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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。

犬がくちゃくちゃと口を動かす理由が気になる飼い主さんは多いかもしれません。愛犬が頻繁にくちゃくちゃと動かしていると、「口の中が痛いのかな」「歯が抜けそうなのかな」など、あれこれと心配してしまうのではないでしょうか。くちゃくちゃと口を動かす理由は、ネガティブなものからポジティブなものまで、実にさまざまです。そこで、犬が口をくちゃくちゃと動かす理由を詳しく解説します。
目次
- 犬がくちゃくちゃと口を動かすのはなぜか
- 犬がくちゃくちゃと口を動かす原因
- 子犬とシニア犬によくある原因
- くちゃくちゃの原因を見つけるコツ
- まとめ
犬がくちゃくちゃと口を動かすのはなぜか
愛犬が食事以外で口をくちゃくちゃと動かす理由は様々です。「口の中の違和感」「ストレス」「胃の不調」「神経の異常」といったネガティブな理由もあれば、「成長で歯が抜け変わる」「スヤスヤと夢を見ている」「リラックスして甘えている」といったポジティブな理由もあります。ここからは、考えられる理由を詳しく解説していきます。
犬がくちゃくちゃと口を動かす原因
犬が口を動かす場合に考えられる理由と、見分けるサインを紹介します。
1. 口の中の違和感や痛み
口の中に痛みや違和感があるのかもしれません。たとえば、人間がそうであるように、歯と歯の間に食べ物や異物が挟まっている場合は、取り除こうとして口を動かします。その他「歯がグラグラして抜けそう」「歯や歯茎が痛い」「噛み合わせが悪い」「口の中に何らかのできものがある」といった原因も考えられます。
2. 口の中に含んだ異物
ビニール、紐、ティッシュ、ゴム、おもちゃの一部、被毛、ゴミなど、食べ物以外のものを噛んだか、口の中に入ってしまった可能性があります。食べ物ではないので噛んでも噛み切れずに、長い時間くちゃくちゃと口を動かしているのです。喉に詰まらせる危険がありますので、犬の口を開けて異物がないかをチェックして、噛んでいるものを取り出してください。
3. 胃腸の不調
車酔いや食べすぎなどの体調不良で、よだれや吐き気が起きた場合にも、口をくちゃくちゃと動かすことがあります。もしかすると、良くないものを食べてお腹に痛みを感じているか、胃液が口まで逆流している可能性もあります。「食欲が落ちて元気がなくなっていないか」「下痢や軟便になっていないか」といった異変を確認するようにしてください。
4. 脳や神経の病気
脳や神経の病気になると、てんかんの発作が起きることがあります。発作の前兆あるいは発作の症状として口をくちゃくちゃと動かす「チューインガム発作」が見られます。そのため、てんかんを起した犬の症状を覚えておくと良いでしょう。てんかんの犬は落ち着きがなかったり、よだれが垂れたりします。発作は「手足など体の一部がひきつる」「顔面の一部がピクピクと動く」といった局所的な症状から、「突然意識を失う」「横になって手足を痙攣させる」といった全身性のものまであります。
5. 歯周病
米国獣医歯科学会(American Veterinary Dental Association)の研究によると、3歳以上の犬の80%以上が、何らかの歯周病を患っているそうです。犬の歯磨きを習慣化しないと、細菌の集まりである歯垢が固まって歯石がつきます。歯に黄色または茶色っぽい歯石ができると歯茎に炎症を起こして歯周病になります。歯周病の不快感があると、口をくちゃくちゃ動かします。歯周病の可能性がある症状は「口臭が強い」「よだれが出ている」「歯肉が腫れて赤い」「口に触ると嫌がる」「片方の歯で噛む」「口や顔が腫れている」「歯肉から出血がある」「いつもより食欲がない」などです。
6. 口内炎
口の中の炎症をひっくるめて口内炎と言います。歯周病も歯肉炎も口内炎です。口内炎の初期症状は、食事中に口の中を気にする仕草を見せたり、痛みが生じて食べづらそうな様子を見せたりします。食事に時間がかかったり、食べ物をぽろぽろとこぼしたり、ウェットフードを好んだり、口をくちゃくちゃさせながら食事をするのも初期症状です。なお、食事をしていないときも、口を気にする様子が見られます。
7. 舌炎
舌に炎症があるかもしれません。硬いものを食べたり、口の中に火傷をしたり、虫に刺されたりすることで舌が傷ついたときにも、口をくちゃくちゃ動かします。傷だけではなく、細菌やウイルス感染による炎症もあります。症状としては、食欲がなく口臭も強くなります。
8. ストレス
犬が不安や緊張などのストレスを感じたときは、自分や相手を落ち着かせるために敵意がないことを伝えるカーミングシグナルを見せることがあります。口をくちゃくちゃと動かすのは、カーミングシグナルの一つです。犬同士が出会って緊張が走った場合や、飼い主さんが愛犬を叱ったときなどに起こります。もし、頻発するなら、愛犬への接し方を変えたほうが良いでしょう。
