公開
上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
ボーダー・コリーやシェットランド・シープドッグなどの犬種には、「ブルーマール」と呼ばれる毛色の子犬が生まれることがあります。その独特な美しい毛色と希少性の高さから注目を集めるブルーマールですが、迎える際にはいくつかのポイントに注意しなければなりません。
そこで今回は、ブルーマールの毛色の特徴や、ペットショップやブリーダーを選ぶ際の注意点を解説します。
目次
- ブルーマールとは?
- ブルーマール同士の繁殖はタブー
- ブルーマールの毛色を持つ犬種
- ブルーマールの犬は病気になりやすい?
- ブルーマールの犬を迎える際の注意点
- まとめ
ブルーマールとは?
ブルーマールとは、「マール因子」という遺伝子を持つ犬に見られる毛色のことです。マール因子が作用すると、独特のまだら模様のような毛色を持つ子犬が生まれます。
たとえば、ボーダー・コリーのなかには、ブラック、ホワイト、タン(茶色)の3色で構成される「トライカラー」という毛色を持つ犬がいます。このトライカラーのボーダー・コリーが生まれる際にマール因子が作用すると、本来はブラックになる部分の毛が灰色がかった青色に変化します。
「大理石」とも称されるブルーマールの毛色は神秘的な美しさがあり、希少性の高さから多くの注目を集めているカラーです。
また、毛色だけでなく目の色も青色に変化する場合もあり、なかには片目だけが青い瞳になる個体もいます。
ブルーマール同士の繁殖はタブー
ブルーマールの毛色はとても美しく、世界中で多くの人を魅了しています。レアカラーということもあり、その希少性の高さもブルーマールの人気を後押ししています。
ただし、ブルーマールを迎え入れる際は、子犬の両親の毛色を必ず確認しなければなりません。
ブルーマールの遺伝子を持つ犬同士を繁殖させることを「ダブルマール」と言いますが、実はダブルマールによって生まれた子犬は、高確率で先天的な障がいを持つことがわかっているのです。
ダブルマールによる先天的な障がいは主に目や耳に表れ、通常のブルーマールと比べ、毛色がより白に近い状態になるとされています。
こうした悲しい運命を背負って生まれてしまう子犬が多いことから、ブルーマールの犬同士を繁殖させることは絶対的なタブーとされています。
しかし、なかにはお金儲けのためにダブルマールで子犬を繁殖させようとする、悪質なブリーダーがいるのも実情です。
ブルーマールはその希少性の高さや美しい見た目から人気が高く、一般的な毛色と比べて高値で取引される傾向があります。マール因子を持つ両親を揃えることでブルーマールを高確率で誕生させようとしたり、より色素が薄く希少性の高いブルーマールを誕生させようとしたり、私利私欲のためにブルーマール同士を繁殖させるブリーダーは一定数存在します。
マール因子は片親だけから受け継ぐ分には問題がないとされているため、ブルーマールの子犬を迎える場合は、必ず片親の毛色がトライカラーであることを確認しましょう。
ブルーマールの毛色を持つ犬種
ブルーマールはボーダー・コリーやシェットランド・シープドッグなど、いくつかの犬種に特有の毛色です。
ボーダー・コリー
ボーダー・コリーは、イギリス原産の牧羊犬です。
牧羊犬の役割は、羊の群れの見張りや誘導、外敵を追い払うなどさまざまにあります。そんな働きものの牧羊犬のなかでも、ボーダー・コリーは最も作業能力が高いとされています。
牧羊犬という括りをなくしても、全犬種中トップクラスの賢さを持ちます。頭が良いだけでなく運動能力にも優れており、ドッグスポーツの大会では必ずといってよいほど上位に入賞しています。とくに反射神経や瞬発力、柔軟性に優れており、フリスビーをキャッチする遊びを得意としています。
ボーダー・コリーの外見の特徴
体高は53cm程度で、体重は14~22kg程度が平均的です。中型犬に分類され、体高よりも体長のほうが長くスマートな体型です。
ボーダー・コリーの被毛は、細かく分類すると40種類以上もあるとされています。「ブラック&ホワイト」や「レッド&ホワイト」、「トライカラー」などが一般的で、ブルーマールも認められていますが、全体的にホワイトが優勢となる毛色は好ましくないとされています。
毛質はまっすぐで硬く、長い「ロングコート」と、なめらかで短い「スムースコート」の2種類に分けられます。日本ではボーダー・コリーといえばロングコートのイメージが根強いですが、スムースコートは運動能力が高い傾向があり、ドッグスポーツの大会出場を目指す人たちから人気です。
ボーダー・コリーの性格
聡明で思慮深く、飼い主に対して従順で「忠犬」という言葉がぴったりな犬です。トレーニングの飲み込みも早く、生活のルールを教えるうえで困ることはほとんどないでしょう。
ただし、非常に頭がよい分、指示が曖昧だと自分の意思を優先してしまう場合もあります。ムダ吠えなどのきっかけにもなりかねないので、ときには毅然とした態度で接し、しっかりと信頼関係を構築することが大切です。
シェットランド・シープドッグ(シェルティ)
