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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
犬の歯は、生きることそのもの。成犬の8割が歯周病にかかっていると言われるほど、歯の問題は大きいものです。できれば、子犬のうちから歯磨きを始めたいですよね。でも「いつから歯磨きを始めたらいいの?」「嫌がって歯磨きをさせてくれなかったらどうしよう」「そもそも歯磨きってどうやるの?」などと、次から次へと疑問が湧いてくるのではないでしょうか。
歯ブラシを使った歯磨きは、少しずつ慣れさせていけばできるようになります。嫌がる場合は、歯ブラシ以外のデンタルケアグッズで対応できます。今回は、歯磨きを始めるタイミングや歯磨きのやり方、嫌がるときの対処法などを解説します。
目次
- 子犬の歯磨きはいつから始めるか
- 子犬の歯磨きの重要性
- 子犬の歯磨きのやり方
- 子犬が歯磨きを嫌がったときは
- まとめ
子犬の歯磨きはいつから始めるか
犬の乳歯は全部で28本、永久歯は全部で42本です。乳歯は生後20日ごろから生え始め、生後5~8週目までに生え揃います。生え揃った乳歯は、生後4か月ごろから抜け始め、生後7か月ごろまでに永久歯に生え替わります。歯磨きを開始するタイミングは、永久歯が生え揃ったころではなく、乳歯が生え始めたころです。ご自宅にお迎えして新しい住環境に慣れたら、できるだけ早い段階で歯磨きに慣れさせてしまいましょう。
子犬の歯磨きの重要性
乳歯が生え始めた子犬には、なぜ歯磨きが必要なのでしょうか。主な理由2つを紹介します。
歯周病にかかる恐れがあるため
子犬のうちから歯磨きを始めることの重要性は、若いうちから歯周病を発症する可能性があるからです。犬は歯の形や唾液のpHが人とは違うので虫歯になりにくいようです。しかし、犬の唾液は弱アルカリ性であることから、人の約5倍のスピードで歯垢が歯石に変わると言われています。子犬も例外ではなく、歯磨きをしなければ歯垢や歯石がつきます。歯垢や歯石は、雑菌を繁殖させます。「子犬のうちは歯石も口臭もないから大丈夫」と思って歯磨きやデンタルケアをしないでいると歯周病になるリスクが高まりますのでご注意ください。
歯周病とは、細菌によって口腔内で起こる炎症の総称で、歯肉がはれる「歯肉炎」と、歯を支える歯周組織が壊れる「歯周炎」に分けられます。「歯肉炎」は治療をすれば治ると言われていますが、「歯肉炎」が悪化すると「歯周炎」になります。「歯周炎」は治療による完治が難しいと言われている病気です。「歯周炎」が重症化すると、鼻炎や下顎が骨折したり、目の下がはれる根尖膿腫が起こったり、細菌が血液で運ばれて心臓、肝臓、腎臓など内臓の病気を引き起こしたりする可能性があります。
新しいことを柔軟に受け入れるため
子犬は新しいことを柔軟に受け入れることができる時期ですので、歯磨きに慣れさせやすいタイミングでもあります。永久歯が生え揃った後に初めて歯磨きをしようとすると慣れるまでに時間がかかってしまいますので、子犬を迎えた飼い主はできるだけ早く歯磨きのトレーニングを始めて、習慣化してください。
子犬の歯磨きのやり方
最初は歯ブラシでゴシゴシ歯磨きをするというよりも、口の周りや口の中を触られることに慣れてもらいましょう。シートタイプの歯ブラシや、犬が好む味つけがされている歯みがきジェルを指につけて、少し歯を触ったりすることから始めるのも良いでしょう。ただし、歯と歯の間の歯垢をしっかり取ることを考えれば、やはり歯ブラシを使うことが理想的です。歯ブラシに慣れさせることを優先的に考え、歯ブラシを使うときにはご褒美がもらえるという習慣をつけていけば、愛犬は「歯ブラシの時間は楽しい!」と思ってくれるでしょう。歯ブラシをするときは、以下の流れで段階的に慣れさせることをおすすめします。
歯磨きのステップ
▼ 口元にタッチする
最初から口の中に手や歯ブラシを入れると、犬は驚いて「嫌なことをされた!」と感じてしまいます。そのため、まずは口元を触ってすぐにおやつを与えましょう。口元を触られると「良いことがある!」と学んでくれます。「せっかく歯を磨いたのにおやつをあげるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、犬はおやつをほとんど噛まずに丸飲みしますので、口腔内の環境にさほど影響を与えません。飲み込みやすいように、おやつは小さいサイズにちぎって与えてください。
▼ 唇、歯茎、歯と段階的にタッチする
口元のタッチに慣れたら、唇をめくってみてください。めくったらおやつを与えます。次に、歯茎をタッチしておやつ、歯にタッチをしておやつを与えます。焦らず段階を踏んでいきましょう。
▼ 口の中に指を挿入する
今度は少し奥まで指を挿入して、すぐにおやつを与えます。愛犬が嫌がらなければ奥歯にも触ってみてください。なお、口の中に手を入れる時は、愛犬が怖がらないように優しく声を掛けながら行いましょう。
