更新 ( 公開)
みなさんは、普段、愛犬にどんなオーラルケアをしていますか?自信をもって「毎日、しっかりやっています」と言える飼い主さん、実は意外と少ないのではないでしょうか?「愛犬が嫌がって逃げてしまう」「歯ブラシの選び方がわからない」・・・、そんな飼い主さんたちの数々のお悩みを背負って、今回はWanQol編集部があのライオン商事株式会社さんを直撃!同社で数々のペットケアアイテムの企画・開発を手掛ける獣医師の遠山 洋美先生に犬の歯みがきのコツをじっくり教えていただきます。
早速、ライオン商事株式会社に到着。エントランスには、社員が飼っているペットたちの写真パネルがずらり!
目次
- 愛犬の歯みがきを教えてくれる獣医師さん
- そもそも、なぜ犬には歯みがきが必要なの?
- 正しい犬の歯みがき STEP1:歯みがき嫌いにさせないために
- 正しい犬の歯みがき STEP2:ペット用歯みがきシートを使って磨いてみよう
- 正しい犬の歯みがき STEP3:ペット用歯ブラシを使ってみがいてみよう
- 意外と知らない歯みがきガムの与え方。犬に硬いものはNG?!
愛犬の歯みがきを教えてくれる獣医師さん
遠山 洋美(とおやま ひろみ)先生/獣医師
ライオン商事株式会社所属
ペット製品の企画や開発にも携わるほか、飼い主さんに向けた犬・猫の歯みがきやシャンプーの方法指導などを行っている。 https://www.lion-pet.jp/
そもそも、なぜ犬には歯みがきが必要なの?
―先生、今日はよろしくお願いします。今日は愛犬の歯みがきに悩む飼い主を代表して参上しました!歯みがきについて、たくさん質問させてください。
遠山 洋美先生(以下、遠山):はい!相棒のハート君と一緒に、皆さんのお悩み解決のお手伝いをさせていただきます。なんでも聞いてください。
―まずは根本的な疑問なのですが、なぜ、犬に歯みがきが必要なのでしょうか? 犬も遠い昔、野生で生きていたころは、歯みがきなしで大丈夫だったのでは?
遠山:そうですね。でも、今の家庭犬と野生時代の犬とでは、食生活がまったく異なるんです。野生時代の犬はほぼ完全な肉食で、狩りで獲った動物の肉を食べていましたから、自然と歯の表面が、みがかれていたと考えられます。一方、今の家庭犬は主食のドッグフードなど比較的柔らかい食事がメインです。当然、狩りをすることもありませんから、歯に付いた食べ物のカス=歯垢がこそぎ落とされる機会もほぼありません。歯垢は付着したままにしておくと歯石に変わって蓄積していき、お口の健康をおびやかしてしまいます。だから、飼い主さんが定期的に歯みがきをして歯垢を取り除いてあげる必要があるのです。
―なるほど、家庭犬だからこそ歯みがきが必要なのですね。でも、うちのコは歯みがきが大嫌いで、なかなかさせてくれなくて・・・。正直言いうと、月に2~3回くらいしかみがけていません。
遠山:必ずしも毎日みがかないといけないわけではありませんが、さすがに月に2~3回だと少な過ぎますね。というのも、人間の場合は歯垢が歯石になるのに25日前後かかるとされているのに対して、わんちゃんの場合は、わずか3~5日で歯垢が歯石になってしまうからです。歯石になると歯みがきでは取れないので、動物病院で除去してもらうしかありません。そうならないために、少なくとも3日に1回は歯磨きをして歯垢を取り除いてあげる必要があります。
正しい犬の歯みがき STEP1:歯みがき嫌いにさせないために
正しい犬の歯のみがき方<初級編>
―人間の5倍以上も速く歯石になってしまうのですね!ますます、ちゃんとしなくては・・・と焦ってしまいますが、今のままだと、できる自信がありません。そもそも、なぜわんちゃんはあんなに歯みがきを嫌がるのでしょう?
遠山:歯みがきが嫌いという以前に、わんちゃんはそもそも口の周りを触られること自体が苦手なんです。なのに、突然、口に指や歯ブラシを入れられて驚いてしまい、苦手意識が高まってしまうケースが多いようです。
それと、歯みがきをするときの飼い主さんの言動が、わんちゃんの歯みが嫌いの一因になることも。歯みがき中、「ちゃんとみがかなくちゃ」と真剣になるあまり、無意識に厳しい表情になっていたり、「じっとしてて!」とわんちゃんを叱ったり、体を押さえつけたりしていませんか?
わんちゃんには歯みがきの目的が理解できませんから、いつもと違う飼い主さんの様子を見て、歯みがき=嫌なこと、叱られることだと感じるようになってしまいます。
―たしかに、怖い顔になってしまっているかもしれません・・・。では、どうやったら、わんちゃんに嫌がられず、上手に歯みがきができるようになるのでしょうか?
