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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
「またたび」と聞いてイメージする動物は「猫」ですよね? 「またたび」の香りを嗅いだり、果実を食べたりすると、興奮して床に身体をこすりつけるように転げまわったり、走り回ったりと楽しげなしぐさをみせてくれます。犬の飼い主さんとしては「愛犬に与えたら猫のように喜んでくれるのかどうか」という好奇心がムクムクと湧いてしまうかもしれません。実際のところ、犬と「またたび」の相性はどうなのでしょうか。健康に問題はないのでしょうか。今回は、それらの気になることを解説していきます。
目次
- 「またたび」とは
- 犬に「またたび」を与えても大丈夫か
- 「またたび」に代わるもの
- まとめ
「またたび」とは
「またたび」とは、マタタビ科マタタビ属の植物で、キウイフルーツの仲間です。北海道から九州まで日本各地の山や林などに自生している樹木です。日本全土に自生していますが、世界ではあまり見られない珍しい植物でもあります。
猫用に市販されている「またたび」は、粉やエキス、枝の状態で販売されています。イメージがつきにくいかもしれませんが、白くてかわいらしい梅とよく似た花を咲かせ、夏には果実を実らせます。
人間にとっては「またたび」は古くから漢方薬として親しまれてきた植物です。滋養強壮や疲労回復、免疫力向上の効果もあり重宝されてきました。「またたび」の実を塩漬けや果実酒などとして楽しんでいる人もいるようです。
「またたび」の成分である「マタタビオール」には、血流をアップする作用があり、万病のもとと言われる冷え性を改善できると言われています。また、キウイフルーツにも含まれる「アクチニジン」というたんぱく質の消化酵素は、消化不良を防いで胃の健康に役立つ成分です。さらには、ビタミンAやビタミンCも含まれているので、がん、心血管疾患、生活習慣病などの要因となる活性酵素を取り除く作用があります。
猫は「またたび」の実で陶酔
人間の健康をサポートする「またたび」ですが、猫にとっても、ストレス解消や老化防止、食欲促進の効果があると言われています。
「またたび」の中でも、猫が強く反応しているのは、「虫えい果(ちゅうえいか)」と呼ばれる実だと考えられています。「虫えい果」は、通常の「またたび」の実の中に昆虫が入り込み、そこで卵を産みつけて形がボコボコに変形した実です。通常の「またたび」の実は、どんぐりのように楕円形で表面がつるつるとしたキレイな形ですが、虫えい果になると凹凸のある表面になって見た目が大きく変わります。
この虫えい果を粉末にして猫に匂いを嗅がせると、よだれを垂らしたり、頬やあごを家具に擦りつけたり、床に寝転んで身体をくねらせたりします。また、背中から腰にかけての皮膚が波打ったり、大声で鳴きわめいたりする陶酔反応が、数秒から数分以上も続きます。「またたび」でメロメロに陶酔する様子は、ライオンやトラといったネコ科の野生動物でも見られるようです。
陶酔状態は一時的なもの
「またたび」に反応して猫が酩酊するようなしぐさを見せるのは、「マタタビラクトン」「アクチニジン」「フェニルエチルアルコール」といった成分によって脳の中枢神経が刺激され、一時的に軽い麻痺状態の症状が出るからだと言われています。一時的なものなので依存性はないようです。飽きたかのように急に素に戻る姿は、猫らしくてかわいいところです。
「またたび」は蚊よけにもなる
2021年に、岩手大、京都大、名古屋大などの研究チームが新しい発表をしています。それは「またたび」に猫が身体を擦りつけるのは、「またたび」の葉に含まれる「ネペタラクトール」という成分が蚊よけになるからという研究成果であり、寄生虫フィラリアや病気を運ぶ蚊から身を守る行動だと結論づけています。
実験では、ジャガーやアムールヒョウ、シベリアオオヤマネコなどネコ科の動物も、猫と同じ反応をしたそうです。また、猫の頭に「ネペタラクトール」を塗って蚊を放つ実験をしたところ、蚊が頭に止まる数が塗らない場合と比べて半減したそうです。なお、蚊よけの目的と陶酔状態の関連性は、まだ解明されていません。
犬に「またたび」を与えても大丈夫か
結論としては、犬に「またたび」を与えても大丈夫です。ただし、猫と同じような楽しい反応を期待している飼い主さんにとって残念な話かもしれませんが、犬は「またたび」に反応しません。よだれを垂らしてうっとりすることも、頬やあごを家具に擦りつけることも、床に寝転んで身体をくねらせたりすることもありません。いわゆる無反応です。
これは、猫をほろ酔い状態にさせる「マタタビラクトン」「アクチニジン」「フェニルエチルアルコール」という成分に、犬の神経が反応しないからです。これらの成分に反応するのは、ネコ科の動物のみと言われています。犬にとって何の害もありませんが、リラックス効果もないので、積極的に与える必要はないでしょう。
