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犬の家庭教師 みつの塾 代表。YIC京都ペット総合専門学校非常勤講師

「飼い主が香りを楽しむためにアロマディフューザーを使いたい」「犬のストレス軽減やリラックス効果を期待してアロマを使いたい」というご家庭もあるのではないでしょうか。犬にとってラベンダーやカモミールなど大丈夫なアロマもあれば、アニスやオレガノなど禁忌のアロマもあるため使用に当たっては注意が必要です。
今回は、アロマについての基礎知識や犬がいる家庭での使い方、犬の健康をサポートするための活用法などを、獣医師の光野京子先生監修のもと解説していきます。
目次
- 犬にとってアロマは安全?
- ラベンダーなど犬に適した精油とその効果、使用法
- 犬の健康をサポートする精油の活用方法
- ルームフレグランスなど飼い主が精油を使う場合の注意点
- 精油を使ったケア用品を紹介
- まとめ
犬にとってアロマは安全?
飼い主がリラックスのためにアロマを楽しむケースや、犬のストレス軽減を目的にアロマを使いたいケースなど、ご家庭によってアロマの使用場面はさまざまです。しかし、犬にアロマを使用する際には、正しい知識と安全な使用方法を知ることが不可欠です。ここではアロマの基礎知識と犬への影響について解説します。
アロマテラピーの基本知識と犬にとっての安全性
アロマテラピーとは、心身の健康や美容を目的とした自然療法で、植物から抽出した100%天然の精油(エッセンシャルオイル)を用いて行われます。一方で、「アロマオイル」という呼称は香りのあるオイルの総称であり、精油以外の合成香料やアルコールで希釈された製品、あるいは植物由来でないフレグランスオイルが含まれることもあります。使用時には成分をしっかり確認することが重要です。
最近では「ペットアロマテラピー」として、犬の健康をサポートする目的で精油を使用するケースがあります。具体的には、精油をお湯で薄めて香りを嗅がせたり、薄めたオイルで犬の体をマッサージしたりする方法などがあります。しかし、犬の嗅覚は人間の数倍も敏感であるため、適切な精油の選択と濃度調整が欠かせません。適切に使用すればリラックス効果を得られますが、精油の種類や濃度によっては健康を害するリスクもあるからです。今後は区別するためにアロマと書かず精油と書きます。
犬に精油を使用する際は、安全な精油かどうかを事前に確認することが大切です。特に飼い主は、犬にとって使用しても大丈夫な精油と、使用してはいけない精油についてよく理解しておく必要があります。
また、犬には個体差があり、同じ精油でも反応が異なることがあります。犬が嫌がる場合や異常が見られる場合はすぐに使用を中止しましょう。また、使用可能な精油であっても必ず薄めて(希釈)から使用するなど、使用時の注意点にも留意してください。
犬にとって危険な精油と安全な精油とは?
ペットに使う精油は高品質なものを使います。高品質なものとは、人間が飲用しても良いものになります。雑貨で売られているアロマオイルは、純粋なエッセンシャルオイルではないことが多いです。ですから、「食べてはいけません」というような表示が書かれています。
ご存知の通り、犬は自分の体を舐めます。ということは、体にアロママッサージをした場合、犬がそれを舐めてしまう危険性があります。食品添加物として売られているような高品質な精油を用いましょう。
精油の中には、犬の体内で適切に代謝されず、健康に害を及ぼす可能性のあるものがあります。犬にとって危険な精油としては以下が挙げられます。
・危険な精油:アニス、バジル、オレガノ、ウィンターグリーン、ティーツリー、ユーカリ、ペパーミント、クローブ、タンジー、ラベンダーストエカス、ワームウッド、カンファー、フェンネル、シナモンなど
特にネギ類(玉ねぎやにんにく)由来の成分を含むものは避けるべきです。これらの精油は、犬の神経系や消化器系に悪影響を及ぼし、中毒症状を引き起こす可能性があります。
また、子犬やシニア犬、妊娠中の犬、てんかんや心臓病、肝臓病など持病を持つ犬には、さらに注意が必要です。必ず獣医師に相談してから使用するようにしましょう。
一方で、適切な濃度であれば犬に安全に使える精油もあります。代表的なものには、ラベンダー、カモミール、ローズマリーなどがあります。これらの精油を使用する際も、過度な使用を避け、犬の様子を常に観察しながら活用しましょう。
ラベンダーなど犬に適した精油とその効果、使用法
犬に適した精油にはリラックス効果やストレス軽減、消臭などさまざまなメリットがあります。ただし、精油の種類や濃度、使用方法を正しく理解し、安全に活用することが大切です。ここでは、犬におすすめの精油や具体的な使用法を解説します。
ストレス緩和やリラックス効果など
犬に精油を使用することで得られる最も代表的な効果がリラックス効果です。ラベンダーやマジョラムには、犬の緊張を和らげ、ストレスや不安を軽減する効果があるといわれています。
