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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
ナッツ類には、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピーナッツ、クルミ、アーモンド、ピスタチオなど、色んな種類があります。一般的に「犬が食べてもいいナッツ」「犬が食べてはいけないナッツ」の線引きがされていますが、そこには賛否両論があり、食べていいのか悪いのか判断しにくい情報が出回っています。
今回、取り上げるカシューナッツも、食べていいのか悪いのか、判断が割れるナッツのひとつです。ワンクォール編集部の見解は、中毒を引き起こすマカダミアナッツは「犬が食べてはいけないナッツ」、カシューナッツを含むナッツ類は「意図的に与えないナッツ」。その理由を解説します。
目次
- 犬がカシューナッツを食べたときは要注意
- カシューナッツに含まれる栄養素
- ナッツ類が犬の健康に与える悪影響
- マカダミアナッツを与えるのは絶対にNG
- 犬にとって危険なナッツ類の摂取量
- 犬がカシューナッツを誤食した場合の対応方法
- まとめ
犬がカシューナッツを食べたときは要注意
ナッツ類の中でも「カシューナッツ」をはじめ、「クルミ」「アーモンド」「ピスタチオ」は中毒を引き起こした事例がありません。そのため「犬が食べてもいいナッツ」に分類されることが一般的です。
しかし、ナッツ類は脂肪分が多く高カロリーですし、犬にとって消化しにくく胃に負担がかかる食べ物です。特に人間用に塩や油で味付けされたナッツは、脂質やカロリーの過剰摂取につながって肥満になる可能性があります。塩分の摂りすぎも、腎臓に負担をかけます。犬は体重1kgあたり2g以上の塩分を摂ると、中毒症状を起こす可能性があるとも言われています。そのため、意図的に与えることを避けたほうが賢明です。
カシューナッツに含まれる栄養素
カシューナッツには、身体の機能を正常に保つためのミネラルや、細胞を活性化するためのビタミンなど、さまざまな栄養素が豊富に含まれています。ただ、ここで注目してほしいのが「脂質の高さ」です。
カシューナッツの栄養素(100gあたり)
エネルギー 576 kcal
タンパク質 19.8g
食物繊維 6.7g
脂質 47.6g
飽和脂肪酸 9.97g
一価不飽和脂肪酸 27.74g
多価不飽和脂肪酸 8.08g
カルシウム 38mg
リン 490mg
鉄 4.8mg
カリウム 590mg
マグネシウム 240mg
銅 1.9mg
亜鉛 5.4mg
ビタミンB1 0.54mg
ビタミンB2 0.18mg
ビタミンk 0.028mg
ナイアシン 0.9mg
パントテン酸 1.32mg
葉酸 0.013mg
※参考資料:カシューナッツ – 日本ナッツ協会
ナッツ類が犬の健康に与える悪影響
カシューナッツを含む多くのナッツ類には中毒症状を起こす成分は含まれていないものの、犬が誤食すると健康を害するリスクがあります。主な症状は以下の3つです。
肥満
カシューナッツで中毒症状を起こした事例はありませんが、前述の通り脂質が豊富で高カロリーです。ナッツの1粒あたりのカロリーは9kcalほどですので、数粒食べただけでも犬が1日に必要とするカロリーをやすやすと超えてしまいます。そのため、肥満になりやすく、高脂血症、脂質異常症、膵炎を引き起こす可能性があるでしょう。また、人間用に塩で味付けされたナッツは、心臓病や腎臓病を重症化させる恐れがあります。
消化不良
脂肪が多いナッツ類を、犬はうまく消化できません。消化に悪いカシューナッツを食べ過ぎれば胃腸に負担がかかり、下痢や嘔吐を引き起こします。また、食物繊維は便秘の解消につながると言われますが、カシューナッツに含まれる食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維です。不溶性食物繊維は、保水力が高く、胃や腸で水分を吸収して膨らみ、便の量を増やしたり、腸を刺激したりします。不溶性食物繊維が適量であれば便秘の解消に役立ちますが、摂りすぎると便の水分を奪って便秘になってしまいます。
呼吸困難や腸閉塞
犬は人間のように丁寧に食べ物を咀嚼せず、ほとんど丸飲みしてしまいます。ナッツは一粒の大きいものが多いので、丸飲みすると喉に詰まって呼吸困難に陥るリスクがあります。また、ナッツ類は水で膨張しやすいので、大量に食べてしまうと腸に詰まって腸閉塞を起す可能性もあります。腸閉塞になると、緊急手術をしてナッツを取り出さなければなりません。放置すれば死に至ります。
マカダミアナッツを与えるのは絶対にNG
ナッツ類の中でも、マカダミアナッツは犬に絶対に与えてはいけません。その理由を解説します。
中毒成分が含まれている
マカダミアナッツは、犬に絶対に与えてはいけないナッツです。マカダミアナッツには中毒成分が含まれていますので、命を落とす可能性があります。しかも、その中毒成分がなんであるかはまだ解明されていません。また、マカダミアナッツは一粒が大きいので、喉に詰まらせたり、腸に詰まって腸閉塞を起したりするリスクも高いでしょう。
