公開
往診専門るる動物病院、TNRののいちアニマルクリニック 所属。小動物臨床15年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組む。
愛犬の最期が近いと感じたとき、不安や悲しみでいっぱいになってしまうかもしれません。しかし、犬が亡くなる前に見せる行動や変化、決めておくべきことを知っておくと、落ち着いて対処できるでしょう。今回は、愛犬が最期を迎えるときの変化や虹の橋を渡るまでにできること、決めておくべきことを解説します。
目次
- 犬が亡くなる前に見られる行動の変化・身体の症状
- 最期を迎える犬に飼い主ができること
- 犬を看取る前に飼い主が決めるべきこと
- 飼い主のペットロス対策
- まとめ
犬が亡くなる前に見られる行動の変化・身体の症状
犬が亡くなる前は、次のような変化や行動が見られるケースが多いといわれています。
- 食欲が落ちる、もしくは食欲がまったくなくなる
- 食欲減退にともなう尿量の低下
- 寝ている時間が多くなる
- 死ぬ間際には意識レベルの低下
(強い刺激には反応するが、それ以外の反応が少なくなる、もしくは反応しない)
- 呼吸が不規則になる(浅い呼吸、短時間の呼吸停止、深く速い呼吸)
- けいれんのように手足をバタつかせる
- 下痢をする
- 少しずつ痩せてくる
- とぼとぼと歩くようになる
このような体調や行動の変化は、すべての犬に見られるわけではありません。病気を患っている場合、突然亡くなってしまうこともあるといわれています。しかし、突然亡くなってしまうケースにおいても、食が細くなることによって痩せてきたり、歩くペースが大幅にダウンしたりなど、少しずつ変化が見られることも十分にあります。日頃から愛犬の記録をつけたり、定期的に動物病院を受診して検査を受けたりすると、変化を見逃しにくいでしょう。
最期を迎える犬に飼い主ができること
愛犬が最期を迎えるとき、後悔がないよう限られた時間でできることをしたいと考える飼い主も多いでしょう。愛犬にとっても飼い主にとっても後悔がないように、愛犬と十分に触れあって会話を楽しむのはもちろん、体調が急変してもすぐに対応できるように事前準備をしておくのがおすすめです。
いつもと様子が違うときは動物病院に連絡を入れておく
犬は亡くなる前に、体調や行動に少しずつ変化が現れるのが一般的です。とくに命の灯火が消えかかっているときは、呼びかけにまったく応じなくなったり、急に夜鳴きが増えたりなど、顕著な変化を見せることがあります。このような状態に陥っているときは動物病院に連絡しておくと、容体が急変したときにスムーズに対応してもらえます。また、意識を失ったり、けいれんしたりしている場合は、動物病院で抗けいれん薬を処方してもらうこともできます。呼びかけしながらおさまるのを待つ方法もありますが、不安な場合は自己判断せずにかかりつけの動物病院に連絡して指示を仰ぐのがおすすめです。
最期が近いときはゆっくり過ごさせてあげる
最期が近くなったとき、愛犬の体は限界に近づいているため、薬や食事が大きな負担となってしまう可能性があります。獣医師から愛犬の最期が近いといわれたときは、投薬を続けたり、食欲がないからといって無理に食事を与えたりするのではなく、愛犬が最期を迎えるときまでゆっくりと過ごせる環境を作ってあげるのがおすすめです。
愛犬にとっても家族がゆったりと落ち着いた気持ちでいることは、安心感につながります。愛犬の最期が近づいて焦りや悲しみ、不安などの感情が湧き上がるのは当たり前ですが、残された大切な時間を愛犬とゆったり過ごしてみてください。
話しかけてなでてあげる
愛犬が最期の瞬間を迎えるまでは、話しかけながらなでるなど、体に負担がかからない範囲でたくさんスキンシップを取ってみてください。
シニア犬になると耳や目などの感覚器官の機能が弱まり、話しかけたりなでたりしてもほとんど反応がないことも少なくありません。また、最期が近づくと体力も落ちてしまうため、家族の声やスキンシップに反応する体力がないというケースもあります。
しかし、どんなに体の機能や体力が落ちても、家族の声や手のぬくもりは愛犬に伝わっています。やさしく話しかけながらなでてあげることで、愛犬も安心して過ごせるでしょう。愛犬が仲良くしていた犬の友人や、離れて暮らしている家族がいる場合は、できるだけ会ってもらうと愛犬がにおいや声に反応してくれるかもしれません。
犬を看取る前に飼い主が決めるべきこと
愛犬が最期を迎えると、悲しみや喪失感でなかなか行動が起こせないというケースも少なくありません。そのため、愛犬を看取る前に次の2つのことをあらかじめ決めておくと、愛犬を看取った後にやるべきことをしっかり行えるでしょう。
どのように看取るか
愛犬の最期が近いといわれたとき、まず決めておくべきことは延命治療をするかどうかです。延命治療を行うとしても、どこまで治療を行うのか獣医師とよく話しあって決める必要があります。また、自宅で看取るのか、病院で看取るのかといった看取る場所についても決めておきましょう。それぞれの特徴は次のとおりです。
