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愛犬をドッグランに連れて行ったとき、他の犬から離れてポツンとしていることはありませんか? また、散歩中に他の犬がやってきたら、吠えたり唸ったり動けなくなったりすることはないでしょうか。それは、愛犬が他の犬を苦手としているからかもしれません。たとえ犬同士でも、すぐに仲良くなれるとは限らず、時にはトラブルが発生することも。他の犬が苦手になってしまう理由や克服する方法などについて、ヤマザキ動物看護大学で動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に解説していただきます。
目次
- うちの子は犬嫌い?こんな仕草に要注意!
- 愛犬が犬を苦手な仕草を見せたとき、飼い主はどう対処すべき?
- 犬が他の犬を苦手になってしまうのはなぜ?
- 愛犬の犬嫌いは克服させるべき?他の犬を苦手だと、どんなトラブルが発生する?
- 愛犬の犬嫌いを克服させる方法は?
- 他の犬が苦手な犬の注意点は?
うちの子は犬嫌い?こんな仕草に要注意!
「犬同士はすぐに仲良くなれる」と思いがちですが、必ずしもそうとは限りません。中には、他の犬と接することが苦手な犬もいます。
その一因が、パーソナルスペースです。人間と同じように、犬たちにもパーソナルスペースがあります。犬によってその広さは異なりますが、相手にそれ以上踏み込んでほしくない距離があるという考え方です。他の犬が嫌いな犬は、このパーソナルスペースが広い傾向にあり、その根底には相手への恐怖心があると考えられています。
例えば、次のような行動や仕草を見せたら、他の犬への恐怖心の表れかもしれません。
他の犬に唸る
他の犬に唸るのは、威嚇のサインです。威嚇は、実際の攻撃の前に見られる仕草のこと。攻撃の徴候を見せて、相手を遠ざけたいという気持ちの表れです。距離が縮まると、この唸り声はより大きくなっていきます。やがて我慢の限界を超えて近づかれると、突然攻撃に出ることも。自分の身を守りたい気持ちから、攻撃的に振舞っていると考えられます。
他の犬に吠える
相手の犬への「それ以上近づかないで」という警告の場合は、唸り声や背中の毛を逆立てるといった威嚇行動が伴います。威嚇行動を無視されて相手が近づくのをやめなかった場合、興奮が高まって全身を使って吠え続けるようになります。
他の犬を見て動けなくなる
犬には、素早く動く物に注目してしまうという習性があるため、相手に対して消極的なときには動かなくなります。また、体をできるだけ低くしたり、目を逸らして体の側面を見せたりする仕草は最大限の服従を示していて、相手との衝突を避けたいという心理が働いています。
他の犬から逃げる
飼い主の後ろに回ったり、相手が近づいてくる方向とは反対の方へ行きたがったりする場合は、相手にそれ以上近づかれることに怯えています。過去に怖い経験をしたことを覚えているため、回避したい気持ちがあるのではないでしょうか。あるいは、相手が何なのかわからずに怯えているというケースもあります。
他にはこんな行動も
飼い主の足にしがみつこうとしたり、抱っこをせがんだりすることもあります。いずれも、その場から離れて安心したいという気持ちの表れです。過去に同じような状況で抱っこされて快適だったことを覚えているのでしょう。
急に体を掻く、地面の匂いを嗅ぐ、あくびをする、口の周りを舐めるという見過ごしがちな行動も、犬の気持ちを表わすサイン。近づく犬に対する不安や葛藤を感じているときに見せる、「転位行動」である場合があります。
愛犬が犬を苦手な仕草を見せたとき、飼い主はどう対処すべき?
愛犬が他の犬を苦手とする場合、以下のような対処を取るといいでしょう。
他の犬に吠えたり唸ったりしないよう、回避する
「犬に向かって吠えたら、その犬が遠ざかった」という経験を重ねると、犬は「吠えたら追い払えた」と誤解してしまいます。何度も繰り返すうちに習慣化してしまうため、そうなる前に吠えることをやめさせなくてはいけません。そのためには、犬よりも先に飼い主が他の犬を見つけ、愛犬の注目を引きつつ、相手との距離を保ったまま回避することが重要です。その際、おやつやおもちゃを使うと効果的でしょう。おやつに注目している限りは褒め続け、「おやつを見たら褒められた」という認識をつけていきます。慣れるまで、回避に徹底するのが得策です。
犬が他の犬を見ても吠えなかったときに褒める
他の犬を見ても吠えないようにするには、吠えなかったときに褒めることが重要です。吠えたり唸ったりしているとき、犬は不安や葛藤を感じています。飼い主から叱られると、不安定な気持ちがさらに悪化する懸念も。吠えたからといって、叱責や体罰を行うのは厳禁です。
確実に犬の注目を引くためには、日ごろから「お座り」「待て」といった号令の練習をしておきましょう。これらの号令を使うことで、犬はそれまでの行動を中断することができます。号令に従ったときにしっかり褒めれば、犬に不安を感じさせずに吠えるのを止めることができます。
他の犬に会わないよう散歩の時間やコースを変える
散歩の時間帯を変えたり、散歩コースを犬の少ないルートに変えたりするのもおすすめです。下手に他の犬と出くわすと、「吠えたら相手が遠ざかった」という逆効果の学習が積み上げられてしまうかもしれません。他の犬の存在に飼い主が先に気づけるよう、細くて込み入った路地は回避して、広い公園や直線の道路を選びましょう。そして、他の犬を見かけた場合は、引き返したり、側道へ誘導するなどして、相手の犬との距離を取るようにしましょう。
また、散歩中に他の犬と出会った場合、犬を抱っこするのはNGです。目線が相手より高くなるため、犬が勇気づけられて余計に吠えることにつながってしまいます。また、相手の犬がつられて興奮し、愛犬に飛びかかることも考えられます。抱かれた犬は逃げ場がないので、怪我を負うことにもなりかねません。
おやつを与えて愛犬の気をそらす
注目を相手の犬から飼い主へと引き戻すには、大好きなおやつの力を借りるのがおすすめです。おやつを見ている間は褒め続けましょう。相手の犬に目線を送らないよう、時々おやつを口に入れてあげると集中が継続しやすいでしょう。
リードを引いて、犬の動きを封じるのはNG
見知らぬ犬とすれ違うとき、近づきすぎないようにとリードを引っ張って動きを封じたくなりますよね。でも、この行動はNG。飼い主として犬の危険行為をコントロールしなくてはという気持ちがあるのは良いことですが、引っ張られた犬は喉が締まったり、拘束されている感覚が高まるため、かえって緊張が高まり、その状況を嫌な記憶として残してしまいます。リードでコントロールするのではなく、号令とおやつなどのご褒美で行動を管理しましょう。
犬が他の犬を苦手になってしまうのはなぜ?
