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なんで目的がないのにハンズへ行きたくなるの? 行動経済学の専門家に聞いてみたら納得の答えが返ってきた!
目的がないのに、ついついハンズへ寄ってしまう……。これは一体なぜなのでしょうか? 謎を解き明かすため、行動経済学の専門家である佐々木周作先生にお話を伺いました。
ハンズが好きな方に話を聞くと、決まって言われることがあります。
それは……
「お店を見て回るだけで楽しいから、なんか目的がなくても行っちゃうんです!」
この気持ち、すごくわかります。ハンズと言えば、文房具にキッチン用品、化粧品に日用品、クラフト用品、パーティーグッズにゲームまでと、品揃えがとっても豊富で、店内を歩いているだけで楽しいんですよね。
でも、よくよく考えたら、これってちょっと不思議じゃないですか?
特にほしい物があるわけではないのに、お店へついつい入ってしまう。いろいろな商品を見て満足をするって、まるでミュージアムのような楽しみ方で、「買い物をするためにお店へいく」とは目的が違います。一体、私たちはどんな欲求に突き動かされてハンズでウインドウショッピングを楽しんでいるの……?
この疑問を解き明かすため、行動経済学の専門家である、佐々木周作先生にお話を伺いました!
佐々木周作先生
1984年、大阪府交野市生まれ。大阪大学感染症総合教育研究拠点・特任准教授。京都大学卒業後、三菱東京UFJ銀行に入行。退職後、大阪大学大学院で博士号(経済学)を取得。専門は行動経済学。
行動経済学が研究する「人の不思議な意思決定」とは
——このたびはお時間いただきありがとうございます! まず、「行動経済学」とは具体的にどんな学問なのか知りたいです。
佐々木先生:行動経済学は、人間の意思決定や選択の不思議さに着目した学問です。一言で「不思議な意思決定」と言っても、人の行動にはいろいろな種類やパターンがあります。その中で、極端に少ない人たちだけが持っているものではなく、多くの人たちがある程度持っているパターンを研究しています。
その結果、不思議な意思決定や選択のパターンを持っている世の中の人たちに対してどんな政策を打っていったらいいのか、どんな風に政策をデザインしたらいいのかを考えるのが行動経済学です。
——「不思議なパターン」とは、具体的にどんなものなのでしょうか?
佐々木先生:例えば、仕事や課題などがあるとき。本当は今すぐにやらなければならないと分かっていても、誘惑に負けて他のことをしてしまい、先延ばしにして最終的にものすごく損をしてしまうという経験は、多くの方にあるのではないかと思います。
——ありますね……。
佐々木先生:冷静に考えれば、先にやってしまった方が得をするのに、それができないとか。
あとは、AとBの商品があったとして、客観的に見れば同じ性質のものなのに、なぜかAの方をとても好んでしまう、とか。
——それも経験があります。特にSNSなどで頻繁に目にするものの方が、効果が良いのではないかと思い込んでしまったり。
佐々木先生:不合理に思える選択を取る性質を人間が持っていなければ、政策などの決定も非常にシンプルになります。なぜなら、しっかりと説明しさえすれば、人々はそれに基づいて合理的な選択をすることになりますから。
ただ、実際は、不合理に思える選択をする人が無視できないくらい多いので、配慮しながら対策を打っていきましょうというのが行動経済学です。
ほしい商品がなくてもハンズへ行くのは「偶然の出会い」を求めているからだった
——目的もないのにハンズへ行きたくなるのは、行動経済学の観点から、どのような理由が考えられますか?
佐々木先生:行動経済学で完全に読み解けるかどうかはわからないのですが、一つの理由として、「偶然の出会いを期待している」というのがあるのかなと思います。
——「偶然の出会い」?
