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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
留守番中や飼い主が目を離した隙に、トイレシートを食べてしまう犬は少なくありません。飼い主にとってはなるべく早くやめさせたい行動ですが、そもそもなぜ犬はトイレシートを食べてしまうのでしょうか。そこで、犬がトイレシートを食べてしまう理由や、食べてしまった後の対処法、食べさせないための予防策などを、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきます。
目次
- 犬がトイレシートを食べようとするのはなぜ?
- 犬がトイレシートを食べるのはなぜ危険?
- 犬がトイレシートを食べないようにするには?
- 犬がトイレシートを食べたときの対処法は?
- 犬がトイレシートを食べることの注意点は?
犬がトイレシートを食べようとするのはなぜ?
トイレシートを食べようとする理由は、犬によってさまざまです。やめさせるためには、なぜ犬がトイレシートを食べてしまうのか、その原因をしっかりと突き止めるとよいでしょう。考えられる原因には、以下のものが挙げられます。
運動不足の解消
犬がトイレシートを食べてしまう原因のひとつとして運動不足が挙げられます。犬は本能的に運動が好きな生き物です。遊んだり動いたりする機会が少なかったり、散歩に出してもらえなかったりすると、運動不足の解消をするために、トイレシートを食べようとすることがあるでしょう。
不安とストレスを感じている
帰宅がいつもより遅くなるなど、飼い主が普段のスケジュールと異なる動きをすると、犬は不安を覚えストレスを感じます。このストレスの解消にトイレシートを食べようとしてしまうのです。
適切なおもちゃがない
ケージの中で留守番をする時間が長い場合、犬のそばに適したおもちゃがあると退屈をしのげます。しかし、適切なおもちゃがなかったり、おもちゃがあっても長年の使用で飽きてしまったりすると、退屈しのぎやストレスからトイレシートを食べてしまうことがあります。
遊んでいる
犬は遊びを考え出す天才です。誰も構ってくれなかったり、飼い主とコミュニケーションが少なかったりして暇を持て余す際に、エンジョイできる楽しいことは何かないかと、普段から考えています。トイレシートをかむこともその一環で、トイレシートが排泄をする場所だと頭では理解していても、くわえたり引きちぎったりしているうちに楽しくなってきてしまい、本能行動がスイッチオン状態に。そのうちトイレシートの中身を取り出し、食べてしまうこともあります。
飼い主の気を引きたい
飼い主の行動が原因になるケースです。犬がトイレシートにいたずらをしているときに、「あら~、そんなことしてダメじゃない」と優しくなだめるような口調で言ったり、「キャー! 何やっているの、大変!」とお騒ぎしたりした経験はないでしょうか。犬がいたずらをやめるような叱り方であれば問題ないのですが、声のトーンによっては、誉められている、飼い主から注目を浴びていると犬が勘違いしてしまうことも。そうすると、犬は飼い主が喜んでくれていると誤って学習してしまい、飼い主の気を引くためにトイレシートを食べようとすることがあります。
常同障害
常同障害という病気に、ある特定の物品や素材に異常に執着を持ち、その異物を食べてしまうという症状があります。異常行動であり病気なので、環境や接し方を変えたところで改善するものではありません。もし、犬が異常な執着を持ってトイレシートを食べてしまう行動が何年も見られるようであれば、行動治療の専門医に相談してみましょう。
犬がトイレシートを食べるのはなぜ危険?
犬がトイレシートを食べると危険なのはなぜでしょうか。以下のような理由が考えられます。
トイレシートの素材が腸閉塞などの原因になる
トイレシートは吸水した水分を漏らさない構造でできています。そのため、トイレシートを多量に食べてしまうと、消化管の中で詰まらせて腸閉塞を起こす可能性があります。そうなると、最悪の場合は開腹手術が必要になりますので、犬の行動をよく観察し、いたずらされない工夫をしてください。
ポリマーの危険性
トイレシートに含まれる吸水ポリマーは、多少であれば食べてしまっても体には害がないと言われています。とはいえ、食べ物ではないものを口にする習慣をつけてしまうのはよくありません。早めにやめさせましょう。
犬がトイレシートを食べないようにするには?
そもそも、犬がトイレシートを口にしないために、飼い主ができることはあるのでしょうか。
しつけで食べないようにする
トイレシートをかじり始めたらすぐに「ダメ」と声をかけて叱り、行動を遮断することで、食べさせないしつけができます。このときに叱るのは、犬をおびえさせることが目的ではありません。犬のしつけで何よりも大切なのは、間違った行動についてタイミングよく叱り、間違った行動を遮断すること。そのため、個々の犬の気質に合わせて声の強度を調整し、愛犬に恐怖心を植え付けない声かけをしてあげましょう。
おもちゃを与える
おもちゃを与えて犬の気をそらし、トイレシートを食べないようにしたいと考える飼い主の方は多いと思いますが、与え方には注意が必要です。「トイレシートを食べるとおもちゃがもらえる」と犬が認識してしまわないように、トイレシートをかじる行動を「ダメ」と言葉で伝えて遮断した後、号令で「おすわり」や「お手」などをさせましょう。それが上手にできたらおもちゃを与えるという流れにすると、「おすわりができたからおもちゃをもらえた」と犬が理解するようになります。
メッシュカバー付きのトイレを使う
犬がトイレシートを食べられないように環境を工夫することのひとつに、メッシュカバー付きのトイレに替えることが挙げられます。メッシュカバーによってトイレシートに直接触れることができなくなるので、物理的に噛めなくなり、いたずら予防につながります。ただし、メッシュカバー付きトイレの枠や段差が嫌で、トイレで排泄をしなくなってしまう犬も中にはいますので、注意が必要です。
犬がトイレシートを食べたときの対処法は?
気をつけてはいても犬がトイレシートを食べてしまったとき、飼い主はどのように対処するべきでしょうか。
噛んだだけか、食べてしまったか、残骸から見極める
犬がトイレシートにいたずらをしていることに気がついたら、まずはトイレシートをどれくらい食べてしまったかをしっかりと確認しましょう。ビリビリと引きちぎることが楽しいだけで、そもそも食べていない場合もあります。
食べてしまっていた場合
もし、多量のトイレシートを食べてしまっていた場合は、すぐに病院へ連れていきましょう。のちのち命の危険性に関わる可能性もあるため、飼い主の判断で数日様子を見ることはおすすめできません。また、食べてしまった後は、うんちの中にトイレシートの残骸が含まれていたかを必ず確認し、獣医師に伝えましょう。
犬がトイレシートを食べることの注意点は?
トイレシートに限った話ではありませんが、食べ物ではないものを口にする習慣がついてしまうと、屋外でも同じ行動をする可能性が出てきます。危険物を口にして、最悪の場合、命の危険が生じることもありますので、早めにやめさせましょう。