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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
「おいで」「来い」「カム」などの短い言葉で、遠くにいる愛犬が飼い主さんの足元まで来ることを「呼び戻し」と言います。
トレーニングの中でも難易度が高く、「呼んでも来ない」「呼ぶと逃げる」とお困りの飼い主さんも多いのではないでしょうか。そこで「おいで」と呼んでも愛犬が来ない理由とトレーニング方法を解説します。
犬のきもちやトレーニングのポイントを押さえて、愛犬が飼い主さんの掛け声を合図に駆け寄って来てくれるようにトレーニングをしていきましょう。
目次
- 呼び戻しをしつける必要性
- 犬が「おいで」に応じない4つの理由
- 呼び戻しのトレーニング方法とポイント
- まとめ
呼び戻しをしつける必要性
犬は全身で愛情を表現してくれるところが、なんともかわいらしいですよね。「おいで」と呼んですぐに愛犬が駆け寄って来たら、 飼い主さんの愛情も止めどなくあふれて来るのではないでしょうか。
「おいで」と呼んですぐに来てくれる「呼び戻し」は、単にかわいいというだけでなく、飼い主さんと愛犬に多くのメリットをもたらすものです。
メリットを通じて、呼び戻しの必要性を解説します。
事故や迷子から愛犬を守る
散歩をしているときや、公園で遊んでいるときに、何かのはずみでリードやハーネスが外れてヒヤリとした経験はありませんか。
解放されたことがうれしくて愛犬が猛ダッシュで走り出した場合、とても追いつけるスピードではありません。そのまま迷子になったり、交通量の多い道路に出てしまったりしたら、取り返しのつかない事態が起こる可能性も十分考えられるでしょう。
そんなときに「おいで」の一言で、愛犬が自分のもとにやって来るトレーニングができていれば、落ち着いて愛犬を交通事故から守ることができます。万が一の事故を未然に防ぐためにも、呼び戻しのトレーニングをしておくことをおすすめします。
他の犬とケンカするリスクを減らす
散歩中やドッグランで遊んでいる際に、他の犬に「急接近する」「過度なちょっかいを出す」「威嚇して何度も吠える」「噛みつく」といった行動でケンカになる場合があります。
呼び戻しのトレーニングをして、トラブルになる前に愛犬を呼び戻すことができるようにしておきましょう。
普段の生活の中で、呼び戻しの必要性はあまり感じないかもしれませんが、人間社会で安全に暮らすことを考えれば、呼び戻しのトレーニングはマナーと言えるでしょう。
犬が「おいで」に応じない4つの理由
理由1:嫌な思い出がある
犬が「おいで」に応じてくれない最も多い理由は、「呼ばれて行ったのに嫌なことをされた」という思い出があることです。
飼い主さんにとっては些細なことでも、犬にとっては深く傷つく出来事だったのかもしれません。
たとえば「遊んでくれると思ったのにケージに入れられた」「無理やり長い時間抱っこされた」「苦手なハミガキをされた」「おもちゃで遊んでいたのに取り上げられた」「大きな声で叱られた」「大嫌いな爪切りをされた」「病院に連れていかれた」といった嫌な経験を何度か繰り返すことで、呼び戻しに応じなくなる可能性があります。
理由2:「おいで」「来い」「カム」など掛け声が家族内で統一できていない
呼び戻しの際にいろんな掛け声を使っている場合は、「おいで」の意味を理解していない可能性があります。
ときに「来い」と言い、ときに「カム」と言っている場合は、どれかひとつに決め、家族で統一しましょう。
なお、飼い主さんが追いかけて来てくれることが楽しくて、わざと「おいで」に応じないこともあるようです。どんなときでも、呼ばれたら必ず来るように、犬が来たくなるような工夫を凝らしたトレーニングをしましょう。
もし嫌な思い出があって「おいで」に反応してくれないのであれば、別の掛け声に切り替えてトレーニングをすると良いです。
理由3:信頼関係ができていない
飼い主さんでも、犬が懐いていなければ呼んでも来ません。そう感じる場合は、信頼関係を構築するところからスタートしましょう。
散歩の時間を長くしたり、おいしいおやつを使った楽しいトレーニングをしたりするなど、愛犬とのコミュニケーションの時間を増やしていくことで信頼が生まれ、懐いてくれるでしょう。
また、急に大きな音をたてたり、叱る目的で怒鳴ったりすると、犬が恐怖心を抱いてしまいます。
怖い相手には近づきたくないので、「おいで」という呼びかけにも応じません。
理由4:難聴あるいは体調が悪い
元気に走りまわって遊んでいるうちに耳をぶつけたり、耳の持病が進行したりしたことで、難聴になった可能性があります。
先天性の病気の場合は、耳の聴覚受容器の発達障害などが原因です。後天性の場合は、加齢をはじめ、外耳炎・内耳炎などの炎症性疾患、頭部外傷、脳神経障害といった原因が考えられます。
