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通称 Mag(マグ)。犬と幸せに暮らすノウハウを学び、富山でドッグサロン&ホテル『brico』を開業。ドッグフードの販売や、犬に関するイベントなども開催する。

「人間社会で穏やかに過ごせる犬を増やす」という理念をもとに活動するドッグトレーナーのマグさん。犬と人が共に幸せに暮らすために、私たち飼い主が見直すべきこととは?
目次
- 「その愛情、本当に愛犬のため?」犬との関わり方に警鐘を鳴らす・ドッグトレーナーのマグさん
- 「穏やかに過ごせる犬を増やす」理念に込められたマグさんの思い
- 愛犬を擬人化しすぎてはダメ。犬本来の習性を満たすことが重要
- 愛犬を猫可愛がりしていた過去。吠え声すらも気にならなかった…
- 人間と犬が調和しながら暮らす。 ポートランドで見た理想的な社会
- 飼い主を守ろうとしていない? 愛犬との関係を見直す歩き方を
- 「スペースを取る」ことから始まった、愛犬・きなこと築いた信頼関係
- 犬は飼い主の写し鏡!? ドッグフレンドリーな街に変え、日本を幸せな国に
「その愛情、本当に愛犬のため?」犬との関わり方に警鐘を鳴らす・ドッグトレーナーのマグさん
「この子の幸せのためなら何でもしてあげたい」
そんな思いで愛犬と接する日々。皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。
近年、「犬は家族」という風潮が広まり、犬のことを最優先に考える飼い主さんが増えてきました。
愛犬のために自分の幸せや時間を後回しにするのは当たり前。散歩は愛犬の行きたいところを優先し、無理強いすることをかわいそうに思いしつけをしない傾向も見られます。
しかし、それは愛犬、そして私たち人間にとって本当に良いことなのでしょうか。もしかすると、愛情が過保護に変わり、犬本来の姿や幸せを見失っているのかもしれません。
「愛犬を4本足の動物だと認めることが一番大切」
そう語るのは、富山県でドッグサロン『brico』を経営するドッグトレーナーのマグさん。「人間社会の中で穏やかに過ごせる犬を増やす」という理念の元、飼い主さんに食事・ボディケア・運動・トレーニングなどの提案をしています。
穏やかに過ごす犬とは? 「4本足の動物と認める」ってどういうこと? 犬の本質を理解し、犬と人間が共に幸せになる関わり方について、お話を伺いました。

「穏やかに過ごせる犬を増やす」理念に込められたマグさんの思い
人間社会の中で穏やかに過ごせる犬を増やす──
マグさんが活動の理念として掲げるその思いの裏には、愛犬を穏やかに導けるよう「飼い主のマインドを変える」という目的が隠されています。
「社会には車やバス、飛行機、信号などいろいろなものがありますが、これらは犬にとっては本来無縁なもの。複雑な世の中で、犬はどうしたらいいか分からず興奮状態になっているんです。僕たち飼い主の役割は、愛犬に指示を出し、興奮した状態から穏やかな状態に持っていくこと。信号が赤になったら止まらせる、車が来たら待たせる、というように指示を出すことで人間社会に順応させる必要があるんです」

しかし近年、愛犬をうまくコントロールできない飼い主が増えている、とマグさんはいいます。
「今の日本では、飼い主が愛犬を過保護に育てる傾向があります。愛犬の言うことは何でも聞いてあげたり、散歩中、愛犬の行きたいところに自由に行かせてあげたり。飼い主が愛犬をコントロールするどころか、人間が犬の言うことを聞いている。それでは真の信頼関係が築けているとは言えません」
飼い主が愛犬を適切にコントロールできないことにより、私たちの暮らしにも様々な悪影響が生じることがあります。
「飼い主から指示されないと、犬はどう振舞えばいいのか分からず、興奮した状態が続きます。その結果、吠えたり、噛んだりして、『穏やかな犬』からどんどんかけ離れてしまう。犬は欲求に生きる生き物です。欲しいものを捕るためなら、後先を考えず、道路に飛び込んだりもします。愛犬の安全を守るためには、飼い主が愛犬の欲求を上手にコントロールできる存在にならないといけません」

