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使い捨て弁当容器を高級工芸品にする
お弁当などに使われる使い捨ての容器や割り箸には、「役割を果たせば捨てられてしまう」宿命が待っています。今回はそんな使い捨て容器に丁寧に手を加え、ずっと飾っておきたくなるほど立派な工芸品に仕上げます!
お弁当などに使われる使い捨て容器って、なんだかかわいそうじゃないですか?
使い捨て容器には、生まれたその瞬間から「役割を果たせば捨てられてしまう」宿命が待っています。それに加えて最近はSDGsが一般的に広まっていることもあり、プラスチックの使い捨て容器や割り箸はなんだか肩身が狭い雰囲気で、いたたまれない気持ちになるのです。
ごあいさつが遅れました。皆さんはじめまして、卒業生代表と申します。私は普段、レーザー加工機やUVプリンタを使ってキーホルダーや雑貨などのオリジナルグッズを制作しています。
「いつも目にしているのにも関わらず、気にも留めないもの」をモチーフに、 新たな視点や解釈を与えるアイテム作りを目指しています。
お店で売られているお弁当やお惣菜の容器や飾りなどの資材が好きで、それらをモチーフにしたグッズを作ったこともあります。
先ほどの話に戻りますが、使い捨ての容器や割り箸でも、丁寧に手を加えれば、ずっと飾っておきたくなるほど立派になるのではないかと考えました。例えば、漆を塗って工芸品っぽくするとか……?
アイデアが浮かんだところで、さっそくハンズへ材料と道具をゲットしに行きます。
ハンズでぴったりの材料と道具をゲット
ちょうどハンズには、気軽で安価に漆塗りの雰囲気を楽しめる水性ウレタン塗料の「工芸うるし」という商品がありました。
いままで漆をやったことのない私にとってはぴったりな塗料です。迷わずこれを選びました!
今回、魅惑の変身を遂げる予定の容器と割り箸もハンズでゲットしました。
ピンクのチェック柄がかわいいお弁当箱と、密閉袋で清潔に使える割り箸です。
塗料と容器、割り箸が揃ったので、制作へ移ります。
使い捨て容器が工芸品になるまで・その1 下準備
まずは下処理として、塗料の食いつきを良くするためサンドペーパーで表面を荒らします。
容器の下の部分は、塗料が剥がれやすいことで有名なポリプロピレンという素材なので、プライマーを塗布します。
容器のフタ部分は薄くて少し不安だったので、2枚のフタを接着剤で貼り合わせました。
また、本来はフタについたストッパーでパチっとフタと容器を固定しますが、塗料の厚みで閉まらなくなる事が予想されるため、切り取りました。
こう書くとなんだか手際の良いプロっぽいのですが、漆はおろか塗装の経験もあんまりないので、やり方を調べつつオロオロしながら作業しています。
割り箸の方は、なるべくベストな状態にするためにカッターで切り、サンドペーパーで形を整えてから「との粉による目止め処理」にチャレンジしてみました。
との粉とは石を細かい粉末状にしたものです。主に板や柱などの着色や目止め、漆器などの塗り下地として使われます。
との粉を水でとき、布につけてすり込んでいきます。乾くと木の細かい凸凹が細かい粉末で埋められてスベスベになって楽しいです……!
容器と割り箸の下処理が終わった状態です。ここからいよいよ塗装に入ります。
使い捨て容器が工芸品になるまで・その2 「工芸うるし」を塗っていく
「工芸うるし」は何度も塗り重ねて厚みを出していくらしいのですが、1回目でもかなり良い発色で、テンションが上がります。
全体に塗った状態がこちらです。
いかにも「ペンキを塗りました」という感じで、工作感がありますね。透明なフタは、1度塗りではまだ透けています。
これをサンドペーパーで研磨して表面をなだらかにし、また「工芸うるし」を重ねます。納得いく仕上がりになるまで、同じ工程を何度も繰り返します。
3回目あたりにはだいぶしっかり着色して表面も滑らかな質感になったのですが……。
なんというか、ほら、最初からこういう色合いの和風弁当用の容器ってあるじゃないですか、時間をかけて制作したわりにはそれと同じに見えてしまうというか……。
……いや、コスパだのタイパだのという概念でどこまでも効率化されてゆく世の中に流されて、我々は大切な事を忘れてしまっているのではないでしょうか? 今の時代に手作りする意味とは、高級そうに見せたいとかそんな浅ましい事ではなく、心を込めて塗り重ねる行為そのものなのです。
と、ツラい現実からは目を背けて研磨と塗りを繰り返しました。
根気強く削って塗ってを続けていくこと6回目。なんだか「オーラ」を感じてきました。
ほら、この深い黒と赤。「漆器のオーラ」を感じませんか……?
感じますよね!?