佐々木先生:ハンズの店内では、いろんな種類の商品がジャンル問わず並んでいますよね。事前に何を買うかが決まっていなくても、ハンズへ行って店内を歩くことで、自分が思ってもいないものに出会い、それによってインスピレーションを得たい気持ちがあるのではないでしょうか。
新しい商品を購入してみよう、という気持ちだったり、商品の購入に至らなくても「自分ってこういう商品が好きなんだな」といった発見が得られる場所としてハンズを好んでいるのではないかと思います。
——言われてみると、確かにそういった感覚があるかもしれません。気になったのですが、そもそもなぜ「偶然の出会い」を求めてしまうのでしょうか。
佐々木先生:決まりきった結果でないことを、人が好む側面があるからだと考えられます。今のまま変わらない生活がずっと続くよりも、そこから外れることを求めるのです。
「偶然の出会い」とは少し違いますが、当たる確率が極めて低いのにも関わらず、宝くじを買うのとも似ている部分があるかもしれません。自分の生活と関わる部分について、ランダムな数字で選ばれたものに委ねたり、そういったものに参加することの喜びを感じているのではないでしょうか。
無意識にハンズの“目利き”を信頼していた
——個人的には、商品数が多いからという点もひとつあるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
佐々木先生:バラエティに富めば富むほどみんなが行きたくなるかというと、そうではありません。
商品の種類が100個も200個も店頭にあったら、自分の中で強い好みがない限り選ぶのは難しいですよね。選択肢が多いと、それはそれで選択しづらくなってしまいます。
「品揃えが多いほうがいい」というのであれば、究極、ネットショッピングで購入するのが一番良いことになりますから。
——確かに……。
佐々木先生:自分で「これが欲しい」と商品を決めきれる人は実店舗へ行く必要はないのです。なぜ店舗へ行くかは、自分一人では決められない部分についてお店側から推薦してもらいたかったり、そもそもの買う目的を作り出しに行ったりしていることが理由として考えられます。
「目的がなくても、ハンズだからついつい寄ってしまう」というのは、普段だったら買わないものを購入したときに、「挑戦してみてよかったな」と満足した経験があるから、ハンズの提案や目利きを信頼してお店へ通っているのだと思います。
——「目利き」ですか。
佐々木先生:はい。実際にお店で購入する場面を考えると、例えば「ハンズに置いてあるから」とか、「ハンズが勧めてくれるものだからそれに身を委ねてみよう」といったところが大きいのではないのかなと。
ウィンドウショッピングは、楽しみながら情報収集ができる「効率的な方法」だった!?
——少しお話がそれてしまうかもしれませんが、お店へ行ってなんとなく商品を眺めるような、いわゆる「ウインドウショッピング」を人がするのはなぜなのでしょうか。
佐々木先生:何も調べずに10万円のコートを買うよりは、ウィンドウショッピングで15万円とか、20〜30万円のコートを見る。やっぱり20万や30万円のほうが素材はいいけど、見比べた結果、10万円のコートのデザインがすごく気に入っていると再確認して購入を決断する。そういったプロセスがあると、より満足度が高まるのではないでしょうか。
——衝動的に買うよりも、たくさん調べてから買うほうが、結果的に後悔ない選択ができた経験はすごくあります。
佐々木先生:人にとって「決めきる」のは、結構難しいことです。特に値段が高い買い物について決断するのはすごく難しいので、決定を後押ししてくれるような情報を集める傾向があるように思います。
ただ、この情報収集も、仕事や勉強で必要な資料を集めるやり方とはまた違って、一箇所に集められた情報を冷静に比較するというよりは、ショッピングやランチ、お茶を楽しみながらそういう情報に触れられる場所へ行って、比較の対象になるものを集めておくのがウィンドウショッピングなのではないかなと考えます。
——それでいうと、普段の買い物の比較も資料集めのように冷静にできたら究極に満足いく選択ができるのかなと思ったのですが、楽しみながら情報収集するというのはどうしてなのでしょうか。
佐々木先生:そもそも、あらゆるものについて全て冷静でいるのは無理ですよね。
戸建ての家を建てるとかマンションを買うとなると、本当に綿密に情報を集めていくと思います。仕事の情報収集も、同じですよね。どちらも扱う予算の額が大きいですし、自分一人で決められないことも多いですから。
ただ、日用品を購入するときに、家を買うときや仕事のときと同じような情報収集の仕方をしていたら、人生が終わってしまいます。
楽しみごとのなかで自然とそういう情報が自分に入ってくるような場所に行くほうが効率的なんじゃないでしょうか。
——確かに。日常のお買い物にそこまで時間を使えないですもんね。普段何気なくしている行動ですが、紐解くと「最終的な満足感」のためにしていたことだったとは……。佐々木先生、本日はありがとうございました!
「なんでついついハンズへ寄ってしまうんだろう……」
そんな一見学問とは関係ないように思える疑問でしたが、佐々木先生にお話を伺ったことにより、「無意識のうちにハンズで偶然の出会いを期待していた」ことがわかりました。他のお店ではなく、「ハンズじゃなきゃダメだ」と思うのは、ハンズの“目利き”を信頼していたからなのですね。
「毎日が代わり映えしない」「なんか楽しいことがないかな」そんな不満を抱えている人は、ぜひハンズに立ち寄ってみては。もしかしたら日常をちょっと楽しくするような“偶然の出会い”があるかもしれません。