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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
犬の学名は「カニス・ルプス・ファミリーアス」という馴染みの薄い名称で、日本語では「イエイヌ」と翻訳されています。犬は柴犬やシー・ズー、ゴールデン・レトリーバーなど犬種によってさまざまな個性が見られますが、すべて同じ学名を持っています。
この記事では、犬の分類や、進化する中で身についた習性、性格などについて解説します。愛犬に対する理解を深めるためにも、犬のルーツに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
目次
- 犬の学名は「カニス・ルプス・ファミリーアス」
- 生物分類での犬について
- 犬(イエイヌ)の起源
- 犬が犬種によってさまざまな個性を持つ理由
- 犬(イエイヌ)の特徴的な習性
- 犬の性格はどうやって決まる?
- まとめ
犬の学名は「カニス・ルプス・ファミリーアス」
犬の学名は、Canis lupus familiaris(カニス・ルプス・ファミリーアス)です。まずは、犬の学名の意味と、犬種による違いについて紹介します。
Canis lupus familiarisの意味と和名
Canis lupus familiarisはラテン語で、Canis=イヌ、lupus=オオカミ、familiaris=家族という意味の言葉です。日本国内で学名の代わりに使われている名称(標準和名)は「イエイヌ(家犬)」で、一般的には「イヌ(犬)」と呼ばれて慣れ親しまれています。
犬種によって学名に違いはある?
犬はすべての犬種がイエイヌ(Canis lupus familiaris)に分類されるため、学名に違いはありません。日本原産の柴犬も、中国原産のシー・ズーも、イギリス原産のゴールデン・レトリーバーも、カナダ原産のニューファンドランドもすべてイエイヌです。
生物分類での犬について
犬が人間と同じ哺乳類に分類されていて、オオカミと近しい関係であることはよく知られています。実際に哺乳類の中でイヌは「イヌ科・イヌ属・イヌ亜属・イヌ属」に分類されていて、イヌ属にはオオカミも含まれています。そんな犬(イエイヌ)の生物分類について詳しく解説します。
イエイヌはオオカミの仲間
イヌ属の中でも、イエイヌはタイリクオオカミ(学名:Canis lupus)の亜種の一種です。タイリクオオカミには、以下のような「オオカミ」と総称される種が分類されています。
• ユーラシア大陸や北米に分布するハイイロオオカミ
• アフリカ大陸北部に分布するアフリカゴールデンオオカミ
• エチオピアに生息するエチオピアオオカミ
• 絶滅してしまった日本原産のニホンオオカミ
イエイヌと同じく亜種として数えられるのは、オーストラリアに生息する柴犬をさらに凛々しくしたような容姿をしたディンゴと、北極圏周辺に生息するホッキョクオオカミです。
コヨーテやジャッカルもイヌ属
イヌ属にはイエイヌやタイリクオオカミの他にも、以下の種が名を連ねています。
• ジャッカル(ヨコスジジャッカル、セグロジャッカル、キンイロジャッカル、アビシニアジャッカルなど)
• コヨーテ
• アフリカンゴールデンウルフ
• アメリカアカオオカミ
• イースタンウルフ
アフリカンゴールデンウルフは2015年に発見されたばかりの新種です。東アフリカとユーラシア大陸に生息していて、イヌ属で新種が見つかったのは150年ぶりのことです。発見前はキンイロジャッカルの一種だと思われていたほど似た外見をしていますが、別々の進化の道を歩んできた種であるという研究結果が出ています。
犬はネコ目!?
イヌ属は、肉食目(ネコ目)の中の1種族です。肉食目をネコ目とも呼ぶのは、1988年に文部省が作成した「学術用語集動物学編」で、肉食目の代表的な種類の動物としてネコが起用されたことに由来します。
肉食目はネコ亜目とイヌ亜目の2つに分類されます。イヌ亜目は、イエイヌも所属する「イヌ下目」と、アザラシやイタチなどが所属する「クマ下目」の2つに分けられています。
犬(イエイヌ)の起源
犬の祖先はオオカミと同じ動物だとする研究結果が出ています。犬とオオカミの共通の祖先はトマークトゥスとする説が有力で、ボロファガスやアエルロドンという動物を起源とする説もあるようです。
オオカミと共通の祖先から犬へ進化した時期も諸説ありますが、ドイツのボン=オーバーカッセル遺跡では推定1万4700年前の犬の化石が出土しています。人間によって埋葬されたものだと考えられていて、この時点ですでにイエイヌが誕生していて、家畜として飼われていたとされています。
イエイヌはヨーロッパを中心に産出された系統と、東アジアで産出された系統の2つに分かれていて、環境に適応しながらさらに細分化されていきました。
犬が犬種によってさまざまな個性を持つ理由
イエイヌには、トイプードルやチワワのように幼さを感じる犬から、シベリアンハスキーやドーベルマンのように野性的な外見の犬まで、品種によって個性豊かです。容姿だけでなく、性格や運動量などもそれぞれ異なります。そもそも、どうしてイエイヌという1つの分類の中で、これほど多種多様な品種が生まれたのでしょうか。
