公開
北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
いつか別れのときがやってくる。そう覚悟はしていても、愛犬の死に直面すれば、身を引き裂かれるような痛みと苦しみを感じると思います。「もっとしてあげられることがあったのではないか」と後悔が押し寄せ、かわいらしい表情やしぐさを思い出しては涙が止まらなくなるでしょう。そして再び、後悔が押し寄せます。でも、たっぷりの愛情を注いでいたのであれば、愛犬にとっても幸せな時間だったのではないでしょうか。愛犬が安心して虹の橋をわたっていけるように「ありがとう」と伝えて見送ることが、飼い主さんがしてあげられる最後のお世話です。しっかり送り出したら、ゆっくり立ち直りましょう。
目次
- 愛犬の死とペットロス
- 愛犬が亡くなる前に見せる兆候
- 愛犬が亡くなったときにやるべきこと
- 愛犬の死から立ち直るために
- まとめ
愛犬の死とペットロス
ペットロスとは
ペットロスとは、ペットを亡くした飼い主さんが深い悲しみに陥っている状態のことです。悲しみが重症化して心の病や身体の病を患うことを「ペットロス症候群」と言います。ペットロスから立ち直る方法を紹介した書籍がたくさん出版されていますが、それだけ多くの人がペットロス症候群に悩んでいると言えるでしょう。ペットロスで苦しむ人が増えているということは、それだけ犬を家族の一員として大切に思う人が増えたということです。また、犬の平均寿命が延びて一緒に過ごした時間や思い出が増えたぶん、亡くなった時の悲しみが大きくなっていると言えるでしょう。
症状
ペットロスの症状になると、悲しみ・混乱・怒り・罪悪感・否認・抑うつといった感情に陥ってしまいます。中でも「否認」「怒り」「罪悪感」「抑うつ」の4つの感情は、「ペットの死に伴う感情の混乱状態の中で、認めたり理解したりすることが特に困難な感情、したがって克服が困難な感情」(モイラ・アンダーソン著「ペットロスの心理学」より引用)と言われています。
重症化する要因
「もっと早く病院に連れていけば助かったかもしれない」などと罪悪感から自分を責めてしまう場合に、重症化するリスクが高まります。また、亡くなり方やタイミングの問題でも重症化しやすくなります。たとえば、事故で急死してしまった場合は、心の準備ができていた人よりもペットロスの症状が深刻化しやすいようです。
飼い主としては愛犬が亡くなるなんて想像したくないに違いありません。ですが、事前に予測して備えておくことでペットロスの苦しみは軽減することができます。また残された時間が短いことを自覚することで愛犬との時間をより大切に過ごせるようになるのではないでしょうか。辛いことですが、ご家族みなさんでゆっくりと向き合っていきましょう。
愛犬が亡くなる前に見せる兆候
犬が最期のときを迎えるときには何かしらの兆候が見られる場合があります。その子の性格や体調によりさまざまですが、お年寄りの犬に下記のような兆候が見られた場合は心の準備が必要かもしれません。ただし、死期が近づいているのではなく何か病気の症状が出ている可能性もあります。かかりつけの動物病院とよく相談し、何をしてあげるのが愛犬にとって最善か考えてあげましょう。
ごはんも水もとらない
病気や加齢によって内臓や代謝の機能が弱くなり、死期が近づくにつれて食欲がなくなります。ごはんを食べて水を飲むエネルギーがなくなってきたことを意味します。大好きだったおやつさえ受け付けなければ、残された時間は少ないかもしれません。鼻から管を入れて胃の中に水分や食事を流して栄養を補給する処置もありますが、死期が近づいたときに行うと愛犬の負担になる場合があります。努力を続けるか、静かに見守るか、飼い主として判断に迫られる辛い段階です。
ずっと寝ている
犬は不調や痛みを感じると、身体を休ませることで回復しようとします。また加齢により体力が落ちるとじっと休んでいる時間が増えていきます。寝ている時間がいつもより長くなった場合は調子が悪いサインかもしれません。また、暗く静かで人目につかない場所を好むようになる場合もあります。これは弱っている姿を他の動物に見られると危険だと本能的に感じ取っているためと言われています。
意識が遠のく
名前を呼んでも、撫でても、反応が少なくなります。まったく反応しない場合もあります。目の力がなくずっと遠くを見ている状態や、どこを見ているのかわからない朦朧とした状態、目を開けることすらできない状態であれば、残された時間はわずかかもしれません。愛犬が安心できるように、耳のそばでそっと声をかけてあげてください。
呼吸が乱れる
命を維持するための呼吸が上手にできなくなります。速く浅い呼吸から、だんだんと深い呼吸に変わり、やがて無呼吸となるといった異常な呼吸サイクルを繰り返すようになると、残された時間が少ないことを覚悟したほうがいいかもしれません。数時間から数分の間に亡くなる場合もあるため、できるだけ側で見守ってあげましょう。
痙攣をおこす
