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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
愛犬と公園を散歩していると、足元にかわいらしいどんぐりがコロリと落ちているのに気づいて、拾い上げて持ち帰ろうとした瞬間に愛犬がパクリ。森のリスにとっては頬にためるほどおいしい食糧ですが、愛犬にとっては問題のない食べ物なのでしょうか。今回は、「どんぐりを食べても大丈夫なのか」「どんぐりを食べることによる影響」「拾い食いを直すトレーニング方法」などを解説します。
目次
- 犬はどんぐりを食べても大丈夫?
- 犬がどんぐりを食べるときの注意点
- どんぐりが原因の可能性がある症状
- 拾い食いしないようにしつける方法
- まとめ
犬はどんぐりを食べても大丈夫?
どんぐりは栄養素が豊富で、68%が炭水化物、18%が脂肪、6%がたんぱく質で構成されています。このほか、多種多様のビタミンやミネラルを含んでいるという特徴があります。
人間の縄文時代の主食は、実はどんぐりです。当時の遺跡から貯蔵された大量のどんぐりやどんぐり粉で作った食べ物が発掘されているそうです。また、戦時中の人々にとってもどんぐりは貴重な食糧でした。現代でも、どんぐりを材料にしたクッキーやケーキが販売されています。
これらのことから、犬がどんぐりを食べても問題ありません。食べたとしても便として排出されます。ただし、皮が硬いなどの理由で消化器官を傷つけたり、消化不良を起こしたりする場合があります。もし愛犬がどんぐりを食べてしまった場合は、体調や行動に異変がないかを観察してください。もし、気になる症状が出たら、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。
犬がどんぐりを食べるときの注意点
犬がどんぐりを口に入れた場合、どんなリスクがあるのでしょうか。拾い食いしてしまった場合に、飼い主が気をつけてほしいポイントを解説します。
消化できない「硬い皮」に注意
どんぐりのように硬い皮に覆われている果実を堅果(けんか)と呼びます。どんぐりの皮は人間が割ろうとしてもなかなか割れません。それほどの硬い皮を、犬はうまく消化できません。結果的に、異物として吐き出そうとします。
また、どんぐりの皮が、口の中、食道、胃、腸などの消化器官を傷つけてしまう可能性もあります。消化できないどんぐりの皮が腸をふさいで腸閉塞を起すリスクもありますのでご注意ください。どんぐりを食べたときに「喉を詰まらせていないか」「苦しがっていないか」「血便が出ていないか」「嘔吐や食欲不振がないか」といった症状の有無を確認するようにしましょう。
中毒症状を起こす「除草剤」に注意
「散歩コースの公園は自然のものしかないから安心」と思っていませんか。キレイに整備された公園は、管理者によって除草剤がまかれています。何度抜いてもすぐに生えてくる雑草は、育てたい草木の栄養分を吸い取ってしまうため、雑草を減らすために除草剤がまかれているのです。公園だけでなく、遊歩道、施設内の庭などもそうです。つまり、散歩コースに落ちているどんぐりに、除草剤が付着している可能性があります。
人間もそうですが、除草剤を犬が口にすることは非常に危険です。農薬の一種である除草剤にはいろんな種類がありますが、代謝によって短期間で無毒化され、自然に体外に排出されるものが中心です。ただし、中には強い毒性を持つものがありますので楽観視できません。たとえば、パラコートという除草剤は、胃腸炎や肝腎障害などの消化器症状があり、過度の興奮、運動失調、けいれん、ショックといった神経症状や呼吸困難を起こします。最悪の場合、死に至ります。命が助かったとしても、後遺症が残ることもあります。食べてから30分後に嘔吐、下痢、ふらつき、血尿、血便、脱水、食欲不振、けいれんの症状が出ることがありますので、症状が出た場合あるいは除草剤を口にしたことがわかっている場合は、すぐに動物病院を受診してください。
嘔吐や下痢になる「虫やカビ」に注意
どんぐりは可愛い木の実ですので、公園で拾って自宅に持ち帰ったことのある人は多いと思います。どんぐり工作も昔から人気で、お子さんと一緒にどんぐりのコマやクリスマスリース、アクセサリーなどを作って楽しんだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
工作の最中にどんぐりの中から虫が出てきてびっくりされた経験がある方や、長い時間どんぐりを放置していたらカビが生えてがっかりした経験がある方もいらっしゃるかもしれませんね。愛犬が虫の住みついたどんぐりやカビが生えたどんぐりを食べてしまうと、嘔吐、下痢、発熱の症状が出る可能性があります。
無理に吐き出させない
公園を散歩している最中に、コロンと落ちているどんぐりを愛犬がパクリと丸飲みしてしまう場合もあります。口の中に入ったどんぐりを取り出そうと慌ててしまうかもしれせんが、無理やり取りのぞくことは避けましょう。犬はごはんを奪われると思って、すぐに飲み込んでしまいます。飲み込んだものを吐き出させようとすることもやめましょう。かえって、どんぐりを喉に詰まらせたり、気管に入ってしまったりする可能性があります。どんぐりは食道や胃壁に突き刺さらない形をしていますので、基本的には当日から翌日に便として排出されます。愛犬の様子に異変がなければ、様子を見てください。