古代から家畜として人間とともに生きてきた犬は、目的にあわせてさまざまな品種が作出されてきました。現在いる犬種のほとんどは、19世紀以降のヨーロッパで作出された品種です。牧羊犬や猟犬として作出された犬もいれば、コンパニオンドッグとして作出された犬もいます。
血統書の発行やドッグショーの主催を行うジャパンケネルクラブでは、イエイヌの品種を以下の10のグループに分けています。
• 1G(牧羊犬・牧畜犬):ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、シェットランド・シープドッグなど
• 2G(使役犬):ドーベルマン、ミニチュア・ピンシャーなど
• 3G(テリア):ヨークシャー・テリア、ジャック・ラッセル・テリアなど
• 4G(ダックスフンド):ミニチュア・ダックスフンドなど
• 5G(原始的な犬・スピッツ):スピッツ、柴犬など
• 6G(嗅覚ハウンド):ダルメシアン、ビーグルなど
• 7G(ポインター・セター):イングリッシュ・セター、イングリッシュ・ポインターなど
• 8G(7G以外の鳥猟犬):ゴールデン・レトリーバー、アメリカン・コッカー・スパニエルなど
• 9G(愛玩犬):プードル、パグなど
• 10G(視覚ハウンド):ボルゾイ、サルーキなど
このようにさまざまな大きさ、見た目、性格の犬種が生み出され、現在でも人間と一緒に暮らすパートナーとして愛されています。
犬(イエイヌ)の特徴的な習性
犬は品種ごとに異なる個性を持っていますが、どの品種にも共通する習性もあります。ここでは、犬に共通する特徴を5つ紹介します。
愛情深く飼い主に忠実
旧石器時代にはすでに人間と暮らしていたと考えられている犬は、飼い主への忠誠心を持っています。トレーニングすると指示に応じてくれたり、飼い主のピンチのときは守るために勇敢に立ち向かったりなどの行動を見せます。また、同じく家畜として親しまれてきた猫と比べると、人の愛情を独占しようとする傾向があることも特徴です。
警戒心と縄張り意識が強い
飼い主には忠誠心と愛情を示す一方で、知らない人や犬を警戒する習性があります。こうした行動は家畜化以前に身についた縄張り意識からくるものです。散歩ルートにある電柱や街路樹などにおしっこをする「マーキング」も縄張り意識が起因しています。一説によると、縄張り意識はメスよりオスの方が強い傾向にあると言われることもあるようです。
食事や子どもを守る
縄張り意識と同じように、野性時代の名残で自分の食事や子どもを守ろうとする本能が強く根づいています。そのため、食事中に撫でようとすると、飼い主でも吠えたり噛まれたりする可能性もあります。
動くものを追いかける
かつて人間がウサギやネズミなどの小動物や鳥を狩る際にパートナーとして活躍してきたように、動くものを追いかける習性が根づいています。犬を飼ったら散歩が欠かせないように運動も大好きなので、ボール遊びのような動くものを追いかける遊びも好みます。
清潔さを好む
食事や睡眠をとる場所が汚れるのを嫌がるのも、犬の習性の1つです。とくに「寝床を清潔に保ちたい」という欲求が強く、寝床とトイレが近い飼育環境だとトイレトレーニングが上手く進まない可能性が高まります。
犬の性格はどうやって決まる?
犬の性格は遺伝や年齢にくわえて、飼い主との関係性によって形作られます。
遺伝
犬の性格には先天的な要素が多く、品種ごとにおおまかに特徴があります。たとえば柴犬なら「好奇心旺盛で学習能力が高く勇敢」、ポメラニアンなら「明るく活発で社交性の高い甘えん坊」などです。
こうした犬種ごとの特徴にくわえて、親犬が怖い思いをした体験が子の性格として引き継がれることもあります。他の犬よりも雷や花火などを過剰に怖がる様子を見せている場合、親犬が大きな音によって怖い目にあった経験が起因しているかもしれません。
年齢
犬の性格は年齢によって変化していきます。生後4ヵ月前後までが「社会化期」と呼ばれる時期で、この期間の経験が性格形成に大きく関わると言われています。7歳ごろからはシニア期に差し掛かるため、性格にも落ち着きが見られるでしょう。
飼い主との関係
飼い主の接し方やスキンシップの多さによって、後天的に性格が変わっていくことも特徴です。スキンシップが不足していると寂しさから不機嫌になったり、精神的な不安定さから体調に支障をきたしたりすることもあります。犬に穏やかに過ごしてもらう環境を整えるためにも、適切な接し方を心がけましょう。
まとめ
犬の学名はカニス・ルプス・ファミリーアス(イエイヌ)で、生物分類ではオオカミやコヨーテ、ジャッカルなどに近い存在だと考えられています。犬の起源は2万年ほど前だといわれていますが、現在のようにさまざまな犬種が存在するようになったのは19世紀以降のことです。
犬は長い歴史の中で、人間に深い愛情を持ち、警戒心の強い習性が形成されてきました。一方で、性格は飼い主との関わりの中で変化する部分も大きいため、愛犬にたくさんスキンシップしてあげることが大切です。こうした犬の生物学的な背景をふまえて、愛犬に毎日愛情を注いであげてください。