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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
くりくりウルウルとした目で見つめてくる愛犬。「なんでそんなにかわいいの~」と思いながら見つめ返すと、まぶたに赤みがさし、よく見ると腫れやイボのようなできものがある……。その正体は「ものもらい」かもしれません(地域によっては「めばちこ」と呼ばれています)。
ものもらいを放っておくと、涙や目やにが増えたり、かゆがって前足で目をかいたりするしぐさが見られるようになります。さらに悪化すると、結膜炎や角膜炎を起す可能性もあります。早く治療すれば短期間で完治する病気ですので、飼い主の役目はできるだけ早く気づいてあげることです。今回は、ものもらいの原因や症状、治療方法を解説しますので、早く気づいてあげるための参考にしてください。
目次
- 犬のものもらいとは
- 犬がものもらいになる原因
- 原因ごとに異なる症状
- ものもらいができやすい犬
- 犬のものもらいを治療する方法
- 犬がものもらいにならないよう予防するには
- まとめ
犬のものもらいとは
人間にとって身近な病気である「ものもらい」は、まぶたが腫れ、かゆみ・痛みを感じるなどの症状で知られています。人間と同様に、犬がものもらいになることがあるのでしょうか。
犬はものもらいになるのか
結論としては、人間と同様にものもらいになります。犬のものもらいとは、人間と同じように目の縁にイボのようなしこりができる「マイボーム腺炎」という病気です。マイボーム腺とは、瞼の裏側にあり、涙の油分を分泌して涙が蒸発しないようにしている皮脂腺という器官のことです。まつ毛の生え際がマイボーム腺の出口になっていて、その出口が細菌に感染したり、分泌物が詰まったりすると、涙の油分のバランスが崩れて、炎症を起こします。イボのようなしこりが1か所だけできる場合もありますが、一度に複数か所にできる場合もあります。
特に免疫力の低い子犬やシニア犬はものもらいになりやすいと言われていますが、どの年齢、どの犬種でも起こり得る疾患です。目の周りを清潔に保つことが効果的な予防方法ではあるものの、犬は人間のように汚れた手で目の周りを触らないように注意することができません。むしろ、目の違和感から前足でかいたり、頭を床や家具にこすりつけたりしてしまいます。そうすると症状が悪化して、目が開かなくなることもあるようです。自然に治ることはありませんので、「ものもらいかな?」と疑わしい場合は、できるだけ早く動物病院に連れていって症状を悪化させないことが大切です。
犬がものもらいになる原因
犬のものもらいである「マイボーム腺炎」は、「麦粒腫」「霰粒腫」という二つのタイプがあります。また、ものもらいとよく似た腫瘍である「マイボーム腺腫」についても解説します。
細菌感染による「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」
主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌がマイボーム腺の出口に感染して、急性炎症を起こします。ブドウ球菌やレンサ球菌は、どこにでも存在する細菌です。細菌感染によって目の周りにできた炎症は総じて「ものもらい」と言われていますが、厳密に言えば、ものもらいとは麦粒腫のことです。細菌が原因ではありますが、他の犬や人にうつることはほとんどないと言われています。
分泌物の詰まりによる「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」
霰粒腫は、マイボーム腺の中を通って出口から流れ出るはずの涙の油分が何らかの理由で詰まったことで起きる、慢性的な炎症です。麦粒腫と同じような炎症に見えますが、成り立ちと対処方法が違います。また、麦粒腫のように犬から犬へと感染することはありません。霰粒腫ができやすい犬種や体質もありますし、次の項目で解説するマイボーム腺腫といった小さな腫瘍による閉塞によって霰粒腫ができることもあります。霰粒腫か他の目の病気かを診断するには、まぶたを詳しく検査する必要があります。
良性腫瘍の「マイボーム腺腫」
マイボーム腺にできる腫瘍で、犬に頻繁に見られます。基本的には命に関わらない良性腫瘍であり、他の臓器に転移することはありません。数ミリ程度の大きさであれば、特に問題ないようです。腫瘍が大きくなって目が開けづらそうな場合は、手術で切除することもあります。原因については未だ解明されていませんので、予防は難しいようです。
原因ごとに異なる症状
ものもらいの症状は、原因によって異なります。またものもらいとよく似た「マイボーム腺腫」も、ものもらいとは違った症状が見られます。ここでは「麦粒腫」「霰粒腫」「マイボーム腺腫」の症状をまとめました。
「麦粒腫」の症状
感染の度合いによりますが、具体的な症状としては、まぶた全体が腫れ上がったり、局所的に小さなイボのようなできものが生じたりします。「目が開けづらくなる」「目やにや涙液が増える」「かゆみや痛み」といった症状を伴います。犬は不快感から前足で目をこすったり、床や家具などに目をこすりつけたりするため、角膜を傷つけることもあります。
