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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
メスの犬には年に数回ほど発情期(ヒート)が訪れ、陰部が赤く腫れることがあります。生理的な現象のため、基本的には心配いりませんが、重大な病気が隠れているケースもあるため注意が必要です。今回は、陰部が赤く腫れる原因や考えられる疾患、病気のチェック方法などをchicoどうぶつ診療所所長で獣医師の林美彩先生監修のもと解説していきます。
目次
- メス犬の陰部が赤く腫れる原因とは?
- メス犬の陰部の腫れ以外にもチェックすべき項目はある?
- メス犬の陰部が赤く腫れる原因として考えられる病気とは?
- メス犬の陰部が赤く腫れている場合、病院へ行くべき?
- メス犬の陰部が赤く腫れている場合の治療法は?
- メス犬の陰部が赤く腫れるのを防ぐにはどうすればいいの?
メス犬の陰部が赤く腫れる原因とは?
愛犬の陰部が突然赤く腫れてしまったら、飼い主としては不安に感じることもあるでしょう。腫れる原因には以下のようなものが考えられます。
発情期(ヒート)によるもの
一般的に、メスの犬には半年ごとに発情期(ヒート)が訪れます。さらに、発情期の初期には生理のような出血も見られ、同時に通常の約3倍にも陰部が腫れあがったり、赤みが増したりすることがあります。ただし、この腫れや赤みは病気ではなく、生理現象のひとつです。愛犬の様子がいつもと変わらなければ、過度に心配する必要はないでしょう。
カミソリ負け、トリミングによるもの
体の内側からの変化によるものではなく、外部からの刺激で赤く腫れてしまう場合もあります。主な原因に、カミソリ負けやトリミングによる刺激などが挙げられます。陰部はデリケートなため、細かな傷がついたり、被毛が短くなったりすることで腫れや赤みが生じやすくなります。
偽妊娠によるもの
偽妊娠とは妊娠していないにもかかわらず妊娠しているかのような行動をとる、想像妊娠とも呼ばれる状態です。通常、妊娠しなかった場合は無発情期という状態に入り、陰部の腫れや赤みは徐々に治まります。しかし、偽妊娠の状態になると、発情期後も陰部の腫れや赤みが引かない場合があります。さらに、乳房が膨らんで、乳汁が出る犬もいます。これらは妊娠時と同じホルモンが卵巣から分泌されるために現れる症状で、期間としては約2か月続くと言われています。
病気によるもの
上記の原因よりも気をつけたいのが、病気を原因とする腫れや赤みです。膣炎・膀胱炎・皮膚炎・膣脱など、膣の周りに炎症や違和感があってその患部を舐めてしまうと、陰部が腫れたり、赤くなったりすることがあります。
メス犬の陰部の腫れ以外にもチェックすべき項目はある?
発情期による腫れや赤みは心配ありませんが、病気が原因の場合は、早急に対処したいものです。愛犬の健康をチェックするために、確認したい項目をご紹介します。
周辺の皮膚や被毛に異常がある
陰部の腫れや赤み以外に、イボ・フケ・じゅくじゅくとした状態などが見られるときは病気が隠れている可能性があるので注意しましょう。また、陰部に腫瘍ができると、その影響で陰部が赤く腫れているように見えることがあります。その他、毛の色が変化したり、脱毛が見られたりする場合も病院を受診しましょう。
熱や咳などの症状がある
陰部が腫れているときは、体に炎症が起きている可能性も考えられます。熱の有無、体にいつもと変わった症状がないか確認することも大切です。また、感染症にかかっていることも疑われるため、咳などの症状がないかもチェックしてみてください。
お腹が膨れている
腹部がいつもより膨らんでいないかどうかも確認しましょう。妊娠時だけでなく、子宮蓄膿症や腫瘍などの病気によってお腹が膨らむことがあります。
かゆみやおりものがある
腫れや赤み以外に、陰部をかゆがる様子や化膿したおりものが見られる場合は膣炎が疑われます。陰部をしきりに舐めるようなしぐさや、おりものによる悪臭がないかをチェックしましょう。
陰部から白い液体が出ている
陰部から出る白い液体は、膣や子宮などに感染が起きたことで生じる膿である可能性があります。膣炎や子宮蓄膿症でよくみられる症状です。
飲水量が増える
陰部から白い液体が出ていることと合わせて、飲水量の増加が見られる場合は子宮蓄膿症が疑われます。子宮蓄膿症では、細菌が出す毒素によって抗利尿ホルモンというホルモンの分泌が妨げられてしまい、結果的に多尿となります。その水分確保のために飲水量が増加します。飲水量の増加は他の疾患の症状である可能性も考えられるので、重要なチェック項目のひとつです。
元気がなくなる
愛犬の元気がない場合は、陰部の腫れに関わらず、何かしらの病気が潜んでいる可能性が高いです。単純に疲れが残っているのであれば、様子を見ても大丈夫ですが、原因がわからないのに元気がない場合や、食欲が落ちているときは注意しましょう。これらの変化を見逃さないためにも、愛犬の様子と食欲のチェックが大事です。元気なときや食欲がある状態を100点とし、毎日の様子を点数化してメモしておくとわかりやすいでしょう。
メス犬の陰部が赤く腫れる原因として考えられる病気とは?