「犬は家族の一員」と捉えること自体は、動物を大切にするという観点から素晴らしいことです。ただ、それが過保護な愛情になり、愛犬の言いなりになると、かえって愛犬を危険にさらす可能性が出てくるのです。
「かつて犬は、人間の生活を助けるためのパートナー、ある種の道具として存在していました。猟犬として狩りを手伝ったり、重い荷物を運んだり。でもそれは、決してかわいそうなことではありません。仕事が与えられ、それに応えることは、犬にとっては喜ばしいことだったんですよね。でも、現代の多くの家庭では、そうした仕事が与えられていない状態です。だからこそ、『待て』や『座れ』といった指示を出すことで、犬に小さな仕事を与え、犬本来の欲求を満たしてあげるべきなんです」
「コントロールするのがかわいそう」ではなく、「適切にコントロールするのが自然」という考え方へ。マグさんが『brico』を運営する真の目的は、飼い主の意識を根本から変えることにあるのです。
「『brico』では、飼い主の満足のためではなく、犬の本来の欲求を満たすための商品やサービスを提供しています。犬のニーズに合致しているので、結果として問題行動が減少し、穏やかな犬に変化していきます。僕の活動の本当の目的は、その変化を飼い主さんに目の当たりにしてもらい、犬との適切な関わり方に気づいてもらうこと。飼い主さんの考え方が変われば、愛犬を適切にコントロールできるようになり、結果として人間社会で穏やかに暮らせる犬が増えると信じています」

愛犬を擬人化しすぎてはダメ。犬本来の習性を満たすことが重要
愛犬を穏やかな状態に導くために最も大切なことは、「愛犬を4本足の動物として捉え直すこと」とマグさんはいいます。

「どんな犬でも、無駄吠えをしたり、不適切な場所で排泄をしたりと、何かしらの問題行動が見られることがあります。愛犬を4本足の動物と認め、その本能や習性を理解すると、そういった問題行動を解決するのが格段に早まるんです」
そうした考えのもと、マグさんが運営する『brico』では、数多くの犬と飼い主の悩みを解決へと導いてきました。
「たとえば、以前『愛犬が家の階段をかじってしまう』というお悩みを抱えた飼い主が来たことがありました。そういう犬は、噛むという欲求が十分に満たされていないから、代わりに階段や家具を噛んでしまうんですよね。犬はもともと、骨などをかじって食べる動物です。適切な硬さのものを与えて、噛みたいという欲求を満たしてあげると、その問題行動はすぐに解決に向かいます」
マグさんは、その飼い主さんに「噛むおもちゃ」を提案。実際に犬に与えたところ、それ以来、家の階段を噛むことはなくなったそうです。

他にも、愛犬を4本足の動物と捉えることで、私たちの悩みの多くが解消されるといいます。
「犬は身体の構造上、食べたものを吐きやすい生き物です。また、時には何も食べずに自ら調整を行うこともあります。だから、愛犬が少し吐いたり、一時的に食事を口にしなかったりしただけで、過度に心配したりする必要はないんです」
一方で、犬の本能や習性を理解せず、愛犬を擬人化しすぎていると問題解決が遠回りになることもあると警鐘を鳴らします。
「たとえば、犬が何か怖いものを見つけて、ブルブル震えていたとします。ほとんどの飼い主さんは、『大丈夫よ』と言って抱っこすると思うのですが、本当はそのまま愛犬のことをを信じて様子を見るのがいいんです。犬は恐怖心を自らしずめるために、対象を観察したり、時には威嚇したり、あるいは距離を取ったりして、自分で考えて対処しようとします。抱っこは、一時的には犬を落ち着かせられますが、根本の問題解決にはなりません。それどころか、自分で考える機会を奪うことで、いつまで経っても成長しきれない犬を育ててしまうことになりかねないんです」
犬は、私たちが思うよりもずっと賢く、たくましい生き物です。その本来の強さを維持し、活かすためにも、私たちは愛犬との関わり方を一度見直す必要があるのかもしれません。