公開
札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
携帯会社のCMでもお馴染みのアイヌ犬(北海道犬)は、日本犬の一種です。ふわふわとした可愛いフォルムに魅力を感じて「飼ってみたい!」と思っている方も多いでしょう。古くは先住民のアイヌ人が猟犬として飼育していましたが、現在は希少価値の高くなかなか出会えません。そこでこの記事では、アイヌ犬の特徴を解説した上で、愛犬として迎えるための方法や、家族として上手く付き合うコツを紹介します。
目次
- アイヌ犬(北海道犬)とは
- アイヌ犬(北海道犬)の性格の特徴
- 知っておきたいアイヌ犬(北海道犬)の迎え方と費用相場
- アイヌ犬(北海道犬)がかかりやすい病気
- アイヌ犬(北海道犬)の上手な飼い方
- まとめ
アイヌ犬(北海道犬)とは
アイヌ犬は、北海道地方原産の犬種で、熊や狼などの大型野生動物を狩るために育種された犬種です。アイヌ犬のことを知りたいという方のために、歴史やルーツ、特徴などを紹介していきます。
歴史とルーツ
アイヌ犬の歴史は古く、縄文時代から続くといわれている犬種です。縄文時代の遺跡からは、狩猟犬や番犬として飼われていたと思われるアイヌ犬の骨が発見されています。
19世紀中頃に北海道の開拓が進んだことで、犬は農耕作業の手伝いやソリを引く存在としても活躍するようになりました。北海道は自然環境が厳しく、雪中を走行することもあるため、適応できる犬種はごく一部です。アイヌ犬の北海道の環境に耐える頑健性と、飼育に手間がかからない性格が注目を集めました。とくに狩猟犬としての需要が高まり、育種が進められます。
しかし、第二次世界大戦中にはアイヌ犬の数が激減してしまいました。そこで立ち上がったのが、北海道のブリーダーや愛犬家たちです。アイヌ犬の再生に取り組んだ結果、絶滅の危機から脱することができました。現在では日本国内や海外でも人気のある犬種のひとつとなっています。
体の大きさと特徴
アイヌ犬は寒冷地に適応するために、非常に力強く、丈夫な体を持つようになったと言われています。
体高は、オスは50~52cm、メスは45~50cm程度です。体重は、オスは20〜30kg程度、メスは15〜25kg程度あります。
ほかの体の特徴は、以下のとおりです。
- 頭部:頭が大きく、マズルが短めで、顔の輪郭は四角い形
- 耳:立ち耳で、やや小さいサイズ
- 目:小さめで、やや斜めに配置
- 足:筋肉質で、非常に丈夫な骨格
- 尾:太く短めで、巻き尾のように背中に巻き上げることが可能
毛色の種類と被毛の特徴
アイヌ犬の毛色はさまざまありますが、特に有名なのが白です。ほかには黒や赤、黒褐色などがあり、ときおりトラのような模様のアイヌ犬が生まれることもあります。
アイヌ犬の被毛は、北海道の厳しい寒さに耐えられるよう、密生したダブルコートです。防寒性に優れていて、ボリュームもかなりあります。このもふもふとした被毛がアイヌ犬の魅力のひとつです。
同じ日本犬「柴犬」との違い
日本犬にはアイヌ犬と柴犬以外にも秋田犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬が含まれていて、すべての犬種が天然記念物に指定されています。
アイヌ犬と柴犬は、外見や性格などにいくつかの違いがあります。外見の違いとしては、アイヌ犬の方が柴犬よりも大型で筋肉質であり、厚い二重構造の被毛が特徴です。また、北海道犬は耳が柴犬よりも立っていて、尾は太い傾向にあります。
性格の違いとしては、アイヌ犬は独立心が強く、飼い主以外の人に対して警戒心がある傾向がある一方で、柴犬は活発で陽気な性格で人懐っこく、初対面の人や犬にも友好的です。
アイヌ犬(北海道犬)の性格の特徴
アイヌ犬を家族として迎え入れたいと思ったら、どんな性格なのか知っておくことは大切です。アイヌ犬のルーツをふまえて、性格を解説します。
忍耐強く忠誠心にあふれている
アイヌ犬は、一般的に忍耐心と忠誠心が非常に強いです。
