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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
路上や公園などで、愛犬を放し飼いにしていることはないでしょうか。「おとなしい犬だから」とか、「呼び戻しができるから」とか、「すぐ捕まえられるから」といった理由で“放し飼いOK”と判断できるものではありません。
屋外での犬の放し飼いは、国の法律や各都道府県の条例で規制されています。もし、他人が出入りする場所で、みだりに愛犬を放し飼いにすれば、動物愛護管理法の努力義務に違反する可能性があります。それでは、法律や条例、違反になる場合、放し飼いOKの場合などを見ていきましょう。
目次
- 犬の放し飼いは違法か、問題ないか
- 「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」とは
- 犬の放し飼いに関する規制の事例
- 犬の放し飼いで負う可能性のある責任
- 室内で犬を放し飼いにするポイント
- まとめ
犬の放し飼いは違法か、問題ないか
放し飼いとは、犬にリードをつけず放任することです。屋外や公共スペースなどでの犬の放し飼いは、動物愛護管理法の努力義務に反する可能性があります。
動物愛護管理法とは
「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)では、動物愛護に関する基本的な事項が定められています。基本原則は、すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めています。
放し飼いの規制とは
動物愛護管理法での放し飼いは、動物の所有者または占有者に対して「動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」(動物愛護管理法7条1項)と規定されています。動物の保管方法の基準については、環境大臣に制定を受けて「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」で犬の放し飼いを規制しています。
「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」とは
「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」では犬の放し飼いについて規制されています。ただし、さくなどで囲まれた自己の所有地や屋内、他者の生命、身体、財産に危害を加えることのない場所で養育や保管をする場合を除きます。また、犬をリードでつなぐ場合は犬の行動範囲が道路や通路に接しないようにして、散歩の際もリードでつながなければなりません。ただし、動物愛護管理法に基づく上記の法規制は、あくまでも動物の所有者や占有者の努力義務となっており、罰則の適用はありません。
動物の所有者、占有者に対する努力義務
◆ 動物の健康および安全を保持する
◆ 動物が人の生命、身体、財産に害を加えないようにする
◆ 動物が人の生活環境の保全上の支障を生じさせないようにする
◆ 動物が人に迷惑を及ぼさないようにする
放し飼いが認められる場合
◆ さくなどで囲まれた自己の所有地や屋内、他者の生命、身体、財産に危害を加えることのない場所で養育や保管をする場合
◆ 適正なしつけや訓練がされ、人の生命、身体、財産に危害を加え、人に迷惑をかけ、自然環境保全上の問題を生じさせる恐れがない場合
例1/警察犬や狩猟犬を、その目的のために使役する場合
例2/人、家畜、農作物の被害を防ぐ目的で、野生鳥獣を追い払う場合
これらのことから、他者が出入りする場所でみだりに愛犬を放し飼いにすることは、動物愛護管理法の努力義務に違反する可能性があると言えます。
犬の放し飼いに関する規制の事例
犬の放し飼いは、動物愛護管理法だけでなく、各地方自治体の条例でも規制されています。政令市、中核市で犬の放し飼いの禁止を規定した条例がない場合は、都道府県条例が適用されます。以下は人口や犬が多い大阪府の規制です。大阪府の条例では、さくなどで囲まれていない庭での放し飼いやノーリードで散歩をすることは、条例違反になります。
大阪府動物の愛護及び管理に関する条例
大阪府の「大阪府動物の愛護及び管理に関する条例」では、犬の飼養者に対して、以下の場合を除いて、人の生命、身体、財産に害を加える恐れのない方法で、常に係留しておかなければならないとしています。
◆ 飼い犬をおりに入れて飼養し、または囲い等の障壁の中で飼養するとき
◆ 人の生命、身体または財産に害を加えるおそれのない場所または方法で飼い犬を訓練し、移動し、運動させるとき
◆ 警察犬、狩猟犬、身体障害者補助犬法2条1項に規定する身体障害者補助犬をその目的のために使用するとき
◆ 展覧会、品評会、競技会、興行等のため飼い犬を使用するとき
条例違反の罰則
上記の大阪府動物の愛護及び管理に関する条例に反して、除外事由がないにもかかわらず、放し飼いで犬の飼養を行った場合には、罰則として拘留または科料に処せられます。拘留とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設で身体拘束を受ける自由刑です。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭納付を命じられる財産刑のことです。いずれも刑罰なので前科になります。