やった! 使い捨て弁当箱に、私の心が通じた瞬間です。
ここらへんで塗りは一旦休止して、新たなアイテムを使います。
使い捨て容器が工芸品になるまで・その3 貝シートで高級感を演出
螺鈿(らでん)細工用の貝シートです。これで蓋の表面に螺鈿細工を施せば、高級感あふれる作品になるに違いありません。
この貝シートをレーザー加工機で切り抜きます。……「手作りの意味」がどうしたって? 今はテクノロジーの時代ですよ。ちゃちゃっと機械でやった方が良いに決まっています。タイパ万歳。
……と思っていたのですが、切り抜かれた薄いシートを機械から拾い集めるのと、フチに付着した粉を取り除く作業がめちゃくちゃ大変でした。
手で切るのとどちらが大変なのか、よくわかりません。
なんとかパーツを揃えて下書きしたフタに配置し、透明の「工芸うるし」で接着していきます。
フタの上に配置する作業が大変だろうと思って、切り絵みたいになるべく一続きになるデザインにしたのですが、これが誤算でした。想像以上に貝シートが繊細なので、細い箇所は簡単に割れてしまうのです……。デリケートすぎて、取り扱いにとても苦労しました。
「工芸うるし」で接着すると、貝シートの色が変わってギラギラになるのが驚きでした!
おそらく黒地の上に貼っていることが影響しているのだと思います。正直言うとお店で「この上品な白い色合いが良いなぁ〜」と思いながら貝シートを選んで買っていたので完全に誤算でした。しかし持ち前のポジティブ思考で「いや、やっぱり螺鈿といえばこのギラギラよね〜」と思う事にしたので解決です。
貝シートを貼り終え、ここからまた塗りと研磨の作業に入ります。まずは貝シートと同じ厚みまで透明の「工芸うるし」を塗り重ねます。
だいたい同じ厚みになったところで、全面に黒い「工芸うるし」を塗ります。
完全に乾いてから、貝シートの表面が出るまで研ぎ出します。
表面が出てきたところで、細かい番手のサンドペーパーに変えていき、
最後はコンパウンドというペースト状の研磨剤で磨き上げます。
なんとかここまでたどり着きました……。
で、できた〜!!
と、喜んだ直後にいろいろ細かい所が気になってくるのはモノづくり人間あるあるでして。
よく見ると表面がぼこぼこしていたり、貝と塗料の間にちょっと隙間が出来ている気がするんですよね……。
修正しようと試みたのですが、あまり上手くいかないのでこのまま上から透明の「工芸うるし」でコーティングすることにします。
「工芸うるし」を4回ほど塗り重ねると、若干ぼこぼこは残っているものの、目立つ隙間はなくなりました。
ここでもう一つ装飾アイテムが登場します。
使い捨て容器が工芸品になるまで・その4 仕上げの金粉
蒔絵(まきえ)用の金粉です。本物の金はとても高価ですが、これは代用粉と呼ばれるもので安価に蒔絵を楽しめます。
さっそく金粉をふりかけたい場所に透明の「工芸うるし」を塗り、
金粉を乾いた筆に取ったら、トントン叩いて振りかけます。
しばらくしてから筆で余分な粉を払っていくと……
……あれ?
うーん。これは「工芸うるし」塗っている最中に、最初に塗った端が乾いてしまって、金粉が付いていない箇所がありますね。
これ、塗り足しとかできるんでしょうか。ちょちょっとやってみるか……。
再び透明の「工芸うるし」を塗って、また金粉をパラパラ……。
そして、また筆で粉を払っていきます。ドキドキ……
お! 塗り足したので筆致はややぎこちなくなりましたが、なかなかいい感じではないでしょうか……!?
では、いよいよ完成品のお披露目です!
使い捨て容器が工芸品になるまで・その5 ついに完成!
フタ部分にあしらった螺鈿細工のデザインは、お寿司やお節料理に使われる醤油入れ、バラン、飾りをモチーフにしています。
そして端っこに見えるこの四角い跡は……
素材の容器についていた「プラ」マークの名残りです。本当はもっとちゃんと模様を研ぎ出したかったのですが、他の部分が削れすぎたりして難しかったので、ほんのり匂わせる形になりました。
さらにお箸にもこだわりがありまして……
持ち手側についているこの模様は、割り箸の袋に一緒に入っていたつまようじの形をデザインしています。
容器の方は本来「工芸うるし」と相性が良くないプラスチックだったり、柔らかくて研磨がしにくかったりで苦労したのですが、割り箸はわりと簡単に塗り箸のようなピカピカになってびっくりしました。やはり「工芸うるし」は木製品ととても相性が良いのですね。
みなさんも身近なものにひと手間加えて、自分だけの作品にしてみてはいかがでしょうか?
きっと人生が少し豊かになりますよ。あと、ポリプロピレンの容器に「工芸うるし」を塗るのは大変なので全部ポリスチレンの容器を選んだ方が良いですよ!