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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
低血糖とは、生命活動に必要不可欠な、血液中の糖分が不足する病気です。人間が低血糖になると、けいれんや手足の震え、意識障害などの症状が見られます。低血糖になった犬も人間と同じように、後足の麻痺やけいれんなどを引き起こし、できるだけ早く治療をしなければ、昏睡状態に陥ります。今回は「低血糖とはどんな病気なのか」から「症状」「原因」「なりやすい犬」「応急処置」「治療方法」「予防方法」まで詳しく解説します。
目次
- 犬の低血糖とは
- 低血糖になった犬の症状
- 犬が低血糖になる原因
- 犬が低血糖になった際の対応
- 犬が低血糖にならないための予防方法
- まとめ
犬の低血糖とは
低血糖とはそもそもどんな状態を指していて、犬が低血糖になることでどんな危険があるのでしょうか。
低血糖とは
血糖とは、血液中のブドウ糖のことです。ブドウ糖は、脳などの中枢神経系のエネルギー源となり、身体中の細胞を働かせる役割を担っています。血液中のブドウ糖の量を血糖値と言いますが、低血糖は血糖値が基準値を下回っている状態を指します。
低血糖になるリスク
「頭を使った後は甘いものが食べたくなる」と人間はよく言いますが、これはブドウ糖が不足すると脳の機能に問題が発生するからです。低血糖になった犬は、明らかに行動や見た目に異常を感じます。人間と同じように元気がなくなってぐったりし、発作や運動失調といった命に関わる危険な状態になっていきますので早急な治療が必要です。
低血糖になりやすい犬種
チワワやトイ・プードルなどの超小型犬や小型犬が低血糖になりやすいと言われています。身体が小さいほど熱の放出量が多くなって体温が下がりやすくなります。体温を維持するためにはたくさんのエネルギーを小まめに補給しなければなりません。そのため、血糖値が低下しやすい傾向があります。
低血糖になった犬の症状
低血糖になった場合の症状としては、元気がなくなり、あまり動きたがらなくなります。大好きな散歩に行くことを喜ばない様子があれば、低血糖の可能性があるでしょう。症状が進むと、ふらつき、けいれん、発作、嘔吐、失禁、下痢、震えなどの症状が出てきます。また、脈拍数が多くなったり、体温が下がったり、昏睡状態に陥ったりする場合もあります。こうした異変が見られたら、緊急で動物病院に連れていってください。
血糖値の基準値と症状
犬の血糖値は通常60~111mg/dLの範囲で保たれており、血糖値が60mg/dLを下回ると低血糖と判断されます。個体差がありますが血糖値が40~50mg/dLを下回ると症状がでることが多いようです。低血糖になった場合、以下のような症状が見られます。
症状(一例)
脈拍が速くなる
身体が震える
舌が白くなる
よだれが出る
嘔吐する
下痢する
身体の体温が下がる
足元がふらつく
目が見えにくくなる
ぐったりして動かない
けいれんが起きる
意識障害(呼びかけに反応しない)
犬が低血糖になる原因
犬が低血糖になる原因は、年齢、犬種、持病などによって特徴があります。ここでは、「子犬」「成犬」「シニア犬」「超小型犬・小型犬」「母犬」「糖尿病の犬」「人口甘味料を摂った犬」について、原因を詳しく解説します。
子犬
生後3か月程度の子犬は、ブドウ糖(グリコーゲン)を肝臓や筋肉に貯める機能が充分ではないため、低血糖になりやすいようです。余分なブドウ糖はグリコーゲンへ変換され、肝臓や筋肉に貯えられます。空腹になると血糖値が下がって、貯められていたグリコーゲンをブドウ糖に分解してエネルギーとして使い、血糖値を正常に戻します。子犬ではこのように血糖値を安定させる機能を発揮しづらいのです。
また、身体をちょこちょこ動かす子犬は、熱が発散されて体温が下がりやすくなってしまいます。体温を維持するために多くのエネルギーが必要です。さらには、子犬は寒さや移動のストレスを受けやすく、ストレスを感じるとブドウ糖の消費も促進されます。消化器の吸収機能も未発達で消化管に寄生虫が感染しやすく、栄養の吸収を阻害することもあります。
こうした理由から、子犬はエネルギーをこまめに補給しなければなりません。一方で身体が小さいので、一度にたくさんの食事を摂ることは難しいという問題もあります。食事の間隔が6時間~12時間ほど空いてしまうだけで低血糖になる場合がありますので、1日の食事量を少量に分け、回数を増やして与える工夫が必要です。
また重度の感染症や、門脈体循環シャントなどの先天性な肝臓の疾患でも低血糖をおこすことがあります。
成犬
成犬の場合は、さまざまな疾患の合併症として低血糖の症状が表れるようです。たとえば、すい臓の腫瘍「インスリノーマ」が挙げられます。これは、血糖値を低下させるインスリンというホルモンが過剰に分泌されることで、強い低血糖状態を引き起こします。
その他、副腎から出るホルモンが少なくなってしまう病気「副腎皮質機能低下症(アジソン病)」をはじめ、肝臓の機能不全や、腫瘍、重度感染症など他の疾患との併発が主な原因です。
