転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

「“海までドライブ“なんて、良い気晴らしになりそう」と思っていたけれど、朝からあいにくの曇天だった。
向かう先の空は、低い雲に覆われ、今にも泣き出しそうに見える。
夫は、筋金入りの雨男なのである。
お天気に左右される仕事柄、不便ではないのかと聞いたところ「不便だし、一緒に仕事する人に『あぁ、お前と一緒か……(絶望)』って顔をされる」と言っていた。
そう言えば、レイルの命日も嵐だったな……。
せっかく出かけるのだから、晴れろー!!
私の強い祈りにも関わらず、車の窓ガラスに大粒の雨が落ちてくる。
譲渡会、雨で中止になったりしないかしら? SNSを確認すると、どうやら午後には天気が回復するらしく、このまま決行されるということだった。
車で1時間ちょっと。
午後、お天気が回復したタイミングで譲渡会場へ行こうと、先に昼食にすることに。
この町に住んでいた頃、好きだったレストランに向かうと、あいにくのお天気だというのに混み合っていた。海が目の前で景色が良く、いつも気持ちが良いのも売りのひとつのはずだが、今日は雨風で波が高く、たいそう荒れている。それでも、食事は変わらず美味しくて、懐かしい気持ちになり、来た甲斐があったなと思う。

食事を終え、車で移動。雨はだいぶ小降りになっていた。
譲渡会場は、高台の大きな公園の一角、ドッグランのなかで行われている。
少し離れた駐車場に車を停めて、会場まで歩いていると、急に日が差し、眼前の海が明るく輝き出した。
「こんな町で、毎日犬と散歩ができたら幸せだろうね」と夫と話しながら向かう。

目次
- はじめて「選ぶ側」になるという不安
- ピンとこないまま出会った、犬
はじめて「選ぶ側」になるという不安
長らく保護犬と暮らしている我が家ではあるが、実は譲渡会というものに参加したことはない。今まで、縁があり我が家に来た子をただ受け入れて暮らしてきた。
迎える犬を選んだことがない私たちが、「この子と暮らしたい」と決断出来るのだろうか。会場を目の前に、私は少々不安な気持ちを抱えていた。
会場の入り口は、思いのほか厳重に管理されていて、二重になっている扉、それぞれの前にスタッフが立っている。
犬の脱走防止策で、ひとつ目の扉を開け、中に入ってから、ふたつめの扉が開く仕組み。一旦、両方の扉が閉まって小さな空間に閉じ込められるのだが、まるで異世界への入口のようでワクワクする。
ふたつめの扉が開くと、そこは大きなドッグラン。
高台の傾斜を利用していて、運動量が必要な犬にはとても良さそうな場所だった。先ほどまで降っていた雨で、ぬかるんでいること以外は最高……。
傾斜×ぬかるみで、尻もちをついたのか、ドロドロになったズボンを履いているかたを数名見かけ、同じことにならぬよう慎重に歩く。後ろに人が詰まっている気がするけど、ごめん! 私、絶対に転びたくないの!
まずは先日、問い合わせをした団体のブースへ向かった。
問い合わせした犬は今回は不在だったが、似ている別の子を見せてもらう。この子もテリアのような大型犬で、可愛らしい。保護ボランティアさんのお家では、2匹の猫も一緒にからしているそうで、猫との相性を重視している我が家にとっては高ポイントだったが、「控えめな性格」と聞いて、少し悩む。
うちの猫たちはかなり我が強いので、控えめだと犬側がストレスを抱えないだろうか?
夫は夫で、同じ保護団体に会ってみたい子がいたようだった。白っぽいラブラドールみたいな大型犬なのだが、すでに午前中に申込が入ったとのこと。
夫もまた犬と暮らしたいのだ。しかも大型犬と。
少し落胆した様子の夫を見て、まだ気持ちが揺れている自分に気づく。犬を選んだ経験がないのも理由のひとつだとは思うが、なんだかピンときていないのだ。
「この子をうちの子に迎えたい!」という強い思いがないまま、選んで良いのだろうか。
ピンとこないまま出会った、犬
その後も何頭かの犬を触らせてもらったり、性格を聞いたりして、「今回はご縁が無かったということかな……」と思いはじめた時。
気がつくと、私の後ろに寝そべっている犬がいた。
地面がぬかるみ、やるせない顔をした犬が多い中、コンディションを気にすることなく豪快に寝転がっている犬が気になり、リードを持っている女性に「この子も譲渡会に参加している子ですか?」と聞くと、そうだと言う。
白と茶色、折れ耳の大型犬。お腹の毛は薄く、茶色の斑模様がところどころに入っている。外国の猟犬のような雰囲気だ。
私が「茨城で捕獲された野犬の子を迎えたいと思っていて」と話すと、ボランティアのかたが「この子もそうですよ」とおっしゃるので、夫と顔を見合わせ、さらにまじまじと見つめた。
触ってもいいと言っていただけたので、遠慮なく撫でさせてもらう。
聞けば、今月1歳になったばかりの男の子とのこと。
今は保護ボランティアさんのお宅にいるけれど、猫と暮らしたことはない。
猫との相性が不明瞭な子を引き取るのはリスクが高い。そもそも、この譲渡会には、すでに猫と暮らしている子と会うためにやって来たのだ。
なんとなく気になったけど、やっぱり違うかな。
「ちなみに今のお名前は何というんですか」
ふと聞いてみると、女性は「プニプニです」
なぜ、プニプニ。
保護犬の仮名は、意外とカッコいい名前が多い。
先ほど会った子たちも、ジョゼフ、ボニータ、アローと、素敵な名前がついていた。
「お腹、触ってみて? めちゃくちゃプニプニしてるから」
言われるままにお腹を撫でると、確かにプニプニと気持ちがいい。
「ちなみに性格は?」と聞くと、「能天気ですね」
夫は、無言で犬のお腹のあたりを揉んでいる。
私がプニプニを見つめると、彼はこちらを見上げてニヤっと笑った。
能天気なプニプニは、動じることなくぬかるみにひっくり返っている。












