転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

※全3話でお届けする、散歩中に起きたトラブル。第2話では、家族が犬に噛まれた際の状況と、その後の対応についてお伝えします。
相手のいる出来事のため、記事にするか迷いました。しかし、すでに解決していること、そして犬と暮らしていれば誰の身にも起こりうる出来事であることを踏まえ、当時の対応や反省点を振り返ることにしました。
なお、プライバシーに配慮し、実体験をもとに一部の設定や表現を再構成しています。同様のトラブルが起こらないことが一番ですが、万が一起きてしまった際に、この経験が少しでも参考になれば幸いです。
目次
- 犬に噛まれたけがは、健康保険がきかない?
- SNSで飼い主を発見。しかし、言い出せなかったこと
- ハンバーグを前に届いた、突然の電話
犬に噛まれたけがは、健康保険がきかない?
夫を待つ車中、噛んだ犬の飼い主の連絡先を知る方法を考えていた私。
あの場にいた人たちのうちの誰かは、連絡先をご存知だろうか。
夕方の散歩で、手当たり次第に聞いてみる?
でも、それではトラブルがあったことを吹聴することになってしまうし……。
ご近所に住んでいるなら、動物病院もこの辺だろうし、聞いてみる?
いや、患者の情報を教えてはくれないよね。
うーーーん……
と、そこに病院内にいる夫からメッセージが届いた。
「ごめん。現金、ある? たぶん足りないんだけど……」
財布を手に病院に入り、待合室にいた夫に一万円札を渡すと、「犬に噛まれた怪我は、健康保険がきかないんだって」
え、そうなの⁉︎
そう、そうなんですよ。みんな、知ってました?
私は、生まれてこのかた、たくさんの犬と暮らしてきたのだけれど、お恥ずかしいことに存じ上げませんでした。
他人の飼い犬に噛まれたけがは、健康保険上の「第三者行為」にあたる。健康保険を使える場合もあるが、加入している健康保険への届け出など、所定の手続きが必要になる。私たちはこのとき、医療機関の窓口で治療費の全額を支払うことになった。
十割負担で、消毒や縫合、点滴に加え、破傷風の予防接種も受けたのだから、手持ちの現金では足りなくなることもあるよね……。
(ちなみに夫は、医師の指示により、後日もう一度、破傷風の予防接種を受けることになった)
偶然今まで重大なトラブルに見舞われずにきたから、知らずに済んでいたということ。
負担額は、今後数回の通院までを考えると、正直、こちらに非がないのなら払いたくないなと思う金額となっていた。
やはり、どうにかして相手の連絡先を知りたい……。
SNSで飼い主を発見。しかし、言い出せなかったこと
また車に戻った私は、ふと思いついて、SNSで検索をかけてみた。
#犬の名前
#近くの川の名前
すると、い、いたーーーー!!
スマホの画面に並ぶ写真は、確かに今朝夫を噛んだ犬で、いつもの公園での写真も何枚も載っている。マメなかたらしく、頻繁に更新されていた。
間違いない!!
すぐさま、SNSからメッセージを送る。
早めに見てくれますように……という思いが届いたのか、数分後にはメッセージが返ってきた。
私は、飼い主として自治体の担当窓口に咬傷事故の届け出をする必要があること、犬を速やかに動物病院へ連れて行き、必要な検診を受けてほしいことを伝えた。
今すぐ対応してくれるということだったので、ひとまずは安心したが、治療費のことについては、一度目のメールでは伝えることが出来なかった。
お願いすることが他にもたくさんあるということもあるが、お金のことは言い出しづらいというのが一番の理由。
それに、名前も知らなかったとはいえ、毎週のように顔を合わせる関係なわけだし、おそらく費用については向こうから申し出てくれるのではないだろうかという思いもあった。私が加害者側の立場であれば、当然そうすると思うからだ。
この一連の出来事で、反省すべき点はいくつもあるのだが、今思えば、大きな問題点はここ。
例え言いづらいことでも、きちんと主張しなければ、望む結果にはならない。
そして、「私ならそうする」「普通はそうする」という、“私の常識“が、相手の常識とは限らない。
冒頭でもお伝えしたとおり、現在はすべての手続きが終了している。咬傷事故ではあったものの、その後こじれて裁判になるようなこともなかった。それは本当に良かったと思う。
しかし、当時の私は毎日、非常にモヤモヤしていた。
今となれば、私の対応に大きな問題があると理解出来るのだが、渦中はストレス溜まりまくり。
他者とトラブルになった時は、冷静に、しっかりこちらの主張をすること。
あれ以来、私は肝に銘じている。
さて、相手とメッセージをやり取りしている間に、診察を終えた夫が病院から出てきた。車の中で、相手と住所や電話番号を交換したこと、これから犬を動物病院へ連れて行き、自治体の担当窓口に咬傷事故を届け出てくれることになったと伝えた。
ハンバーグを前に届いた、突然の電話
気づけばもう13時を回っていて、ふたりとも空腹だった。
「帰り道、どこかでごはん食べて行こう」
なんだか疲れてしまったので、元気を出すため、人気のハンバーグ店に入ることにした。いつもは長蛇の列だけど、タイミングが良かったのか10分ほど待ったところでテーブルに案内される。
夫は片手が使えなくて不自由そう。
利き手でなかったのは幸いだが、仕事で乗り物を操縦することがあるので心配だ。当面、乗れないのでは?
ジュウジュウと音を立てる鉄板が運ばれてきた時、私の電話が鳴った。
先ほど番号を交換したばかりの相手からだ。
店の外へ出て、「何かありましたか?」と聞くと、私の自宅前にいると言う。
謝罪で来てくれたとのことだが、あいにく我が家は不在だ。だって、これからハンバーグを食べるところなんだから!
病院に行ってそのまま外出中だと伝えると、このまま帰るまで待っていると言うので、「しばらくかかりますし、またあらためてお話の場を設けさせていただきたいのですが……」と、やんわり伝えたのだが、先方は今日中に謝罪したいとおっしゃる。
出来れば、このあと薬局にも寄りたかったし、さらに言えば週末恒例の買出しもしていない。今日約束するのは、私としては避けたく、やんわりと断り続けたものの、先方は折れなかった。
夕方、再度いらっしゃるということになり、私は脳内で今後の予定を立て直す。
夫も、このあと単身赴任先に戻らねばならないのだが、18時くらいまでなら大丈夫だろう。
話がついて、テーブルに戻ると、ハンバーグは冷めはじめていた。
「ごめん、先に食べちゃった……」と申し訳なさそうにする夫に、それは当然だからいいよと答え、ハンバーグにフォークを突き刺す。
もしかして、もしかすると、すんなりいかないかもしれないんじゃないか?
私は、不安と一緒に肉汁溢れるハンバーグを飲み込んだ。











