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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
愛犬を見て「なんだか最近太ったかな」と感じ、よくよく観察するとおなかがぷっくりと膨らんでいたら、それは腹水かもしれません。なんらかの原因でお腹に水が溜まっているとしたら、重大な疾患の可能性があります。腹水を放っておくことで、愛犬は大変苦しい思いをしなければなりませんので、飼い主は早く気づいてあげたいものです。命を脅かしかねない腹水について、その症状や予防法についてchicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬の腹水とは?
- 犬の腹水が起きる原因とは?
- 犬の腹水、その症状は?
- 愛犬の腹水で病院に行くべき症状は?
- 犬の腹水の治療法は?
- 犬の腹水を抜くリスクはあるの?
- 犬の腹水の予防法はあるの?
犬の腹水とは?
じつは健康な犬のお腹にも、腹膜の毛細血管から染み出した微量な水分が存在します。ところが何らかの原因で、腹腔内にたくさんの液体が溜まってしまうことがあり、これを腹水と言います。
犬の腹水のメカニズム
健康な状態では、腹水はリンパ管を通って少しずつ身体の外に排出されていきます。ところが、排出しきれない水分がお腹に溜まると、さまざまな臓器が圧迫され、犬の健康に悪影響を及ぼします。腹水はタンパク質などの成分を含んだ体液ですが、中には血液が混じっていることもあります。
他の犬や人にうつることはある?
腹水は感染症ではなく、他の犬や人間にうつることはありませんので、過敏になる必要はありません。
腹水になりやすい犬種、年齢はある?
特になりやすい犬種というのはありませんが、心臓病や肝臓病のリスクが高い高齢犬になると、腹水のリスクも高くなります。
犬の腹水が起きる原因とは?
腹水には以下のようなさまざまな原因が考えられます。重大な疾患の末期症状として現れる場合が多いので、現れた場合はすぐに動物病院を受診する必要があります。
腹腔内の炎症
強い炎症により腹膜血管から水分漏出がおこり、腹水を引き起こします。
全身のうっ血
血流が悪くなることで、血管から水分が溢れ腹水が溜まることがあります。
タンパク質の減少
アミノ酸を原料とする「アルブミン」は、おもに肝臓で作られるタンパク質です。これが減少すると血管内の浸透圧が下がって血管から水分が漏れ出し、腹水となります。肝臓病によって低アルブミン血症が引き起こされ、腹水が溜まることもあります。
心臓病
心臓の僧帽弁閉鎖不全などによって血液の循環不全が起こり、毛細血管から血液中の水分が溢れて腹水となります。
腎臓病
腎臓病にかかると血液中のタンパク質量が低下することがあります。タンパク質の一種であるアルブミンは血管内の水分を保持する役割を担っています。よってその濃度が下がってしまうと、血管から水分が漏れてしまい、その水分がお腹に溜まり、腹水となります。
肝臓病
腸から肝臓に向かう太い静脈である門脈(もんみゃく)があります。その血圧が異常に高くなる門脈(もんみゃく)高血圧症になると、門脈から水分が漏れて腹水が溜まることがあります。また、血栓のつまりによる循環不全、腫瘍ができて血管を圧迫することによる血流障害などでも腹水は起こります。
犬の腹水、その症状は?
