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往診専門るる動物病院、TNRののいちアニマルクリニック 所属。小動物臨床15年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組む。
お迎えした犬がメスの場合、避妊について考えなくてはなりません。避妊手術はさまざまなトラブルを避けられますが、犬の体に悪影響を及ぼすリスクもあります。今回は、犬の避妊手術について、メリット・デメリットやタイミングなどを紹介します。避妊手術を受けるのか判断するために、ぜひ参考にしてください。
目次
- 犬の避妊手術でのメリット
- 犬の避妊手術でのデメリット
- 犬の避妊手術で防げる代表的な病気
- 避妊手術を受けるタイミング
- 犬の避妊手術方法
- 犬の避妊手術にかかる費用
- 犬の避妊手術後のケア方法
- まとめ
犬の避妊手術でのメリット
なぜ避妊手術を行うのか、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。愛犬に避妊手術を行う方が多いのは、犬にとってのメリットが多いためです。代表的なメリットには以下が挙げられます。
- 望まない妊娠やトラブルを防げる
- 病気の予防ができる
- 発情出血がなくなる
- 発情期の問題行動がなくなる
4つのメリットについて、ひとつずつ内容を紹介します。
望まない妊娠やトラブルを防げる
避妊手術をしておくと、犬の望まない妊娠や、ほかの犬とのトラブルを防げます。もし愛犬が妊娠しても、これ以上の数の犬を飼えない方も多いでしょう。多頭飼いが難しいなら、妊娠しないための対策が必要です。
メスの犬には、年に約2回の発情期があります。初回発情が訪れる時期の目安は次のとおりで、そのあとは6~10か月ほどの周期で発情が繰り返されます。ただし、以下の表はあくまでも目安であり、早くも遅くもなりえます。
小型犬 |
大型犬 |
生後約6~8か月 |
約1~2歳 |
発情期に未去勢のオス犬が近くに来ると、しつこく追い回されトラブルになるおそれがあります。避妊手術をしておくと、妊娠だけでなく、発情によるトラブルも防ぐことが可能です。
病気の予防ができる
避妊手術は、病気の予防ができることもメリットのひとつです。妊娠せず、避妊手術も行わない状態だと、年齢を重ねてから病気を発症するリスクがあります。
代表的な病気のひとつである乳腺腫瘍は、初回発情前の手術で、ほぼ100パーセントの予防が可能です。高齢になるとリスクが高くなる子宮蓄膿症も、避妊手術によって予防できます。愛犬の健康を守れる避妊手術は、大きなメリットがあるといえるでしょう。
発情出血がなくなる
発情出血がなくなることも、避妊手術によるメリットです。犬によっては出血が目立たないケースもありますが、基本的に発情期の2~3週間、陰部からの発情出血が続きます。血で部屋が汚れることもあるでしょう。
マナーパンツを着用すると汚れは防げますが、嫌がって脱いでしまう犬も少なくありません。発情出血がなくなると、飼い主にかかる負担を減らせるでしょう。
発情期の問題行動がなくなる
早い段階での避妊手術には、発情期の問題行動がなくなるというメリットもあります。発情期の犬は精神的に不安定です。精神的に不安定になると、犬が次のような問題行動を起こす場合があります。
- 怒りやすくなる
- 噛む
- 食欲が低下する
- 神経質になる
あとから避妊手術をしても、問題行動が残る可能性があるため、注意しなくてはなりません。問題行動を防ぐためには、初回発情前の避妊手術を検討しましょう。
犬の避妊手術でのデメリット
望まない妊娠や問題行動を防げる避妊手術ですが、デメリットもいくつかあります。手術に関するデメリットも把握しておきましょう。とくに大きなデメリットとして挙げられるのは、次の3つです。
- 妊娠できなくなる
- 肥満のリスクがある
- 全身麻酔によるリスクがある
3つのデメリットについても、それぞれ内容を紹介します。
妊娠できなくなる
避妊手術を受けた犬は、当然ではありますがその後は子どもを作れなくなります。愛犬と暮らしていくうちに「子どもを残したい」と思うようになる方もいるでしょう。そう思ったとしても、避妊手術を受けていると妊娠はできません。後悔しないよう、慎重に考えたうえで手術を受けるか決める必要があります。
肥満のリスクがある
肥満になりやすいことも、避妊手術を受けるデメリットのひとつです。卵巣を摘出すると、ホルモンのバランスが変わります。生殖機能がなくなるため代謝エネルギーが3割ほど減り、食欲が2割ほど増える仕組みです。食べる量が増えて消費量が減るため、どうしても太りやすくなってしまいます。
人間と同じように、犬の場合も、肥満は病気につながる要素のひとつです。そのため、避妊手術後はフードの見直しや量の調整を行う必要があります。避妊・去勢後の犬を対象としたフードも市販されていますので、獣医師と相談の上取り入れてみてください。
全身麻酔によるリスクがある
全身麻酔によるリスクも避妊手術でのデメリットです。避妊手術では、全身麻酔で開腹して、子宮と卵巣、あるいは卵巣のみを摘出します。手術によって命を落としてしまう確率は、残念ながらゼロではありません。
