絵が上手いのはセンスだと思ってない? 元デザイナーから「イラストのコツ」を学んだら絵を描くのが楽しくなった話

絵が苦手なのはセンスの問題だと思っていませんか? 「自分にはセンスがないから……」と考えて、諦めてしまうのはナンセンスです! 今回は元デザイナーのカインズ社員にイラストを描くコツについて教えてもらいました。これを読んだら、きっとあなたも絵を描いてみたくなるはずです!

絵がヘタで困っている。

庭氏が描いたキツネに見える猫

たまに絵を描くと、自分のヘタさにびっくりしてしまう。しかし改めて考えてみると、どうして絵が「ヘタ」になってしまうのか、よくわからない。

線がへにゃへにゃだとか、立体感が出せないとか、思いつく点はあるがそれを改善すれば僕の絵は良くなるのだろうか。そういえば、小中学校以降ロクに絵の勉強はしてないじゃないか。

もしかして「ヘタ」なんじゃなくて、「描き方を知らない」だけなのか?

であれば上手な人に描き方を教えてもらって、絵が苦手な自分から卒業したい!!!

そんな悲痛な叫びを水曜日のハンズさん編集部へ相談したところ、悩める2人の仲間も加わって、元デザイナーの方からイラスト講座を受けることになった。

果たして我々3名は、どれくらい絵が描けるようになるのか!? その模様をお楽しみください。

登場人物

ライターの庭氏
庭氏(筆者)
東京都在中の兼業ライター
どんな動物の絵を描こうとしても全部キツネになってしまう。
カインズ社員の与那覇一史
与那覇一史
となりのカインズさん編集長・水曜日のハンズさん編集部員
中学1年生の時、学校の宿題で家族の絵を書いたら、両親の関節がありえない角度で曲がっていたのと、顔を細かく描きすぎてクラスのみんなからバイオ・ハザードと言われた経験がある。
カインズ社員・丸山愛菜
丸山愛菜
となりのカインズさん・水曜日のハンズさん編集部員
高校1年生の時、美術の時間に自画像を描く授業があり、教室を回ってみんなの画を見ていた先生が自分のところで立ち止まり、かなり手直しをして去っていった。
hakaseichikawa-icon.jpg
博士いちかわ
カインズ社員
本日の講師役を引き受けてくれた神。子どもの頃から絵を描くのが好きで、フランダースの犬の主人公ネロに憧れて育った。グラフィックデザインの仕事を経て、カインズに入社。

【絵が苦手な人にありがちなこと その1】センスの問題だと思っている

絵が苦手な人にありがちなことその1センスの問題だと思ってる

庭氏

さっそく相談なのですが、絵のセンスがなくて困っています。

絵のセンス、ですか。そもそも“センス”ってなんだと思いますか?

庭氏

うーん……生まれつきの才能みたいなものでしょうか?

それだと、赤ちゃんの頃から「センスのある赤ちゃん」と「センスのない赤ちゃん」に分かれることになりますが、実際にはそうではないですよね?

丸山

確かに。

私の考えとして、センスとは「インプットの質とアウトプットの量」だと思っています。

庭氏

「インプットの質とアウトプットの量」ですか?

どんなプロでも最初は初心者です。たとえばプロ野球選手は素振りから、料理人は包丁さばきから覚えるように、体に正しいフォームを覚えてから上手い人の真似をして、練習を重ねるからこそ一流になっていきます。

絵が苦手な方は「自分にはセンスがないからだ」と思い込んで諦めてしまいがちですが、その考え自体がナンセンスだと思います。

う……。完全にそう思ってました。

絵も正しいフォームを知って、それを元に練習を続ければ必ずうまくなりますよ!

与那覇

おぉ、説得力がすごい!

【絵が苦手な人にありがちなこと その2】ずっとにんじんを切っている

絵が苦手な人にありがちなことその2 ずっとにんじんを切っている

庭氏

ほかに絵が苦手な人がやってしまいがちなことって、何があるでしょうか? 自分だとわからなくて……。

そうですね……ずっとにんじんを切ってしまいがち、でしょうか。

丸山

???? どういうことですか?

1枚の絵を描くのをカレーを作ることに重ねてイメージしてみましょう。カレーの場合、まずは各食材をざっくり食べやすい大きさに切って、炒めていきますよね?

その際に、ずっとにんじんの飾り切りに集中してしまっていたら、カレー作りが全然進みません。これが、絵が苦手な人がやってしまいがちなことです。

庭氏

気になったらそっちに集中しちゃって、ゴールへ行きつかないということですね。身に覚えがありすぎます……。

絵もカレー作りと同じで、まずは細かいことを気にせずに全体を捉えることが大切です。ざっくりと目安をつけて、最後にディティールにこだわるように描いていきましょう。

丸山

まずは全体を捉えて、最後に細かい部分に注目する。わかりました!

【絵が苦手な人にありがちなこと その3】心の目で見て描いている

絵が苦手な人にありがちなことその3 心の目で見て書いている

もう一つありがちなこととしては「心の目で見て描いている」ですね。これが一番大事なポイントかもしれません。

庭氏

どちらかというと、心の目で見た絵のほうがいい絵になりそうな気がしますが……?

