 焼き芋は犬が食べても大丈夫
- さつまいもに含まれる栄養素と犬への健康効果
- 犬にとって適切な摂取量と頻度
- 犬に焼き芋を与える際のポイント
- まとめ
焼き芋は犬が食べても大丈夫
結論としては、人間用の焼き芋を与えても問題ありません。ペットショップでも、スティック状やサイコロ状のさつまいもを原料としたおやつが販売されていることから分かるように、さつまいもには中毒症状を引き起こす成分は含まれていません。食物繊維など栄養素も豊富に含まれていますので、愛犬の健康を保つことができます。ただし、さつまいもは生のままでは消化されにくいデンプンが多く含まれるており腹痛の原因になります。与えるときは焼くなど必ず加熱してからにしましょう。
なお、「大学芋」「スイートポテト」「芋ようかん」といった人間用に味付けされたものは、砂糖が多く含まれています。糖尿病や肥満のリスクが高まりますので、犬には食べさせないでください。なお、味付けや砂糖が含まれていない干し芋は、犬に与えても問題ありません。ただし、乾燥して小さくなっているぶん、見た目以上にカロリーや成分が多く含まれています。生のさつまいも100g当たりのエネルギーは132kcalですが、焼き芋100g当たりのカロリーは151kcal、干しいも100g当たりのエネルギーは303kcalとなります。肥満の原因になりますので与えすぎに注意します。
さつまいもに含まれる栄養素と犬への健康効果
焼き芋を犬に与えるメリットを知るために、さつまいもに含まれる栄養素と、それぞれが犬の健康にもたらす効果についてまとめました。
さつまいもの栄養素(生のさつまいも100g当たり)
エネルギー 132kcal
水分 66.1g
たんぱく質 1.2g
脂質 0.2g
炭水化物 31.5g
灰分 1.0g
食物繊維 2.3g
カロテン 23μg
ビタミンE 1.6mg
ビタミンB1 0.11mg
ビタミンB2 0.03mg
ナイアシン 0.8mg
ビタミンB6 0.28mg
葉酸 49μg
パントテン酸 0.96mg
ビタミンC 29mg
ナトリウム 4mg
カリウム 470mg
カルシウム 40mg
マグネシウム 25mg
リン 46mg
鉄 0.7mg
※参考資料:五訂日本食品標準成分表
代表的な栄養素と健康効果
食物繊維
食物繊維は、腸のぜん動運動を活発にして便秘を解消する栄養素です。皮の近くに含まれているヤラピンという成分もスムーズな便通を促しますので相乗効果が期待できます。ただし、過剰摂取すると胃腸に負担がかかるので、与えすぎないようにします。このほか、血糖値や血中コレステロールの上昇を抑える働きもあります。
ビタミンA、E、C
さつまいもはビタミンの宝庫です。しかも、さつまいものビタミンはでんぷんに守られていますので、熱しても失われにくいというメリットがあります。体内でビタミンAに変換される「βカロテン」は、皮膚や粘膜の健康を維持し、薄暗い場所で視力を保つ働きがあります。抗酸化作用も高いので免疫力アップの健康効果が期待できるでしょう。「ビタミンE(α‐トコフェロール)」は、細胞の老化を防ぐほか、血液の流れをスムーズにして、体内のすみずみまで新鮮な酸素と栄養素を届ける効果があります。「ビタミンC」はコラーゲンの合成を助ける成分です。ビタミンA、E、Cを一緒に摂ることで、より強い抗酸化作用を発揮します。
カリウム
カリウムはナトリウムと作用しながら、水分バランスを維持したり、血液の浸透圧を調整したりする働きがあります。また、神経の情報伝達をサポートするなどの役割を担っています。カリウムは、たくさん摂っても排出されますので、摂りすぎに関して心配はありません。ただし、腎臓の機能が低下している犬はカリウムが体内に溜まって高カリウム血症になる可能性があるため、与える量に注意します。
ポリフェノール
さつまいもに含まれるポリフェノール(クロロゲン酸)は、糖の吸収を穏やかにする作用がある成分です。また、抗酸化作用があります。さらには、メラニンの生成を阻害する作用から、皮膚の色素沈着を防ぐことができると言われています。
犬にとって適切な摂取量と頻度
焼き芋は100g当たり151kcalであり、犬にとってはカロリーが高い野菜です。与えすぎると肥満の原因となります。さつまいもを与える量は、1日に必要な摂取カロリーの10%程度が目安です。1日のおやつがさつまいもだけの場合だとしたら、1日に与えて良い焼き芋の量は以下の通りです。
超小型犬(体重4kg未満)
チワワ、トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、豆柴などの超小型犬に与えて良い焼き芋の量は、1日7g~17g程度です。