腹水が貯留すると、以下のようなさまざまな症状が見られます。重大な疾患の末期症状として現れる場合が多いので、現れた場合はすぐに動物病院を受診する必要があります。
お腹が膨らむ
腹膜の毛細血管から染み出す水分が、リンパ管に排出できる量を上回ると腹水が溜まります。飼い主がいつもと違うお腹の膨らみ気づいたときには、すでに大量の腹水が溜まってしまっていることもあります。犬の様子がおかしいときには、まずはお腹を観察してみるといいでしょう。
食欲の低下、元気がなくなる
腹水により胃や腸が圧迫されることによって、犬は食欲が低下します。また、腹水が溜まることでおなかが重くなって動きがのろのろしていたり、フードが食べられないことによるエネルギー不足で元気がなくなったりします。
呼吸困難
腹水が大量に溜まって横隔膜や胸腔を圧迫することによって、呼吸困難になることがあります。はあはあと、息苦しそうな息づかいになりますので、注意深く見ていればすぐに気づくでしょう。
腹腔内の出血
犬が交通事故などに遭った際、目に見える出血がないと安心してしまいがちです。しかし、身体の中では内臓破裂などが起こっていて、腹腔内で出血していることがありますので、全身の状態をよく観察するのを忘れないようにしましょう。また、血管肉腫の場合、腫瘍が破裂することによっても腹腔内出血が起こって腹水が溜まります。
愛犬の腹水で病院に行くべき症状は?
犬のお腹が膨れている場合、肥満やたくさん食事をした直後でなければ、身体の中で異変が起きていると言えます。ほかの症状を合わせて観察し、念のため病院を受診されると安心です。明らかにいつもと比べて元気がなくなっていたり、食欲低下、嘔吐、息が荒い、脱水症状、お腹の膨張、手足のむくみ、嘔吐したいが吐けない等の症状が見られた場合には、なるべく早く病院を受診してください。
犬の腹水の治療法は?
犬の腹水はさまざまな治療法があります。まずは、施術の内容について理解し、愛犬の体調や獣医師とよく相談してから選択をするようにしましょう。
利尿剤
獣医師に利尿剤を処方してもらって、腎臓からおしっことして溜まっている体液を排出させます。利尿剤を飲むことで犬はいつもより多くの水分が必要になるので、フードボウルの水が空っぽにならないように気をつけてあげてください。
お腹の水を抜く
動物病院ではお腹に直接針を刺して腹水を抜く治療をすることがあります。暴れてしまう子の場合には麻酔をかけなくてはなりません。症状が改善される反面、腹腔内の水分が一気に抜けることによって血流動態が変わりショック状態に陥ってしまったりするリスクもあります。また、腹水にはたんぱく質などの栄養源が含まれていて、栄養失調のリスクもありますので、かかりつけの獣医さんの判断に任せましょう。
マッサージ
心臓病を患っていると血流の悪さが原因で、手足がむくんだり、腹水が溜まることがあります。そんな場合はマッサージで血流を促すことによって、むくみや腹水が改善することがあります。
食事療法
腸の疾患による腹水の場合には、低脂肪の食事でリンパ管への負担を減らし、低アレルゲンフードへの切り替えることで腸炎を落ち着かせることができれば、腹水が改善する場合があります。
治療にかかる費用の相場は?
基本的な相場では1回の受診につき5,000円前後と言われていますが、基礎疾患の有無や施術内容、期間によって大きく費用は変わってきます。事前に動物病院へ確認を取るようにしましょう。
犬の腹水を抜くリスクはあるの?
犬の腹水治療はノーリスクではありません。そのリスクを事前に認識した上で最適な治療を施してもらうようにしましょう。
腹水を抜いてもすぐ溜まる
腹水を減らすために利尿剤を使ったり、針を使って抜いたりとしても原因を取り除かなければすぐに溜まることがあります。前述した原因をしっかりと取り除いて、再発をできる限り防ぐようにしましょう。
身体の衰弱を招くことも
前述しましたが、一度に大量の腹水を取り除くことで、急激に血圧が下がりショック状態に陥るリスクがあります。そのリスクに対しての理解とどのように対処すべきかをしっかりと獣医師と確認しておくようにしてください。
犬の腹水の予防法はあるの?
腹水を予防するには、まず原因になる心臓病や肝臓病、腎臓病などを予防することが大切です。こうした基礎疾患を起こさないためには、適切な食事と適度な運動、ゆっくりと十分な睡眠を取れる環境を整えてあげて、愛犬の健康維持を図ることが大切です。