遠山:大切なのは、わんちゃんに「歯みがき=楽しい時間」だと覚えさせること。そのためにも、いきなり歯ブラシから始めず、口の周りを触られるのに慣れさせることからスタートしましょう。ご褒美のおやつを上手に使いながら、少しずつ口や歯へのタッチに慣れさせ、最終的に歯ブラシでの歯みがきができるよう、時間をかけてステップアップしていきましょう。ステップは大きく分けて3つあるのですが、まずは口の周りを触られるのに慣れさせるSTEP1を解説します。
【STEP1】 ①口元にタッチ
まずは、口の周りを手で触れられることに慣れさせましょう。わんちゃんがリラックスしているときを狙って、口元に優しくタッチしてみましょう。そして、「口の周りを触る→すぐにおやつをあげる」を繰り返して、少しずつ触る時間を伸ばしていきます。触りながら、わんちゃんの歯の形や歯並びなど、口の中の様子を確認しておくと、後にシートや歯ブラシで磨くときに役立ちます。
愛犬におやつを与えるとき、丸ごとあげていませんか?
犬にご褒美おやつを与える時のポイント!
実は、わんちゃんは量よりも、もらえることに喜びを感じているので、小さくちぎって与えても、ちゃんと満足してくれます。ご褒美のおやつは、このように小さくちぎって、小分けにして与えてあげましょう。
【STEP1】② 歯や歯茎にタッチ
口元タッチに慣れてきたら、少し口の周りの皮膚を軽く持ち上げて、歯や歯茎を軽く触ってみましょう。「歯や歯茎を触る→おやつをあげる」を繰り返し、触られることに慣れさせていきます。
【STEP1】③ 指を口の中に入れる
歯や歯茎に触られるのを嫌がらなくなったら、歯茎に沿って奥歯の方まで指を入れてみましょう。頬の内側の袋状の部分をやさしく横に引っ張ると、口を無理に開けなくても奥まで指が届きやすくなります。指にわんちゃんの好きなフレーバーの「歯みがきジェル」を付けて入れる方法も、抵抗感が和らいでおすすめです。
「指を入れる→おやつをあげる」を繰り返して、少しずつ指を入れる時間を伸ばしていきましょう。
この口周りに触れられることに慣れさせるSTEP1はとても大事です。STEP1の①~③を経ずに、いきなり歯みがきを始めることがわんちゃんの歯みがき嫌いの原因になってしまうことが多いようです。時間はかかりますが、じっくり慣れさせれば、この後のステップがスムーズに進みやすいですよ。
正しい犬の歯みがき STEP2:ペット用歯みがきシートを使って磨いてみよう
正しい犬の歯のみがき方<中級編>
―歯みがき用のアイテムは、何を揃えておけば良いでしょうか?
遠山:基本的には「歯みがきシート」「歯みがきジェル」「歯ブラシ」があれば大丈夫です。STEP1ができるようになったら、STEP2に進み、歯みがきシートでみがく練習を始めましょう!
シートは、しっかり指に巻いて使うことが大切です。広げたまま使うとわんちゃんが噛んでしまいがちですし、隅々までみがけません。指に巻き付けることによって、STEP1③の指みがきのときのような感覚でみがけるので、愛犬にも違和感が少ないはずです。シートは濡らしたガーゼやコットンで代用もできますが、いずれの場合も犬が誤飲してしまうことがないよう、しっかり指に巻き付け、親指で押さえながら使うようにしましょう。
<犬用歯みがきシートの正しい巻き方>
シートでも、いきなりみがくのではなく、まず最初はで口周りに触れるところから練習します。口の周りを手で触る練習をシートでもやってみるイメージです。慣れてきたら、前歯や犬歯から始めて、少しずつ奥の方の歯もみがけるようにしていきます。みがく際には、力を入れ過ぎず、1本ずつ丁寧に。指先で歯のくぼみを意識しながらみがくと、きれいにみがけますよ。歯の裏側はみがきづらいですが、犬歯と奥歯の間の隙間から指を差し込むと、みがきやすくなります。
シートは取れた汚れが目に見えるので、「取れた~!」と達成感を味わえるのも良いところですよね。歯みがきの後は、ご褒美のおやつをあげて、しっかり褒めてあげるのを忘れずに!
