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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
のびっぱなしの愛犬のひげを切ってもいいものか、悩んだことはありませんか? 猫とは違い、犬のひげは切ってもいいという声もありますが、切らない方がいい犬や切る際の注意点も多くあります。今回は動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生に伺った、犬のひげを切るメリットやデメリットなどについて解説します。
目次
- 犬のひげはどんな役割をしているの?
- 健康的な犬のひげとは?
- 犬のひげを切っても大丈夫?
- 子犬のひげは切っても大丈夫?
- シニア犬のひげは切っても大丈夫?
- ひげを切らない方がいい犬種は?
- 犬のひげを切ることのメリット・デメリットは?
- 犬のひげをカットする方法は?
- 犬のひげを切る際の注意点とは?
- 犬のひげは切ってもまた生えてくる?
犬のひげはどんな役割をしているの?
犬のひげは、基本的に身体をおおっている体毛よりも太く、奥の方から生えています。ひげの根本の周りには、神経や血管があります。
犬のひげは、ただ生えているだけではなくさまざまな役割があります。空気の流れを読んだり、動物を捕まえるときや食べ物を見つけるときに場所や動きを判断したりするほか、空間の幅や物との距離を測る、身体の傾きのバランスを調整する、気分を表現するなどです。
犬と猫のひげの役割の違い
猫は上下移動を得意とし、犬より空間認識など状況を把握するためにひげに頼ることが多いと言えるでしょう。実際に、ひげが触れると狭い場所を通らなかったり、食事や水のお皿を使いたがらない猫もおり、敏感にひげからの情報を察知していることがうかがえます。 一方、犬は社会的な動物です。犬は犬同士の微妙な表情の変化に気づく能力があります。ひげを含む口周りの変化は情動を反映することから、コミュニケーションには顔の表情も重要であると考えられます。
健康的な犬のひげとは?
健康的な犬のひげは、表面がツルツルで、ピンとしています。色は白、黒、茶色など、個体や生えている場所により違います。顔周辺に白髪が増えるとひげも白くなるため、シニア犬で白いひげが増えるのは、老化のサインのひとつです。
犬のひげには、枝毛ができることもあります。これは、自分で引っ掻いたり、どこかで擦ったりしたために起きます。時々、または何本かが枝毛になっている分には気にする必要がありませんが、いつもたくさんの枝毛があるようなら、身体に支障が出ているかもしれません。かかりつけの動物病院で確認してもらいましょう。
犬のひげを切っても大丈夫?
飼い主さんと一緒に普段どおりの生活をする場合は、犬のひげを切ることで、大きな不安を感じたり、怪我をしたり、健康を害したりすることはないでしょう。ただし、老化や病気などで他の感覚機能(視覚、聴覚、嗅覚など)が低下したり欠如していたりするとき、うっかり外に逃げ出してしまったとき、外を広く走り周るときなどには、ひげの感覚が役に立つことがあるかもしれません。
また、ちょっとした気分の変化や不安をひげが表現していることがあります。切っても大丈夫かの最終判断は、犬の年齢、体質、性質、状況を踏まえて飼い主が判断することになります。迷う場合は、かかりつけの獣医師に相談してください。
子犬のひげは切っても大丈夫?
子犬はまだ他の感覚機能や運動機能が発達していません。また、新しい生活環境に慣れない間や飼い主との信頼関係や絆が強くない間は、切らないことをおすすめします。
子犬期は、犬同士の遊びを通じてコミュニケーションを学ぶことが推奨されるため、ドッグランなどで激しい遊びをする機会も多いでしょう。そういったときに、ひげはコミュニケーションの手助けもしているのです。
シニア犬のひげは切っても大丈夫?
病気が増え、感覚機能や認知機能が低下するシニア期にはひげは切らないことをおすすめします。いつから切らない方が良いのかという厳密な年齢はありません。こちらも、犬の様子を見ながら判断しましょう。
実験的な調査では、犬は6~8歳の時点で認知機能が低下を始めているという報告があります。まだ認知機能の低下が顕著ではないことから、飼い主が気づいていないケースがほとんどです。病気などが少しずつ増えてくるのもこの時期からです。注意深く犬の様子を見守り、身体検査を定期的に受けるなど体調を把握しながら判断してください。
ひげを切らない方がいい犬種は?
特定の犬種で切らないほうが良いというものはありません。ですが、視力や聴力、嗅覚や平衡感覚の低下などを伴う病気にかかっている場合は、切らない方が良いでしょう。また、何らかの病気で不安が高まっている間も切らないことをおすすめします。
口の周りの皮膚に炎症があったり、怪我をしたりしている場合には、獣医師のアドバイスを受けてください。口の周りを触ることを嫌がる犬、怖がりの犬も、無理にひげを切ることによって顔まわりが触れなくなる可能性があるので、切らない、または少しずつ慣らしながら切ったほうがいいでしょう。
犬のひげを切ることのメリット・デメリットは?
メリットとしては、人、飼い主から見た美容の効果が最も大きな目的と言えます。品種の持つスタイルを維持するためにひげをカットする犬種もあるようです。
一方のデメリットとして、犬のひげは感覚器としての役目も果たしていますので、ひげを切ると、犬からすれば突然感覚を遮断されたような気になるかもしれません。そうすると、違和感や不安を与えてしまう可能性があります。
犬のひげをカットする方法は?
トリマーや獣医師など、プロにおまかせしましょう。犬のひげは太いため、よく切れるハサミで丁寧にカットする必要があります。飼い主が自分でカットしようとすると、犬が動いてしまったときに、皮膚や舌、目を傷つけてしまうかもしれません。
犬のひげを切る際の注意点とは?
ひげの周辺は敏感に感じる場所。一度嫌な経験をすると、その後も口の周りを触られるのを嫌いになってしまい、飼い主との関係を壊す可能性もあるので、十分に注意が必要です。
また、犬のひげの根元には、神経や血管があります。犬のひげが床に落ちていることがありますが、あれは自然に抜けたものです。犬のひげを抜くのは絶対にやめておきましょう。
カットをしたい場合には、信頼できるトリマー・グルーマーにお願いしてみてください。どうしても飼い主自身でカットしたい場合は、いつもお願いしているトリマーやグルーマーに相談してみると良いでしょう。
犬のひげは切ってもまた生えてくる?
犬のひげは、他の被毛と同じように一定の周期で生え変わっています。白いひげが生えた後に、黒いひげが新たに生えてくることもあるくらいです。そのため、「カットに失敗してしまった」「犬のひげを切ってみたけどイメージと違った」という場合にも、少し時間をおけば今のひげが抜けて新しいひげが生えてくるので安心してください。
第2稿:2021年8月20日更新
初稿:2021年4月22日公開
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