シェットランド・シープドッグはボーダー・コリーと同じくイギリス原産で、牧羊犬や番犬として活躍してきた犬種です。「シェルティ」の愛称で親しまれており、日本でも高い人気を誇ります。
シェットランド・シープドッグの外見の特徴
体高よりも体長がやや長く、スリムな体型です。オスの場合は体高37cm程度、体重9~12kg、メスの場合は体高35.5cm程度、体重8~11kg程度が一般的となっています。
見た目はコリー種に非常によく似ていますが、ボーダー・コリーやラフ・コリーと比べるとやや小柄です。シェットランド・シープドッグの起源とされているスコットランド・シェットランド諸島は年間を通じて寒く、厳しい環境であることからだんだんと小型化していったとされています。
上品な顔立ちをしており、豊かな長毛も相まって見る人に優雅な印象を与えます。優しげな目元も特徴で、「癒やし系」といった雰囲気です。
毛色のバリエーションは豊富で「トライカラー」や体の大部分が茶色の「セーブル」、大理石のように見える「ブルーマール」などが認められています。耳は半分立ち上がり、半分から先が曲がっているのが好ましいとされています。
シェットランド・シープドッグの性格
飼い主への忠誠心が高く、こちらの指示にしっかりと耳を傾けてくれます。また、愛情深く、人を喜ばせることが大好きです。おだやかで優しく、聡明で判断力にも優れている犬種です。
一方で、牧羊犬としての遺伝子が影響してか、警戒心が強い傾向があります。飼い主以外にはなかなかなつかず、番犬としては優秀ですが、ちょっとした物音や通りすがりの人にも反応して吠えてしまう場合もあるでしょう。ストレスになってしまう可能性もあるため、子犬のころから物音や人に慣れる訓練をしておくと安心です。
また、牧羊犬は羊を追い立てる役割を担っていたため、興奮すると人のかかとなどを軽く噛むことがあります。反応すると癖になってしまう可能性があるため、無視して様子を見るようにしましょう。
ブルーマールの犬は病気になりやすい?
上記のとおり、マール因子を持つ親犬同士から生まれた子犬は、先天的な障がいを抱えるリスクが高いと言われています。具体的には、目や耳の異常、心臓の病気など。なかには聴力や視力を完全に失ってしまう犬もいます。
すべてのダブルマールの子犬が病気にかかりやすいわけではありませんが、事実としてリスクは高いといえるでしょう。
ブルーマール自体は公に認められているカラーで、片方の親だけがブルーマールの場合は病気のかかりやすさはとくにないとされています。しかし、片方の親だけがブルーマールの場合も、マール因子が身体に作用した場合は、なんらかの疾患を招く可能性があります。
ブルーマールの犬を迎える際の注意点
ブルーマールの犬を迎える際は、次の3点に注意しましょう。
1. 健康状態を確認する
2. 悪質なブリーダーには毅然とした態度をとる
3. 繁殖目的での飼育はNG
健康状態を確認する
ブルーマールの犬は「大理石」とも形容される美しい毛色を持ちますが、健康上のリスクは否定しきれません。とくにブルーマールの両親から生まれたダブルマールは先天的な障がいを抱えるリスクが高いため、ブルーマールの犬を迎える際は、両親や健康状態についてしっかりと確認するようにしましょう。
なお、マール因子が作用した毛色は、ブルーマールだけではありません。たとえば、コリー種にはセーブルカラーにマール因子が作用した「セーブルマーブル」という毛色が存在しますが、これは公には認められていないカラーです。
セーブルマーブルはブルーマールと比べて毛色の変化が顕著ではないため、見た目のみで判断すると知らないうちにマール因子を持つ子犬や、ダブルマールで生まれた子犬を迎えてしまう恐れがあります。
ブルーマールに限らず、犬を迎える際はペットショップやブリーダーから詳しく話を聞くことが大切です。
悪質なブリーダーには毅然とした態度をとる
ダブルマールはご法度とされていますが、世の中には悪質なブリーダーも存在します。両親の情報を開示することを頑なに拒んだり、ダブルマールと思われる「通常よりもさらに色素の薄いブルーマール」を薦められたりと、悪質なブリーダーに遭遇した場合は毅然とした態度で接しましょう。
「通常のブルーマールよりさらに珍しい」など希少価値をアピールされても、悪質なブリーダーとはけっして取引しない姿勢を見せることが大切です。そういった行動の一つひとつが、これ以上悲しい運命を背負った子犬を増やさないことにつながっていきます。
繁殖目的での飼育はNG
マール因子を持つ犬は繁殖の過程でさまざまな障がいが生じる場合が多く、繁殖には向きません。繁殖目的での飼育は控え、家族として大切に育てましょう。
まとめ
ブルーマールの犬は美しい毛色の被毛を持ちますが、病気のリスクが高いことで知られています。なかでも、ブルーマール同士を交配させるダブルマールは先天的な障がいを持った子犬が生まれてくるリスクが高く、ブリーダーの間ではタブーです。
万が一悪質なブリーダーに遭遇してしまった場合は毅然とした態度で接し、信頼できるブリーダーやペットショップから子犬を迎えましょう。