- 病院で看取る場合:容体が急変してもすぐに対応してもらえるが、愛犬の最期の瞬間に立ち会えるかどうかわからない
- 自宅で看取る場合:暮らし慣れた環境でゆったりと最期を迎えられるほか、友人や犬の友達など会いたい人に会わせてあげられる
愛犬の体調や治療内容、最期の過ごし方を考慮して、看取る場所を検討してみてください。
葬儀の方法
後悔なく愛犬を見送れるように、愛犬が最期を迎える前に葬儀や火葬方法について複数の選択肢から検討しておくのがおすすめです。火葬は自治体の斎場やペット葬儀業者に依頼して行うのが一般的です。葬儀業者は予約制であることが多いので、依頼する場合は事前に連絡を取って確認しておきましょう。また、葬儀社によっては火葬前にお別れの時間を設けてくれたり、収骨の立ちあいができたりなど、それぞれサービスに違いがあります。葬儀をする・しないの判断とともに、葬儀をする場合、会場やご自身が希望するお別れの方法に寄り添ってくれる葬儀社を選ぶのがおすすめです。
遺すものと骨壺の種類
いざというときに慌てず、後悔の残らないように「毛を残しておくか」「首輪は保管しておくか」「遺骨は骨壺に入れるか」などを決めておくのもおすすめです。特に骨壺は、ペットの種類や年齢、大きさによって遺骨の大きさや量も異なるため、急な葬儀で葬儀屋さんにはサイズが合わない骨壺しかなかった、ということもあり得ます。
どのような種類の骨壺があるのか、どのサイズが目安か、事前に調べておくと安心です。
飼い主のペットロス対策
愛犬が虹の橋を渡ってしまったとき、大きな喪失感に襲われ、悲しみからなかなか立ち直れない飼い主も少なくありません。無理して日常生活を送ろうとすると知らず知らずのうちに心が限界を迎える可能性もあるため、悲しい気持ちを無理やり押し込めるのではなく、次のような対策を行ってみてください。
ペットとの思い出に浸り悲しむ
愛犬が亡くなると葬儀や遺品の整理など、やるべきことに追われて悲しむ時間が取れないという方も少なくありません。また、ペットを飼っていたことやペットが亡くなったことを職場などで公にしない方も多いため、悲しみを隠して日常生活を送る方もいるでしょう。しかし、愛犬が亡くなった事実としっかり向きあわないと、なかなか気持ちの整理ができません。愛犬が最期を迎えたら、忙しくても悲しむ時間を設けて、愛犬との思い出に浸ることで気持ちを整理しやすくなるでしょう。
また、ペットが使用していた物は思い出が詰まっているので手放しにくいですが、ペットの愛用品を手元においておくことで悲しみが長引く可能性もあります。決心できたら、ペットの愛用品をまとめて目につかない場所にしまうか、葬儀のときに火葬するのも一つの方法です。
誰かに気持ちを吐き出す
悲しい気持ちは誰かと共有することで楽になる可能性があります。話を聞いて受け止めてもらったり、自分の気持ちを正直に話すことで考えが整理できたりすることもあるのです。とくに愛犬のことをよく知っている家族同士で思い出を語ると気持ちがスッと楽になりやすいでしょう。また、愛犬のSNSアカウントを作っていた場合、SNS上で気持ちを打ち明けてみてください。同じ境遇の方や同じく愛犬と暮らしている方からコメントや反応をもらうことで、気持ちが落ち着くケースもあります。
きちんと供養する
愛犬とのお別れを葬儀という形で行うことで、愛犬が旅立った事実を受け止められるという方も多いです。一方で、葬儀を行った後にお骨を手元においておくことで、なかなか愛犬との別れを受け入れられないというケースも少なくありません。お骨をおさめる場所としてペット霊園のほか、人と一緒に眠れるお墓や納骨堂という選択肢もあります。自宅と離れた場所にお骨をおさめることによって、「愛犬に会いに行ける場所」としてお墓参りを前向きに捉えられるという利点もあります。また、定期的に足を運ぶと気分転換にもなるでしょう。
カウンセリングを受ける
「どうしても気持ちの整理ができない」「日常生活を送るのが難しい」といった場合は、カウンセリングを受けるのも一つの方法です。カウンセラーは話を聞くプロなので、話を聞いてもらうことで気持ちが楽になる可能性があります。また、友人や家族ではない第三者だからこそ、打ち明けやすいこともあるでしょう。悲しい気持ちを抑え込んで憂鬱な気分が長く続くと、うつ病などの精神疾患にかかるリスクがあるので、早めに対処するのがおすすめです。
また、最近では「グリーフケア」が獣医療でも注目されています。グリーフケアとは、ペットの死期が近いかもしれない喪失感、不安、死後の悲しみといった死別に関わる遺族のサポートをする医療分野です。愛犬の最期が近づいてきたら、ペットと一緒にグリーフケアのカウンセリングを検討してみてください。
まとめ
愛犬が旅立ってしまうことが現実的になったとき、なかなか受け入れられなかったり、悲しみが先立ってしまったりすることもあるでしょう。しかし、後悔せずに愛犬との残された時間を大切に過ごすためにも、愛犬が虹の橋を渡る前に決めておくべきこと、やっておくべきことがあります。おだやかに最期を迎えられるよう、家族にとっても愛犬にとっても最善の方法を見つけてみてください。