犬の放し飼いで負う可能性のある責任
民事上と刑事上の責任をそれぞれ解説します。
民事上の責任
民法718条1項によると「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」とされています。つまり、飼い犬が他人に怪我をさせるなどの危害を与えた場合、飼い主は被害者に生じた損害を賠償する責任を負うことになります。
ただし、飼い犬の種類や性質に従い、相当の注意を払って管理をしていたときには責任が免除されます。相当な注意とは、通常払うべき程度の注意義務という意味で、異常な事態に対応できるほどの注意義務を課したものではありません。相当の注意を払っていたかどうかは、犬の種類(身体のサイズなど)、性質(人を襲う癖など)、管理の仕方などによって判断されます。
犬の放し飼いで負う可能性のある責任とは、放し飼いの犬が他人に危害を与えた場合や、ノーリードで散歩していて他人に咬みついた場合に発生します。これらは飼い主として責任を負うことになるでしょう。
◆ 賠償責任
「治療費」
直接関係のある怪我の治療のために必要と認められた入院費や通院費などの実費のことを言います。
「入院付添費」
治療にあたって被害者に付き添い看護が必要になる場合、入院付添費が損害として認められます。
「通院交通費」
通院の際に車や公共交通機関を使用した場合に、交通費が損害として認められます。
「入通院慰謝料」
慰謝料は、受傷の程度、入院、通院の期間、後遺症の状態、性別、年齢などを考慮して決まります。
「休業損害」
被害者が治療するために仕事を休まざるを得ない場合に、減収分の損害を請求することができます。
「逸失利益」
後遺症によって労働ができない場合に、後遺症の程度に応じて逸失利益を請求することができます。
「後遺障害慰謝料」
被害者が後遺症の残るような傷害を負った場合に請求できる慰謝料のことを言います。
「その他」
事故によって破損した物の費用や、弁護士費用などを請求できます。
刑事上の責任
飼い犬が他人に危害を加えた場合は、刑事上の責任を問われることがあります。
◆ 過失致傷罪
飼い主は、ペットの飼育にあたって他人の身体や財産に危害を加えてはならない注意義務を負っています。それに反して飼い犬が他人に怪我をさせてしまった場合に問われる可能性があるのが、過失致傷罪(刑法209条)です。また、飼い主の過失の程度が著しい場合は、より重い罪である重過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性もあります。ペットショップなど動物取扱業者などに対しては、業務上過失死傷罪(刑法221条)が適用される可能性もあります。飼い犬を使って故意に他人を怪我させた場合に適用されるのは、傷害罪です。
◆ 器物損壊罪
飼い犬が他人のペットを傷つけてしまった場合は、器物損壊罪(刑法261条)の成否が問われます。器物損壊罪は故意の犯罪類型ですので、不注意でリードを放してしまった過失では、器物損壊罪になりません。故意だった場合で被害者からの告訴があれば器物損壊罪が成立して、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に処せられます。
室内で犬を放し飼いにするポイント
家の中であれば、ノーリードで犬を飼うことが可能です。室内で放し飼いのする際は、以下の点に気をつけましょう。
トイレのしつけや部屋の整備
犬を室内で放し飼いにする際に重要な準備は、トイレトレーニングです。犬がおしっこをしたそうなそぶりを見せたら、用意したトイレに連れていきましょう。トイレにおしっこの匂いがつけば、「ここがトイレだ」と認識してトイレで排泄するようになります。また、部屋の片づけも大切です。犬が誤飲してしまう恐れのあるものや、感電しそうな荷電やコード類があれば、いたずらされない場所に保管しましょう。
室内を清潔にする
室内にある抜け毛、ハウスダスト、花粉によってアレルギーを引き起こす犬もいます。掃除や換気をしっかりすることで、こまめに取り除くようにしましょう。また、猫と違って犬には体臭がありますので、それを取り除くシャンプーを定期的に行うことをおすすめします。
出入り禁止ポイント
犬が出入りしないほうが良い場所もありますので、出入り禁止の場所を決めておきましょう。
◆ 危険なものが多いキッチン
刃物、火、ガスはもちろん、玉ねぎや香辛料など犬が口にすると中毒を起こす食材もあります。いたずらや誤飲防止の対策を個別に行うのは困難ですので、出入り禁止にしましょう。
◆ 溺れるリスクがあるお風呂やトイレ
犬は人間よりも身体が小さいので、浴槽や便器の水でおぼれてしまうリスクがあります。また、シャンプー、ソープ、洗剤を誤飲してしまう可能性もあります。バスルームやトイレに入らないようにトレーニングをすることをおすすめします。
まとめ
動物愛護管理法でも、各都道府県の条例でも、犬を飼う上で守るべきことが定められています。飼い主には、愛犬が健康かつ快適に暮らせる環境を整えることと、社会や周囲の人に迷惑をかけない責任があります。法律や条例を守り、人と犬が共に暮らせる社会を実現しましょう。