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北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
好奇心旺盛な犬は、散歩中に草むらに顔を突っ込んでクンクンと匂いをかいだり、虫をパクっとくわえたりします。すると突然「キャン!」と鳴き、顔を振ることがあります。もし近くに蜂が飛んでいたら、蜂に刺された可能性を疑いましょう。痛みや刺激といった症状の他、アナフィラキシーショックに陥る恐れがあります。犬が蜂に刺されたときの症状や対処法を解説します。
目次
- 犬が蜂に刺されたときの対処方法
- 犬が蜂に刺されたときに気にすべきポイント
- 犬が蜂に刺された際の症状と治療方法
- 犬が蜂に刺されやすい理由
- 蜂が活動的になる時期
- まとめ
犬が蜂に刺されたときの対処方法
犬を刺す蜂は、ミツバチ・スズメバチ・アシナガバチなど一部の蜂ですが、どの蜂も針に毒を持っています。ミツバチやスズメバチに刺されたときの痛みは、刺された傷から生じるものではなく、針から注入される毒によって生じます。
ミツバチの針は先端がかぎ状になっていて皮膚の中にとどまる構造となっています。ミツバチは針が外れると死んでしまう命がけの攻撃ですので、ちょっとかわいそうな話です。スズメバチの針はかぎ状ではなく、犬の身体に針を残しませんが、刺されると強い痛みが生じます。スズメバチを怒らせると何度も刺してくるので注意が必要です。
犬が蜂に刺された場合のベストな選択は、すぐに動物病院に連れていくことです。しかし、動物病院がお休みだったり、予約が取れなかったり、遠方にあって到着までに時間がかかる場合もあるでしょう。そのため、飼い主ができる応急処置を解説します。
針を抜く
ミツバチに刺された場合は、命と引き換えに根元に毒袋がついた針を犬の身体に残す場合がありますので、可能であればなるべく早く探して抜き取るようにしましょう。まずは、犬の身体に針が残されていないかを確認してください。針は黒い点のように見えます。犬が身体のどこを気にしているかを観察すれば、針が刺さっている場所を見つけやすいでしょう。
針は毒袋を収縮させる筋組織となっていますので、針を残したまま放置すると犬の体内に毒袋の毒が流れ込んでしまいます。針を抜くときは、患部周辺の皮膚をつまんで、ピンセットや毛抜きで抜いてください。クレジットカードの端・指の爪・ヘラなどの薄くて硬いものの端で皮膚から針を押し出す方法もあります。
また、犬は痛い部分を触られると、驚いて本能的に噛みついてしまうことがあります。飼い主も怪我をしないように、犬に口輪やエリザベスカラーを装着してから処置をすると安全です。犬が嫌がる場合や針が見えない場合は無理に抜こうとしなくても構いません。
患部を流水で冷やす
針が抜けたら、患部を流水で洗い、冷やしてください。痛みや腫れを抑え、毒の広がりを防ぐことができるので、しばらく患部を冷やしてください。また、重曹を水で薄く溶いて、患部に塗ると痛みが和らぎます。氷などをタオルで包んで患部に当てれば腫れや痛みが和らぎます。
スズメバチは、犬の身体に針を残しません。スズメバチの毒は水に溶けやすい性質を持っていますので、針に刺された傷口を水で洗い流してください。間違っても口で毒を吸い出そうとしないでください。毒が唾液で溶けてしまいますので、飼い主の身体に吸収されます。命の危険がありますので、決して口で吸い出そうとしてはいけません。
動物病院へ連れていく
前述の応急処置が済んだら、できるだけ早く動物病院に連れていってください。応急処置をしながら事前に動物病院に連絡をいれて状況を説明しておけば、治療をスムーズに行ってもらえるでしょう。
応急処置中に患部周辺に触ることで愛犬が暴れる場合は、動物病院へ直行して針を抜いてもらいましょう。暴れると毒の回りが早くなるので、できる限り落ち着かせてください。腫れがひどい場合は、ミツバチに刺されたとしてもできるだけ早く動物病院に連れていくことをおすすめします。スズメバチに刺された場合も、強い炎症を起こすことがありますので、こちらもできるだけ早く動物病院を受診してください。なお、スズメバチは刺激すると集団で襲ってくる場合があります。飼い主も危険にさらされますので、スズメバチの巣を見つけたらその場から離れてください。
犬が蜂に刺されたときに気にすべきポイント
蜂に刺された数
蜂に1か所だけ刺された場合は、痛みや刺激を伴う症状が現れます。何か所も刺されたり、多数の蜂に刺されたり、口や喉の中を刺されたりした場合は死に至る危険を伴うため、できるだけ早く動物病院に連れていってください。
アレルギー反応
「全身の脱力」「呼吸困難」「刺された箇所から広がった広範囲の腫れ」といった激しいアレルギー反応が出る場合もあります。こちらも緊急で動物病院に連れていってください。死に至る危険性が高いアナフィラキシーショックは急性アレルギー症状のひとつです。
犬が蜂に刺された際の症状と治療方法
局所的な症状