メス犬の陰部が赤く腫れた際に考えられる病気について見ていきましょう。
膣ポリープ
膣ポリープとは、膣に発生するキノコ状のしこりのことです。エストロゲンというホルモンが影響していると考えられます。この腫瘍が大きくなると、膣の外に出てきてしまったり、尿道を圧迫してしまうことで排尿障害を起こしたりする場合があります。避妊手術をしていない犬でよく起きる症状のため、避妊手術がリスク軽減につながります。
皮膚炎
尿による汚れや、陰部の違和感などによって舐め続けてしまうと、陰部の腫れや赤みをはじめとした皮膚炎が起こります。その他、皮膚が分厚くなる苔癬化(たいせんか)や色素沈着なども見られます。
膣炎
膣が炎症を起こす膣炎には、大きく2つの原因があります。発情期前に起こる膣炎は、先天的な生殖器の奇形が原因となっている場合が多いです。膣が尿や便で汚染されることで、炎症反応が起こりやすくなります。一方、発情期に起きる場合には、膣からの細菌感染や可移植性性器肉腫、平滑筋種などが原因と考えられるでしょう。その際、膣の腫れやかゆみ以外に化膿したおりものが出る場合があります。
膣脱
エストロゲンによって膣の形成に異常が起き、厚くなった粘膜が陰部から飛び出してしまう病気です。排尿障害が起きるほか、突出した部分が細菌などに感染しやすくなります。
子宮蓄膿症
子宮に細菌が感染することで、膿が溜まってしまう病気です。発情期後は免疫が低下しやすい状態なので、陰部から細菌感染が起こり、腫れや赤みのほか、陰部から膿が出る場合があります。ただし、子宮蓄膿症には開放性と閉鎖性の2種類があり、閉鎖性では膿が外にほとんど出ず、発見が遅れることがあります。発見が遅れると子宮破裂のリスクのある疾患なので、多飲多尿・腹部膨満・発熱・嘔吐・下痢などの他の症状がないかもよく確認しましょう。
膀胱炎
膀胱炎そのものが腫れや赤みを起こすわけではありませんが、発症した際に排尿後の陰部をよく舐めるようになってしまいます。そのため、二次的に皮膚の腫れや赤みが生じます。
陰部周りの腫瘍
陰部の周りに腫瘍が発生すると、その影響で陰部が押されて腫れているように見えることがあります。尿道付近にできた場合、尿道をふさいだり、圧迫したりすることで排尿障害が起きるため注意が必要です。
メス犬の陰部が赤く腫れている場合、病院へ行くべき?
記事内で解説した通り、愛犬の陰部が赤く腫れる原因はさまざまなものがあります。特に心配のいらない場合と、すぐに病院を受診する必要がある場合についてそれぞれ解説します。
心配のいらない場合
愛犬が発情期(ヒート)の最中で、陰部の腫れや赤み以外に目立った症状がなければ問題ないと考えてよいでしょう。発情期中は通常より元気がなくなったり、食欲が落ちたりする場合もありますが、極端に変化がなければ心配ありません。
すぐに病院へ行く必要がある場合
急激に元気がなくなったり、食欲が極端に落ちたり、頻繁に陰部を舐めて皮膚のただれが見られたりする場合は注意しましょう。特に陰部から膿が出る・発熱・嘔吐や下痢・多飲多尿・排尿障害が見られたら、すぐに病院を受診してください。
メス犬の陰部が赤く腫れている場合の治療法は?
原因となっている病気によって治療法が変わるため、費用も異なってきます。例えば、皮膚炎の場合は内服薬や外用薬を使った治療で様子を見るため、費用がさほどかかりません。しかし、子宮蓄膿症や腫瘍が認められる場合、外科的摘出が必要となります。その分、費用も高額になります。
メス犬の陰部が赤く腫れるのを防ぐにはどうすればいいの?
最後に、陰部の腫れに対する効果的な予防法をご紹介します。
避妊手術を受ける
避妊手術を受けると、性ホルモンの影響で起きる陰部の腫れは治まります。ただし、全身麻酔を使った処置になりますので、そのリスクについては受ける前にしっかり理解する必要があるでしょう。また、ホルモンバランスの乱れによって、肥満や免疫異常などが起こりやすくなります。メリットだけでなく、デメリットも獣医師から聞いたうえで、手術を受けるかどうかを決めてくださいね。
陰部周辺を清潔に保つ
韻部周辺を清潔に保つことで、排尿や排便時の汚れによる皮膚炎を防げます。ただし、拭きすぎや濡れたまま放置することも、皮膚炎を起こす原因となるので気をつけましょう。ホットタオルなどで優しく拭き取り、最後はティッシュなどを使って水分を残さないようにするのが大切です。
エリザベスカラーをつける
陰部を舐めないよう工夫することで、その炎症を抑えることができます。ただし、エリザベスカラーの装着がストレスとなり、免疫のバランスを乱してしまう犬もいますので注意しましょう。目が届く場所にいるときには外してあげたり、ストレスがかかりにくいエリザベスカラーを選んであげたりすると良いでしょう。