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デザイン事務所「Super me inc.」代表。長きにわたり、著名人のジャケットやグッズのデザインを手掛ける。愛犬はオーストラリアン・ドゥードルのフォンド。
広告やカタログ、ロゴデザインなどを幅広く手がけるアートディレクターの山口アツシさん。こだわりの詰まった自宅兼事務所である都内の一軒家で、スタイリストで参鶏湯研究家の妻・脇もとこさんと19歳の娘さん、オーストラリアン・ラブラドゥードルのフォンドと3人+1匹で暮らしています。
山口さんが歩けばフォンドも歩く。山口さんが仕事をする傍で、フォンドは寛ぐ――取材を通し伝わってきたのは、飼い主&ペットという関係ではなく、言葉を介さずとも気持ちが通じ合っているような信頼関係。愛犬との出会いや思い出、犬と共に生活するうえで心がけていることについてお話を伺いました。
目次
- 先住犬を失った悲しみから救ってくれた、穏やかで優しいオーストラリアン・ラブラドゥードル
- 毎日、愛犬と一緒に仕事場へ。1日3回の散歩も大切な息抜きの時間
- 長年で築き上げた関係性を大切に、これからも大きな愛を注いでいきたい
先住犬を失った悲しみから救ってくれた、穏やかで優しいオーストラリアン・ラブラドゥードル
「子どもの頃からずっと、動物全般が大好きでした。大学時代には猫を飼っていましたし、虫も爬虫類も魚もみんな好きです」と話す山口さん。さまざまな動物と触れ合うなかでも、犬とは特に意思疎通できる実感があり、結婚したばかりにプードルを家族に迎えたそう。
「フォンドの前にプードルを2匹飼っていました。先犬のピグ(10kgのトイプードル)を亡くし、失意のどん底にいた時にフォンドと出会って。見た目もピグによく似たフォンドに一目惚れしました。名前の由来は、娘が読んでいた『ホンドとファビアン』という絵本から。作中に登場するホンドという犬に、おっとりした性格がそっくりだったんです。もうずっと犬と暮らしているので、我が家は犬なしでは成立しない家族ですね(笑)」
セラピー犬として活躍するほど、穏やかな性格のオーストラリアン・ラブラドゥードル。フォンドも明るく穏やかな性格で、犬とも人とも仲良くできるお利口さんです。そして、人の心の機微を察知する賢さも。
「昔からずっとお利口な子でしたが、子犬の頃に一度だけイタズラをしたことがあって。買ったばかりのお財布をテーブルに置いていたら、ちょっと目を離した隙にバラバラにされてしまったんです。そんな所に置いていた僕が悪いので叱りませんでしたが、『あ〜あ…』という悲しい表情を感じ取ってくれたのか、それ以来イタズラはしなくなりました」
先住犬のピグを病気で突然失った時に、「自分中心の生活をしてしまって本当にダメな飼い主だったな」と猛反省したという山口さん。それ以来、愛犬ともっと深く関わろうと決めました。
特別なしつけはしていないという山口さんがひとつだけ心がけているのが、“犬力”を育てること。犬にかまいすぎてしまうと、本来備わっている“犬力”が落ちると考え、お互いに自立することで動物としての力をきちんと養っているのだそうです。
「深く関わるというのは、ただずっとくっついているという話ではありません。共に生活するうえで、四六時中一緒にいられるわけではないので、可愛がるだけでなく、あえて放置する時間を作りました。それを積み重ねることで『今は誰とも離れているべき時間なんだ』と理解してもらい、僕らがそばにいなくても不安にならなくなるんです。同じ空間にいながら別々のことをする、そんな距離感がお互いにとってバランスいいのかなと感じています」
毎日、愛犬と一緒に仕事場へ。1日3回の散歩も大切な息抜きの時間
大きな公園がほど近く、緑に囲まれた明るく開放的なおうちは、山口さんが長年愛用する家具ブランド〈PACIFIC FURNITURE SERVICE〉によるデザイン。
「都会でありながら緑が豊かなこのエリアは、犬と暮らすのにとてもいい環境。気づけば30年近くこの付近に暮らしています。ダイニングの窓から、春には美しい桜を鑑賞できます。ここで、好きなナチュールワインを飲むこともありますよ」
大切な家具に囲まれ、こだわりが随所に光る素敵なおうち。インテリアや、フォンドにまつわるアイテムはどのように選ばれているのでしょう?
