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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
犬が上目遣いで見つめてくる姿は愛おしいですよね。「嫌なことがあっても、犬に見つめられただけで癒された」という経験がある方も多いでしょう。飼い主は犬の上目遣いに癒されますが、そもそも犬はどんな気持ちで飼い主を見つめているのでしょうか。この記事では犬が上目遣いをする心理や、犬と飼い主が目を合わせる効果、上目遣いをする理由の見分け方について解説します。
目次
- 犬が上目遣いをする心理
- 犬の上目遣いで癒される理由
- 【体勢別】犬が上目遣いをする理由と対応方法
- もしかしたら病気かも?上目遣い以外のサイン
- まとめ
犬が上目遣いをする心理
犬はどんな気持ちで飼い主を上目遣いで見つめるのでしょうか。ここでは、上目遣いをする犬の主な心理を解説します。
おねだり
犬は飼い主にしてほしいことを訴えるために上目遣いになります。視線を飼い主以外にも向けているときは、視線の先にあるものから気持ちを読み取ることが可能です。たとえば、おやつと飼い主を交互に見つめるときは「おやつがほしい」、窓の外と交互に見つめているときは「散歩に行きたい」などが代表例です。
また、犬が上目遣いと一緒に行うしぐさからも、気持ちを読み取れることがあります。飼い主に前足やあごを乗せてきたり、身体を擦り寄せてきたりしたときは「構ってほしい」「甘えたい」などの気持ちを訴えている可能性が考えられます。
不安や恐怖
犬は不安や恐怖を感じると緊張して、その原因を取り除いてもらうために飼い主を見つめることがあります。不安や恐怖の原因は、来客や雷などが代表的です。「助けて」と訴えるために、飼い主を見つめます。また、飼い主が叱るときの怖い顔や大きな声に恐怖を感じて「怒らないで」と訴えることもあると言われています。
犬が緊張状態にあるかどうかを見分けたいときは、しっぽを観察するのがおすすめです。しっぽが下がっていたり、足の間に巻き込んだりしているときは、不安や緊張を感じているでしょう。自分の緊張を解きほぐすために、飼い主を見つめる以外にも、鼻を舐めたり、震えたりといったしぐさをする場合もあります。
体調不良
身体に痛みや不調を感じて、飼い主に助けてもらうために見つめることがあります。犬がかかりやすい病気は犬種や年齢によって異なりますが、外耳炎や皮膚炎といった皮膚の疾患が多く見られます。上目遣いで見つめているときは自覚症状があるサインです。
また、食欲がなかったり、便や歩き方が普段と違ったりした場合には消化器系や神経系の病気を発症している可能性が考えられます。普段以上に愛犬を観察して、仕草や行動に異常が見られたら、早急に動物病院に相談してください。
犬の上目遣いで癒される理由
飼い主が犬に見つめられたときに癒やされるのには、科学的な根拠があります。また、上目遣いで見つめることで犬自身も安心を感じるようです。ここでは、犬と飼い主が見つめ合うことの効果について解説します。
目線を合わせるとホルモンが分泌されるから
目線をあわせることにより、飼い主と犬の脳内でオキシトシンというホルモンの分泌量が増加することが分かっています。オキシトシンは、安らぎを感じさせるホルモンであるセロトニンの分泌を促し、ストレスを感じさせるホルモンであるコルチゾールの分泌を抑える物質です。そのため、オキシトシンが分泌されることで、相手との絆を深めたり、不安や恐怖を軽減したりといった効果があります。
犬と飼い主のオキシトシンが分泌される仕組み
犬に見つめられると飼い主の脳内でオキシトシンが分泌されます。オキシトシンの効果によって飼い主が「愛犬と絆を深めたい」という気持ちが強くなり、スキンシップを取るでしょう。犬は他の動物の体温を感じることでオキシトシンが分泌されるため、飼い主が撫でたり抱っこしたりするとオキシトシンの効果で安らぎを感じることができます。こうした仕組みによって、犬の上目遣いによって飼い主も犬自身も癒やされるのです。
【体勢別】犬が上目遣いをする理由と対応方法
前述したように、犬が上目遣いをするのは飼い主に何かを訴えているサインです。訴える内容やその要求度は、上目遣いをする犬の姿勢によって異なります。ここでは、立った状態と、お座り、伏せの状態に分けて、上目遣いの理由や対応方法について解説します。
立つ
立っている状態は、犬にとって行動に向けて準備万端の体勢です。そのため、上目遣いを通して訴えている内容の要求度も高いと言えます。上目遣いの理由を見分けるヒントは、しっぽの様子です。
しっぽが上がったり振ったりしているときは、散歩やおやつなどを期待している可能性が考えられます。
しっぽが下がっているときは、不安や恐怖を感じて警戒している可能性が高いでしょう。犬が緊張している原因を取り除いたり、犬が安心できるようにスキンシップを取ったりしてください。ただし、警戒するあまり興奮状態になっているときは、しっぽを上げたり振ったりすることもあります。そのため、表情や周囲の状況を見ながら気持ちを汲み取ることが大切です。