わんちゃんがシートを嫌がってしまうときは、指タッチのときと同じく、好きなフレーバーの歯みがきジェルをシートに塗ってから使ってみてください。ジェル目当てで、シートみがきを嫌がらなくなるわんちゃんも珍しくありません。
「うまくシートが巻けない」という人には、指サックタイプのシートが便利です。指にシートを巻く手間暇が省けますし、指にぴったりフィットするので、使用時にシートが指から外れにくく、シート初心者でも楽にみがくことができます。
正しい犬の歯みがき STEP3:ペット用歯ブラシを使ってみがいてみよう
正しい犬の歯のみがき方<上級編>
シートでみがけるようになったら、いよいよ歯ブラシを使った歯みがきに挑戦しましょう。シートに慣れていても歯ブラシは嫌がってしまうワンちゃんもいるので、最初から全部みがこうとせず、シートのときと同様に、まずは前歯と犬歯から始めて徐々に歯ブラシに慣れさせ、最終的には奥歯までみがけるようにしましょう。
歯ブラシは鉛筆のように軽く握って左右に小刻みに動かし、1本ずつ丁寧にみがきます。毛先を歯と歯茎の境目に当てて、歯に対して45度の角度でみがくと、歯垢が溜まりやすい「歯周ポケット」も効率よくきれいにみがくことができます。力を入れ過ぎるとワンちゃんが痛がってしまうので、ブラシの毛が少ししなる程度の強さでみがきましょう。
歯の中で特に気を付けてみがきたいのは、大きな奥歯の上顎の「第4前臼歯」と下顎の「第1後臼歯」です。
この歯はワンちゃんが物を噛み切るときに使う非常に重要な歯なのですが、ちょうど唾液の分泌口の真下にあって常に唾液にさらされているため、唾液に含まれるカルシウムの影響で歯垢が歯石になりやすいのです。しかも表面にデコボコがあり、みがきづらい歯でもあります。歯ブラシを上手に使って、特に丁寧に歯垢を取ってあげるようにしてください。
なお、一般的な歯ブラシを嫌がってしまう場合は、人差し指にはめて使う「指サック歯ブラシがおすすめ」。指サック状のボディの先端にブラシが付いているタイプの歯ブラシです。ボディ部分が柔らいものだと、指の動きがそのままブラシの動きになるので、とてもみがきやすいですよ。
意外と知らない歯みがきガムの与え方。犬に硬いものはNG?!
犬の歯みがき、何歳から?成犬になってからでも間に合う?
― 先生、丁寧な解説、ありがとうございました!STEP1~STEP3まで、少しずつ段階を踏むことが大切なんですね。私も初心に戻って、改めて口元タッチからやり直そうと思いますが、うちの子はもう3歳。手遅れではないでしょうか?
遠山:大丈夫ですよ!歯みがきの練習は、何歳からでも始められます。ご褒美のおやつや歯みがきジェルを上手に使って根気強くやれば、少しずつみがけるようになると思いますよ。飼い主さんも必死になりすぎず、コミュニケーションの一環として気楽な気持ちで取り組んでみてください。繰り返しになりますが、愛犬に「歯みがき=楽しい時間」と思わせるのが肝心です。
―本来は、何歳くらいのときに歯磨きトレーニングを始めるのが良いのでしょうか?
遠山:子犬のころから(生後2~3ヶ月頃)始めると、スムーズに慣れさせることができると言われています。「おすわり」や「まて」などのトレーニングと組み合わせて、例えば「まて」ができたタイミングで口元タッチ→できたら褒めておやつをあげる、という風に一連の流れで行うと効果的です。
―歯みがきが上手くできないので、おやつはせめて歯に良いものを・・・と思い、歯みがきガムを与えているのですが、あっという間に食べてしまって、みがけている気がしません。どうしたら、ちゃんと噛んでくれるのでしょうか?
遠山:よく誤解されているのですが、ガムは「ポイっと与えるもの」ではなくて、「しっかり噛ませるもの」。手に持ったまま愛犬に奥歯(特に第4前臼歯)で噛ませるようにするのが、わんちゃん用歯みがきガムの正しい噛ませ方なのです。
―え、知りませんでした!!これは誤解している飼い主さん、多いと思います。
遠山:そうですよね。同じく、「歯垢を取るには、硬いものを噛ませると良い」というのも誤解です。わんちゃんの歯は意外ともろく、骨や蹄などの硬いものを噛むと臼歯が割れたり、犬歯が欠けたりしてしまうことも珍しくありません。それに硬すぎるものには歯が食い込まないため、肝心の歯垢が取れないという問題も。わんちゃん用のガムを選ぶ際には、歯が食い込む柔らかさのものを選ぶようにしましょう。
また、ガムの大きさも非常に重要です。わんちゃんの口に対して大きすぎるガムは絶対に与えないこと。わんちゃんが噛み切れずに丸のみにして喉に詰まってしまったり、口の中を傷つけてしまったりするおそれがあります。パッケージの表示をよく確認して、わんちゃんのサイズに適したガムを選ぶようにしてください。
なお、ガムを噛むことによって、ガムの当たった歯の歯垢除去効果は期待できますが、オーラルケアの目指すべきところはガムではなく「歯みがき」です。歯みがきによるケアをしっかり行えるようにして、歯みがき訓練に慣れていない時や、日常の歯みがきの補助として使うようにしましょう。
―先生、今日はいろいろと教えていただき、ありがとうございました。最後に飼い主の皆さんにワンちゃんのオーラルケアについて、ひとことアドバイスをお願いします。
遠山:わんちゃんは自分で歯をみがくことができません。何もしないと、お口の健康維持ができません。だから、飼い主さんがオーラルケアをしてあげることがとても大切なんです。わんちゃんがいつまでも健康な歯を維持して美味しく食事ができるように、歯みがきを習慣化してあげてください。
今回使用した商品のラインアップ。わんちゃんの歯みがきの慣れに合わせたいろんな商品がありますので、これらを活用して歯みがき上手になりましょう!
※右上のブレスウォーターは3月に発売したばかりの新商品。オーラルケアのサポートとして、お口の臭いが気になるわんちゃんへ香りでの口臭ケアにおすすめです。