絵が上手な人って、なにより観察力が優れているんです。一方で、苦手な人は自分の思い込みで絵を描いてしまいがちなんですよ。熊ってこういう見た目で〜とか、飛行機ってだいたいこんな感じ、みたいな。

丸山

うわー、それやってるかもしれません。

うろ覚えの“心の風景”を頼りにすると、実際の姿とはかけ離れていることが多いです。まずは、現実の目でよーく観察することをとにかく意識してみてください!

現実の目でよく観察する……。わかりました! やってみます。

Lesson1 実力だめし

横たわる柴犬の画像

では、ここからは実践編です!さっきお伝えした点を意識して、絵を描くときの正しいフォームを覚えましょう。

詳しいポイントをお話しする前に、まずこの柴犬を紙に描いてみてください。

僕、今日のために1000円の鉛筆型のシャーペン買ってきたので、初っ端から本気出しちゃうかもしれないです。

お金かけて画力をカバーしようとしている!

できあがった芝犬のイラストがこちら。

ライター・庭氏が描いた柴犬
庭氏作
丸山が描いた柴犬
丸山作
与那覇一史が描いた絵
与那覇作

与那覇さんの柴犬、顔から手が生えてませんか……?

だって生えてましたからね。

生えてましたね。

生えてるわけない!!!

庭氏さんは絵に「柴犬」って描いちゃってますね。

庭氏が描いた「柴犬」の文字

取り返しがつかなくなったので、保険をかけてしまいました。

絵はまず、単純な形に変換するところから始まる

ではここで、一つ目のポイントをお話しします。絵を描くときはまず、各パーツを単純なかたちに変換しましょう。

絵はどこから描き始めればいいの?

みなさんは、柴犬をいきなり輪郭から描き始めていなかったですか?

耳を起点に、顔の輪郭から描き始めてました。

いきなり輪郭を取ろうとせず、まずはそのモチーフをよく観察して、どういうパーツで構成されているかを考えてみてください。

あと、一発で本番描きをするのはかなり難易度が高いので、まず下描きをしてから清書をしてみましょう。

下描きをするという発想が全くなかったです。きほんのき、ですね。

そしたら、パーツを取る練習をしましょう。この図形を書いてみてください。

丸三角四角六角形が書かれた図

私立幼稚園の入試みたいで緊張してきた。

1番難しいのは六角形だと思いますが、上下に平行の線を引いてから、それを「く」の文字でつなげるようにすると描きやすいです。

六角形の描き方

めちゃくちゃわかりやすい!

庭氏が描いた図形
庭氏が描いた図形

これが描ければ、もうバッチリです。これで皆さんはもうさっきの柴犬も上手く描けるようになっているはずです!

え!?

知らない間に僕たちに魔法でもかけたんですか?

というのも、このようにパーツを意識しながら順序立てて書いていけば、柴犬ができあがるんです!

イラストを描く手順のイメージ

そうか……これまで最初の写真から一気に完成図を描こうとしていたのか……!

絵を描くのが難しいと感じていたのは、この手順をすっ飛ばして描いていたからなのですね。

三角や四角など、モノには必ず単純な形が隠れています。それを観察して探し出していけば、自然と目の前のモチーフが描けてくるはずです。

Lesson2 シカクを使ってシカを描く

では、図形を使って対象を描くトレーニングをしましょう。次のお題は、「シカ」です。

シカの画像

すこし難しいかもしれないので……ちょっとヒントを出しますね。こんな感じで、図形が重なって構成されているのがわかるでしょうか?

シカを簡単な図形に

おお、どんなパーツで出来ているのかよくわかりますね!

そしたらまずは、この図形の形でシカを描いてみてください。その次は、図形の下絵をもとにゆるく輪郭をとってみましょう。イメージはこんな感じです。

図形をつなげて描いたシカの絵

すごい!かわいいシカのイラストがもう出来上がっている!

図形をそのままなぞると変な形になってしまうので、あくまで道標として使ってみてくださいね。

庭氏しか.JPG
庭氏作
丸山さんしか.JPG
丸山作
与那覇作シカのイラスト
与那覇作

おお〜。みなさん、すばらしいです!さっきの柴犬と比較してみると、明らかに力がついてますね。

ちゃんと動物が描けている……!

自信がついてきました!!

Lesson3 お寿司に潜む光と影

みなさん上手に描けたところで、輪郭を取るための練習はここまでにして、次は影のつけ方についてご説明します。

そもそもなんですが、影って必要あるんでしょうか? 輪郭が上手に描けていれば、そんなにいらないかなと思ったりするのですが……。

影は絵の中でも、とても大事な要素です。影がないと立体感が出ず、絵がのっぺりしてしまいます。

「のっぺり」とは……?