お座りや伏せ
お座りや伏せはすぐには動き出せない体勢であるため、リラックスしている証拠です。「甘えたい」「遊んでほしい」などの気持ちを伝えようとしていることも考えられます。トレーニングの一環として、このように犬が落ち着いている時にこそ、積極的に褒めてあげましょう。犬が「お座りや伏せをするといいことがある」と理解することで、外出先などでも落ち着いて過ごせるようになります。
また、散歩中に「これ以上動きたくない」と伝えるために、お座りや伏せをして上目遣いをすることもあります。いつもより長い距離を歩いた場合は疲れている合図ですので、日陰などで休憩してください。休憩後も変わらない場合はケガやヘルニアなどの可能性があります。足や腰などを触って痛い場所はどこか確認し、散歩を中断して動物病院に相談しましょう。
一方で、元気がなくて立ち上がれない可能性も考えられます。過度なストレスによって元気がない可能性があるので、家の修理などで業者が長時間作業した後など、愛犬のストレスの原因に心当たりがある場合はスキンシップを取って安心させてください。また、病気が進行して重い症状が出たことで、元気がなくなることもあります。上目遣い以外にも病気のサインだと考えられる行動が見られた場合は、動物病院に相談して適切な対応を行うことが大切です。
もしかしたら病気かも?上目遣い以外のサイン
犬が病気による痛みや苦しさを自覚し、飼い主に「助けて!」と訴えている場合、上目遣い以外にも以下のような兆候が見られるかもしれません。症状ごとに代表的な病気を紹介しますので、愛犬にこうした変化が見られたら動物病院に相談してください。
震え
犬は寒さや緊張などで震える場合もありますが、病気が原因の可能性も考えられます。症状の1つに震えや痙攣がある病気もあれば、犬自身が強い痛みを感じることで震えることもあります。主な原因は以下の6つです。
- てんかん
てんかんには原因不明の特発性てんかんと、脳の病気が原因で起こる症候性てんかんがあります。倒れ込んで手足を突っ張りながら全身が痙攣する場合もあれば、手足のみが震える場合もあります。
- 感染症
感染症によって発熱した場合は、細菌やウイルスの繁殖を抑えるために、筋肉を震わせて発熱することもあります。
- 中毒
ネギ類、チョコなど犬にとって有毒な物質を誤飲すると、震えや痙攣などの中毒症状が起こります。タバコや解熱鎮痛剤のように誤飲すると命に関わる物質もあるため注意が必要です。症状が出るまでに数日かかる物質もあるので、心当たりがないか判断するために、犬の行動を数日前まで振り返ってみてください。
- ヘルニア
椎間板ヘルニアは、ミニチュア・ダックスフンドがかかりやすい病気です。飼い主が抱き上げたときや、段差を上り下りするときなどに痛みを感じてキャンと鳴き、その後も痛みがつづいて震えることがあります。
- 内臓の機能障害
肝臓や腎臓など、老廃物や有毒な物質を解毒や排出する器官に異常が起こると、有毒な物質が正常に排出されず、震えや痙攣が発生することがあります。
- 関節炎や関節痛
高齢の犬に多い病気です。加齢によって筋力が低下したり、変形した関節による炎症や痛みによって、震えが見られる場合があります。
足で体をかく
外耳炎や皮膚炎を起こして、かゆみを感じている可能性が考えられます。どちらも犬種や年齢を問わずかかりやすい病気です。かゆみが強いと患部をかきすぎてしまい、出血する可能性もあります。
- 外耳炎
耳が垂れている犬種や、耳道に被毛が生えている犬種は、湿気がたまりやすいため外耳炎にかかりやすいとされています。かゆみが出るため耳や首あたりをしきりにかいたり、頭をぶんぶん振ったりといった仕草が見られます。
- 皮膚炎
皮膚に起こる炎症の総称で、原因もアレルギーやストレス、細菌、ノミ、ダニなどさまざまです。発疹が出たり、乾燥してかさぶたやフケができたり、油っぽくなったりといった症状が出ると、体をかいたりこすりつけるなどしてかゆがる仕草を見せます。
下痢
犬が下痢をしている際は、胃腸炎によって胃腸の粘膜が過敏になったことで、腹痛を感じている可能性が高いでしょう。犬が背中を過度に丸めて猫背のような姿勢をしていたら、腹痛を感じているサインです。痛みに苦痛を感じて、上目遣いをすることで飼い主に助けを求めています。
まとめ
犬が上目遣いで見つめてきたら、何かを訴えようとしているサインです。「甘えたい!」「遊んで!」のように可愛い要求のときもありますが、不安や体の不調を訴えていることもあります。上目遣い以外のしぐさから犬の気持ちを読み取って、健康やトレーニングに支障のない範囲で応えましょう。普段とは違うしぐさが見られた場合は獣医師に相談してください。犬とアイコンタクトをとり積極的にスキンシップをとることが、犬と飼い主の健やかな毎日に繋がります。