また、激しい運動による低血糖を認める場合もあると報告されています。
超小型犬・小型犬
チワワやトイ・プードルをはじめとする超小型犬・小型犬は、子犬同様に身体が小さいことから、熱が発散されやすく体温が下がってしまいます。脂肪が少ないので必要なときにエネルギーとして使えるブドウ糖の蓄えも多くありません。体温を維持するためには多くのエネルギーが必要となりますので、こまめに食事を摂って必要な栄養をとりこむ必要があります。
母犬
母犬に必要なカロリーは、妊娠していないメス犬と比較して1.5倍と言われています。赤ちゃんを産む前後はストレスが溜まりますし、大量授乳によってたくさんのエネルギーが奪われます。低血糖を起しやすい状態にありますので、高カロリー食を与えましょう。
糖尿病の犬
糖尿病の治療にはインスリンが使われますが、何らかの理由で想定よりも強く作用して低血糖になる場合もあります。この場合は、健康な犬の血糖値より数値が高くても、低血糖状態になることがあるので注意が必要です。犬の体重が変化したことによって、インスリンの適正量が変わってしまった可能性があります。
人工甘味料を摂った犬
犬の年齢や犬種に関係なく、低カロリーの人工甘味料であるキシリトールは、犬にとって毒性が強く、急激な低血糖を起こす危険があります。キシリトールは、人間の糖尿病患者が治療に利用していますが、犬に与えてはいけません。
犬が低血糖になった際の対応
愛犬の異変に気付いたら、すぐに動物病院に連れていってください。動物病院まで遠かったり、休日だったり、予約がとれない場合は、迷わず応急処置をしてください。なにもせずに放置すると発作が起きてしまい、死亡する可能性があるため、迅速な対応が必要です。
応急処置
応急処置の方法は、糖分を与えることです。自力で食事がとれるようであれば少量の食事を複数回に分けて与えてください。食事が食べられない場合は、砂糖水もしくはガムシロップを用意し、愛犬に舐めさせましょう。自力で舐めることができない場合は、口の横から少量ずつを垂らすように与えれば大丈夫です。もし、けいれんや発作が起きている場合は、歯茎や粘膜に塗り込みます。意識障害がある状況で口の中に手を入れると噛まれる危険性があるので注意してください。
注意点は、気管に入らないように与えることです。飲ませようとする必要はありません。飲ませようとして気管に入ってしまうと、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。誤嚥性肺炎とは、異物に付着した細菌が肺の炎症を引き起こす病気です。急激に症状が悪化して突然死を起すこともありますので非常に危険です。応急処置をした結果、症状に変化がない場合も、症状が改善した場合も、できるだけ早く動物病院に連れていって、獣医師の治療を受けてください。
治療方法
犬の意識がしっかりある場合は、ブドウ糖を口から投与します。意識がないなど口からの投与が難しい場合は、ブドウ糖を静脈に注射します。また、血糖値を上げるステロイド剤を注射する場合もあります。食事ができるまで回復したら、炭水化物の食事やブドウ糖を1日複数回に分けて与えます。もし、低血糖の原因となる疾患がある場合は、その治療も同時に行います。
犬が低血糖にならないための予防方法
犬の低血糖を防ぐために、普段の生活でどんなことに気をつけたら良いのでしょうか。
空腹にさせない
1日に与える食事量は、体重によっておおよそ決められています。その量を守りつつ、食事やおやつ1回の量を減らして、与える回数を増やしましょう。愛犬が空腹にならない状態を保てば、低血糖を予防することができます。
栄養価の高いフード
超小型犬や小型犬、母犬は多くのエネルギーを必要とします。エネルギーが不足すると低血糖になりやすいため、栄養価の高いフードを選んで与えてください。
ストレスを避ける
寒すぎる環境や移動によって、愛犬にストレスを与えることも低血糖の原因となります。そうならないように室温に気を配り、ストレスがかからない住環境をつくってあげてください。
感染症に気をつける
寄生虫や感染症などの消化器系疾患によって栄養の吸収を阻害されたり、体力を消耗したりすると、低血糖になる場合があります。そのため、定期的に寄生虫の駆虫やワクチン接種を行いましょう。
定期健診を受ける
成犬の多くは腫瘍をはじめ、重度の感染症や肝疾患で体力が低下すると低血糖を併発する可能性が高くなります。定期健診を受けて、これらの病気の早期発見と早期治療に努めましょう。
まとめ
血液中のブドウ糖は、愛犬の生命活動に必要不可欠です。ブドウ糖が不足して低血糖の処置が遅れると、愛犬の命を奪う危険な病気です。愛犬の異常に気づいたら、すぐに動物病院に連れていってください。
低血糖症の初期症状は、元気がなくなって食欲が低下します。ふらつくような歩き方をすることや、消化器官の機能が鈍くなって下痢や嘔吐をすることもあります。さらに症状が悪化すると、けいれんが起き、昏睡状態に陥ってしまいます。初期症状の段階で、愛犬の異変に気づけるように、日頃から愛犬の様子をよく観察しておきましょう。