なお、口コミサイトなどで、いろんな方が吐かせ方を紹介していますが、誤った情報が散見されますのでご注意ください。たとえば「塩を大量に飲ませる」という対処法が見られますが、塩を大量に飲ませて吐かなければ高ナトリウム血症を発症して死亡する場合があります。「オキシドールを飲ませる」といったことも胃炎や胃潰瘍などの健康被害を受ける恐れがあります。「身体をゆさぶる」といった行為も、状況によっては愛犬の命を危険にさらす場合もありますので絶対にやめましょう。パクパクと大量に食べた場合は、できるだけ早く動物病院へ連れていってください。
どんぐりが原因の可能性がある症状
犬が食べてしまったどんぐりが少量であれば、中毒症状は起きないと言われています。しかし、どんぐりを大量に食べてしまった場合は、注意が必要です。どんぐりにはポリフェノールの一種である苦み成分の「タンニン」が含まれています。大量にどんぐりを食べると、タンニン中毒を起こす可能性があります。
タンニンは抗酸化作用があるため、コレステロールの酸化を防いで動脈硬化のリスクを下げる効果が期待されていますが、大量のタンニンを継続的に摂取してしまうとタンニン中毒を起こします。中毒症状は、「嘔吐」「下痢や便秘」「疲れやすい」「元気がない」「食欲がない」「粘膜が荒れる」「貧血」「肝臓障害」といったものです。愛犬にいつもと違う様子が見られたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。
拾い食いしないようにしつける方法
「どんぐりを大量に食べなければ大丈夫」と思ってしまうかもしれませんが、個体によってタンニンの耐性がどこまであるかはわかりませんし、他にも複数のリスクがあります。犬にどんぐりを食べさせるメリットは、特にないでしょう。最初から「どんぐりは与えない」と決めてしまったほうが安全です。ここでは、公園などを散歩しているときに、どんぐりの拾い食いを防止するトレーニング方法をご紹介します。
コマンドを利用する
「ダメ」「いけない」「ストップ」「やめなさい」といった合図となる短い言葉『コマンド』を利用して、拾い食いの行動をストップさせるトレーニングをしましょう。まず、愛犬が拾い食いをしそうになったときに「ダメ」などのコマンドで飼い主自身に注意を向けるようにします。「マテ」といったコマンドで食べる前に飼い主にお伺いを立てるトレーニングや、「ダセ」「ちょうだい」といったコマンドで口の中に入れたものを戻させるトレーニングも良いでしょう。
飼い主に目が向き、拾い食いをやめたらおやつなどのご褒美をあげましょう。飼い主の言うことを聞けばご褒美がもらえると学んで、拾い食いをしなくなります。そうなれば、どんぐりに限らず、ポイ捨てされたタバコの吸い殻やガラスのかけらなど、非常に危険な誤飲を防ぐこともできます。
リーダーウォークを覚えさせる
リーダーウォークとは、犬がリードを引っ張る形で飼から主さんの前を歩くのではなく、飼い主の真横を歩くことです。飼い主と歩調を合わせて歩いてくれたら、たっぷり褒めておやつをあげましょう。リーダーウォークを覚えると、愛犬が飼い主の真横という定位置を保つように歩きますし、飼い主は愛犬が拾い食いしそうなものに近づかないようにコントロールできます。
なお、リードは愛犬のサイズに合ったものを選んでください。サイズが合わないと首が締めつけられたり、首が引っ張られたりして痛みを与えてしまいます。それでも拾い食いが改善されない場合は、ドッグトレーナーに相談することをおすすめします。
拾い食いをする状況をつくらない
拾い食いをさせないトレーニングは、家の中から始めましょう。たとえば、おやつを床に落として与えている場合は、拾い食いの習慣がつきやすくなってしまいます。そのため、おやつは器や手から食べさせるようにしてください。
また、犬の口が届きそうな場所に食べ物やおやつを置いている場合も、拾い食いの癖がつく原因となります。もし、キッチンに野菜、生ごみ、食べ残しなどを置いている場合は、愛犬が自由に出入りできないように柵をつけて置くことをおすすめします。ちょっとした工夫で、拾い食いになりそうな状況をつくらないようにしましょう。
まとめ
さわやかな秋は、公園でのお散歩も気持ちが良いですよね。でも「秋は愛犬がどんぐりを食べようとするので困ってしまう」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。犬が少量のどんぐりを食べても中毒症状を起こす可能性は低いので心配ありませんが、除草剤、虫、カビといった意外なリスクが潜んでいます。どんぐりに含まれている栄養素はドッグフードで賄えますし、硬い皮で消化器官を傷つけるリスクを思えば、どんぐりを食べさせるメリットはありません。愛犬の健康を守るためにも、積極的に食べさせることはやめておきましょう。