▼ 歯磨きシートで歯を磨く
口の中に指を入れても大丈夫であれば、指に歯磨きシートやガーゼを巻き付けて、歯の表面をこするように磨いてみます。前歯から奥歯に向かってこすっていき、愛犬が嫌がらなければ歯垢のつきやすい奥歯を丁寧に磨いてください。
▼ 歯ブラシに慣れさせる
今度は指ではなく、歯磨きペーストをつけた歯ブラシを、愛犬の口にあてていきます。歯茎にあてて嫌がらなければおやつ、歯にあてておやつ、歯の表面を磨いておやつという流れで警戒心を解いていきます。次は口の中に歯ブラシが入っている状態を1秒、2秒と少しずつ延ばしていきます。
▼ 歯ブラシで歯を磨く
歯に45度の角度で歯ブラシをあて、前歯の外側から奥歯に向かって磨きます。汚れがたまりやすい奥歯や歯と歯茎の間は丁寧に磨きましょう。奥歯を磨かれることを嫌がるかもしれませんが、その場合は1箇所磨くたびに褒めたりおやつをあげたりしてゆっくりと慣らしていきましょう。
歯磨きの頻度
歯磨きの頻度は、毎日がベストです。前述の通り、人間の5倍のスピードで歯垢から歯石に変化すると言われているからです。朝晩歯磨きをしたいところですが、飼い主さんの義務になってしまうと楽しそうな雰囲気がつくれないので、愛犬も「歯磨きは楽しくないものだ」と覚えてしまう可能性があります。
毎日の歯磨きが難しい場合は3日に1回の頻度で大丈夫です。前歯、右側、左側を3日に分け、短時間ですべての歯をケアしてください。そのうちに慣れてきて、毎日でも歯磨きをさせてくれるようになるでしょう。
飼い主さんの感情を愛犬は敏感に察知しますので、くれぐれも義務感が漏れ出さないようにしてください。「歯磨きはスキンシップ」と考えて、愛犬と向き合いましょう。そうすれば、愛犬にとって歯磨きの時間が、飼い主と過ごす楽しい時間になります。
子犬が歯磨きを嫌がったときは
最初から歯磨きを喜ぶ犬はいません。以下で紹介するちょっとした工夫が、歯磨きを受け入れてくれるキッカケになります。焦らず時間をかけて、歯磨きトレーニングをしていきましょう。
デンタルケアグッズの活用
犬にとって美味しいと感じる味つきの歯磨きペーストやジェルが市販されています。それを舐めさせて愛犬が好きな味を見つけてください。また、歯ブラシ以外のデンタルケアグッズもたくさん市販されています。具体的には、歯ブラシよりも小さい「歯磨き綿棒」をはじめ、弾力があって歯を傷つけない「歯磨きガム」、万が一飲み込んでも排出されやすいラバー製やナイロン製の「歯磨きおもちゃ」、口の中にスプレーするだけの「歯磨きスプレー」、手にじゃれつかせながら歯磨きができる「歯磨き手袋」などです。愛犬にとって無理のないケアグッズを活用してみてください。
リラックスしているタイミングを選ぶ
一緒に遊んだ後や食後など、子犬も飼い主もリラックスしたタイミングで歯磨きを行えば、スキンシップの延長として受け入れてもらいやすくなります。また、散歩から帰った後や、嗅覚を使っておやつのありかを探し当てる「ノーズワーク」に集中した後など、ちょっと疲れたタイミングで歯磨きをすると、受け入れてくれる場合もありますので試してみてください。
長時間の歯磨きはしない
「しっかり磨かなくちゃいけない」と思うと、時間をかけて磨きたくなるかもしれません。それでは愛犬も飼い主も疲れてしまいます。もともと苦手意識のある歯磨きに長い時間耐えることになってしまったら、愛犬はますます歯磨きが嫌いになるでしょう。たまに長時間磨くよりも、短時間の歯磨きを毎日継続することのほうが大切です。「1日1本磨けたらOK!」という気持ちで、歯磨きに慣れさせていきましょう。毎日磨けば歯垢がたまりませんので、口臭を防ぐことができます。飼い主が歯磨きに慣れていないうちは、ひとりよりふたりでやるほうが短時間で済みます。ひとりに愛犬の口を広げてもらいましょう。
それでもダメなら動物病院
愛犬がどうしても嫌がる場合は、歯周病の痛みがあるからかもしれません。定期的に動物病院で歯の状態をチェックしてもらい、歯のクリーニングや歯石除去を行うのも一つの手です。奥歯や歯の裏などの自宅では磨きにくい部分も磨けますし、歯石がつくことを防止できます。ただし、歯石除去の際に痛みで暴れる可能性があるので全身麻酔で行うことになります。歯石を除去すると歯の表面がザラつきますので、歯の表面を研磨して歯石がつきにくくする処置も行います。平均的な処置時間は約1時間です。
まとめ
子犬のころから歯磨きを始めれば歯磨きに慣れてくれやすいですし、歯磨きを習慣化すれば歯周病を防ぐことができます。歯周病になると歯を失う可能性もありますので、できれば毎日、最低でも3日に1回の頻度で歯磨きをしてあげてください。愛犬が嫌がる場合は、歯磨きガムや歯磨きスプレーなどの便利グッズを活用するという選択肢もあります。歯を守ることは、健やかに生きることですので、歯磨きの習慣化を目指しましょう。