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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
ポップコーンといえば、映画館やテーマパークで定番のおやつです。ポップコーンの歴史はかなり古く、紀元前3600年前ごろからポップコーンを食べていた痕跡がアメリカ、ニューメキシコ州の遺跡から見つかっています。
人間から長きにわたって愛されているポップコーンが、犬のおやつとしても優秀であることはご存じでしょうか。スナック菓子に分類されるポップコーンはジャンクフードと思われがちですが、原料がトウモロコシなので栄養素が豊富に含まれています。
特に食物繊維や鉄分、ビタミンB群、ミネラル群がバランス良く含まれており、疲労回復や腸内環境の改善に効果的だと言われています。さらにカロリーも低いため、おやつとして優秀です。ただし、与える種類や与え方に注意点があります。今回は、愛犬へのポップコーンの与え方について解説します。
目次
- 犬にポップコーンを与えても大丈夫?
- 犬に与えてはいけないポップコーン
- 犬にポップコーンを与えるメリット
- 犬にポップコーンを与える際の注意点
- まとめ
犬にポップコーンを与えても大丈夫?
ポップコーンの原材料はトウモロコシです。トウモロコシは胚乳に含まれる成分の違いから、いくつかの品種に分類されますが、ポップコーンに使われているトウモロコシは「爆裂種(ポップ種)」という品種です。
爆裂種のトウモロコシの特徴は皮が硬く、加熱すると内部の水分が膨張します。その圧力によって皮が破裂してポップコーンとなります。私たちがゆでて食べているトウモロコシはスイート種と呼ばれる品種で皮が柔らかいため、ポップコーンにはなれません。
ポップコーンはトウモロコシにアレルギーがない犬であれば、与えても大丈夫です。ただし、人間用のポップコーンをおやつとして与えると、塩分やカロリーの過剰摂取となりますのでおすすめできません。愛犬に与えるときは、無着色、無塩、ノンオイルの犬用ポップコーンを与えましょう。犬が好むチーズ味などの犬用のポップコーンも販売されていて、オンラインでも簡単に入手できます。
ポップコーンの代表的な栄養素
◆ ポップコーン(可食部100gあたり)
栄養素 含有量
エネルギー 472kcal
たんぱく質 8.7g
脂質 21.7g
炭水化物 54.1g
食物繊維 9.3g
※参考資料:八訂 食品成分表 2022
その他の栄養素
◆ ビタミン
「ビタミンE」はポップコーン100gあたり3mgと豊富に含まれています。また、「ビタミンA」「ビタミンB1」「ビタミンB2」「ナイアシン」「ビタミンB6」「葉酸」「パントテン酸」なども含まれています。
◆ ミネラル
ミネラルの一種である「鉄」は、ポップコーン100gあたり4.3mgと豊富に含まれています。また、「ナトリウム」「カリウム」「カルシウム」「マグネシウム」「リン」「亜鉛」「銅」なども含まれています。
犬に与えてはいけないポップコーン
以下のポップコーンは人間用のものですので、愛犬に与えてはいけません。
人間用に味付けされたもの
塩、キャラメル、カレー、しょうゆバターなど、人間向けには多種多様なフレーバーのポップコーンが販売されています。これらの味が付いたポップコーンは、塩分や糖分が多く含まれます。犬にとっては過剰摂取となりますので、愛犬の健康を害する可能性があります。
特にチョコレートがまぶしてあるポップコーンは、絶対に与えてはいけません。ご存じの通り、チョコレートも犬に与えてはいけない食べ物です。チョコレートの主原料であるカカオ豆には「テオブロミン」という苦味成分が含まれています。人間が食べた場合には、リラックス効果やダイエット効果があるとされていますが、テオブロミンを体内で分解する能力が低い犬が食べると中毒症状を引き起こします。マカダミアナッツ、チョコレート、カカオパウダーを使用したお菓子やアイスクリーム、飲み物などの誤飲、誤食にも気をつける必要があります。
販売されている犬用のポップコーンであれば、こうした不安はありません。ブロッコリー、カボチャ、ビーフなどの味や香りが付いているものがありますし、手作りする時間を、愛犬と遊ぶ時間にあてることもできます。価格は30~50gで300~400円、未調理品なら100gで100円程度です。
調味料や油を使って手作りしたもの
乾燥トウモロコシからポップコーンを手作りする場合は、調味料を使わずに作ってあげてください。また、油を使わないことも大切です。油を使うと、脂質の過剰摂取となります。主食となるペットフードにも脂質が入っているため、おやつに油が染み込んだポップコーンを与えてしまうと肥満や下痢、高脂血症などの原因になるでしょう。
ノンオイルのポップコーンを作る場合は、ポップコーンメーカーを使えば、乾燥トウモロコシを入れるだけで焦げのないポップコーンが仕上がります。また、電子レンジで作ることも可能です。作り方は、乾燥トウモロコシをマチのある封筒や紙袋に入れて口を折ります。700Wのレンジで4~5分加熱すると、乾燥トウモロコシが弾けてポップコーンがどんどん作られていきます。袋の中から弾ける音がしなくなったところで完成です。
茶色く硬い部分があるもの