「霰粒腫」の症状
まぶたの内外にしこりができます。麦粒腫と比較した際の違いは、まぶたの裏の結膜に乳白色の皮脂の塊ができることです。腫れ・目やに・かゆみなどの具体的な症状は、「麦粒腫」と同様です。痛みによって、目が開けづらそうな様子や、まぶしそうな様子が見られる場合もあります。また、痛みが非常に強い場合は、まぶたにけいれんが見られます。こうした痛みを何とかしようと前足で目をこすったり、床や家具に目をこすりつけたりすることで、結膜炎・角膜炎・角膜潰瘍などを引き起こす可能性があります。
「マイボーム腺腫」の症状
しこりが小さいうちは症状がありません。治療しないまま時間が経つと、視界を遮るほど大きなしこりになっていき、出血や結膜炎になる場合があります。まぶたの裏側に腺腫ができてしまうと角膜を刺激してゴロゴロとした不快感が生じます。症状が悪化すると角膜炎を引き起こす原因となります。
ものもらいができやすい犬
マイボーム腺炎は犬種や年齢に関わらずどの犬でもかかってしまう病気です。基本的に健康な犬の場合は免疫力で防止できますが、免疫力がない子犬やシニア犬は細菌に感染しやすいため、ものもらいができやすいと言われています。
また、アレルギー体質の犬や、まぶたが被毛で覆われる長毛種の犬(ロングコートチワワ、トイ・プードルなど)も発症しやすいと言われています。なぜなら抜け毛が多く、シャンプー時に毛が目に入ってしまうからです。また、一般的に腫瘍は加齢によって発生する確率が高まるため、マイボーム腺腫はシニア犬の老化現象としてよく見られます。
犬のものもらいを治療する方法
「麦粒腫」「霰粒腫」「マイボーム腺腫」の原因ごとに治療方法を説明します。
「麦粒腫」の治療方法
細菌感染が原因なので、目薬、眼軟膏、飲み薬など、抗生物質を使用した治療が行われます。早期に治療をすれば3週間程度で完治しますが、重症であれば完治まで2か月程度かかることもあります。
人間用の目薬を使用することは避けてください。目薬の種類によって症状を悪化させてしまう可能性がありますので、動物病院で処方されたものを使用しましょう。なお、症状が悪化して膿が出ているような場合は、切開して治療する必要があります。
「霰粒腫」の治療方法
マイボーム腺に涙の油分が詰まっていることが原因です。その部分を切開して、チーズのように固まった分泌物を排出させ、しこりを取り除きます。まぶたが腫れている場合は、麦粒腫の治療と同じように、目薬や飲み薬、眼軟膏など、抗菌薬である抗生物質や炎症を抑えるステロイド剤を使用した治療を行います。マイボーム腺腫が閉塞の原因になっている場合は、腫瘤を摘出することが霰粒腫の治療となります。
もし、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、ドライアイ、乾性角結膜炎などを併発している場合は、それらの疾患と霰粒腫の双方を悪化させることもありますので、他の疾患の治療も同時に行います。また、アレルギーなどで生じた目の周りの皮膚病によるかゆみ、逆さ睫毛などの異所性睫毛や目の周りの被毛による刺激もできるだけ取り除くことが大切です。なお、犬が目を気にしてかいてしまう場合は、エリザベスカラーを使ってさわらないようにしてください。治療すれば完治しますが、再発を繰り返す場合もあります。
「マイボーム腺腫」の治療方法
マイボーム腺腫のほとんどは、良性腫瘍ですが、できるだけ早く切開やレーザーで切除手術をしたほうが安心です。なぜなら、まぶたの内側にできたり、サイズが大きくなったりすると、犬が気にしてかくことで結膜炎や角膜炎などの二次感染につながるからです。また、癌化する可能性もあります。取り残さないよう慎重に手術を行えば、術後はおおむね良好です。
なお、手術費用は病院によって異なりますが、検査から術後の治療までを含めて5〜15万円ほどです。稀に悪性腫瘍の可能性があるので、放置するのは危険です。マイボーム腺腫が疑われた場合は、動物病院で病理組織検査をして、良性か悪性かの確定診断を行うことをおすすめします。
犬がものもらいにならないよう予防するには
初めての発症を予防するにしろ、再発を予防するにしろ、目やまぶたを清潔に保つことが一番の予防方法です。毛が目に入らないようにするほか、手を洗ってから愛犬に触るようにしてください。また、散歩した後には、ブラッシングをしたり、しっかりと絞った濡れタオルと乾いたタオルで交互に拭いたりすると予防効果が高まります。
注意しなければならないことは、ものもらいの傷口にシャンプー・石鹸・消毒薬を使用しないことです。なぜなら、他の病気の原因になる可能性があるからです。傷口には病院で処方された軟膏などを使用すると治りが早くなります。なお、「霰粒腫」の予防には、温かいタオルで目を温めたり、マッサージをしたりすると、マイボーム腺の分泌物が柔らかくなり排出しやすくなります。
まとめ
ものもらいは早期に発見して適切な治療をすれば、完治までそれほど時間がかからない病気です。放置すると、愛犬に辛い思いをさせる時間が長くなりますし、前足でかいたり柱に目をこすりつけたりして悪化すれば、結膜炎や角膜炎を発症します。ものもらいが大きくなって初めて検査をしたら「実は悪性腫瘍だった」という可能性もゼロではありません。愛犬の目の周りに異変を感じたら、なるべく早く動物病院を受診してください。