精油はストレス緩和にも役立つとされ、特に雷や花火の音に敏感な犬に対して、落ち着きを取り戻させるために精油が活用されることがあります。また、精油の香りは犬の睡眠促進に寄与するともいわれています。リラックスした状態で精油の香りを嗅ぐと、安心感を得られることから睡眠の質の向上が期待されています。
精油には消臭効果もあり、犬の体臭や室内の気になる匂いを軽減する働きがあります。天然の香り成分が空気中の悪臭を中和し、快適な空間を作ることができます。
犬が精油の香りを嗅ぐことでリラックスするのは、犬の嗅覚が影響していると考えられています。精油の香りは鼻から吸入された後、神経を通じて脳に伝わります。この過程でストレスを緩和し、リラックスを促進します。特定の香りが良い記憶と結びついている場合は、リラックス効果が増しますが、嫌な記憶と関連付けられた香りは逆効果となることがあるため注意が必要です。
犬におすすめの精油
犬におすすめのアロマには、リラックス効果や虫よけ効果が期待できるものがあります。代表的なものは以下の通りです。
・ラベンダー:リラックス効果が高く、ストレスを軽減するのに役立ちます。鎮痛作用や殺菌作用も期待されています。興奮しがちな犬や夜に鳴いたり騒いだりするのが気になる犬にもおすすめです。ただし、ラベンダーにはいくつか種類があり犬にとって有害になり得るものもある点に注意が必要です。
犬に使用できるのは「真正ラベンダー(Lavandula angustifolia, L. officinalis, L. vera)」のみです。スパイクラベンダーやラベンダーストエカスはケトン体含有量が高く、犬にとって有害になる可能性があるため避けましょう。
・フランキンセンス:鎮静作用や抗うつ作用があります。また、肌トラブルにも優れた効果を発揮します。また、咳なども抑えてくれます。
・コパイバ:強い殺菌作用と抗炎症作用があります。また、興奮を抑え緊張や不安のない状態に導きます。
・カモミール:ストレス緩和に役立ちます。
・レモングラス:爽やかな香りでリフレッシュ効果があります。また、虫除けスプレーとしても活用でき、特にアウトドアで重宝します。
・ベルガモット:甘さとほろ苦さを併せ持つ香りで、犬の口臭ケアや虫除けに使われます。ただし、てんかんの持病がある犬には使用を避けましょう。また、日光を浴びると皮膚トラブルを起こしやすい光感作作用があるため、被毛に直接使用する形での使用は控えた方が無難です。
・ローズマリー:清涼感のある香りが特徴で、気分を落ち着けたり、車酔いを和らげたりする効果があるとされています。
精油の濃度と使用頻度のコツ
犬にアロマを使用する際は、精油の濃度を必ず1%未満に抑え、負担がかからないようにしましょう。濃度が高すぎると、犬の敏感な嗅覚に悪影響を与えることがあります。初めて使用する場合や、子犬やシニア犬の場合は、0.5%以下の濃度から始めるのが安全です。
また、短時間だけ香りを試し、犬がどのように反応するか観察することが重要です。犬が香りを嫌がったり、異常な反応を示したりした場合はすぐに使用を中止してください。
犬が香りを好んだとしても頻繁に使用するのではなく、状況や目的に応じて適切な頻度を意識しましょう。特に換気を十分に行いながら使用し、犬の健康を最優先に考えた使い方を心がけてください。
初心者向けの安全な始め方
精油を安全に楽しむためには、まず品質の良い精油を選ぶことが重要です。購入時には合成香料が含まれていないかを確認し、植物の学名や製造方法が明確に記載されている製品を選びましょう。また、初めて使用する際は少量から始め、犬が慣れるまで慎重に進めることをおすすめします。
不安がある場合は、アロマテラピーの専門家に相談することで安心して使用できます。犬にとって快適な環境を作るためにも、まずは正しい知識を身につけ、安全な方法でアロマを楽しみましょう。
犬の健康をサポートする精油の活用方法
愛犬との生活に精油を取り入れる方法はさまざまあります。芳香浴やマッサージ、足湯、虫除けスプレーなど、生活のシーンごとの実践例を紹介します。どの方法も過度な使用を避け、犬の体調を観察しながら行いましょう。
・芳香浴:もっとも手軽に精油を楽しむ方法です。アロマポットやアロマディフューザーを使い、精油を水に2〜3滴混ぜて香りを拡散させます。リビングなどの広い空間で行い、使用時間は30分以内が目安です。長時間拡散させると、犬が香りを過度に吸い込み、鼻や喉の粘膜に負担がかかるため注意が必要です。必ず、ドアを開けて、犬が自由に移動できるようにしてあげてください。
・アロママッサージ:リラックス効果を得られる方法の一つです。犬に安全な精油をホホバオイルやビーワックスなどのベースオイルに混ぜ、被毛や皮膚、肉球を優しくマッサージします。精油の成分が皮膚から血管に入って全身に作用します。
