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酪農学園大学獣医学群獣医学類卒業後、動物病院勤務。小動物臨床に従事。現在は獣医鍼灸師の資格を得るために鍼灸や漢方を用いた中医学による治療を勉強中
犬が変わった座り方をしていると、面白くてつい写真におさめたくなる瞬間があるかと思います。しかし、犬の座り方が突然おかしくなった場合は、思わぬ病気のサインが隠れているかもしれません。病気の早期発見につなげるためにも、少しでも「おかしいな?」と感じたら動物病院を受診することが大切です。
そこで今回は、犬の座り方について徹底解説します。病気のサインの可能性がある座り方や、正しい「おすわり」のトレーニング方法も解説しますので参考にしてみてください。
目次
- 犬の座り方の種類
- 座っているときの様子からわかる、愛犬の気持ち
- おすわりのトレーニング方法
- 犬のお姉さん座りは病気のサイン?
- まとめ
犬の座り方の種類
人間にも「あぐらをかく」「足を組む」といった座り方の癖があるように、犬の座り方にも個体差があるものです。また、なかにはユニークな座り方をする犬種もいます。まずは、犬の座り方の種類をいくつかご紹介しましょう。
おすわり
おしりを地面にしっかりとつけ、前足を揃えて座っている状態です。食事を与える際など、「待て」とセットで「おすわり」を教えることも多いでしょう。「おすわり」のトレーニングをしておくことは、犬の気持ちを落ち着かせたり、突発的な行動をおさえたりするために欠かせないものです。散歩中やおでかけ中のトラブルを防ぐことができ、思わぬ事故から愛犬を守ることにもつながります。
お姉さん座り(横座り)
後ろ足を横にくずした座り方です。横座りやオッサン座り、セクシーポーズと呼ばれることもあります。ユニークで可愛らしいしぐさとして人気があり、SNSでも「犬が横座りしている写真」が多く投稿されています。
ジャック座り
ジャック・ラッセル・テリアには、犬好きの間で「ジャック座り」と呼ばれる、独特な座り方が見られることがあります。おしりが宙に浮くように、後ろ足をくずして座るのが特徴です。
座っているときの様子からわかる、愛犬の気持ち
座っているときの様子から、犬の気持ちを推し量れる場合もあります。そのときの気持ちが必ず反映されるとは限りませんが、ぜひ愛犬の様子をチェックしてみてください。
飼い主にくっつくように座る
犬が人間に背中やおしりをくっつけて座るのは、その人を信頼している証です。元来、野生の犬の群れでは、外敵から身を守るためにお互いの背中をくっつけて、死角をカバーしていたと言われています。そのため、犬が自分の背中を預けるということは、相手を信頼する気持ちの表れなのです。
また、飼い主の横にぴったりくっついて離れないのは、「甘えたい」という気持ちの表れと考えられています。なでてあげたり、遊んであげたりして、愛犬とのコミュニケーションの時間をたっぷりとりましょう。
そのほかには、犬が不安を感じたときにも、飼い主にぴったり寄り添うように座る場合があります。たとえば、大きな音がしたあとに飼い主のそばに寄って、体をぴったりくっつけてきた場合は、不安を感じている可能性が考えられます。犬が安心してリラックスできるよう、ゆっくりと体をなでてあげましょう。
飼い主から離れて座っている
犬が飼い主から少し離れた場所で座っている場合は、ひとりでのんびりしたい気持ちのときです。飼い主との生活に安心して、ゆったりくつろいでいると考えてよいでしょう。
また、犬が離れた場所で、なにもない一点を見つめているときは、聴覚や嗅覚でなにかの情報を集めている可能性もあります。犬の聴覚や嗅覚は非常に優れており、人間では感知できないさまざまな情報をキャッチすることが可能です。たとえば、家の外を通行人が歩いているとき、人間には足音が聞こえなくても、犬の耳にはしっかりと届いている場合があります。ほかにも、なにか興味をひかれることがあり、じっと耳を傾けている可能性もあります。
おすわりのトレーニング方法
「おすわり」がいつでも、どこでもできるようになると、以下のようなメリットを期待できます。
・外出先でのトラブルを防ぐ
・予期せぬ事故を防ぐ
・社会におけるマナーが身につく
・ほかのトレーニングがスムーズにできる
このように、「おすわり」は人間と犬が心地よく暮らすために欠かせないものです。そこで、ここからは正しい「おすわり」を身につけるためのトレーニング方法をご紹介します。トレーニング方法に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
用意するもの
「おすわり」のトレーニングをする際は、あらかじめフード(ごほうび)とリードを用意しておきましょう。
■フード(ごほうび)
おすわりが上手くできたときのごほうびとして、愛犬が好きなフードを用意します。トレーニング中はフードポーチなどに入れて、愛犬からは見えないようにしましょう。普段の食事+αでごほうびをあげ過ぎるとカロリーオーバーにつながるため、1日の栄養バランスを考えながら与える量を調整しましょう。
■リード
犬があちこち動き回れる状態だと、トレーニングが途中で中断されてしまいます。すると、トレーニングに時間がかかるだけでなく、集中力も持続しにくくなってしまうでしょう。そのため、トレーニング中はリードをつないでおき、愛犬が集中できる環境を整えることが大切です。
おすわりの教え方
「おすわり」のトレーニングは、以下の手順で行いましょう。
1.手のひらでフードを握り、犬にニオイを嗅がせて手に意識を集中させる
2.グーの手をそのまま上に持ち上げ、犬が上を向くように誘導する
3.自然とおしりが床についたら、フードを与えて褒める
4.1~3がスムーズにできるようになったら、フードのニオイを嗅がせる前に「おすわり」と声をかけるようにする
なお、「おすわり」ができたときに大げさに褒めると、犬が興奮して座った姿勢を維持できなくなってしまう場合があります。首や胸をなでながら、落ち着いたトーンで褒めるとよいでしょう。
トレーニングがうまくいかないときの対処法
「おすわり」のトレーニングがうまくいかないときの対処法をご紹介します。
すぐにフードに飛びついてしまう
フードを握った手に犬がすぐに飛びついてしまう場合は、犬が立ち上がっても届かないくらい高い位置まで上げてみましょう。その際、犬とのアイコンタクトが遮られないよう、自分のアゴの下あたりに手を持ってくるのがおすすめです。
家の外だとおすわりができない
犬にとっては家の外は刺激が多いため、なかなか意識を集中させづらいものです。まずは玄関や窓際などからはじめて、だんだんと家の外の環境に慣らしていくとよいでしょう。
フードがないと「おすわり」しない
愛犬が「おすわりをするとよいことがある」と思えるような、別のごほうびを用意しましょう。おもちゃで遊ぶ、たくさん褒めるなど、フード以外のごほうびがあることを覚えてもらうことが大切です。
犬のお姉さん座りは病気のサイン?