与え方には注意が必要
犬と猫を一緒に飼っている場合は、猫にあげた「またたび」を、犬が食べてしまうことがあるでしょう。健康面で大きな問題はありませんので、焦らなくても大丈夫です。枝状で市販されている「またたび」であれば、歯を傷めない、ほどよい硬さなので遊び道具にもなります。
ただし、与え方だけには注意を払ってあげてください。たとえば「ごろごろとした実を飲み込んだ」「枝を丸のみした」「食べ過ぎた」といったことになると、気管や消化管を詰まらせる可能性があります。そのため、飼い主さんが見守っている中で遊ばせてください。また、大量に摂取した場合は犬にとって有害な作用となる可能性もあるため、摂取後に体調の変化が見られる場合は、かかりつけの動物病院に相談してください。
「またたび」に代わるもの
猫に「またたび」を与えたときのように、匂いを嗅いだだけで酔ったような反応を見せる犬用のアイテムは、残念ながらありません。その代わりに、ストレス解消や食欲促進につながるアイテムはたくさん市販されていますので、そちらで愛犬を喜ばせてあげてください。
くせになるガム
犬用ガムがおすすめです。弾力があってしっかりと噛めるので、愛犬のストレス解消につながります。また、ガムを噛むことで唾液が増え、歯垢の除去や口臭の軽減といった効果を得ることもできます。歯磨きを目的に与えても良いでしょう。
なお、ガムは種類が豊富で、大型犬用や小型犬用のものまで揃っています。手で力を加えるとしなる程度の弾力がある硬さのガムであれば、歯が欠けたり折れたりしないのでおすすめです。また、シニア犬でも噛める柔らかめのガムもありますので、安心して与えることができるでしょう。ただし、ガムは丸飲みしてしまう可能性があるため、必ず飼い主さんが手に持った状態で与えるようにしてください。
うっとりする香り付きのおもちゃ
猫にとっての「またたび」と同じように、犬の嗅覚を刺激してとりこにしてしまう、香りつきのおもちゃが販売されています。フルーツやバニラなどの甘い香りや、ベーコンやチキンといった肉の香りなど、犬が好む香りの種類が豊富に用意されています。
香りにうっとりしながら遊んでいるうちに、デンタルケアもできる優れものです。歯にも優しいので小型犬でも安全に使うことができるでしょう。ただし、おもちゃを使うときは誤飲の可能性がありますので、飼い主さんの目の届くところで、時間を決めて与えるようにしてください。
頭や嗅覚を使う知育玩具
たとえば、たまご型やボール型のおもちゃの中におやつを入れて、遊ばせるタイプのものがあります。一部に小さな穴が開いているタイプのものは、コロコロと転がして遊ぶことで中からおやつがポトリと出てくる仕組みがあります。転がせばおやつが出てくるということを愛犬が学び、探求心から夢中になります。
また、複雑な形状のおもちゃにおやつを隠して、匂いを嗅いでおやつを見つけるノーズワークができるおもちゃもあります。素材もやわらかいポリプロピレンや無塗装の天然木、布製のおもちゃがありますので安心して遊ばせることができます。こうした嗅覚を使う遊びは、集中力と体力を使うので愛犬を退屈させませんし、運動不足も解消できます。いつも与えているフードを残したときも、おもちゃに入れて与えるとチャレンジ精神が掻き立てられるのか、一生懸命取り出して完食することもあるようです。
これらのおもちゃも、一部が破損して誤飲してしまう可能性がゼロではありませんので、遊ばせる時間を決めたうえで、その時間は飼い主さんの目が届くところで遊ばせるようにしてください。
追いかけて遊べる電動ボール
光りながらランダムに走行する電動ボールといったおもちゃもあります。自動で動くおもちゃは、犬の好奇心と狩猟本能を掻き立てるので満足させることができます。これは、運動不足、肥満、ストレスが解消でき、犬の心身や脳の発達をサポートする目的で開発されたおもちゃです。犬の興味を引きつける音がでるものもあり、飽きずに夢中で遊んでくれるようです。
「ボールが勝手に動くので面白がって追いかけたり、くわえたりして遊んでいる」「予想以上に動きまわってくれて運動不足にならない」「掃除をはじめると吠える癖がある犬に与えたら、ボールに夢中になって吠えなくなった」「防水機能もあるので一緒に水遊びができる」という飼い主さんの声があります。
電動ボールは自動的に動くので、おもちゃを追いかけて危険な場所や入ってほしくない場所に愛犬が行ってしまわないように、飼い主さんの目の届くところで遊ばせてください。
まとめ
猫にはリラックス効果やメリットがある「またたび」ですが、犬に与えても反応はゼロです。また、「またたび」を犬が舐めたり食べたりしても問題ありません。ただし、実や枝状の「またたび」を丸ごと飲み込んでしまうと、喉に詰まらせてしまう可能性があるため、飼主さんが見守りながら遊ばせるようにしましょう。代わりにガムや知育玩具など犬が夢中になって遊ぶものを用意すると、猫にとっての「またたび」のようにストレス発散や食欲促進効果を期待できます。