アロママッサージを行う際は、まず耳の裏やお腹など被毛が薄い部分に、1%未満の濃度に希釈したアロマオイルをごく少量だけ塗り、15分ほど様子を見るパッチテストを行うと安心です。皮膚の赤みやかゆみ、犬が激しく舐めるなどの異常行動が見られないか確認し、問題がなければマッサージを行います。
異常を感じたら、すぐに精油をホホバオイルなどで拭き取りましょう。精油は油なので水では取れません。必要に応じて獣医師に相談してください。また、マッサージ後の余った精油は、愛犬が舐めてしまわないようにすぐ片付けましょう。
・足湯:温かいお湯に精油を1滴たらし、犬の足を浸けることで疲れを和らげます。冷えが気になる季節にも効果的です。
・虫除けアロマスプレー:散歩やアウトドアで役立ちます。虫除けアロマスプレーは、無水エタノールと精製水、犬に適した精油を混ぜるだけで簡単に作れます。肌に直接使用するのではなく、被毛や服の上に軽くスプレーするようにしましょう。詳しい作り方は以下の記事を参考にしてください。
ルームフレグランスなど飼い主が精油を使う場合の注意点
犬に直接使用しない場合でも、飼い主が精油を楽しむ際には注意が必要です。犬がいる環境で精油を使う際の安全な方法と、万が一中毒症状が現れたときの対処法を紹介します。
アロマディフューザーでの安全な使い方
アロマディフューザーを使う際は、犬にとって有害な精油を避けることが大切です。特にアニス、オレガノ、ティーツリー、ペパーミントなど冒頭で紹介した犬にとって有害な精油は健康に悪影響を与える可能性があるため使用を控えましょう。
ディフューザーは犬がいる部屋では適切な距離と濃度を保ちながら使用し、必ず換気を行い、ドアは開けた状態にしてください。濃度が濃すぎる場合や長時間使用するのは避けるのが賢明です。
犬が香りの発生源に近づかないよう配慮し、鼻水や咳、くしゃみ、元気がなくなるといった症状が見られた場合はすぐに使用を中止しましょう。アロマをディフューズする部屋では、犬が好きなときに移動できるようドアや窓を開けておく、アロマが届かない場所にクレートや別室を用意しておくといった工夫が大切です。
犬は人間より嗅覚が敏感なので、嫌がる場合は無理に同じ空間にいさせず、すぐに離れられる環境を作ってあげましょう。
また、スティックで香りを吸い上げるタイプのリードディフューザー、アロマストーンなど、原液を使うものは避け、水で希釈したものを用いる器具を使いましょう。
なお、猫は精油の成分を代謝することができず、中毒症状を起こしやすいとされています。犬と猫を一緒に飼っている場合はアロマの使用は、十分に注意して行ってください。不安な場合は、行わない方が賢明です。
万が一中毒症状が現れた場合の対処方法
犬に異常が見られた場合は、速やかにディフューザーの使用を中止し、部屋を換気しましょう。代表的な中毒症状としては、咳やくしゃみ、嘔吐、下痢、よだれ過多、呼吸困難、震え、痙攣、脱力感などがあります。これらの症状が見られた場合は、速やかにかかりつけの獣医師に相談することが大切です。
早期の対応が犬の健康を守るカギとなります。できるだけ迅速に状況を説明できるよう、使用した精油の種類や濃度、犬の症状が出始めた時間を記録しておくと診断がスムーズになります。
精油を使ったケア用品を紹介
犬用のケア用品には、精油を使ったシャンプーやリンスなどがあります。香りを楽しみながら犬の被毛や皮膚をケアできる便利なアイテムです。商品選びの際は、香りの原料に犬にとって苦手な成分が含まれていないか、濃度が安全範囲内かを確認して選びましょう。カインズオンラインショップを利用するのもおすすめです。
アース・ペット ボタニカルシャンプー ハーバルアロマ 愛犬用 301.5ml
アース・ペット ボタニカルトリートメント ハーバルアロマ 愛犬用 301.5ml
ユニ・チャーム デオシート レギュラー 128枚 グリーンアロマの香り
※売り切れや取り扱い終了の場合はご容赦ください。
※店舗により取り扱いが異なる場合がございます。
※一部商品は、店舗により価格が異なる場合があります。
※上記商品は獣医師の監修外です。
まとめ
精油は犬の健康をサポートしたり、飼い主がリラックスした空間を作ったりするために便利なアイテムです。しかし、使用する精油の種類や濃度には十分な注意が必要です。犬には安全な精油もあれば、健康に害を及ぼすものもあるため、正しい知識を身につけて活用しましょう。
リラックス効果が期待できるラベンダーやカモミールは、芳香浴やマッサージ、虫よけスプレーなど、さまざまな場面で役立ちます。飼い主が精油を楽しむ場合も、換気や使用時間に気を配り、犬が異常を示さないか観察することが大切です。
犬に使用する前に、まずは飼い主が精油を楽しみ、その延長線上に犬がいるというのが理想です。飼い主が使っている香りを覚えることで、どこかで一人ぼっちになっても(ホテルや動物病院に入院するなど)その匂いのついているタオルや服などがあれば安心できるようになります。