愛犬がお姉さん座りをしていても、あまり心配しすぎる必要はありません。基本的には、ただ単純に「座りやすいから」という理由で後ろ足をくずしている場合や、その子の座り方の癖である可能性が高いでしょう。
ただし、犬の座り方が突然変わった場合は、なんらかの病気のサインが隠れている恐れがあります。実際に、獣医師は病気を診断する際に、犬の座り方をチェックすることがあるため注意が必要です。
ここからは、犬がお姉さん座りをしている場合に疑われる病気や、病気を見分けるためのポイントをご紹介します。
疑われる病気
お姉さん座りのように、犬が後ろ足をくずして座る場合は「股関節形成不全」が疑われます。また、後ろ足を外に流すような姿勢でおすわりする場合は、「前十字靭帯の問題」の可能性を考えることが多いでしょう。そのほか、お姉さん座りをしている場合は「膝蓋骨脱臼」や「関節リウマチ」の可能性も考えられます。
疑われる病気 |
詳細 |
主な治療法 |
股関節形成不全 |
関節のまわりの骨が変形し、炎症を起こしてしまう病気。70%が遺伝的要因で発症すると考えられており、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどに多い。腰を振るように歩いたり、横座りになったりする。 |
内服薬や体重管理などの内科療法を進める。症状によっては股関節の手術をする場合もある。 |
前十字靭帯の問題 |
腿と脛の骨をつなぐ膝関節にある靭帯が脆くなると、ある日突然断裂してしまう場合がある。遺伝的な要因が大きいと考えられており、後ろ足をひきずるなどの症状が表れる。 |
全身麻酔の致命的なリスクがない場合は、手術が推奨される。そのほか、補助的に内服薬や体重管理などの内科療法を進めることもある。 |
膝蓋骨脱臼 |
いわゆる「膝の皿」と呼ばれる骨が脱臼し、外れてしまった状態。「足をぴょこぴょこ上げて歩く」「足をかばうように歩く」などの症状が見られる。 |
軽度であれば、膝に負担がかからないよう生活していれば自然と治ることも多い。抗炎症作用のある薬や、関節炎の予防薬などを処方されるケースが一般的。ただし、症状がひどい場合は手術をすることもある。 |
関節リウマチ |
自己免疫の異常によって、自分自身の関節を「外敵」とみなして攻撃し、炎症を起こしてしまう疾患。関節に痛みや腫れなどの症状が表れるほか、発熱や食欲低下が起こる場合もある。 |
放置すると症状が進行していくので、定期的な通院で症状や痛みをコントロールする。服薬と食事療法が中心の治療を行う。 |
病気かどうか見分けるポイント
基本的には、犬が後ろ足をくずして座っていても、あまり心配しすぎる必要はありません。ただし、もともとは普通に座っていたのに、急にお姉さん座りをするようになった場合や、「足をひきずる」「痛がる」「歩き方がおかしい」などの症状に該当する場合は、一度動物病院を受診してみましょう。
とくに、大型犬は股関節の問題が起こりやすい傾向があるため、注意が必要です。子犬のころから正しくおすわりができない場合も、念のため獣医師に相談するとよいでしょう。
犬のお姉さん座りは止めるべき?
座り方は、犬の個性のひとつです。成長するにつれて、姿勢や座り方に左右差や癖があらわれるのは、ごく自然なことと考えてよいでしょう。「急に座り方が変わった」「足をひきずっている」などの気になる点がなければ、とくに止めさせる必要はありません。
ただし、上記のような症状がある場合は、一度動物病院を受診してみましょう。座り方や歩き方におかしな点はないか、普段から愛犬の様子を注意深く観察することが、病気の早期発見につながります。
まとめ
足を組んだり、広げて座ったりする人がいるように、犬にもそれぞれ座り方の癖があります。そのため、単純に「座りやすいから」という理由で足をくずしている場合は、座り方を治す必要はありません。
ただし、突然座り方がおかしくなったり、痛がるそぶりを見せたりする場合などは、なんらかの病気のサインが隠れていることもあります。普段から愛犬の様子に目を配り、少しでも「おかしいな?」と感じるところがあれば、動物病院に相談しましょう。