転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

※全3話でお届けする、散歩中に起きたトラブル。第2話では、家族が犬に噛まれた際の状況と、その後の対応についてお伝えします。
相手のいる出来事のため、記事にするか迷いました。しかし、すでに解決していること、そして犬と暮らしていれば誰の身にも起こりうる出来事であることを踏まえ、当時の対応や反省点を振り返ることにしました。
なお、プライバシーに配慮し、実体験をもとに一部の設定や表現を再構成しています。同様のトラブルが起こらないことが一番ですが、万が一起きてしまった際に、この経験が少しでも参考になれば幸いです。
目次
- 謝罪に訪れた飼い主夫婦に、どうしても伝えたかったこと
- 治療費は解決へ。それでも消えなかったモヤモヤ
謝罪に訪れた飼い主夫婦に、どうしても伝えたかったこと

夕方の約束に合わせて、早めに自宅に戻った私たちだったが、16時を過ぎ、17時を過ぎ、18時を過ぎても来客はなく……。
単身赴任先に戻らねばならない夫が、やむなく家を出て、しばらくするとインターホンが鳴った。時刻は18時半を回っている。
皆さん、お気づきだろうか。
私はまた同じようなミスを犯している。
“夕方“という、曖昧な約束をしたために、結果、自分たちが困っているのである。
玄関を開けると、ご夫婦が並んで立っていた。
今朝、犬の散歩をしていたご主人と、はじめてお会いする奥さま。
にこやかなご主人に対して、奥さまは俯き、ひたすら恐縮しているように見える。
私が、わざわざお越しいただいたことへの感謝と、夫が不在の旨を伝えると、ご主人は「直接お詫びしたかった」とおっしゃった。
ギリギリまでお待ちしていたのですが……と謝罪しながら、なぜ私が謝る側に回っているのだと心の中で自分自身にツッコミを入れた。
夫が不在の今、頼れるのは自分だけ。
私は、意を決して、治療費のことと、あわせて夫の仕事に支障が出た場合についての懸念を伝えた。
要求を伝えるのは苦手だが、遺恨を残すことは避けたいし、できることなら噛んでしまった犬が同じことを繰り返すことがないよう、被害者の夫に代わり飼い主に伝える義務があると思っていた。
「今回は被害に遭ったのが成人男性だったから、この程度で済んだと思うんですが、公園には小さなお子さんもたくさんいます。もし相手がお子さんだったら、こんなレベルでは済まなかったと思いますよ」
厳しい言い方かもしれないが、私は伝えた。
今日の出来事で、私と夫が強く思ったこと。
「子どもが被害に遭わなくて良かった……!」
夫ではなく、同じ場にいたお子さんたちの誰かが被害に遭っていたかもしれないと思うと、ゾッとする。
「差し出がましいようですが、場慣れさせるために連れてくるなら何らかの対策を取らないと危険です。ドッグトレーナーさんの元できちんとトレーニングすることもお考えになった方がいいのでは?」
ご夫婦は、私のことばに顔を見合わせた。
「考えたこともあるんですけど……」と、小さな声でおっしゃる奥さまに、「うん、まぁね。ははは」と笑うご主人。
おそらく、その気はないということなのだろう。
「もし、どうしても他の人や犬がたくさんいる場に連れて行かなければならないとしたら、私なら口輪を着けます。それに、適切なトレーニングをしてからでないと、わんちゃんも辛いと思いますよ」
「口輪なんて」と言うが、私は決して大げさではないと思っている。
たしかに公園でたくさんの犬と遊ぶ時間は貴重だ。私たちも、その時間を求めてウォンカを公園に連れて行くわけだし、犬が他の犬との関係作りを学ぶ機会でもあり、飼い主にとっても悩みを相談したり、情報交換が出来る場でもある。
しかし、夫を噛んだ子は、他の犬に吠えて威嚇し、全く楽しそうではなかった。
犬が楽しくないのなら、その場に連れてくるのは飼い主のエゴではないか? と私は思うのだが……。
今まで一緒に暮らした犬だって、性格はそれぞれだ。
ウォンカは社会性があるタイプだけれど、レイルは違った。
幼少期に檻に閉じ込められていたことが原因なのか、レイルは他の犬に対しての執着が凄まじかった。
散歩で、他の子と会うと遊びたくて暴れる。では、うまく遊べるかというと、遊びかたがよくわからないのでベロベロと舐め回して、相手の子をビショビショにしてしまう。攻撃的ではないものの、相手にとっては非常に迷惑な存在だ。
ドッグトレーナーや、動物病院に相談して、いろいろ試してみたものの、多少マシになった程度で、結局レイルが他の犬と遊ぶ機会はほとんど無かった。
今後も同じ公園に行く以上、相手側に何らかの対策を取ってもらわないと困るわけで、言葉を尽くして伝えたつもりだったが、どうやら相手は今後の対策は考えていないようだった。
これ以上話しても発展的な議論にはならないだろうと、私は「当の夫も不在ですし、今日のところはこれで……」と口にした。
治療費をどうするかということも、夫の仕事への支障についての対応についても、答えをもらっていないまま、帰りしな、奥さまからポチ袋を渡されて困惑する。
「今後のお話がまだついていないので」とやんわり断るも、「どうしても受け取って欲しい」と押し切られた。
ご夫婦が帰って行って、渡されたポチ袋を見る。
“慰謝料“とも“見舞金“とも、“治療費"とも書かれていないので、どのような意図なのかがわからない。金額のことをとやかく言いたくはないが、治療費には到底足りず、慰謝料の相場からもかなり離れていて、それが、より私を困惑させた。
治療費は解決へ。それでも消えなかったモヤモヤ
翌日、私はあらためて先方とメッセージのやり取りをした。
もう、私ではうまくことを進められないと思い、当事者の夫を窓口にすることを伝えると、先方は保険を使うことにしたので、今後はそちらとやり取りしてほしいと言う。
当事者同士のやり取りは正直なところもう避けたかったので、保険会社の担当者とのやり取りになるのは有り難かった。
というか、自動車事故もそうだけど、当事者のやり取りでいいことなんてない気もする。保険会社が入ってくれるなら、それが最適解だ。
保険会社が入って、話は圧倒的にスムーズに進み、最終的に医療費全額が振り込まれることとなった。
ん? 慰謝料は?
やはり、あのポチ袋が慰謝料だったのだろうか。
あぁ、あの時受け取った私のバカバカ!!
結果として、夫はすっきり終わりにするために、正当な権利として慰謝料を請求することにした。
(ちなみに、感じが悪くならない請求の仕方をAIに聞いていた。つくづく気が小さい夫婦だ)
もうモヤモヤはたくさんである。
そして、私たちは出来ごとの発端となった公園へ行くのをやめることにした。
すごく気に入っていたし、ウォンカの友だちもたくさんいるし……と悩んだけれど、他にも公園はたくさんあるし、ドッグランだってある。
危険があることを承知の上で行く必要はないのだ。
新しい散歩ルートで、ウォンカには新しい友だちが出来た。
私が(頑張って)伝えたこと、相手に少しでも伝わっていたらいいな……と、今は思っている。