忍耐強さは、寒冷地での労働犬として、人間と協力して長時間の作業を行ってきた歴史の中で身につきました。北海道の過酷な自然環境に耐える忍耐強さがあるため、アイヌ犬はストレスにも耐え、我慢強く任務を果たすことができると言われています。
また、主人に対する非常に高い忠誠心は、猟犬や番犬として飼われる中で醸成されました。警戒心があるものの、主人を守るために全力を尽くします。
闘争心が強い
アイヌ犬は、闘争心が強い性格を持つ犬種のひとつです。アイヌ犬は昔から熊をはじめとする野生動物の狩猟を行う際のパートナーとして活躍していて、その力強い体格と勇敢な性格から、野生動物との闘いにも勝つことができました。その性格が強く遺伝し、現在でもアイヌ犬には闘争心が垣間見えることがあります。
ただし、闘争心が強いからといって、飼い主に対して攻撃的になるわけではありません。アイヌ犬は、状況に応じて自分や飼い主を防衛することができるため、攻撃的な行動に出ることは稀です。
警戒心がとても強い
アイヌ犬は野生動物や異物、見知らぬ人間に対して常に警戒心を持っていて、危険性を感じた相手に攻撃的な態度をとることがあります。狩猟犬として活躍してきたアイヌ犬は、主人が危険を察知すると、その場にいる人間や犬を守るために、必要な行動をとる犬種です。しっかりと社会化やしつけを行い、主人の指示に従うことができるようになれば、警戒心を持ちながらも家族以外の相手に適応できます。
知っておきたいアイヌ犬(北海道犬)の迎え方と費用相場
アイヌ犬を迎え入れるには、どのような方法があるのでしょう。アイヌ犬とどこで出会えるのか、その場所と費用相場を紹介していきます。
ブリーダーから直接購入
いちばんおすすめなのが、ブリーダーから直接購入する方法です。アイヌ犬はあまり市場に出回っていないため、ペットショップで見つけるのは簡単ではありません。そのため、ブリーダーの方がアイヌ犬に出会える確率が高いです。
また、ブリーダーからの購入なら、アイヌ犬の飼い方や注意点なども教えてくれるため、犬を初めて飼う方にもおすすめです。
費用は血統の有無によっても異なりますが、相場は18万円前後からになります。
ペットショップで購入
まれにペットショップでもアイヌ犬を置いているところがあります。ペットショップでアイヌ犬を購入する場合、相場は7~22万円前後と幅広いです。
里親になる
費用面で悩んでいる方は、里親になるというのもひとつの方法です。里親は保護犬の飼い主になる制度で、いくつか条件が設けられています。アイヌ犬ときちんと向き合えるか、飼育環境が整っているかなどが審査されるため、ペット初心者の方は避けた方がいいでしょう。
とはいえ、アイヌ犬を迎え入れる費用はかからないので、その点はメリットといえます。
アイヌ犬(北海道犬)がかかりやすい病気
アイヌ犬は寒い地方に適した犬種ということもあり、暑さが苦手です。この特徴から、かかりやすい病気がいくつかありますので紹介していきます。
熱中症
アイヌ犬は体温調節機能が優れているとされていますが、寒冷地に適した犬種であるため、高温多湿な環境下では熱中症にかかる可能性があります。
熱中症の症状には、呼吸が荒くなる、口の周りが発汗して泡立つ、嘔吐する、筋肉の震えなどが見られます。犬の場合、熱中症は非常に危険な状態で、症状が進行すると脳や臓器にダメージを与え、重篤な状態になるので注意が必要です。
特に、運動や散歩などの活動をするときには、十分に水分補給をし、短時間に抑えるなどの工夫をしましょう。
皮膚疾患
北海道犬は、その厚い被毛と敏感な肌質から皮膚疾患にかかりやすいと言われています。代表的な皮膚疾患を、以下に挙げてみました。
- アレルギー性皮膚炎:花粉症や食物アレルギーなどが原因となり、皮膚が痒くなり、赤みや湿疹、脱毛などの症状が起こります。
- カビや細菌感染症:湿気が多く、汚れた場所での生活や皮膚傷口の感染が原因で、発疹、かゆみ、脱毛、痛みなどの症状が起こります。