小型犬(体重10kg以下)
ミニチュア・ダックスフンド、ビション・フリーゼ、パグなどの小型犬に与えて良い焼き芋の量は、1日22g~40g程度です。だいたい直径4cm、厚さ1cmの輪切りが1切れ弱から1切れ半程度の量です。
中型犬(体重25kg以下)
ウェルシュ・コーギー、フレンチ・ブルドッグ、ブルドッグ、ビーグルなどの中型犬に与えて良い焼き芋の量は、1日40g~80g程度です。
大型犬(体重25kg以上)
ゴールデン・レトリーバー・ラブラドール・レトリーバー、ドーベルマン、ダルメシアンなどの大型犬に与えて良いさつまいもの量は、体重30kgで90g程度、40kgで110g程度です。
犬に焼き芋を与える際のポイント
犬が焼き芋の栄養を吸収できるようにするためには、加工の仕方や与える量に工夫が必要です。また、犬によっては焼き芋を食べることで健康を害する可能性もあるため、愛犬に焼き芋を与えても大丈夫かしっかり確認しましょう。ここでは、犬に焼き芋を与える前に抑えておきたいポイントを解説します。
皮を取り除く
犬にとって焼き芋の皮は消化に良くありません。口当たりも悪いのでできるだけ皮は取り除いてあげてください。皮にはポリフェノールが多く含まれていますので、食べさせたい場合は細かく刻んで与えましょう。
粗熱をとってから与える
出来立ての焼き芋はアツアツです。そのまま食べたら人間でも口の中や喉の粘膜などにやけどをします。そもそも犬は熱い食べ物が苦手ですので、焼き芋をほぐして中までしっかり冷ましてからあげましょう。人肌程度に冷めたら与えても大丈夫です。
もし、口の中や周辺を痛がったり、気にしていたり、食欲がなくなってしまったりと、やけどの可能性が疑われる場合には動物病院に連れていってください。
食べやすいサイズにする
犬は食べ物を丁寧に咀嚼することなく丸飲みをする性質があります。そのため、喉に詰まらせないように小さくカットしてからあげるようにしてください。
さつまいもは縦に繊維が伸びているので、その繊維を断つように垂直に切ると食べやすくなります。もし食べにくそうにしていたら、すりつぶして与えても良いでしょう。
様子を見ながら少しずつ与える
さつまいもはアレルギーになるリスクが低い食べ物ですが、さつまいもアレルギーの犬はゼロではありません。そのため、初めて焼き芋を与えるときは、少しだけ食べさせてください。その後、下痢や嘔吐、皮膚のかゆみなどのアレルギー反応が出ていないか確認しましょう。
もし、アレルギー反応が表れたら、すぐに動物病院に連れていってください。犬の中には、特定の食べ物にアレルギー反応を示す子がいます。焼き芋を食べた後に、何らかの異変が見られた場合は、すぐにかかりつけの動物病院に連絡し、獣医師の指示に従うようにしてください。もし愛犬にどんなアレルギーがあるかを検査したことがないのであれば、動物病院で詳しいアレルギー検査をしてもらうことをおすすめします。
子犬は注意
子犬は消化器官が未発達ですので、上手く消化できずに下痢や便秘になってしまいます。犬が好む甘い食べ物でもありますので喜んで食べますが、子犬の頃から与えてしまうと偏食気味になってドッグフードを食べなくなる可能性があります。栄養不足や肥満につながるので食事と体重管理に気をつけましょう。
腎臓病など持病のある犬は要注意
味覚の中でも、多くの犬は「甘味」が好きなようです。そのため、甘いさつまいもは食いつきが良い食べ物ですが、持病を持つ犬に与える際には注意が必要です。さつまいもに含まれる「シュウ酸」「リン」「カリウム」の摂り過ぎに気をつけなければなりません。
たとえば、さつまいもには尿路結石の原因となる「シュウ酸」が含まれています。シュウ酸を多く含むほうれん草と比較すると7分の1程度の量ですが、尿路結石にかかっている犬や過去にかかったことのある犬には与えないでください。尿路結石は悪化すると尿毒症などの命に関わる重篤な症状を引き起こしてしまいます。
また、さつまいもに含まれる「カリウム」を多く摂りすぎると、高カリウム血症の原因となります。そのため、腎臓病や心臓病を患っている犬にも与えないでください。さつまいもを与えたい場合は、獣医師さんに一度相談してみましょう。
まとめ
中毒症状を引き起こす成分が含まれていない焼き芋は、愛犬に安心して与えられるおやつです。食物繊維、ビタミン、カリウムなど栄養素が豊富ですし、腸内環境の改善や免疫力アップなど、いろいろな健康維持につながる効果が期待できます。ペットショップやオンラインでも、スティック状やサイコロ状のさつまいもを原料としたおやつが多数販売されていますので、ドッグフードの摂取を邪魔しない程度に与えて、健やかな身体づくりにご活用ください。