「ごはん」や「散歩」など、愛犬が喜ぶ単語を言って反応があるかどうかを確認してみてください。反応が鈍ければ、動物病院の受診をおすすめします。
また、体調が悪くて呼び戻しに応じられない場合もあります。
「元気がない」「歩く動作が遅い」「食欲がない」といった様子が見られたら、体調が優れない可能性があるので動物病院を受診してください。
呼び戻しのトレーニング方法とポイント
落ち着ける室内から呼び戻しのトレーニングをはじめる
呼び戻しの掛け声を統一する
まずは「おいで」「来い」「カム」などの中から、呼び戻しの掛け声をひとつに決めます。
落ち着ける室内かつ愛犬に近い距離から始める
愛犬がトレーニングに集中できるよう、最初は慣れた室内で、2~3歩ほどの少し離れたところから呼び戻します。飼い主さんが後退すると追いかけたくなる心理を利用して、犬が前進するのを促すのも良いでしょう。
おやつを見せながら呼び戻す
愛犬が大好きなおやつを手に乗せて、愛犬の顔の高さに手を差し出します。「おいで」と呼んで歩み寄ってきたらしっかりと褒めましょう。飼い主さんの手が届く範囲まで犬が自発的に近寄るまで落ち着いて待っていましょう。愛犬が途中で止まってしまったときに飼い主さんが歩み寄ると「途中で止まるのが良いんだ」と愛犬が誤解してしまうかもしれません。
おもちゃで気を引いて呼び戻す
次は、お気に入りのおもちゃで気を引いて呼び戻します。「おいで」と呼んで歩み寄ってきたらしっかりと褒めてください。
他のものに夢中になっているときに呼び戻す
徐々に難易度を上げていきます。たとえば、おもちゃで遊んでいるときや、うれしくて興奮しているときに、不意打ちで呼び戻します。
ハンドサインを併せて使う
呼び戻しの掛け声に、手招きなどのハンドサインを併せて教えれば、覚えてもらいやすくなります。大勢の人や犬がいるドッグカフェやドッグランなど、自分の声が愛犬に届きにくい場所でも、ハンドサインなら愛犬に伝わるので便利です。
呼び戻しに応じたら褒める
「呼び戻しに応じたらいいことがあった」と愛犬に覚えてもらえるように、おやつをあげてしっかり褒めましょう。いつものおやつよりグレードアップしたおやつをあげることも覚えさせるひとつの手です。
知らない人や犬がいる屋外で呼び戻しのトレーニングをする
狭い範囲から始める
愛犬が落ち着ける家の中で呼び戻しに応じてくれるようになったら、外でのトレーニングに挑戦します。まずは、自宅の庭やリードでつながっている範囲からトレーニングをスタートさせましょう。
人がいる場所で呼び戻す
呼び戻しは成功体験を積むことが重要です。徐々に難易度を上げて、少しだけ賑やかな小さな公園などで呼び戻しのトレーニングをします。うまく呼び寄せることができたら次は、人や犬が多い公園や広場などでの呼び戻しに挑戦しましょう。
ドッグランで呼び戻す
他の犬が自由に走りまわっているドッグランに挑戦します。他の犬があまりいないところから始め、呼び戻しに応じられるようになったら、犬が多いドッグランで他の犬と遊んでいるときに呼び戻してみましょう。
遠くから静かに指示を出せる犬笛を使う
犬笛を吹いたらすぐに呼び戻しの号令「おいで」と発声して呼び戻すトレーニングをすれば、犬笛を合図に呼び戻しの行動を取ることができるようになります。犬笛は人間には聞こえない高さの音も出せるため、周囲の人に気付かれずに指示を出すことができます。
呼び戻しに応じたら褒める
呼び戻しが定着するまでは、呼び戻しに応じることができたら、必ずおやつをあげてしっかり褒めましょう。
おやつだけがご褒美ではない
「呼び戻しに応じたらいいことがある」と愛犬に覚えてもらえれば、呼び戻しに応じてくれるようになります。愛犬が期待しているご褒美はおやつが定番ですが、毎回おやつを与えていたら肥満になるかもしれません。ご褒美をあげながら褒め言葉をかけるようにするとやがて愛犬にとって、飼い主さんが嬉しそうに褒めてくれることも充分ご褒美になります。呼び戻しに応じてくれたら「よし!」「お利口さん!」「good!」などと褒めてあげましょう。
他にも、走ることが好きな犬ならダッシュさせてあげることもご褒美になります。お気に入りのおもちゃで遊んであげることもご褒美です。マーキングや匂い嗅ぎを許して探索させてもらえることがご褒美になる犬もいます。撫でられることが好きな犬なら、愛犬が喜ぶ部位を撫でて褒めてあげましょう。
ただし、毎回おやつなしのご褒美になってしまうと、「いいことがない」という感情に逆戻りしてしまいますので、バランスを取りながら愛犬を上手に褒めてあげてください。
まとめ
愛犬が呼び戻しに応じてくれるようになれば、愛犬の安全を守ることができます。家の中の落ち着つける環境からトレーニングを始め、徐々に見知らぬ人や犬がいる外でのトレーニングへと難易度を上げていきましょう。