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サロン『もうちょっと』運営。国内外受賞多数。講演・セミナーやボランティアに注力。一頭ごとにカスタムし、国内外で学び続け、犬と人に寄り添うケアと学びの場を提供中。

愛犬のトリミング、なんとなく選んでいませんか? もしかすると、その「なんとなく」が、犬の緊張や違和感につながっているかもしれません。
トリミングは、愛犬の心と体の状態、日々の暮らしそのものを映し出します。挫折を乗り越えたトリマーが語る、犬にとって本当に良いトリミングとは?
目次
- そのサロン選び、大丈夫? トリマー・服部ありささんが語るトリミングの意義
- まずは「心のお手入れ」から。犬と飼い主の心をほぐす時間
- トリミングは「日々の発表会」。心と身体を整えていくために
- たった1回のトリミングが、犬と飼い主の未来を変えることも
- 恩返しのつもりが犬を傷つけてしまった。トリマーを辞めた過去
- 挫折からの再出発。一頭の犬と一人の飼い主のために
- トリミングはときに負担にもなりかねない。お手入れの概念を一新
- 「全部やる」から「やらなくていいことはしない」トリミングサロンへ
- 犬も人も、みんなが幸せになれる社会
そのサロン選び、大丈夫? トリマー・服部ありささんが語るトリミングの意義
「近いから」「たまたま見つけたから」「とりあえず空いてたから」
そんな理由で、トリミングサロンを選んでいませんか?
なんとなく通い続けているけれど、「本当にここでいいのかな?」「うちの子、いつも緊張している気がする……」そう感じたことのある飼い主さんは、きっと少なくないはずです。
でも、その不安は、トリミングの意味や必要性を少し見直すだけで、解消できるかもしれません。

「トリミングは、日々の発表会です。愛犬との関わり方、食べるもの、日々の過ごし方がトリミング中のその子の表情や行動にすべて表れます」
そう語るのは、トリマーの服部ありささん。トリミング業界に入ってもうすぐ13年。試行錯誤を繰り返しながら、現在は自身の立ち上げたトリミングサロン『もうちょっと』で犬のためのトリミングを行っています。
「トリミングは日々の発表会」という言葉に込められた想いとは何なのでしょうか。業界の課題や『もうちょっと』立ち上げに至る道のりを伺いながら、トリミングの本質に迫ります。
まずは「心のお手入れ」から。犬と飼い主の心をほぐす時間
服部さんが営むトリミングサロン『もうちょっと』。ここでは、カットやシャンプーと同じくらい、お手入れ前の「お話の時間」が大切にされています。
「初めて訪れる飼い主さんと犬には、施術の前に必ず1時間ほどの時間を設け、じっくりと対話することから始めています。お互いに自己紹介をしたり、飼い主さんのご希望やご家庭での過ごし方を伺ったり、私がどんな想いを持ってトリミングをしているのかをお伝えしたり......。1時間お話したら、施術はせずにおしまいです」

1時間も“お話”だけの時間を取っている最大の目的は、犬にリラックスしてもらうことです。
「犬の身体のお手入れは、心のお手入れがあって初めて成り立つものです。お預かり前のたったの5〜10分でいきなり身体に触れられるのは、犬にとってはすごくドキドキすること。だから、トリミングではまず『自分の力で落ち着けた』という経験がすごく大事なんですよね。だいたい犬は、ひとりで落ち着くのに30〜40分かかり、1時間あればどんな子でもひとまず落ち着けます。『お話の時間』は、その子に『自分の力で落ち着けた安心できる場所』と認識してもらう時間でもあるんですよね」

また、「お話の時間」は飼い主に対しても重要な役割を果たします。
「初めてのサロンに行くとき、緊張や不安を感じているのは、犬だけでなく飼い主さんも同じです。この人に預けて本当に大丈夫なんだろうかとか、うちの子震えないだろうかとか、そういう不安を感じていると、自然と愛犬に『大丈夫だよ』『頑張ってね』と声をかけることがあります。でも、犬たちにとってそういう声かけをされるときって、だいたい何か嫌なことをされる場面が多くて。犬のほうも、これから嫌なことが始まるんだと身構えてしまうケースもあるんです」
飼い主の不安は、声のトーンや何気ない仕草を通して、敏感な犬にはすぐに伝わってしまいます。だからこそ服部さんは、まず飼い主自身がリラックスすることが、何より大切だと考えているのです。
「たっぷりお話をして飼い主さんがリラックスした状態になると、自然とその子に『楽しんできてね』と声をかけられるようになります。そうすると、その子も『あ、なんか楽しい場所なんだ』と感じられるようになるんです。飼い主さんの安心は、その子の安心に直接つながっていますから」
トリミングとは、犬と飼い主、双方の心と丁寧に向き合っていくこと。その深い対話から、服部さんのトリミングは始まっていくのです。
