転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

目次
- 遠吠えの先にあったもの
- 犯人は尻尾を振っていた
- 保護犬が家族になるまで
- まずは全身全霊で向き合う
遠吠えの先にあったもの
打合せを終え、大急ぎで帰路に着く。
家が近づくにつれ、変な音が聞こえてくる。あと100メートルくらいのところで、変な音の正体が犬の遠吠えであることに気づいた。間違いなく、昨日やって来たばかりの我が愛犬の遠吠えである。
もしかしてずっと吠えてたの? 近所迷惑過ぎるよ!! 焦った私は玄関に向かって駆け出した。
当然のごとく、家はとんでもない惨状だった。
え、この数時間で一体何があったのよ。
リビングのドア2枚が破壊され、室内窓も齧られた挙句に外れ、壁には無数の穴が空いている。
片方のドアには、猫用のドアを取り付けていたのだが、ウォンカはそれを壊して、猫サイズの穴から無理矢理抜けようとしたらしく、その衝撃でドアの下半分が消え去っていた。
我が家は築60年を超える古民家住まい。
リビングと、その隣りの部屋を隔てる壁は、いわゆる土壁であったため、ウォンカによって削られ掘られ、見るも無惨だ。
犯人は尻尾を振っていた
器物損壊の容疑者は、帰宅した私に駆け寄り、土壁を掘ってドロドロになった顔で尻尾を振っている。
ヘナヘナとその場に腰を下ろすと、容疑者は私の顔をベロベロと舐めた。
力なく頭を撫でると、笑顔を見せてさらにベロベロと舐める。
犬の年齢をネットで検索すると、1歳の大型犬は、人間でいうところの12歳なのだという。小学生の男子が急に知らない家に置いていかれて、大騒ぎして暴れているというところだろうか、と考えて納得した。
そりゃー無理よ。
騒ぐ、騒ぐ。あと、壊す。
理解出来るわ。
ただ、このままではいかん。
ウォンカがこのまま暴れ続けたら、そう遠くない未来、家が倒壊してしまうだろう。
何か、策を練らねば。
まずは床中に散らばった木片や、土埃を掃除して、無くなってしまったドアと、壁に空いた穴の応急処置をする。
さらに、息子が帰宅したタイミングで、私は一旦外出し、菓子折りを買い込んで来た。今日の騒音でご迷惑をおかけし、恐らく引き続きご迷惑をおかけするであろう、ご近所の皆さまに謝罪と説明に伺うのだ。
ウォンカがこの地の暮らしに馴染むためには、ご近所さんたちの理解が絶対に必要。
近隣のかたがたは、みんな優しく、私たち家族だけではなく、犬猫も可愛がってくれるのだが、こんなに吠えていたら、騒音トラブルにもなりかねない。
夕方になったら、お詫びにまわろう。
保護犬が家族になるまで
続いて、留守番出来ない犬の対処法をネットで調べる。
薄々わかってはいたことだが、一朝一夕でどうにかなるものではないようだ。必要なものは飼い主の愛情、そして根気と忍耐。
私に最も欠けているやつじゃんか!
あ、愛情じゃないのよ? 愛情は溢れんばかり持っているのだけど、根気と忍耐については40ウン年、一度も持ち合わせたことがない。
そして、一般的に保護犬が家に馴染むのにかかる時間も、念のため確認。ネットや、保護犬を迎えて暮らしている知人たちにも聞いてみる。
それぞれの家庭に寄るところが多く、知らなくても良い知識ではあると思うが、私はひとつの指針として知りたかった。
その日だけでなく、いろいろな場で経験談などを聞いてみると、多くの人が同じ日数を口にしたのが面白かった。
保護犬が馴染むまでにかかる目安、それは大体3ヶ月。
もちろん「うちの子、初日からなんか平気だったんだよね」とか、「1年経ったけど、まだ怖がりでなかなか触れないのよ」とか、いろいろな体験談を聞かせてもらったのだが、大概の人は「んー、大体3ヶ月くらいかな」「はじめはどうしようかと思ったけど、3ヶ月程度で、気づいたら馴染んでた」と言う。
3ヶ月。
根気と忍耐という、使ったことのない武器で戦うには決して短くはない。
けれど、乗り越えられない数字でもなさそうな気がする。
まずは全身全霊で向き合う
ひとまず3ヶ月間、全身全霊でウォンカと向き合うことを決めた。
3ヶ月後、もし何にも変わっていなければ次のアプローチを探そう。
まずは信頼関係を築くのだ!
まず、はじめの2週間、絶対にウォンカを部屋に取り残すことがないよう、シフトを組む。
レイルの介護の時と同様なので、子どもたちも慣れたものだが、レイルの時と違うのは一瞬でも人間不在の時間を作らないということ。
念のため、近所のナーサリーサービスにも登録をする。どうしようもない時に、ウォンカの預かり先があることが心の拠り所となるはず。
2週間、ずっと一緒にいることでウォンカに飼い主として認識してもらい、信頼してもらえるようになるのが目標である。
夕方、ご近所のお宅を一軒一軒まわり、保護犬を迎えた報告と、慣れるまで遠吠えや破壊音が聞こえることがあることについての謝罪をした。
「今日、うるさかったですよね。本当にごめんなさい」と言う私に、皆さんは優しく「慣れたら会わせてね!」「はじめは仕方ないわよねぇ」と笑ってくれて、とてもありがたかった。
最後に大家さんの家に行き「お家がめちゃくちゃになってしまったので、慣れたタイミングで直します」と言うと、大家さんは「あら! ウォンカちゃん、元気なのね」とにこにこして、うふふふと笑っている。
自分が所有している家がめちゃくちゃになったのに、おっとりしたものだ。
私は、肩に入っていた力が抜けていくのを感じていた。
よし、まずはウォンカと仲良くなるぞ!











