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ぎふ動物行動クリニック院長、NPO法人人と動物の共生センター理事長。年間100症例以上の問題行動を診察。動物行動の専門家として、ペット産業の適正化に取り組む。
犬の問題行動って? どうしたら解決できるの? 獣医行動診療科認定医、奥田順之先生が解説します。
目次
- 犬の問題行動とは? 環境によって問題になる・ならないが決まる?
- まずは、犬の『正常行動』と『異常行動』を知ろう
- 問題行動は本当に『犬の』問題? 犬の気持ちに寄り添ってあげよう
- 自分を責めないで。犬の行動には必ず理由がある
- 専門家のサポートを借りよう
犬の問題行動とは? 環境によって問題になる・ならないが決まる?
そもそも、犬の『問題行動』とは、どのような行動を指すと思いますか?
獣医臨床行動学では、問題行動とは『飼い主が問題に感じる行動』のことを指すとされています。つまり、飼い主が問題に感じれば問題行動、問題と感じなければ問題行動ではないという事です。
たとえば、吠えるという行動は、問題行動になる場合と、ならない場合があります。
都市部の住宅密集地のマンションで、人が通るたびに吠える行動は、近所の迷惑になるし、飼い主は問題と感じることでしょう。
一方、田舎のイノシシが出るような地域で、外の気配に犬が吠えてくれるのはありがたいことです。その吠えは問題行動ではなく、良い行動ということになります。
このように、同じ行動でも、飼い主と犬が置かれた環境や状況によって、問題になったりならなかったりします。
まずは、犬の『正常行動』と『異常行動』を知ろう
問題行動と関連する行動の分類として、『正常行動』と『異常行動』があります。問題行動に向き合うためには、まず「その行動が、犬という動物にとって正常な行動か、異常な行動か」ということを見極める必要があります。
『正常行動』とは、犬に生まれつき備わった、犬が生きていくために必要とする行動のことを指します。
たとえば、先の吠える行動は、都市部では問題行動でしたが、吠える行動自体が犬にとって異常な行動かといえばそうではありません。縄張りである家の外の気配に対して吠えることは、犬にとっては正常な行動です。
一方『異常行動』は犬が本来する必要のない異常な行動のことを指します。
たとえば、痒みや感覚異常など皮膚の問題がないのに、特定の場所をなめ続けて脱毛してしまうことがあります。これは、過度なグルーミング(毛繕い)です。本来のグルーミングの「身体を清潔に保つ」という目的を越えて行動を続けてしまっています。このような、目的なく反復的に繰り返される行動は異常行動の一種で、『常同行動』と呼びます。
その他には、自分の尻尾を咬みちぎってしまう自傷行為は、明らかな異常行動です。尻尾を咬みちぎるのは、犬が生きていく上でマイナスしかありません。また、それ以外にも、一点を見つめて動かないことがある、執拗に影を追う、空中に蝿がいてつかまえようとするような口をパクパクさせる動きをするなど、様々な異常行動の表現型があります。
異常行動は、脳神経の疾患、持続的なストレス、ケージに閉じ込めっぱなしにするなど正常な行動を十分に表現できないような劣悪な環境、遺伝的な要因などが絡み合って発生します。
異常行動が発生しているときは、その犬の動物福祉は悪い状態にあると言えますので、適切に治療されるべきです。しかし、異常行動が発生していても、飼い主がそれを異常と思わず、「うちの子尻尾を追いかけてグルグル回るのが好きで、一日中やってるのよね!見てると楽しい!」と解釈してしまっていれば、治療を行うことができません。
犬の異常行動に気がつくためには、「この行動ってちょっとおかしいのかな?」と飼い主が疑えるようになることも、大切です。
問題行動は本当に『犬の』問題? 犬の気持ちに寄り添ってあげよう
問題行動に話を戻しましょう。
異常行動によって起きている問題行動の場合は、異常行動の治療を優先します。身体に疾患があるかどうかを調べて、動物福祉の確保や生活環境と生活習慣を整えること、薬物療法を行うことにより、多くの異常行動は治療することができます。
一方、正常行動から問題行動が起きている場合、治療が必要とは限りません。元々は犬にとって正常な行動ですから『犬を治す』という感じではないですよね。
たとえば、嫌がる犬を押さえつけて、無理やり足ふきをしたら咬まれたという問題行動の場合、嫌がった犬が悪いのでしょうか? それとも、犬の気持ちを無視して無理やり足ふきした飼い主が悪いのでしょうか?