細心の注意を払って手術を行っても、麻酔薬に過敏反応を起こしてしまう犬もいます。パグ、ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリアなど短頭種全般は、気道閉塞にも注意が必要です。
手術後も犬の様子を注意深く観察して、異変が見られたら医師に相談しましょう。
犬の避妊手術で防げる代表的な病気
「病気が予防できる」と聞いて、犬の避妊手術に興味を持っている方も多いのではないでしょうか。犬の避妊手術で防げる代表的な病気は、次の2つです。
- 乳腺腫瘍
- 子宮蓄膿症
どのような病気なのか、参考として、それぞれチェックしてみましょう。
乳腺腫瘍
乳腺腫瘍は、乳腺にある組織の一部が腫瘍化してしこりができる病気です。避妊手術を受けていない犬のうち、約25パーセントが罹患します。良性・悪性の割合は以下のとおりです。
良性 |
約50パーセント |
悪性(手術で根治可能なもの) |
約25パーセント |
悪性(転移や再発の危険が高いもの) |
約25パーセント |
約75パーセントは手術での根治が可能ですが、犬には10個の乳腺があります。つまり、手術で乳腺腫瘍を除去しても、ほかの乳腺が腫瘍化するおそれがあるのです。初回発情前の避妊手術をしておくと、乳腺腫瘍の発症率は0.5パーセントまで抑えられると言われています。
子宮蓄膿症
子宮蓄膿症は、子宮内膜で細菌が増えて炎症が起き、膿が溜まる病気です。初期は目立った症状がないものの、進行すると次のような症状が見られます。
- 食欲不振
- 嘔吐
- 多飲多尿
子宮蓄膿症が悪化すると、腎不全や敗血症などの合併症を引き起こす可能性があります。また、膿が腹腔内に漏れ出すと短時間で死亡するおそれもあるため、危険な病気です。以下に該当する犬は、子宮蓄膿症にかかりやすい傾向があります。
- 避妊手術をしていない犬
- 子犬を生んだ経験がない犬
- 何年も子犬を生んでいない犬
高齢になると子宮蓄膿症のリスクは高くなりますが、避妊手術で子宮と卵巣を摘出すると予防が可能です。
避妊手術を受けるタイミング
避妊手術を受けるタイミングは、初回発情前の「生後6か月ごろ」が理想的なタイミングです。犬が幼すぎると、内臓が未発達で手術の難易度が高くなるうえに、体力面での心配もあります。しかし発情後では病気予防の効果が薄れてしまうため、初回発情前が手術を受けるタイミングの目安です。
ただし、初回発情のタイミングには個体差があります。手術を予定していても、その直前に初回発情が来てしまう場合もあるでしょう。初回発情が来たら、そのまま手術を受けることはできません。手術を延期することになるため、すぐ動物病院で相談してみましょう。
犬の避妊手術方法
犬の避妊手術方法には以下の2種類があります。
- 卵巣摘出術(卵巣のみを摘出する)
- 子宮卵巣摘出術(子宮と卵巣を摘出する)
このうち卵巣摘出術は、高度な技術が必要となるものの、手術痕が少なく泌尿器トラブルが少ない方法です。卵巣のみを摘出する手術でも、子宮疾患は予防できます。なぜなら、子宮疾患は卵巣からのホルモンの影響で発症するためです。
どちらの手術を行っているかは、動物病院によって違います。気になる場合は、手術を受ける予定の動物病院で確認しましょう。
犬の避妊手術にかかる費用
手術にあたって、どのくらい費用がかかるのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。メスの犬が受ける避妊手術の相場は、30,000円以上が目安です。ただし、費用は次のような要素で変動します。
- 犬の大きさ(体重)
- 犬の年齢
- 病気の有無
- 入院の有無
動物病院では愛犬の状態に合わせて目安の金額を教えてくれるので、事前に相談をしてみましょう。
犬の避妊手術後のケア方法
避妊手術では、術後のケアも大切です。愛犬が早く回復できるように、動物病院でも術後のケアについての説明が行われます。先生の指示に従い、飼い犬をしっかりとケアしてあげましょう。参考として、一般的なケア方法を紹介します。
手術翌日~1週間
避妊手術は全身麻酔での開腹手術となるため、1泊2日の入院で行われる方法が一般的です。術後の食事は普段どおりで問題ありませんが、処方された薬を正しく飲ませましょう。食欲がないようなら、フードをお湯でふやかしたり、ウェットフードを与えたりしてみてください。
また、炎症や化膿につながるため、傷口を濡らさないようにしましょう。ほかにも、犬が傷口を舐めないよう注意し、必要に応じてエリザベスカラーや術後服を活用してください。術後にすぐ激しい運動はできないので、ドッグランはNGです。散歩は走らずゆっくりと歩くようにしましょう。
抜糸後
傷口が塞がって抜糸をしたあとも、数日は患部を濡らさないようにしましょう。痛みによって、一時的に排泄がうまく行かなくなる可能性があります。排泄しない、がたがた震えているなど、普段と違う様子が見られる場合は、動物病院へ連れていき相談してください。まれに皮膚縫合糸に反応して炎症がみられることもあるため、抜糸後も注意して観察してあげましょう。
完全に傷口が塞がるまでは、シャンプーは控えましょう。どのタイミングでシャンプーができるようになるかは、動物病院で確認すると安心です。
まとめ
犬の避妊手術は、望まない妊娠や病気の予防などに役立ちます。ただし、避妊手術をしてしまうと繁殖はできません。また、手術を受けることで麻酔による事故が起こる可能性もあります。手術を受けるかどうかは動物病院で相談しながら、慎重に検討しましょう。