犬が他の犬を苦手になる理由は、幼い頃の経験や記憶、遺伝が大きいと考えられています。1つずつ解説します。
社会化の失敗
生後2週目から12週目の子犬は、母犬や兄弟犬とともに過ごすことで、周りの犬との接し方を学んでいきます。一緒に遊んだり喧嘩ごっこをしてみたりというふれあいを通じて、相手の犬がどのように行動するのか、予測する力を養っていくのです。血縁関係のない他の犬とのふれあいは、脳に活発な刺激を与え、新しいことへの順応性が高める効果も。その結果、相手の不意の行動にも驚かなくなっていきます。逆に、この時期に他の犬とふれあうことなく育つと、相手の行動を予測できず、怯えたり攻撃的になったりすることがあります。
過去のトラウマ
大きな犬に追いかけまわされるような経験をすると、その犬に対する恐怖の記憶が一般化して、他の似たような犬も怖くなってしまうことがあります。
遺伝
見知らぬ犬や人を警戒する傾向は、母犬から遺伝する可能性が高いという研究結果があります。例えば男性や子どもに対する特定の属性に対する恐怖ではなく、見知らぬ人すべてを怖がる犬は、生みの親から怖がりの遺伝子を引き継いでいる可能性があります。犬を飼い始めるときには、その犬の両親がどのような性質か聞いておくと良いでしょう。
愛犬の犬嫌いは克服させるべき?他の犬を苦手だと、どんなトラブルが発生する?
犬の犬嫌いを放っておくと、トラブルが発生する恐れもあります。特に注意が必要なのは、距離が近すぎる関わりです。犬が相手に近づかれすぎて逃げられない場合、恐怖心から攻撃的に振る舞い、自分の身を守ろうとする可能性があります。相手の犬を連れた見知らぬ人、特にお子さんへの攻撃が起こると重大事に発展しかねません。
そのため、愛犬の犬嫌いが疑われる場合は、獣医師や専門家に相談することをおすすめします。恐怖のレベルを測り、自宅でできるトレーニングを教えてくれたり、改善のために投薬が必要かどうかについて提案してくれたりするでしょう。ドッグトレーナーによる出張トレーニングが推奨される場合もあります。
愛犬の犬嫌いを克服させる方法は?
犬嫌いを克服させるにあたり、体罰は厳禁です。専門のトレーナーや優しい犬の力を借りると良いでしょう。
専門のドッグトレーナーやコーチに依頼する
問題行動が目立つ場合、専門のドッグトレーナーやコーチにトレーニングを依頼するのもおすすめです。号令トレーニングは、吠える、唸る、噛もうとするといった問題行動をやめさせて、犬の緊張の一部を和らげるのにとても役立ちます。飼い主の号令に従うと褒められたりおやつがもらえたりするという嬉しい経験は、見知らぬ犬に近づくときのネガティブな気持ちを打ち消しやすいようです。
優しい犬とふれあわせる
優しい犬とふれあうことで、徐々に犬に慣れさせるのも効果的です。おすすめの相手は、成犬で落ち着いた雰囲気のメス犬。まず、相手の犬の飼い主に確認を取り、近づいてもいい場合は、犬が吠えないくらい十分に距離があるところからふれあい練習を始めていきます。
ふれあい練習は、まずアイコンタクトや「お座り」の号令で犬を落ち着かせて、徐々に距離を近づけていきます。吠えていなければ、褒め続けてあげましょう。犬同士の雰囲気が良いうちに、手短に切り上げることも大切です。
飼い主も緊張を解く
散歩中に他の犬を見つけたとき、飼い主のほうが緊張することもあるでしょう。でも、その緊張は犬にもすぐに伝わり、犬も一緒に緊張してしまいます。その結果、警戒心が高まり、吠えたり唸ったりという問題行動も起こりやすくなるのです。
ですから、飼い主も「号令をかければ、犬はいつでも自分に従うから大丈夫」と自信を持って行動できるようにしましょう。そのためにも、自宅などの落ち着いた環境で、十分に号令のトレーニングを積んでおくことが大事です。
他の犬が苦手な犬の注意点は?
他の犬が苦手な犬の飼い主は、愛犬の気持ちに沿って対応するよう心がけてください。他の犬を避けようとするなら、愛犬に従って別の道を進めば良いでしょう。見知らぬ人が愛犬に挨拶して良いかどうか尋ねてきても、「すみません、うちの子は他の人が苦手なのです」と丁寧にお断りし、そのまま立ち去るくらいの気持ちがあっていいと思います。