- 脂漏症:皮膚の脂質バランスが崩れ、皮膚のかさつきやフケ、痒み、炎症などを発症します。
白内障
白内障は、眼球内の水晶体が濁ることで視力が低下する病気です。原因はさまざまですが、高齢化や遺伝的要因、環境要因などが挙げられます。アイヌ犬が白内障に掛かりやすいのは、他の大型犬種と比較して寿命が比較的長いためです。年齢を重ねるにつれて発症する可能性があります。
白内障は、初期段階では症状が現れません。進行すると眼球が白濁し視力が低下したり、二次的にぶどう膜炎を起こすことによって眼圧が上昇して緑内障を引き起こしたりすることがあります。
アイヌ犬(北海道犬)の上手な飼い方
アイヌ犬を家族として迎え入れるには、お互いの関係を良好にしておくことが大切です。ここではアイヌ犬の性格を尊重して、ストレスのない生活を送るために知っておきたいポイントについて紹介します。
たくさん屋外で遊ばせる
アイヌ犬は野生的な本能が強いため、屋外で自由に動きまわることが好きです。そのため、屋外でたくさん遊ばせることが、アイヌ犬を飼う上での重要なコツのひとつといえます。具体的には、アイヌ犬には毎日長めの散歩を欠かさず行ったり、運動できる広いスペースへ頻繁に連れて行ったりなどの方法があります。
屋外のスペースに連れて行く際には安全な場所を選び、目を離さないよう注意しましょう。屋外での遊びとしては、ボール投げやフリスビーキャッチなどがおすすめです。また、アイヌ犬は、天候に関係なく活動的で、雪の上で遊ぶことも大好きです。雪が降っている時期には、雪の中で遊び、アイヌ犬が元気に走り回る姿を見るのも楽しいでしょう。
こまめにブラッシングする
アイヌ犬は、ダブルコートという厚い被毛を持っています。毛量が多く毛玉や抜け毛が起きやすいため、こまめなブラッシングが大切です。ブラッシングは、抜け毛の量を減らし毛玉を予防できるだけでなく、皮膚の血行を促進して健やかな被毛を維持できる効果があります。
アイヌ犬は、シーズンごとに毛が変わり、特に春と秋には大量の抜け毛が出ます。この時期は、こまめなブラッシングが必要不可欠です。また、ブラッシングをする際には、刺激の少ない柔らかいブラシを選び、優しくブラッシングを行いましょう。
夏は暑さ対策を忘れない
アイヌ犬は、もともと寒冷地での生活に適応しているため、暑さに弱い傾向にある犬種です。特に、夏の暑い時期には、熱中症などの症状を引き起こす可能性があります。
そのため、アイヌ犬を飼う際には、夏の暑さ対策を忘れずに行うことが大切です。涼しい場所を確保したり、飲み水を十分に与えたりするなど、万全の対策をとりましょう。散歩の時間帯も、日差しの強い日中は避けるようにしてください。
適切なドッグフードを準備する
ドッグフードは「総合栄養食」「間食」「療法食」「その他の目的食」の4つに分類されていて、アイヌ犬の普段の食事として与えるのにふさわしいのは総合栄養食です。総合栄養食は、そのフードとお水のみ食べていれば栄養バランスがとれるように設計されています。パッケージの裏を確認しながらフード選びをしてみましょう。
また、アイヌ犬に合ったフードは、年齢に応じて変わります。成長期のアイヌ犬には、たんぱく質やカルシウムなどの栄養素が必要です。成犬期のアイヌ犬は、たんぱく質や脂質、炭水化物、ビタミンなどの栄養素がバランスよく含まれたフードが適しています。老犬期には、関節疾患や免疫力の低下などが起こりやすいため、健康維持に必要な栄養素を含むフードを選ぶよう心がけましょう。
まとめ
アイヌ犬は厳しい寒さの中で生き抜くために、もふもふとした毛並みになりました。闘争心が強い一面もありますが、アイヌ犬はトレーニングを重ねれば飼い主にとても忠実です。こうしたアイヌ犬の特徴に魅力を感じた方は、相性の合う子を探して家族としてお迎えしてみてはいかがでしょうか。
本州でアイヌ犬を飼う場合は、暑さ対策に十分気をつけてください。毛量の多いアイヌ犬は、高温多湿な気候が苦手です。日頃からブラッシングを怠らず、快適な環境を与えてあげましょう。