9. 夢
人間と同じように、犬も眠りが浅いレム睡眠時に夢を見ます。夢は脳の働きによるものですが、睡眠の質によっては口をくちゃくちゃと動かすことがあります。また、むにゃむにゃと口を動かす仕草は、歯ぎしりの一種と考えられています。寝ているときに、ときおり見かける程度なら心配はありません。
10. リラックス
飼い主さんに甘えてリラックスしているときも口をくちゃくちゃと動かすことがあります。飼い主さんに撫でられたり、ソファでくつろいでいたりするときに多く見られます。また、犬の方から構ってほしくて近づいてきたときや、子犬が母犬に甘えて母乳を吸うときにも口をくちゃくちゃと動かすことから、信頼や安心の表れと言えるでしょう。
11. 歯の生え変わり
犬は乳歯が28本、永久歯は42本。生後21日くらいから歯が生え始め、生後2か月ほどで乳歯が生え揃います。生後4か月半ごろになると永久歯が生え始めて、生後7~8か月で生え変わりが完了します。この生え変わり時期に歯茎がかゆくなったり、抜け切れずグラグラしている乳歯を気にしたりして、口をくちゃくちゃと動かすことがあります。弾力のある噛むおもちゃやガムを用意してあげれば、かゆさを緩和してあげることができるでしょう。
子犬とシニア犬によくある原因
子犬とシニア犬がくちゃくちゃと口を動かしている場合は、以下のような原因が考えられます。
子犬は乳歯の生え変わりやいたずら
1歳ぐらいまでの子犬が口をくちゃくちゃ動かす場合は、乳歯が永久歯に生え変わる際に見られる違和感やかゆみが原因と考えられます。口をくちゃくちゃ動かす以外に、飼い主さんの腕や足を噛んだり、クッションや洗濯物を噛んだり、歯や歯茎を家具にこすりつけたり、前足で歯に触ろうとしている仕草が見られれば、生え変わりの可能性が高いでしょう。長時間噛んで遊べるおもちゃを与えることも対処法の一つです。
抜けた歯を飲み込んでも便として排出されるので問題はありません。このほか、好奇心からいたずらをして何でも口に入れて噛んでいる可能性もありますし、母犬に甘えて母乳を吸うときのように口をくちゃくちゃと動かしている可能性もあります。
シニア犬は歯周病や歯槽膿漏の可能性が高い
シニア犬が頻繁に口をくちゃくちゃと動かしている場合は、歯周病にかかっている可能性が高いでしょう。老化によって唾液の分泌が減ると、歯垢や歯石が蓄積しやすくなります。免疫力も下がるため、シニア犬ほど歯周病になりやすいと言われています。しかし、歯周病は発症しているかどうかがわかりづらく、症状が鼻や顎にまで広がってから気づくことが少なくありません。歯周病が進行すると歯が抜けたり、痛みが生じたりしますので、不快感からくちゃくちゃと口を動かします。この仕草に気づいたら、できるだけ早く動物病院に連れていってください。
また、歯槽膿漏が原因で歯が抜けそうになった場合も、口をくちゃくちゃと動かします。歯槽膿漏の主な症状は「口臭の悪化」「歯ぎしり」「歯のぐらつき」「よだれの増加」「歯茎の膨らみや赤み」「歯茎からの出血」「顔の腫れ」「くしゃみ」「鼻水」「鼻出血」「食事に時間がかかる」「硬いものを食べない」などです。症状が悪化すると、歯が抜けて血管に口内の細菌が入り込んでしまいます。その結果、心臓病、腎臓病、肝臓、細菌性肺炎などを引き起こす可能性がありますので、早期に発見することが大切です。
くちゃくちゃの原因を見つけるコツ
普段から口の中を確認することが大切です。口をくちゃくちゃと動かす理由はたくさんあります。リラックスしているときやいたずらをしているとき、夢を見ているときの仕草であれば問題ありません。ただし、口の中や胃腸に病気を抱えている病気のサインの可能性もあります。特に歯周病は、進行すると死に至る恐ろしい病気ですので油断は禁物です。
できれば子犬のころからハミガキのトレーニングをして、口に触られることに慣らしておきましょう。すでに成犬になっていてハミガキの習慣がない場合は、週に1回以上は口の中を確認しておくと異変に気づきやすくなります。口の中をチェックされることを最初は嫌がる犬も、次第に慣れておとなしく口の中を見せてくれるでしょう。
まとめ
犬が口をくちゃくちゃ動かす理由は、想像以上に多かったのではないでしょうか。愛犬が口をくちゃくちゃする原因を知れば、適切な処置ができますので、日頃から愛犬の様子をよく観察しておくことをおすすめします。
どんなタイミングで愛犬が口をくちゃくちゃしているのか。同時にどんな仕草を見せているのかなどを注視して探ってみてください。痛み、異物、てんかん、カーミングシグナルなどのトラブルに気づいて、原因を早急に取り除いてあげることができるようになります。愛犬の異変にいち早く気づいてあげられるのは、飼い主さんです。ネガティブな理由で対処や改善が必要な場合は、迷わず動物病院に連れていきましょう。リラックスや甘えなどのポジティブな理由であれば、思いっきりかわいがってあげてくださいね。