問題行動は、『犬の問題行動』と捉えられやすいですが、本当は『人と犬の間の問題行動』が正しい解釈です。犬と人の間に起こる問題であり、犬だけを治すのはフェアではありません。人と人との関係と同じです。
犬が独りで野原を駆け巡っていたら、問題行動なんて起こりようがありません。飼い主が、犬の都合とは関係なく、一方的に家庭に迎え入れ、人と犬が共に暮らすからこそ、問題行動は生じるのです。
相手を変える前に、まず、自分が変わる。人の方が犬にどのように配慮できるのか、犬の福祉を向上させるにはどうしたらいいのかを考え実行すること、つまり、人が変わる事こそが、問題行動改善の第一歩なのです。
自分を責めないで。犬の行動には必ず理由がある
問題行動は人と犬の間で起こる、人が変わる事こそが問題解決の第一歩と述べましたが、これは決して飼い主が全部悪いと言っているわけではありません。
問題行動に悩む飼い主さんが誰かに悩みを打ち明けると、
「問題行動は全て飼い主の責任だよ」
「あなたのこれまでのしつけが悪かったから問題になったんだね」
「あなたが変わらないと犬は変わらないよ」
というような、飼い主が全部悪いと感じさせてしまうような助言をされる方もいらっしゃいます。助言してくれた方は、きっと飼い主さんの背中を押すつもりで悪気なく言っていると思いますが、飼い主からすると、「私のせいでこうなってしまった…犬につらい思いをさせてしまった…」と後悔することになるかもしれません。
私の元には年間200件程の問題行動の相談が寄せられますが、大切にしている事は、飼い主さんの辛さ、苦しさを理解しようとすることです。問題行動は、犬も辛いけど、飼い主さんも同じだけ辛いんですよね。
その辛さ、苦しさは、犬を理解できないことが、その中心になっていることが多いと感じます。なぜ犬がこんな行動をとるのか、なぜ咬むのか、なぜ吠えるのか。人は理解できないものに不安を感じる傾向があります。犬の行動を理解できないから不安で、理解できない中でまた咬まれてしまって、身体的にも傷を負い、辛く苦しい状態になってしまうんですね。
「私が悪かったんだ…」といくら思っても、それでは解決には向かいません。
犬の行動には、必ず理由があります。その理由を理解すること、そして、問題行動を起こさなくていいように配慮すること。そうした具体的な情報をお伝えし理解してもらうことが、飼い主さんの辛さ・苦しさを癒し、前向きで健全な対策を講じることに繋がると考えています。
専門家のサポートを借りよう
犬と暮らす全ての飼い主は、幸せになるために犬を迎えると思います。決して、犬と暮らして苦しむために迎えるわけではありません。
でも実際には、犬の問題行動(本来『犬の』問題行動というべきではないかもしれませんが…)によって苦しんでいる家族もたくさんいるんです。
何針も縫うような怪我をされた方、リビングを犬に占拠されて入れなくなってしまった方、自分の尻尾を咬みちぎり血だらけになってしまった犬とその家族、吠えの問題からご近所トラブルに発展する方.......
このようなことが原因で、これ以上一緒に暮らせないと犬を手放す方もいらっしゃいます。
それほどまでに深刻な例、生活が破綻するような例は多くはありませんが、犬と暮らしている以上、大なり小なり困った行動に悩むことは多くの飼い主が経験するのではないでしょうか?
もし、今、問題行動に悩んでいる方がこの記事を読んでいるならば、一番に伝えたいことは、「一人で悩まないで」という事です。
犬の行動の理解は、そんなに簡単ではありません。特に問題行動の理解と改善には、それなりの知識・技術・経験が必要です。最近ではネットにも多くの記事や動画が出ており、何を信じていいのか分からないという人も多くいらっしゃいます。
犬はそれぞれ違います。記事や動画はあくまで一般論しか書かれていません。あなたと愛犬の行動を見て解説してくれているわけじゃないんですね。だからこそ、きちんと向き合ってくれる専門家の方に相談して、実際の状況から、犬がなぜその行動を行うのかということを理解していくことが大切です。
私の所属する日本獣医動物行動研究会では、獣医行動診療科認定医を認定しています。まだまだ数は少ないですが、信頼できる相談先になるかと思います。
私自身は、ぎふ動物行動クリニックで診察を行っていますが、遠方の方にはオンラインでの相談も受け付けております。近くに認定医がいない、相談先が分からないという方は、一度問い合わせていただくと良いかと思います。
一人で悩まないで、一緒に解決していきましょう。