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愛犬と暮らすメンバーで構成された、犬愛の強いメディア編集部です。 「犬想い」を軸に、ワンちゃんと飼い主さんの暮らしが上向く情報をお届けします。
cafe Crumpetsオーナー杉本準子さんと愛犬ラスクとが紡いできた、心と心の距離を縮めていった物語です。
自宅からカフェまで、片道40分。毎朝、愛犬のラスクを連れてカフェへ向かう杉本さん。
そんな杉本さんとラスクの出会いは、保護犬とボランティアという間柄でした。
先代の柚を17歳で天国へ見送った杉本さん。当時、喪失感に苛まれながらも、カフェは一日も休まず営業。
そんななか、とうとう心身のバランスを崩してしまいます。「このままじゃいけない」。そう感じた時、何かに突き動かされるようにボランティアの申請をしていたという杉本さん。
「とても他の犬を飼う気持ちにはなれない、でも、助けが必要な犬のためなら動けるかもしれない」。
「この子をお願いできますか?」勧められたのは、保護犬の中でもとりわけ問題児。人に懐かず、他の犬とも関われない状態で、シェルターの中に隔離されたダックス。それが、ラスクでした。
でもその日、人を怖がるはずのラスクがなぜか杉本さんのそばに。コロンと転がり懐く素ぶりを見せて。
「僕、こんなこともできるよ!」。ラスクが杉本さんに見せる必死な思い。
そんなラスクに、涙が止まらなくなったという杉本さん。「こんな風にできる子が、どんな悲しい思いをしてきたのか」。
先代の柚を見送り心に大きな穴があいた杉本さんと、人に心を閉ざしたラスク。
「ちょっとおかしい者同士、一緒だね」。杉本さんは、里親が見つかるまでの預かりとして、ラスクを連れて帰ります。
家に着いた途端、嬉しそうに走り出したラスク。そんなラスクを、杉本さんは好きにさせてあげました。ソファにどんと飛び乗るラスク。
「そうだよね、コンクリートや金属で囲われたシェルターは寂しかったよね」。
それから一週間。「飼うことはできない。感情移入してはいけない」。そう思っていた杉本さんでしたが、到底無理なお話でした(笑)。ラスクは晴れて杉本さんのわんこに。見守ってくれていたお客様の中には「ラスク、良かったね」と、泣いて喜んでくれた方もいたそう。
でも、そこからが、杉本さんとラスクにとって闘う日々の始まりでした。
当時、ラスクはすでに7歳。出来上がった成犬と出来上がった人間、他人同士の共同生活。
躾という意味でのおすわりや伏せは、教えればできました。でも、ラスクの過去から組み込まれた手を怖がる癖、外を怖がる癖などは簡単におさまらない …… 。
人が大好きだった先代の柚とは全く違うラスクとの暮らしに戸惑い、悔し涙を流す日々。それでも手放そうとは片時も思いませんでした。そんななか、杉本さんはあることに気づいていきます。
「手は可愛がってくれるものなんだから、慣れなきゃいけない」「外は楽しい場所、安心できるようにならなきゃいけない」。
でもそれは自分の気持ち。ラスクはそんな風に思っていない。
人に感情があるように、犬だって感情があることを改めて思い知った杉本さん。
犬だからこうあるべきという思い込みから、犬はみんな一緒じゃないと受け入れられるようになって、ラスクも変わっていったといいます。
「例えば犬好きの人が勢いよくその子を撫でる。犬は喜んでいるように見えて、実はその時間が終わるのを待っている子だっているんですよね」と、杉本さん。
「cafe Crumpets」のお手洗いには「正しくない犬への挨拶」という張り紙があります。それは、ラスクも教えてくれた、犬と人の信頼関係におけるとても大切なこと。
ラスクは今、ひょうきんなポーズやくるくる変わる表情で、隙あらば杉本さんを笑わせています。私たちスタッフにも挨拶をしてくれました。
杉本さんの、とある日のブログにはこう綴られています。「私がラスクを幸せにして、ラスクは私を幸せにしてる」。
先代の犬、柚を見送った杉本さんは知っています。出会いには、別れがついてくる。
だからこそ今日を目一杯生きる。