ポップコーンの茶色く硬い部分は消化が悪いため、取り除いて与えるようにしましょう。胃腸の弱い犬もいますので、消化の悪い部分を食べて下痢や嘔吐をしてしまったら、栄養を吸収することもできません。同じ理由から大量に与えないようにしましょう。おやつとして少量を与える程度にしてください。
犬にポップコーンを与えるメリット
ポップコーンに含まれる成分は、犬の健康にどんな良い影響をもたらすのでしょうか。代表的なメリットを4つ紹介します。
疲労回復
ポップコーンに含まれる栄養素は「鉄分」「ビタミンB1、B2、B6」「ナイアシン」「葉酸」「パントテン酸」などです。これらの栄養素は、皮膚や粘膜を健康に保ちますし、生命活動を行うためのエネルギーを作り出します。愛犬の元気がないときや、夏バテなどでぐったりしているときにポップコーンを与えるとエネルギー不足を補ってくれます。
ポリフェノールの摂取
ポップコーンには「ポリフェノール」や「ビタミンE」が豊富に含まれています。植物に含まれるポリフェノールには、強い抗酸化作用があります。
生活習慣病の予防
ポップコーンには、全粒穀物という炭水化物が含まれています。様々な栄養素がバランスよく含まれているため、高血圧や動脈硬化といった生活習慣病を予防する働きがあります。
腸内環境改善
ポップコーンには食物繊維が豊富に含まれています。食物繊維は便秘を解消して腸内環境を整えてくれます。体重が増えてコレステロールや血糖値の上昇が気になる犬におすすめのおやつです。ただし、犬は食物繊維を消化吸収できないため、摂りすぎには注意しましょう。消化不良から下痢や便秘になってしまいます。ポップコーンを与えた翌日は、愛犬の便が緩くなっていないかを確認しましょう。便が緩くなっていたら、与える量を減らして様子を見てください。
犬にポップコーンを与える際の注意点
ポップコーンの成分は犬の健康に良い影響があるものの、過度な量を与えるとかえって体調を崩してしまう可能性もあります。ここでは、犬にポップコーンを与えるときの注意点を紹介します。
1日の食事量の10%程度
ペットフード公正取引協議会の指針によると、犬のおやつは「原則として1日当たりの給餌量(カロリー)に対して、多くても20%までに抑えることが望ましい」としています。ただし、ポップコーンは炭水化物や脂質が多く含まれているため、他のおやつと併せて1日の食事量の10%程度にしておいたほうが良さそうです。
◆ 体重あたりの目安量
超小型犬(3kg):ポップコーン5.5g
小型犬(5kg) :ポップコーン7.8g
中型犬(10kg):ポップコーン13.3g
大型犬(30kg):ポップコーン22.5g
初めて与えるときはアレルギーに注意
ポップコーンを初めて与える際にはアレルギー反応が出る可能性があります。トウモロコシアレルギーを持っている犬は少なくありません。特に消化器官が完全ではない子犬にアレルギーが多く見られます。そのため、少量ずつ与えて、愛犬の様子に異変がないかを確認しながら増やしていくようにしましょう。もし、以下のようなアレルギー症状が出た場合は、できるだけ早く動物病院に連れていってください。愛犬が何にアレルギーを持っているか調べてもらったことがないのであれば、動物病院に連れていって詳しいアレルギー検査をしておくと良いでしょう。
◆ アレルギー症状
下痢や嘔吐がある
発疹が出る
目が充血する
身体をかゆがる
元気がない
食欲がない
細かくしてから与える
ポップコーンの一粒は、人間にとっては食べやすい大きさですが、身体の小さな犬にとっては食べにくいサイズです。もともと犬は、食べ物をほとんど噛まずに丸飲みする性質がありますし、ポップコーンは乾いているおやつですので、のどにひっかかって詰まらせてしまう可能性があります。ポップコーンを与えるときは、食べやすいサイズに細かくしてから与えるようにしましょう。その際に茶色く硬い部分を取り除いてください。
なお、犬が喉に詰まらせた場合は、犬はむせて咳をし、吐き出そうとします。その際は、大至急動物病院に連絡して窒息を防ぐ指示を仰ぎ、動物病院に連れていってください。口コミサイトの情報は誤った情報が散見されており、真似るのは危険です。たとえば「塩を大量に飲ませる」という対処法が見られますが、塩を大量に飲ませて吐かなければ高ナトリウム血症を発症して死亡する場合があります。「オキシドールを飲ませる」といったことも、胃炎や胃潰瘍などの健康被害を受ける恐れがあります。「身体をゆさぶる」といった行為も、愛犬の命を危険にさらしますので絶対にやめましょう。
まとめ
ポップコーンは愛犬にとって栄養満点のおやつです。愛犬に与えるときは、市販されている無着色、無塩、ノンオイルの犬用ポップコーンを与えれば、手間もかかりませんし、量に気を付ければ安心できる栄養豊富なおやつとして重宝します。ポップコーンを小型犬に与える際は、喉に詰まらせることのない食べやすいサイズにしてあげると、安全におやつの時間を楽しめるでしょう。なお、アレルギー反応が出る可能性がありますので、まだかかりつけの動物病院を決めていない場合は、緊急時に冷静に対応できるよう、近所の動物病院を調べておくと安心です。夜間や休診日で近所の動物病院を受診できない場合がありますので、その際に連れていける24時間対応の動物病院や動物救急救命センターを決めておくこともおすすめします。