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ふくふく動物病院院長。得意分野は皮膚病。飼い主とペットの笑顔につながる診療がモットー。キャバリアと5匹の保護ねこ、わんぱくなロップイヤーと一緒に暮らしている。
ひと昔前まで「犬は上下関係を作る」、「家族を順位付けする」といった考えが一般的でした。しかし、現在では犬に上下関係の概念はないということが明らかになっています。今回の記事では、犬に上下関係の概念がない理由や、そんな犬と信頼関係を築くコツについて、ふくふく動物病院院長の平松育子先生に解説していただきました。
目次
- 犬に上下関係はない?
- なぜ犬の世界に上下関係があると言われていたの?
- 犬と信頼関係を築くコツは?
- 犬との信頼関係を確かめるには?
- 犬の上下関係にかかわらず、しつけの仕方が大きく変わることはない
犬に上下関係はない?
結論から言うと、犬に上下関係の概念はありません。これまで「犬はリーダーの言うことしか聞かない」と言われてきましたが、最近ではその考えが否定されつつあります。ただし、家族を区別するような態度をとる愛犬もいるでしょう。このふるまいには上下関係を気にしているわけではなく、恐怖心や自分を守ろうとする意識があると考えられています。
犬は家族の順位づけをしない
家族の中でお父さんの指示は聞くが、子どもの言うことは無視するといった事例があるとします。この場合、犬は家族の中に順位をつけて接しているということではなく、普段からお世話をしたり、遊んだりしてくれるお父さんを、自分を守ってくれる相手と認識している可能性が高いです。リーダーとして認めているからではなく、何らかの期待を持って指示をよく聞くのだと考えられます。
反対に子どものことは自分を守ってくれる相手として認識しておらず、脅威や警戒心を抱いている可能性があります。信頼関係が薄いために指示を聞かないとも考えられるので、子どもが成長して犬のお世話をするようになると状況は変わるかもしれません。
また、支配欲から攻撃的になるという説もありますが、それは誤解で、実際は自分の大切なものを守るために、うなったり吠えたりといった攻撃的な行動につながると考えられています。つまり、特定の人にだけ懐かない、吠えるなどの態度や行動は、相手に恐怖心や警戒心を感じているがゆえに起こる反応だと考えられるでしょう。ほかにも爪切りや耳掃除、注射など犬が嫌がることをする人に対しても、同様の反応が見られる可能性があります。
なぜ犬の世界に上下関係があると言われていたの?
そもそも、なぜこれまで犬には上下関係があると考えられていたのでしょう? その理由を2つ解説します。
狼の研究を犬に当てはめていた
まず、理由のひとつめは、犬の行動をひもとく際に、犬の先祖である狼の習性を参考にするケースが多かったためです。狼は群れで行動するので、その行動に対する研究が大きく関係していたと考えられます。
実際に狼の群れを観察するなかで、群の中にはリーダー格の狼がいることが確認されています。リーダー格の狼はほかの個体より優位に立ち、群れを支配していました。ただし、この研究は人間に飼育されている狼を対象としていたもので、特殊な環境で行われている点を考慮しなければなりません。制限された実験空間で限られた食料を取り合ううちに、強い個体が力を持つ特殊な構図が生まれてしまったと考えられています。
アルファシンドロームの解釈から
アルファシンドロームとは日本語で「権勢症候群」という意味です。主に犬が飼い主家族の中で序列をつけ、自分を一番偉い存在として、思い通りに支配しようとする問題行動からきています。このアルファシンドロームは飼育下にある狼によく見られた行動です。飼育された狼ではそれぞれに序列が作られ、食事の順番や居場所の選択は最上位の狼が優先権を持ちます。
ただし、野生下の狼にはそういった階級制が存在しないことが近年の研究でわかり、アルファシンドロームの考えは否定されつつあります。狼の群れは血縁で形成され、親や先に生まれた個体は幼い子に食べ物を分け与えて守ります。そのため現在解釈されているような力による階級制はないと言えます。自分に従わせようと歯をむき出したり、唸ったり、攻撃しようとしたりする行為は、不安や恐怖の感情の表れであることが多いです。
その後に行われた野生の狼を対象とした研究では、上記のような上下関係は確認されませんでした。どちらかというと家族のような関係性が築かれていることがわかっています。
犬と信頼関係を築くコツは?
犬との暮らしは、上下関係の支配よりも信頼関係が大切です。愛犬と信頼関係を築くポイントを以下で紹介します。
飼い主が主導となって行動する
まずは、飼い主が主導権を持って行動するよう意識しましょう。たとえば、散歩を催促して吠える愛犬に従って散歩に連れて行ったり、散歩中に犬が引っ張る方向に行ったりすると、犬が主導権を持っていると勘違いして、飛びつきや噛みつくなどといった問題行動が起こりやすくなります。散歩に行くタイミングやコースは飼い主が決めるようにしましょう。
犬にストレスを与えるしつけをしない
現在では犬を叩いてしつけをする人はほとんどいないと思いますが、甘やかしてばかりでもいけません。いけないことをした時はしっかり叱る意識が必要です。しかし、四六時中ずっと飼い主が不機嫌で常に怒っている声が聞こえたり、大きな音がしたりすると犬は大きなストレスを受けます。いつ怒られるかわからないという緊張感によって犬は安心して暮らすことができず、問題行動が起こりやすくなります。叱る時はメリハリをつけてあげることが大事です。
犬との信頼関係を確かめるには?
しつけや行動に気をつけていても、実際に愛犬と信頼関係が築けているか不安に思う飼い主も多いと思います。その際は以下の方法で関係性を確かめてみましょう。
犬とアイコンタクトが取れるか
一番わかりやすいのは、アイコンタクトが取れるか確かめる方法です。犬は信頼している人からいつ指示が出るかを常に目で追っています。一方で信頼していない人に対しては極力目を合わせないようにします。
犬に号令を出して、すぐ反応するか
号令に対し、すぐに反応する場合は信頼関係が築けていると考えられます。一般的な号令は「おすわり」「まて」「伏せ」などです。人ごみの中などで号令を出した際に、すぐ反応するかを確認してみてください。
犬がリラックスしているか
犬が家の中でリラックス状態にあり、くつろいでいるようならば信頼関係が築けていると考えてよいでしょう。たとえば、物音に気付かず寝ている、仰向けになってくつろいでいる場合はリラックスしている状態です。また、犬が食事をとっている時に、飼い主が横にいても平気で食べている場合もリラックスしていると言えるでしょう。
犬の上下関係にかかわらず、しつけの仕方が大きく変わることはない
犬には上下関係の考えがないので、どんな場合でもしつけの基本的な進め方を変える必要はありません。今まで以上に信頼関係を築くことを重視して、飼い主が主導となり、散歩や遊びを楽しみましょう。そして、いけないことにはメリハリをつけて叱り、愛犬が安心して暮らせる空間を提供することが大切です。