「フォンドは家具を壊すことはしませんが、ソファーだけはどうしても汚れてしまうので、じゃぶじゃぶ洗えるブランケットをかけています。実は、フォンドが着けている首輪やリード、水飲み用のスタンドは、僕と友達がデザインしたオリジナルなんです。今でこそおしゃれなアイテムが売られていますが、10年以上前はなかなか気に入るデザインがながったため、自分で作ってしまおうと。いつも散歩する距離の3マイルにちなんで、〈Three Miles Walkers〉というブランド名をつけました」
散歩は基本、1日3回。フォンドは暑さに弱いため、できる限り涼しい時間帯に出かけるよう気をつけているそう。もちろん、毎日の食事にもさまざまな心遣いが詰まっています。
「12歳のフォンドは体調を崩しやすくなってきているので、食の楽しみや健康管理のために手作りの食事 にこだわっています。野菜をみじん切りにしたスープや 鹿肉、おやつにリンゴと焼き芋を与えたり 、時にはお医者さんにお勧めされた漢方薬を飲ませることも。いつまでも、元気でいて欲しいですね」
朝の散歩を終え、朝食を食べたら、1階にある事務所へ一緒に“出社”。山口さんとアシスタントさんの間に置かれたベッドがフォンドの定位置なのだそう。
「さまざまなジャンルに携われるデザインの仕事はとても刺激的ですが、時には息詰まってしまうことも。そういう時はフォンドと遊んでリフレッシュしています。暑い夏以外は、仕事の息抜きも兼ねて昼間に散歩へ行くこともありますよ。たまに撮影にフォンドを連れて行くと、現場の緊張感を和らげてリラックスした雰囲気を作り上げてくれるのでとても助かっています」
サーフィンとスノーボードを愛し、オフの日には数週間にわたり山に篭ることもあるという山口さん。数時間かけて黙々と手つかずの新雪を登り、一瞬で滑り降りる、その儚さにも魅力を感じているのだとか。「海と雪山は自分にとってなくてはならないもの」と話します。
「フォンドは水も雪も大好きですが、さすがに雪山へ連れて行くのは厳しいですね。一緒に海へ行くのは楽しいけれど、僕がサーフィンしている間はずっと待たせることになってしまうので、あまり無理させないようにしています。以前キャンプ場へ行った時に、家族で川へ入って遊んだのはとても楽しかったです。フォンドがちゃんと泳げるか心配でしたが、思っていた以上に上手に泳げていて」
長年で築き上げた関係性を大切に、これからも大きな愛を注いでいきたい
10年以上にわたり生活を共にしてきた山口さんとフォンド。二人で並んで散歩をする姿は、飼い主とペットというより、何も言わなくても分かり合える心強い相棒のよう。終始穏やかなフォンドの表情から、山口さんへの信頼を感じ取れます。
「フォンドは僕たち家族にとってかけがえのない存在で、毎日感謝しかありません。長く生きていると色々なことがありますが、この子に出会えたのだから、自分はいい人生を送れていると言えるのではないでしょうか。フォンドも12歳になり、『あとどれくらい一緒にいられるのだろう…』という考えが頭をよぎることもないといえば嘘になります。先住犬にしてあげられなかったことを振り返ると、今でも後悔の連続です。そんな後悔を繰り返さないためにも、フォンドには日々、大きな愛を注いでいきたいと思っています」