亡くなる直前に痙攣を起こす場合もあります。手足をバタバタとさせ意識が遠のいている様子にショックを受けられる方も多いですが、痙攣している間犬自身は苦しさを感じていないと考えられています。痙攣しているときは自分の意思と関係なく体が動いてしまうため、怪我をしないよう周りのものをどかしてあげるとよいでしょう。柔らかいベッドの上に移動してあげたくなるかもしれませんが、抱き上げた際に落としてしまうリスクも高いため、あまりおすすめできません。
下痢や嘔吐をする
老衰などによって消化器官の機能が低下すると下痢や嘔吐をするようになります。また肛門を閉じる筋力がなくなって下痢が漏れ出してしまう場合もあります。体力が落ちた状態で下痢や嘔吐をすると、さらに体力が奪われてしまいます。食欲がある場合は消化のしやすい流動食を与えるようにするとよいでしょう。
体温が下がる
犬の平熱は一般的に38~39℃です。最期を迎える前は、体内のエネルギーである基礎代謝が下がり、体温も下がって低体温になります。これは身体の機能が少しずつ停止しているサインです。犬が暑がらないようであれば、体温を上げるために部屋の温度を調整し、毛布や湯たんぽなどで身体をあたためてあげてください。特に首まわり・脇・太ももの内側を温めると体温が上がりやすくなります。
愛犬が亡くなったときにやるべきこと
遺体の安置
犬は足を伸ばした状態で亡くなることが多いようです。四肢がつっぱった状態で死後硬直を起してしまうと、筋肉が硬くなって足を折り曲げられなくなります。棺に納めて葬儀をしようと考えている場合、死後硬直が起きる前に足をやさしく内側に折り込んであげてください。まぶたや口は自然と開いてしまう場合が多いです。閉じてあげてもよいですが、開いている方がむしろ自然な姿なので無理に閉じなくてもよいでしょう。
遺体のお手入れ
死後硬直が終わったあとは、体液や糞尿が漏れ出すことがありますので、遺体の下にペットマット・ペットシーツ・タオル・新聞紙・ビニールシートなどを敷いておきましょう。口や肛門が汚れている場合は、ガーゼや濡れタオルできれいに拭き取ってください。動物病院によっては詰め物をしてくれる場合もあるので、かかりつけさんに問い合わせてみてもよいでしょう。
きれいな姿を保つために冷却
手やブラシで毛並みを揃え、棺や段ボールの中にタオルを敷きます。また、タオルにくるんだドライアイスも用意すると良いでしょう。ドライアイスや保冷剤でお腹周りを冷やすことで体を綺麗に保つことができます。また室温もなるべく低く保ちましょう。なお、適切な温度管理下における火葬の日程は、冬場が5日程度、夏場が3日程度とお考えください。
葬儀の依頼
火葬施設などで火葬するのが一般的な葬儀となります。ペット霊園や寺院などが所有している火葬施設や、自治体が所有している動物専用炉などが利用できます。また移動火葬車での火葬であれば、指定する場所に呼ぶことも可能です。葬儀の方法はお住まいの地域によりさまざまなため、あらかじめ調べてどのような葬儀をするのかご家族で決めておくとよいでしょう。
死亡届の提出
犬の場合、死亡届の提出が『狂犬病予防法 第四条』で義務づけられています。未提出は法律違反になりますのでご注意ください。死亡届の提出場所は、お住まいの自治体・市区町村の役所となります。そちらの窓口に出向いて書類に必要事項を書き、死亡年月日から30日以内に提出しましょう。ホームページから申請できる市区町村もありますのでご確認ください。また、死亡届を提出する際には、犬の登録時に交付された「鑑札」と「注射済票(届出当該年度分のみ)」を返却します。
愛犬の死から立ち直るために
悲しみを打ち明ける
愛犬を失うと、涙が止まらず、誰とも会いたくないほど落ち込んでしまうこともあるでしょう。部屋にこもって一人で悲しみを抱え込んでいるのであれば、家族や友人に悲しみを打ち明けてみることをおすすめします。人と話すことで気持ちが紛れ、心が軽くなることもあります。
感情のままに泣く
大切なものを失った悲しみや後悔からくる怒りなど、自分の内側から湧き出るありのままの感情は我慢することなく、吐き出しましょう。泣きたいだけ泣いてください。自分の感情を我慢せずに解放することで、心が少しずつ落ち着いていくのを待ちましょう。
なにかに没頭する
一人でいると愛犬のことばかりが思い出され、悲しみに押しつぶされそうになると思います。そうした場合は、気が向かないかもしれませんが、興味が持てる習い事・スポーツ・読書などを始めてみると、没頭できるかもしれません。悲しみから少し回復してきたら、エネルギーが湧いてくるでしょう。
新しい犬を迎える
新しい犬は、落ち込んだ心に元気をくれる存在になります。以前一緒に暮らしていた子に対し罪悪感を感じる方もいるかもしれませんが、飼い主さんが笑って過ごしていることがその子にとって何よりも幸せなことです。気持ちに少し整理がついたら新しい犬を迎えてみるのも良いでしょう。
まとめ
愛犬とのお別れは、想像するだけで辛い気持ちになるものです。しかし、死について考えることで愛犬と過ごせる日々をより大切にでき、より多くの愛情を注げると思います。最期の日を迎えたときに「ごめんね」ではなく「ありがとう」と言ってしっかりと送り出せるよう、看取りの知識や葬儀の知識を備えておきましょう。