中毒症状は12時間以内に表れる
中毒症状が表れるまでの時間は個体によりますが、1時間ほどで全身症状が見られることもあれば、12時間経った頃に吐いて気付くこともあります。マカダミアナッツを食べてから症状が出る時間帯は6~24時間とされていますが、おおむね12時間以内に筋肉に力が入らない中毒症状が表れるようです。
<マカダミアナッツの中毒症状>
- 立ち上がって歩けない
- 横になって動かない
- 元気や食欲がない
- 嘔吐をする
- 身体が震える
- 熱がある
- 関節痛
お菓子にもよく使われる
マカダミアナッツは他のナッツ類と混ざったミックスナッツとして商品化されていますし、チョコレート、クッキー、ケーキなどのお菓子にも使われています。与えるつもりがなくても犬が口にする危険が多いナッツと言えます。特に、チョコレートと一緒になったマカダミアナッツは大変危険です。
ご存じの通り、チョコレートも犬に与えてはいけない食べ物です。チョコレートの主原料であるカカオ豆には「テオブロミン」という苦味成分が含まれています。人間が食べた場合には、リラックス効果やダイエット効果があるとされていますが、テオブロミンを体内で分解する能力が低い犬が食べると中毒症状を引き起こします。マカダミアナッツ、チョコレート、カカオパウダーを使用したお菓子、アイスクリーム、飲み物などの誤食や誤飲にもご注意ください。
犬にとって危険なナッツ類の摂取量
ナッツ類は犬にとって良くない食材であることは分かりましたが、どのくらいの量を食べると危険な症状を引き起こすのでしょうか。中毒成分が含まれるマカダミアナッツと、その他のナッツ類の危険だとされる摂取量についてまとめました。
マカダミアナッツの危険な摂取量
マカダミアナッツによる犬の死亡例の報告がないため、具体的な致死量はわかっていません。
マカダミアナッツの誤飲に気づいたら、動物病院を受診してください。マカダミアナッツ中毒の治療は、まず薬で吐かせる処置を行います。その後、重症の場合は痛みがあれば鎮痛剤、高熱が出ていれば解熱剤、吐き気のある場合には制吐剤を投与するなどの支持療法を行います。ほとんどの場合では無処置であっても、症状が出てから12~48時間以内には改善されていくようです。
カシューナッツを含むナッツ類の危険な摂取量
カシューナッツや他のナッツ類において中毒症状を起こす量や症状が出るまでの時間は、個体によって異なるようです。もともと中毒症状を起さないナッツと言われていますので、危険があるとすれば一粒が大きいため、喉に詰まらせて窒息するリスクや、脂質を摂りすぎて生活習慣病になるリスクのほうが高いでしょう。
犬がカシューナッツを誤食した場合の対応方法
犬がカシューナッツを口にしてしまった場合、飼い主はどんな対応をしたらいいのでしょうか。自宅でできる応急処置と、動物病院に相談するときのポイントを紹介します。
無理やり吐かせない
もし、口の中にカシューナッツが残っている場合は、愛犬がびっくりしないように騒いだりせず冷静に取り除いてください。すでに飲み込んでしまったカシューナッツを無理に吐かせることは絶対にやめましょう。喉に詰まらせたり、気管に入ったりするため、かえって危険です。
なお、口コミサイトなどで、いろいろな吐かせ方が紹介されていますが、誤った情報が散見されるため安易に行わないでください。たとえば「塩を大量に飲ませる」という対処法が見られますが、塩を大量に飲ませて吐かなければ高ナトリウム血症を発症して死亡する場合があります。「オキシドールを飲ませる」といったことも健康被害を受ける恐れがあります。「身体をゆさぶる」といった行為も、愛犬の命を危険にさらしますので絶対にやめましょう。
動物病院に連れていく
カシューナッツの誤食に気づいたら、動物病院を受診してください。動物病院に連れていく前に電話で連絡を入れて愛犬の様子を伝えておくと、応急処置のアドバイスをもらえますし、診療もスムーズに進みます。「犬種」「体重」「年齢」「既往歴」「飲んでいる薬」「いつどれくらいの量のカシューナッツを食べたのか」「どんな症状がどのぐらいの時間続いているのか」「喉に詰まらせてないか」「意識はあるのかないのか」などの情報を整理して、獣医師に愛犬の様子を具体的に伝えるようにしましょう。
もし、夜間や休診日でかかりつけの動物病院に行けない場合は、診療時間を待たないでください。24時間対応の動物病院や動物救急救命センターを探して、電話で診察を依頼してください。こうした場合に冷静に対応できるよう、予め夜間対応をしてくれる動物病院を見つけておくと安心です。
まとめ
カシューナッツは、健康リスクを考えると与える必要のない食べ物です。テーブルやキッチンに置きっぱなしにしていたカシューナッツを誤って食べてしまう場合は多いと思いますので、犬がいたずらできない場所にしっかり保管するようにしましょう。もし、下痢や嘔吐などの症状が見られたら、すぐに動物病院に連れていってください。症状がなくても誤食に気づいたら、動物病院を受診しましょう。喉に詰まらせている可能性がありますし、後々命に関わる症状が出てくる可能性もあります。愛犬にはずっと元気でいてほしいですから、「念のため」を大事にしましょう。