蜂に刺されると局所的に炎症を引き起こして痛みを伴います。この場合、通常1時間以内で治まるとされていますが、場合によっては局所的なむくみが見られます。
アナフィラキシー
急性アレルギー症状であるアナフィラキシーショックは、多くの場合「2回目以降に蜂に刺されたときに起こる」と言われていますが、1回しか刺されていない場合でも起こることがあります。。以下のような症状が出ている場合は、アナフィラキシーショックの可能性が高いでしょう。刺された後に呼吸困難を起したり、意識がなくなったりするようなことがあれば、命に関わる危険な状態です。一刻も早く動物病院に連れていってください。
複数回の嘔吐・下痢・失禁
呼吸困難
起立不能(自力で立つことができない状態)
血圧低下による失神
チアノーゼ(舌が真っ青になる)
意識混濁・昏睡状態
多量のよだれ
犬が蜂に刺されやすい理由
犬が蜂に刺されやすい理由は、好奇心が旺盛な性質によるものです。何気なく飛んでいる蜂に興味を持って顔を近づけたり、遊びのつもりで追いかけたりするので刺されてしまいます。犬は鼻が敏感ですから、鼻を刺されると特に強い痛みを感じるようです。
また、蜂にかみついたり、口で捕まえようとしたりして、口・舌・喉を刺されることもあります。そこが腫れると気道を塞いで呼吸困難になるため、命の危険にさらされます。犬が蜂を食べて口の中を刺されてしまった場合は、顔がひとまわり大きくなるほど腫れて、局所的な炎症を引き起こす可能性があります。
愛犬に悪気はなくとも、蜂は身の危険を感じて攻撃してきます。散歩中に蜂を見つけた場合や、愛犬が飛んでいる蜂に興味を示して追いかけようとしている場合は愛犬を抱きかかえて離れるというのが一番の対処方法です。なお、万が一に備えて散歩の際には毒を吸い取るポイズンリムーバーを持ち歩くと安心でしょう。
蜂が活動的になる時期
蜂が活発に動く時期や巣に蜂がいない時間帯があります。以下で解説する時期は、蜂を駆除する際に考慮されているものです。把握しておけば、散歩の際に気をつけやすくなるのでご紹介します。
蜂の活動時期は3月~11月ごろ
12月~2月ごろの冬季は、外を飛び回る蜂の姿を見かけることはありません。使っていた巣は放棄されて、ほとんどの蜂は冬がくる前に寿命を迎え、あるいは活動を終えます。蜂が飛んでいる姿を見る時期は3月~11月ごろです。春先から女王蜂が巣作りを始め、夏までに働き蜂となる子を生んで増やしながら巣を大きくしていきます。夏に巣がもっとも大きくなり、それ以降は繁殖期です。新しい女王蜂が生まれ、また巣が放棄されて蜂は活動を終えます。
蜂の寿命に触れておきますが、スズメバチとアシナガバチは、1年以上生きることはほぼありません。働き蜂の寿命は約1か月、女王蜂の寿命は約1年で、女王蜂のみが冬を越します。ミツバチの働き蜂の寿命は約3か月、女王蜂は約3年です。寿命を迎える前の働き蜂は、蓄えていたハチミツを食べながら女王蜂と冬を越します。
4月ごろの春先に飛んでいる大きめの蜂は、女王蜂かもしれません。スズメバチやアシナガバチの女王は、4月ごろに一匹だけで巣作りを始めます。冬眠から目覚めたばかりで弱々しく、手で握るようなことをしない限り、攻撃はしてこないようです。
犬が蜂に刺されやすいのは7月~9月ごろ
蜂の活動のピークは、7月~9月ごろです。スズメバチは、巣作りと繁殖を行う時期であり、もっとも攻撃的になります。巣や繁殖中の女王蜂を守るために警戒を続ける働き蜂が多く、巣に近づくだけでも巣から何匹も蜂が飛び出して威嚇してきます。ミツバチはちょっと違っていて、寒い時期に攻撃的になることが特徴です。冬を越す前後に巣を守るため攻撃する習性があります。
蜂の活動時間帯は6時~21時ごろ
働き蜂の1日は、朝7時~8時ごろに出かけ、日中まで餌を探し、日没後に巣に戻ります。朝から日中にもっとも活発に動き、巣に戻ってからは幼虫の世話や休憩をするなど、静かに過ごすようです。これらのことから、日没以降と早朝に散歩をすれば、蜂に出くわすリスクを減らすことができます。ちなみに、夜になると蜂は目が見えなくなって、うまく飛ぶことができなくなるようです。
まとめ
愛犬が花の匂いを嗅ぐ姿は可愛らしいものですが、近くに蜂がいないか気を配りましょう。また不用意に虫を追いかけたり、草むらに顔をいれたりしないように注意しながら、散歩を楽しんでください。散歩のときに蜂を見つけたら、愛犬を近づけないように守ってくださいね。特に老犬は素早く逃げることができませんので、散歩中は注意深く見守ってください。
犬を刺す蜂はミツバチ・スズメバチ・アシナガバチなど一部の種類ですが、どれも毒を持っています。犬が蜂に刺されたら、命に関わるアレルギー反応を起こす恐れもありますので、すぐに動物病院に連れていきましょう。蜂は黒いものに攻撃的になりやすい性質があります。散歩のときは、飼い主も黒い洋服を避けたほうが良いでしょう。愛犬の毛が黒ければ、洋服を着せるなどして黒い毛の露出を減らすことも、蜂から愛犬を守る方法です。この他、強い香水を避けたり、食べ歩きをしたり、蜂の前で大きく手を振ったりしないことも、蜂よけの対策となります。