先ほど描いたシカのように、パーツが複雑な絵であれば、影がなくてもある程度は伝わると思います。ただ、例えば対象がボールだった場合、影がないとそれがただの丸なのか立体物なのか分からなくなってしまうんですよね。

ああ〜、確かに。

お寿司の写真を例に、実際の絵でご説明しますね。

寿司の絵を単純なかたちに変換する

お寿司は結構シンプルなパーツで構成されています。影を描かずに輪郭だけ描くと、こうなります。

影がないのっぺりした寿司の絵

なるほど。確かにパッと見で「お寿司だ!」とはわからないかも。

影を観察するため、お寿司の写真をフルカラーからモノクロにしてみましょうか。

モノクロにしたお寿司の写真

どうでしょうか。場所によって、より黒い部分と白い部分があるのがわかりますか?

本当ですね! 影が見えてきました。

ネタ(サーモン)に入った筋も、奥のほうが暗く見えて、手前の方が明るく見えますよね。

続けて、お米にも注目してみましょう。みなさん、お米って何色だと思いますか?

白!

でも、この写真をよく見てください。たしかに全体的には白っぽいのですが、全部が同じ明るさの白じゃなくて、所々グレーっぽかったり、影が入って真っ黒だったりしませんか?

そう言われてみると、全然白ではなかったですね……!

そうなんです。お米って白じゃないんですよ。

白が200色あるってこういうことだったのか……!

「お米って白だから〜」と心の目で絵を描いていると、こういう細部を見逃してしまいます。では、先ほどのっぺりしていたお寿司に、写真をもとに影をつけてみましょう。

影をつけたモノクロのサーモンのイラスト

モノクロだと少しわかりづらいので、色をつけてみます。モノクロのときの濃淡を意識してオレンジを重ねてみると、こうなります。

色をつけた寿司の絵

一気に高そうなお寿司になった!!

立体的になってますね。ひと目でお寿司だとわかります。

お寿司というシンプルなモチーフでも、観察をすると、濃いオレンジと薄いオレンジ、お米もクリームっぽいところと白っぽいところなど、さまざまな色で構成されているのがわかります。そこを描き分けると、ぐっと上手な絵になりますよ。

何かを描くときは、単純な形を見つけて変換する。そして影を観察して濃淡を意識して描く、がポイントです!

すごく分かりやすかったです!

今日のお話を聞いて、自分がどうして絵が苦手だったのかが理解できました。思い込みで描いているのと、観察が足りてなかったのか……!

本日紹介したポイントが、冒頭で話した「描き方のフォーム」になります。これを意識してたくさん練習を重ねれば、いつのまにか絵が上達しているはずですよ!

Final Lesson 柴犬リベンジ

ではおさらいとして、柴犬の絵を改めて描いてみましょうか!

柴犬の画像

緊張する〜〜〜!

でも、さっきとは見え方が変わった気がします。複雑に思えた前足も、四角の組み合わせに見えてきました。

本当だ! 世界の見え方が変わった!

皆さん、吸収が早くていいですね! フォームが変わった証拠です!

できました!

庭氏しばいぬビフォアフ.png
庭氏作

おお!! Beforeもかわいいですが、Afterはより「犬っぽさ」が再現されてますね。

毛並みも陰影で表現されてますね!

丸山さんしばいぬビフォアフ.png
丸山作

丸山さんもめちゃくちゃ良くなっている!!

かわいいだけじゃなくて、柴犬らしさがちゃんと出てきましたね! 構図もいい感じです!

与那覇さんしばいぬビフォアフ.png
与那覇作

与那覇さんはだいぶ描き込んでる! 立体感がちゃんと感じられますね。

絵で褒められたのが初めてなので……。とても嬉しいです!

作画が全然変わってる! 犬っぽいのは圧倒的にAfterですが、個人的にはBeforeも味があって好きです。

みなさん、少しは絵への苦手意識を克服できたでしょうか?

描くための手順を教えてもらったのが個人的にはすごくよかったです。どういう風にステップを踏んで描けばいいのかわかると、イラストに対するハードルがぐっと下がりました。もしかすると、苦手というよりも自信がなかっただけなのかもしれない……!

1回正しいフォームがわかると、何回でも繰り返し試してみたくなりますね! 苦手意識がだいぶ減りました!

約一時間でこんなに変わるなんて、自慢したくなりました。

たくさんアウトプットを重ねて、ぜひお絵描きを楽しんでくださいね!

何事も正しいフォームで練習を重ねること

博士いちかわさんが冒頭で話していたように、どんなプロでも最初は初心者だ

野球選手が素振りから始めるように、今日学んだフォームをもとに少しずつ研鑽を積んでいけば、きっと絵がもっと上手くなる予感がある。

なによりも、絵が描けると圧倒的に自分が嬉しい。みんなでお互いの絵の良くなったところをコメントしながら描いていたのも、初めての経験だったので皆楽しかったのだと思う。

絵に限った話ではなく、「自分にはセンスがないから」と思い込んで諦めるのは非常にもったいない。ただみんな、正しいフォームを知らないだけなのだ。イラストの描き方はもちろん、この考えを学べたことは非常に大きい。

何事も大事なのは、まず正しいフォームを覚え、練習を重ねること。これを心に刻んでいきたい。

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